軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

たぶん違法行為

【ダンジョン鑑定アプリ】使用時の種別

新ウルペース第五 人工ダンジョン。

近代的な研究所のような通路を進む三人の男性冒険者。金属の通路がカンカンと安全靴の足音を響かせる……。

「簡易セーフティゾーンまでどのくらいだ?」

リーダーの壮年の男が、曲がり角の通路から顔だけ出して後ろの仲間に告げる。

「ダンジョンの構造が変わっていなければもうすぐだ」

「今回はちょっと引きが悪かったな」

三人は渋い顔をする。

人工ダンジョン、それはその名の通り……人が作り人が管理しているダンジョン……実態は不透明だがそういうことらしい。

しかし、何をやっているのか得体の知れない人工ダンジョンとはいっても、それを利用する冒険者からすればあまり関係ない。

稼げればいいのだ。

「今回はイマイチだったな……」

「まあ仕方ない、思ったより魔物との鉢合わせが良くなかった」

通路に魔物がいない事を確認して、三人はマップに記された簡易セーフティゾーンへと歩を進める。

「種別は変わったが、このダンジョンはやりやすくて良いな」

「……と、着いたぞ。ここだ」

三人は紋章の刻印された金属の扉に到着する。

ウルペースダンジョンの簡易セーフティゾーン、入り口の機械にパイプ端末を近づけると、シュッと扉が開く。

中は飾り気のないロッカールームのようになっていた。

「だ〜! 疲れた!」

「これからどうするかなあ……帰るか?」

「いや、そうは言ってもなあ。セーフティゾーンまであと少しなんだよな」

三人は、持っていた荷物をドサドサと床に下ろして、簡易セーフティゾーンに備え付けられている簡素なベンチに座り込む。

「まあ、これが普通のダンジョンじゃなくて良かったよな」

「それもそうだ。人工ダンジョンじゃなかったら帰る選択肢もねぇよ」

普通の天然ダンジョンと人工ダンジョン、実入りが良いのはどちらかと聞かれたら、場合にもよるがそれは天然ダンジョンに軍配が上がる。

天然ダンジョンは宝箱の質がいい。そして魔物を倒した時の魔石の質も人工ダンジョンに比べて良かったりする。

なら、人工ダンジョンの旨みとは何か?

それは圧倒的な探索のしやすさ……。

人の手が入っているせいか、人工ダンジョンは理不尽が少なく、ダンジョンによって便利な機能を備えられていることがある。

「どうする? 荷物だけでも送っておくか?」

一人の冒険者が、ロッカーを開けながら残りのメンバーに問いかける。

このロッカーはただの飾りではない。このロッカーに荷物を置いて金を払うと、入り口のロッカーまで運んでくれるのだ。

探索で膨らんだ荷物を減らしてくれる、冒険者に優しいウルペースダンジョンの便利な機能である。

「んー、ちょっと考え中。ほれ、怪我もしてるからよ」

そう言って男は裾をめくると、血の滲んだ包帯が巻いてあった。

「うわ、痛そ。ポーションは……使っちまったよなあ」

「ん〜、じゃあ帰るか?」

その言葉に、三人はロッカールームの奥にある扉を見つめる。

球体転車……もしくは回転転車、このウルペースダンジョンが人気の理由がここにある。ここ、簡易セーフティゾーンさえ見つければ奥にある球体に乗り、簡単に入り口に帰ることができる。

ただし、簡易セーフティゾーンの転車は『一方通行』で帰る為にしか機能しない。

簡易ではないセーフティゾーンまで辿り着くことで、入り口の球体転車からそのセーフティゾーン迄への移動が可能になるのだ。

ダンジョンとは基本的に、奥へといく方が魔物も強く見入りも良くなりがち。

ある種のセーブポイントを作れるウルペースダンジョンが前任のダンジョン同様人気な理由である。

だから冒険者達は、セーフティゾーンを目指しているのだ。

「流石にこのまま進むのは避けたいな。帰るしかないだろ……」

「マジかあ〜、あと少しだったんだけどな」

この三人の今回の目的は、新しいセーフティゾーンの開拓だった。しかし、今回は失敗という結果だ。

あと一歩のところで断念するしかない状況に悔しさを滲ませる。

「荷物は送らないで帰るぞ」

「分かった。仕方ないよな。少し休憩したら帰るか」

――――――――――――――――――――――

カチャぁ……

「……?」

飲み物を飲んで、簡易セーフティゾーンでくつろいでいたリーダーの耳がある音を拾う。

目の前に仲間の二人はいる。

ならばこの音はなんだ?

