作品タイトル不明
部下の管理できてる?
『マフィアが一体何のようだ……』
総ダン長が、睨みつけながら押し潰すような圧迫を放つ。しかし黒スーツの傷グラサンは、サングラスの下からギラギラした瞳で見返し、太々しく笑みを浮かべた。
『はは、これは失礼しやした。連絡……行ってませんでしたかね?』
『……』
まるで馬鹿にするように傷グラサンはジットリと視線を不穏な物へと変貌させる。
おいおいおいおい、何やってんの傷グラサン!
なんか大物ぶった喋り方してるけど、早く総ダン長に謝んなさいよ。プチッと潰されちゃうよ?
あんたもっとワタワタしてるタイプでしょ。
つーか、キモノお嬢来てないよね?
う〜ん、大丈夫そう!
ヘリコプターから降りてきたのは、傷グラサンを除いて三人の怪しいフードの輩。流石にキモノお嬢があんな変な格好なんてしてないでしょ。
「てか何? あの怪しいフード」
顔隠してんだろうけど、格好が怪し過ぎて逆に不審者じゃん。
「……あのフード、オバケ姉ちゃんも見たことあるでしょ」
あれそーだっけ? 幼女ちゃんの言葉に頭を捻って考える。あー、確かにどっかで見たなぁ。
「あ、そっか。変態殺人鬼が私達を襲った時に被ってたフードだ」
「……うん。あのとき町長がいってたけど、魔力の痕跡を隠すマントらしいね。……暗殺者ごようたしの」
おっと、それは穏やかじゃないわ……。少なくともあのフードを被ってんのはカタギじゃないってことね。
後ろ暗いことをする時に身元がバレないようするマントってワケだ。
「……げんに、わたしの目でみても魔力の流れがわからない」
なるほど。怪しい黒魔術でもやってそうな格好だけど効果はバツグンだねぇ。フードに隠れた顔なんかも不自然に暗闇でわかんねぇし。
関わりたくはねぇな。
とは言ってもこの三人のフードマント……区別はつけ易いね。フードの大きさがバラバラだ。
小マント、中マント、大マントで体の大きさまでは隠せないらしい。
『……最近ウチのバイラールファミリーも、高性能な大型飛行船が欲しいと思いましてね。連絡行ってるでしょう? 『人工コア』を頂きに来たんですわ』
お〜い、傷グラ兄さん? 貰いにきたにしては態度デカ過ぎません?
『……聞いておる。こちらも返信はしたはずだ。貴重な物だから直ぐには用意できぬと……』
『はっ、だからワザワザ出向いたんですがね。こっちもガキの使いじゃねーんだから、そーですかと帰れないんですわ』
『娘頼りの、たかがマフィア風情が……』
『トップ頼りは人工ダンジョン勢力もでさあ……頂けませんかねえ、人工コア』
『今ここで……潰されたいか小僧ォ……』
『人工ダンジョン勢力ってのはデカいし金も持ってるが……個人の武力としてはアンタ一人以外有象無象だ。逆に不自然なほどな』
ミチリ……と空気が締め付けられる……。
『……わざとだろ?』
『あまり……我を舐めるなよ……』
総ダン長の怒りに呼応するように、彼の立っていたコンクリートで作られた石の床にヒビが入る。
『……ッゥ、このレベルはハンパねえな。行け……サード』
強がりのように口に笑みを浮かべているが、傷グラサンの顔色はあんまりよくない。これは〜、傷グラサン死んだろ……。
怒らせて何がしたいのアンタ?
『ッ!!』
そして一瞬の後、総ダン長の姿がかき消えた……。
ドンッという大砲をぶっ放したような音が山に響く。衝撃で山の木々が震える……。
そして傷グラサンのミンチが出来上がる私の予想は……外れた……。
『ッハァハァ! 怖ッ!!』
『ッ…………キ、貴様ッ!!』
大きなフードが傷グラサンの前に立ち、まるで総ダン長と力比べをするようにお互いの手を掴み合っている光景がそこにはあった。体格は似たような大きさだ。
「マジかよあの大フード……総ダン長と互角の力してんの?」
「……きょうがく。総ダン長もだいぶヤバいけど、あのデカいのもヤバい」
プロレス観戦でもしてるかのような気分だけど、起こってる事象はとんでもない。マフィアってキモノお嬢だけが化け物クラスじゃなかったんかい。
いや、総ダン長もトップ頼りとか言ってたし、最近入った人材か? これはますますマフィアに捕まるワケにはいけないね。
『…………』
『ヌッ! グ……』
総ダン長は大フードと力比べをしながらも、視線を周りに巡らせて無骨な顔を苦々しく歪める。
力は互角っぽいけど、たぶん総ダン長は周りの人間が気になって本気を出せないっぽいね……。
総ダン長と大フードの地面がバキリと盛大に割れる。
このままだと空港が割れてしまうかもしれないね。……逃げるか?
