作品タイトル不明
不気味な不気味なフード達
「チッ!!」
私は行儀悪く舌打ちした。
まずい……なにがマズイのか分からんけど、とにかく不味い。
この世界において抜群の信頼度を誇る『白髪防犯ブザー』が、目を赤く光らせて警報を鳴らしてる。普段のやる気のなさそうな目はクワっと開かれ、大声で逃走を指示してきたんだよ……只事じゃねぇ!
なによりこのガキ……叫んだ瞬間に、私を置いてスキマの外を目掛けて跳ねるように飛び上がってる。
つまり、私たちがスキマを作って隠れている、このプレハブ小屋も危ねぇってこと!
引き伸ばされたような時間の中、私は外の景色を映し出す監視カメラのモニターを、視界の端に縮少させ動き出す……。
スキマの中で振り返る……。
幼女ちゃんの背中が見えた。
彼女はスキマの外へ飛び出す。
私はソレに続く……。
スキマから事務所に飛び出した私達は、投げ出されるようにソファーに落下。ボヨンと一度バウンドしてテーブルに着地!
チラリと視界の端のモニターに視線をやる……。
ピンク飛行船の船体が……ズルリとパーツごとにズレるという、不思議な壊れ方をしているのが分かった。
「うげぇッ!!」
ピンク飛行船は空港に停泊していたんだよね。そしてソレが分解して落下を始めている……。
ふざけた色した飛行船だけど、大きさはプレハブ小屋に掛かるほどに巨大なんだよ……。
つまり……落下してくる飛行船にプレハブ小屋が押し潰される!!
「……むぃいいいい!!」
幼女ちゃんはテーブルを走ってジャンプ! 机の上に着地すると、窓ガラス目掛けて足を振りかぶった。
私は幼女ちゃんのやる事を察して、同じように私も机に飛ぶ。
幼女ちゃんのやろうとしている事は、窓ガラスをカチ割ることじゃない。窓ガラスを蹴破る力は彼女にはないからね!
彼女の狙いは粗末なプレハブ小屋の窓ガラス……その鍵だ。
サッカーボールでも蹴り上げるようなモーションで振り上げた幼女ちゃんの足は、窓ガラスの鍵を乱暴に解錠した……。
行儀が悪いとか言ってる場合かよ!
ミシミシと天井が大質量の物体に押し潰されて、迫ってくる……。
私が机に着地……。
幼女ちゃんの解錠した窓ガラスを、私がローキックをするように足で開いた。
開いた窓ガラスから幼女ちゃんが飛び出す。
私はそれに続いてプレハブ小屋から飛び出す。
瞬間……プレハブ小屋は、ピンク色の瓦礫に押し潰されてペチャンコになった……。大質量の飛行船が崩れた影響で、空港がグラグラと地震のように揺れる。
「「ハァハァハァハァ!!」」
あ、危ねぇえええ!!
小屋を潰したピンク飛行船の瓦礫を背に、私と幼女ちゃんは息を切らせてズルズルと座り込む。
あと一瞬でも脱出が遅れてたら、ペチャンコの煎餅幼女が出来上がってたぞコンニャロぅ!
私はモニターに視線をやって何が起きたのか、確認する。
それは……異様な光景だった……。
ピンク飛行船は、バラバラになっている。けど破壊された形跡がない。
なぜそうなったのかも分からない……。
いや、逃げる最中も視界の端に映っていたから、何が起きたのかは把握している……けど、なぜそうなったのかは一ミリも分からない。
「……」
小フードが、ピンク飛行船に触れた後だ。
その瞬間に、幼女ちゃんは異変を察知して即座に逃走を図った。
次の瞬間……ピンク飛行船が……ズレた?
いや、正しい表現かこれ? でも一番近いのはソレかも……。そして、ピンク飛行船が壊れた。
う〜ん、違う……。壊れたには壊れたんだけど、おかしい。どちらかと言うとアレだ。
パーツごとに接着剤でくっついていた飛行船が、急に接着力が無くなって自壊した……近い感覚はこれだ。
チャチなブロック玩具みたいにパーツが外れたんだ……。
「不気味すぎる……」
何が不気味ってさ……。
たぶん、ピンク飛行船を壊せるヤツって結構いると思うんだ……。総ダン長もできるだろうし、祈りの巫女さん、キモノお嬢などの化け物クラスなら飛行船を破壊する事は出来るだろう……。
けどそれってさ……暴力で『破壊』でしょ?
小フードのやったことって何?
自壊したんだよ……。まるで飛行船という生物が毒物で死んだみたいだ。
私は背中にある飛行船のパーツに目をやる。綺麗なもんだ。破壊されてないのに、なんでこの飛行船の物体は分離して落ちてきたの?