何かが開く音、おそらくロッカーが開く音にリーダーは不思議な顔をして後ろをゆっくりと振り向いた。

「……?」

何もない……。

視線を横にスライドさせて、音のしたロッカーをなぞる様に見ていくが、特に変わったところはない……。

「ッ!!」

しかし、一度通り過ぎた視線が急速に戻り、ある一点を捉えた……。

見ている……

少しだけ開いたロッカーの隙間から……

暗闇に溶け込む様に……

二つの瞳がこちらを見ていた……。

上下に闇に浮かぶ瞳はリーダーの視線に気付くと、瞳しか見えないのにも関わらずニュイ……っと笑みの形に歪めたのが分かった……。

リーダーの顔に、フツフツと鳥肌が立つ。

「う……うぉおおおおおお!!」

「な、なんだ!」

「おい! どうした!」

リーダーは前に倒れ込むように、仲間の方へと転がり、件のロッカーに指を向ける。

「あ、あ、アレ! あれぇーー!!」

「は、何が……」

「だ、誰だ!!」

リーダーの慌てふためく様子に、仲間がただ事ではないとロッカーに視線を向ける。そして同じものを発見して警戒をした。

クスクス……

ロッカーの中から細い子供のような笑い声が聞こえる。その静かな笑い声に、三人はゾッと背筋を冷やす。

簡易セーフティゾーンのロッカーの中に何かいる……。そんなあり得ない状況に、安全なはずのセーフティゾーンで恐怖を感じる。

そんな冒険者たちの警戒も他所に、正体不明のロッカーはギィイ……と開くと、その隙間から、にゅぅ〜っと小さな腕が伸びてきた。

そして、その下からもう一本の腕がヌ……と出てくる。

冒険者たちはその不気味な光景に唾を飲み込んだ……。

そして……中の異物は正体を表す。

「あ、え? ……こども」

「……なんでこんなダンジョンの奥に」

「ウソだろ」

一人は大きめの帽子を目深に被って、口を嫌らしげに歪めた胡散臭い笑みの子供。

もう一人はフードを目深に被って、その奥から目を赤く光らせた睨みつけるような無表情の子供。

「「「……」」」

混乱する冒険者たちは、言葉も出せずに二人の小さな子供を見ていた。

二人の子供は、コチラの驚きなど無視する様に行動を始める。

胡散臭い帽子は出てきたロッカーから、簡素な小さいテーブルを取り出すと目の前に設置する。

そして、横からフードの無表情が、そのテーブルの上に三角に折った紙を置いた。

ニィイイと帽子の子供がコチラを見て口を歪めると、自身の背中に手を回す。

そして、何かを掴みバッと手を上げる。

「「「ッ!!」」」

その仕草に冒険者達はビクッと体を震わせる。

「……?」

帽子の子供の手には『ハリセン』が一本握られていた。そしてその子供は、勢いよくハリセンを振り下ろして、喧しいオモチャのようにテーブルを叩き出した。

「へい、いらっしゃい! いらっしゃぁ〜い!」

「「「……は?」」」

胡散臭い子供は、バンバンとテーブルをハリセンで叩きながら呼び込みを始めた……。

「へい! そこの旦那ぁ〜お困りではないですか〜?」

「「「……」」」

なんとも胡散臭い喋りで、ハリセンをビシッと向けてくる。

そんな光景に冒険者達は、顔を見合わせて首を捻った。そして一人が恐る恐る手を挙げる。

「はい、そこのカッコいいお兄さん! なにかご入用で!?」

「あ……いや、キミたちは……」

「ここは幼女ショップでございますよ〜」

「……いや、そうではなくて……」

「そうなんで御座いますよ〜! はい、そこのダンディーなオジ様なんでしょ!」

リーダーが控えめに手を挙げる。

なんかそうしなきゃいけない気がしたから……。

「あ、えっと、もしかして商売とか言わないよな?」