事務所に隠れてれば大丈夫とか思ってたけど甘かったかも……。下手したらここまで被害がくるかもね。
総ダン長がピンク船長に叫ぶ。
『ッ! キャプテン! 皆を頼むぞ!』
『ちょ! ディケード総ダン長! マジですかい!』
大フードと手を合わせたままの総ダン長が口を開ける。その口の中には景色がブレるようなエネルギーが渦巻いていた……。
『……ッ!』
大フードは手を離し総ダン長と距離をとると、フードの中から二本の剣を取り出した。
『カァアアア!!』
総ダン長の口から放たれたのは、私の印象では『超振動』のエネルギーに感じた。バリバリと超振動のエネルギー波は空港のコンクリートをビスケットのように破壊し大フード、そして……その後ろに立つ傷グラサンに向かう。
『ッ!』
それを大フードは、片手の剣を超振動エネルギーに向け、片方の剣を空へと向けた。
ビリビリとバイブレーションするエネルギーが、剣から剣へと伝わっていくのが分かる。
そして、おそらくエネルギーを空に逃したのだろう。
総ダン長の攻撃を受け、大フードはその場に立っていた。
『貴様ッ…………正気か?』
総ダン長は驚いたような顔で呟く。
だが、それは攻撃をいなした大フードではなく、後ろに立つ傷グラサンにだ……。
『正気? 何がですかい』
傷グラサンは冷や汗を掻きながら聞き返す。
『キサマ分かっているのかッ!! それほどの力を持つ存在を下につけるなど!! 制御出来るとでも思っているのか! 手に負える存在だと本当に思っているのか!』
『……くは』
総ダン長の言葉が傷グラサンに投げかけられる。
あ〜うん。今の見て正直……私も総ダン長と同じ考えだわ。この大フード傷グラサンの下に付けるには強すぎる……。
なんで傷グラサンに従ってんのか不思議だもん。
キモノお嬢ならまだしもね……あ、もしかしてキモノお嬢の代理で従ってる感じか? なら分かる。
『ははっ! あーはっはっはっは!!』
でも傷グラサンは、そんな総ダン長の言葉を、さも滑稽だと笑い飛ばした。そして……
『……………………え? そうなの?』
顔を真っ青にして滝のような汗を流した……。
『…………え? 嘘だよな? え? お前らそんなヤバいヤツらなの?』
傷グラサンは引き攣った顔で、フード三人組に視線を向ける……。
悲報……傷グラニーサン。自分の従えてるヤツらのヤバさに気づいてなかった模様……。
『え? だってお前ら……』
『……愚かな。キサマ自分の使ってる物の価値すら分かっていなかったのか』
『も、もしかしてお前ら叛逆とか考えてる? お、俺のこと上司だと思ってるよな?』
『『『…………』』』
フードズは無言で視線を逸らした……。
『なんか答えろよー!! 俺のことどー思ってんだ!』
『オタワムレヲ……』
『従ウ……小サキ者ヨ……』
『……トンダスバラシき、ジョウシだ』
『フードで変換されてるけど暴言吐かれてる気がする!』
ダメじゃねぇか! 傷グラニーサン部下を全く制御出来てませんねぇ!
『総ダン長ー! すんませんが。これ以上無理ですわ! 飛行船退避させてくださーい!』
ピンク船長が叫ぶ。
彼はキツネ顔や高飛車女、人工ダンジョンの面々の前にバリアみたいな物貼っていたようだ。というかピンク船長以外は何も出来ていない。
ピンク船長が叫んだ後、空港に停泊していたピンク飛行船がフォンフォンと音を立てる。どうやら離陸しようとしているらしい。
『チッ、バイラールファミリー。厄介な……』
『あ〜、もういいわ。人工コアさっさとくれよ』
憎々しく総ダン長が呟けば、傷グラサンも疲れたように呟く。しかし、傷グラサンは何か思い出したように総ダン長に向かって口を開いた。
『そういえば総ダン長様……『小悪魔』の居場所知りません?』
おっとヤベぇ……。私らの事だ。いるよ。直ぐ近くにね。
『小悪魔……だと? なぜ聞く……』
『いえ、俺らもヤツらに少々因縁ありましてね。探してるんですわ』
『知らぬわ。見つけてもキサマらに渡さぬがな』
『……へぇ……そうですかい』
わ〜大人気だぁ……。
とか思ってたら、スタスタとフードの一人が歩き始める。一番小さい小フードだ。
小フードは飛び立とうとする飛行船に手を当てる。
『……どうした? ファースト』
誰もがその光景を不思議な顔をして見ていた。
誰もがその光景に反応を示さなかった。
ただ一人を除いては……。
「…………幼女ちゃん?」
モニターを見ていた幼女ちゃんの白髪が……ブワリと逆立つ……。目を赤く光らせ瞳孔を収縮させている。
まるで獣が最大限の警戒と恐怖を覚えているかのように。こんな幼女ちゃんを見たのは初めてだ……。
あのキモノお嬢を見た時でさえ、こんな反応なんてしなかった。
そして……バッと私に振り向いて叫んだ。
「ッッ!! 退避!!」
ドクンと波打つように……飛行船に触れていた小フードの手から船体の表面を伝うように……何かが流れた。