作品タイトル不明
秘書の勘
エレベーターが深く深く地下に沈む……。
『中央』……数あるセッテ区域の人工ダンジョンにおいて、まさに中心地ともいえる場所。
セッテ区域にある人工ダンジョンは、ほとんどがこの中央ダンジョンの傘下と言ってもいい。
日々、人工ダンジョンで行われる 長(オサ) 達による縄張り争いも、中央だけは例外だ。
なぜなら人工ダンジョンは、この中央から株分けされたダンジョンに過ぎない。
他の人工ダンジョンは、地脈から得られる無限のエネルギーを割合で納めている。親会社のような物なので争うもなにもない。
そんな中央ダンジョンはスタッフルームも広大だ。空間が拡張されたスタッフルームは、地下世界と呼んでも差し支えないほどの『街』と化している。
ビルが建ち車が行き交う。店があり仕事がある。
だが……そこにいる人間は例外はあれど、全て中央の職員だ。なにせダンジョンの裏側、『スタッフルーム』なのだから。
「……」
そんな中央のビル、その地下に繋がるエレベーターに乗るのは二人の男。
一人は人工ダンジョンの支配者『総ダン長』
もう一人は総ダン長の秘書だ。
重苦しい圧力を放つ総ダン長だが、秘書は気にした様子もなくパイプ端末を用いてスケジュールの調整を行う。
「それで総ダン長、ブリガンド殿はお帰りになられたのですか? 視察は終わらせたようですが……」
下がるエレベーターの中で、秘書の男が眉を上げて口を開く。
「ああ……キャプテンなら破壊された飛行船の代わりを造船所に取りに帰った」
総ダン長が無骨な顔で答えるたび、エレベーターがビリビリと震える。
「キャプテンには悪い事をした」
「まあ造船所勢力からしたら、中型飛行船の一機くらい大した事ないでしょう。ブリガンド殿は造船所勢力において空帝候補の大物ですから」
「うむ、だからこそ迎え入れたい……前回は失敗してしまったようだがな」
「まあアレは、あそこの先代がやり手だっただけですね」
「うむ、我が人工ダンジョン勢力は実力主義、失敗したのなら仕方がない……先代には悪い事をしたがな」
「仕方ありませんよ。先代はコアの構築技術が天才的過ぎます……そのうち手に負えなくなったかもしれません」
「だからこそキャプテンは手に入れたいものだ……今の人工ダンジョンにない、個人の強さを持つ彼を」
やがて地下深くでようやく停止したエレベーターを降りると、二人は通路を歩き出す。
この場所には総ダン長と、秘書の二人しか立ち入りを許可されていない。イヤに厳重なセキュリティーがその先にある物の重要度を物語っていた。
「しかし、穏便に行きますかね?」
「キャプテンには……なるべく被害を出さないよう言っておいた」
総ダン長の言葉に秘書は、軽くため息を吐いた。
「……二度目ですからね。多少は荒くなるかもしれませんよ?」
「それもまたヨシ……ダンジョンは実力主義。勢力ならば力がないと駄目なのだ……」
「同感ですね。そういえば大株玉、マフィアに渡しても良かったのですか?」
「マフィアか……あのマフィア、なんならうちに欲しいくらいの力はある」
「つまり、総ダン長にとって『ちょうどいい位の実力者』というわけですね」
「だが、マフィアの連れていたマントの三人組。あれは駄目だ。大株玉など渡してしまった方がいい」
二人は最後の扉を開ける。
そこには、指の先ほどの玉が浮いていた……。
「人工コアなど……この『天然コア』さえあれば幾らでも量産できる」
「エネルギーさえあれば……ですけどね」
総ダン長がコアに手を伸ばすと光が集まり、玉を作り出した。
「ふむ、少しエネルギーを込めすぎたが、キャプテンへの詫びとでも思っておこう」
人工ダンジョン勢力のダンジョンは、全てこの天然コアから生み出された人工コアによる手足だ。
「バイラールファミリーが、天然コアを手に入れたという情報がありましたが……」
「大方、飛行船に組み込もうとしていたのではないか?」
「……なんてもったいない事を」
「ああ、だが知識のないものからしたら天然コアなど、人工コアの上位互換としか思っていないのだ」
「そんなものですか……天然コアの真髄はダンジョンを作成することなのに。まぁマフィアが人工コアを欲しがったと言うことは、飛行船なんかに使用しなかったということでしょうけど」
秘書は渡された人工コア……『大株玉』をキャリーケースにしまい込む。
「そういえば、マフィアも探していましたね。『小悪魔』を……」
「…………」
「……失言でした」
『小悪魔』……そのワードで、空気がミチリと絞られる。総ダン長の機嫌をこれでもかと損ねたようだ。
「まあ我々には関係ありませんよ。最後に観測されたのがセッテ区域だから聞いてきたんでしょうが……すでに小悪魔はセッテにはいないでしょう」
「……なぜ……そう言い切れる」
「『勘』……ですよ」
秘書は気安くウインクをして、戯けた態度を取った。
それを見て、総ダン長は無骨な顔からため息を吐いて肩の力を抜く。
総ダン長の纏う圧力が薄まった……。
そして総ダン長はこう思った。
この秘書は有能だ……しかし……
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「いらっしゃいませ! いらっしゃいませぇええ! お兄さんポーションあるッスよ! 新鮮なやつ!」
「……げんきんパイプ払い可。……まいど」
秘書のこう言う時の『勘』はいつも外れるのだ……。