「見ての通りショップで御座いますねぇ〜! はい、そこのイケてるファッションで誤魔化してる微妙な顔のお兄さん!」

「なんか俺だけ評価が低いッ!! なんなんだお前達は!! なんでこんな奥深くのダンジョンに子供がいるんだよ!」

そこまで言って、胡散臭い子供の目がスッ……と細められる。

「んなこたぁどうだっていいんスよぉ……冒険者様たち……困ってますよねぇ? もう少し進みたいんじゃないんですかぁ?」

「……」

「あ、でも怪我をしてるし、物資も心許ない! そんな貴方に! ハイこれ!」

胡散臭い幼女は、ドンとテーブルにビンを置く。

「はい、コチラぁ〜、ポーションで御座います」

「「「……」」」

ここまできて、冒険者達はこの二人の子供が何を言いたいのかが分かった。

「……それを……売ってくれるのか?」

確かに、このポーションがあればセーフティゾーンまでいけるかも知れない。

わざわざ、もう一度ここまで潜ってくる必要がなくなるのだ……。

ゴクリと三人の冒険者は唾を飲む……。

「……鑑定しても」

「どうぞどうぞぉ、偽物ではありませんよぉ〜」

リーダーはパイプ端末から、ポーション鑑定アプリを起動する。

「……間違いないなハイレン工房作。ウルペースのロビーで売っている物と一緒だ」

「効能は……1000ネルスの安いものだな。だがこれがあれば……」

セーフティゾーンまでいけるかもしれない……。

冒険者達の反応に胡散臭い帽子はニィイイと詐欺師のように口を歪める。

「ハイ! こちら外の売店で1000ネルスで売られていたポーションで御座います! そして今回は特別価格でご提供!」

横に立っていたフードの子供が、その掛け声に合わせて三角の紙を転がす。そこには拙い文字で値段が書かれていた……。

「5000ネルス! 五千ネルスでのご提供! ただし今すぐご購入のお客様には〜今だけ3000ネルスでのご提供とさせていただきます!」

冒険者達は顔を引き攣らせて、全員が同様に思った。

ぼ、ボッてる……。恥ずかしげもなくボッてる。

いっそ清々しいほどにボッていた。

「安いよ安いよ〜!!」

「どこが安いんだよ!」

あまりの値段設定に一人の冒険者がそう詰め寄る。

しかし、フードの無表情がボソリと呟く。

「……てめぇの命だよ」

「「「……」」」

「オッケー幼女ちゃん、その通りだけどキミは接客に向いてねぇな! さがってろ」

「……むぃ」

やがて冷静になったのか、リーダーが意を決して答えた。

「……買おう」

「ちょ、リーダー。マジかよ」

「こんな奥でポーションが買えるんだ。相場の三倍は安いだろ」

「……ま、まぁ。冷静に考えれば……そうだな」

「はい! お買い上げ! 幼女ちゃん包んであげて!」

「……ぬ、お支払いは現金がなければ、パイプ端末の支払いでも可」

「ではパイプ支払いで」

「……まいど」

「ご利用であれば食事なんかもいかがッスか?」

「……いや、結構だ」

そこまで言うと、二人の子供は『ご贔屓に〜』と言いながらロッカーの中に消えていった。

「「「……」」」

そして一人がロッカーを震える手で開くと、そこには誰も居なかった。

「……リーダー」

「気にするな。アレは気にしちゃいけない部類の存在だ。セーフティゾーンまで進むぞ……」

そう言って、リーダーは立ち上がる。

「……あっちも危ない橋を渡って商売しているんだろうしな。俺たちは何も見なかったことにすればいい……」

「……?」

リーダーの意味深なセリフにメンバーが疑問顔をする。

「ウルペースダンジョン内での商売は禁止されているからな……」