ブロックで出来たオモチャかよ。
モニターに目をやる。空港はシン……としていた。
人工ダンジョンの奴らも、総ダン長も、ピンク船長も……そして何故か傷グラサンも目を見開いて驚いている。
それだけ不思議な現象でピンク飛行船は壊れたんだ……。
しかも、落下したピンク飛行船の瓦礫は、小フードを避けるように落ちている。こう壊れる事を予測してたんだ。
ホントになんだコイツ……。
「幼女ちゃん……今のうちに逃げるよ……」
こっそりと幼女ちゃんに声を掛ける。
「…………」
「……幼女ちゃん?」
幼女ちゃんは震えていた……。
座り込んで、顔を真っ青にして、自分の両肩を抱くように震えていた……。
そして、凍えたような唇で口を開く。
「……あれダメ……魔力が……ありえない動きした……」
………………うん。逃げようぜ!
幼女ちゃんの怯え方見てみ? 危険度が計り知れませんわ! あの小フードだけには近寄ったらアカンです!
モニターを確認しながら隙を伺う……傷グラサンが口を引き攣らせながら小フードに指を刺した。
「……なんでそんな事したん?」
「オタワムレヲ……」
上司に断りもなく壊したの? イカれてる?
「いや、お戯れを……じゃねぇし! 戯れてねぇわ!」
「……」
「この小さいのが一番何考えてんのか分かんなくて怖い……」
傷グラサン……お前の部下、戯れに飛行船ぶっ壊したんだけど、どーすんのこれ?
顔色悪い傷グラサンを横目に、総ダン長は苦虫を噛み潰したような顔で懐から、玉を取り出した……。
「マフィアよ……去るがいい……」
そしてその玉を傷グラサンに投げ渡した。
「あ、うん。うちのモンが飛行船壊してすいやせん……」
「……早めに手を切ることだな」
どうやら総ダン長は白旗をあげてお帰りいただく事を選択したらしい……。
ま、そらそうよね。大フードですら総ダン長と互角の力持ってて、小フードは不気味な技で飛行船を破壊……。これ以上は被害が甚大なものになると踏んだんだろう。
人工コアとやらを渡した方が被害は少ない。
「迷惑かけやした……おい、帰るぞ」
そう言って傷グラサンは、フード三人衆を引き連れて乗ってきたヘリコプターへと歩を進める。
「幼女ちゃん、私らも今のうちに逃げようぜ」
「…………しょうち」
幼女ちゃんもまだ顔色は悪いけど、少しは落ち着いたようだね。
そろ〜りと移動する。
カララ……
移動するわずかな振動……それで小石が落ちる。
おっと、足場が脆くなってんね。
「…………」
モニターに映るフードの一人がピタリと、足を止める。
「ッ!!」
そしてクルリと、私たちが隠れる瓦礫に振り返ったのは……『中フード』だ。
ふ ざ け ん な ボケが!
「お、おいセカンド。どうした? もう勘弁してくれよ。帰ろうぜ」
傷グラサンの静止を無視して、中フードはズンズンとコチラへ歩いてくる。クソ、確証があるワケじゃねぇーんだろうけど、瓦礫の後ろの私達の存在を嗅ぎ取りやがった。
どーしましょ! スキマ? 今から作っても間に合わねぇよ!
「「やべやべやべやべ」」
私達は瓦礫の裏でパニックに陥りながらクルクル回る。けど、もうどうしようもなかった。
「は、はは、こんにちは……」
「…………」
ヌゥ……と瓦礫を覗き込んできた中フードに私達は見つかった。
「……」
「……」
中フードは私達を見つけた途端、ピタリと動きをとめる。
「は、初めましてぇ〜」
「……」
「いい天気ッスね」
「……エ?」
中フードは、電池が切れたように動かなかったが、ゆっくりと視線を傷グラサンに向けて、そしてまた私達に向ける。
キョロキョロと傷グラサンと私達を交互に見た中フードは何を考えているのかは分からないが、混乱しているように見える。
あ、コイツ私たちが小悪魔だって気づいてんな……。
そして、傷グラサンが探している小悪魔が目の前に湧いて混乱してるっぽい……。たぶんそんな感じ。
「なんだ。どうしたセカンド……そこになにか居るのか?」
お前の探してる小悪魔がいまーす!
しかし、中フードは目頭を揉むように闇の広がったフードに手を入れる。
そして……
「………………ナニモ」
そう返してスタスタと傷グラサンの元へと帰っていった……。
え、助かった?
これは……傷グラサン部下の人望がなかった……と言う事でいいですかね?
上司の求める成果より、報告の面倒臭さ勝った感じ?
やりぃいーー!! ついてる! そして傷グラサンはついてないね!
傷グラサン率いるフードたちはヘリコプターで帰っていった。
「すまぬなキャプテン……お前に渡すはずだった大株玉を渡してしまった。変わりはすぐに用意しよう」
「はっは、気にしないでくださいよ総ダン長! ……正解ですわ。事を構えていい連中じゃありませんねアレ」
そして混乱する人工ダンジョン勢力から隠れるように私達も牢屋への帰還に成功しました。
あ〜、今回は疲れた〜! 牢屋まで帰ってようやく安心出来たよ。やっぱ牢屋って安心するわ。
外は危険がいっぱいやねん……。