軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

壁と若造の胃に穴を開ける仕事

「ねぇ若造兄さん、ちょっと聞いていいッスか?」

「………………………………………………なんでしょう」

すげぇ迷ったなッ!!

晩飯運んできた若造兄ちゃんに声を掛けたらコレもんよ……。随分と警戒なさってるようで、いい加減私達に慣れてくれると嬉しいな?

……ムリかッ!

ただでさえ私達のこと怖がってんのに、牢屋抜け出したりしてんの見られてるもんね!

すでに警戒するお前に、私達が慣れたまであるわ。

まぁそんなに邪険にしないでおくれや。なにも嫌がらせで話しかけているワケじゃないんだから。

「それで、私に何が聞きたいのですか」

「そんな早く終わって欲しいみたいな顔しなくてもいいじゃないッスかぁ〜……太った貴族の情報ってありませんかね?」

ここいらで本来の目的である情報収集をだね。

「……太った貴族という曖昧な情報では何とも」

若造は気難しそうな瞳を困惑に染めながら首を振る。

そりゃそうだ。『太った貴族』なんていっぱい居るらしいからね。町長が言ってた。

「あぁ、特徴としては――」

「申し訳ありませんが……お力になれそうにありませんね」

おや、断言されちゃった。少しくらい話聞いてくれてもいいんじゃない? なんでよ?

「残念ながら、私に『貴族』のお知り合いは居ないからです」

「なるほど〜、それは仕方ないッスね。じゃあ貴族の知り合いが居そうな人物って心当たりは?」

「…………分かりません」

「ん〜、高飛車班ダン長さんとか知らないッスかね? オホホとかお嬢様っぽくない?」

「た、高飛車? あぁ、ベアリング班ダン長ですか……。分かりませんね。ですがお嬢様と言っても貴族と関わりがあると思われない方がよろしいかと……」

ん? ん〜…………なんとなく感じてたんだけどさ。思ったより貴族って、稀な存在だったりする?

最初に、豚貴族やらハリウッドメガネなんかの貴族に遭遇したせいで、私の中で感覚がバグってる可能性があるな……。

そういや幼女ちゃんが『貴族はそんなにポロポロ落ちてない』なんて言ってた気がする。

ふむ、この世界って人口が多そうだから貴族自体は多いんだろうけど『割合』としては希少と見るべきか。

『知り合いに議員とかいる?』って聞かれた感覚なのかも……。

「なるほど、それなら仕方がない」

「ご期待に添えず……」

「じゃあ『総ダン長』様とやらはどーです?」

「………………」

反応は劇的で若造の表情が固まった。

『総ダン長』だよ。アンタらの会話で出てきたろ?

人工ダンジョン全体を仕切っているアンタらの大ボスだ。

そして……私達『小悪魔』を嫌っているらしいじゃん……。

人工ダンジョンという勢力のトップだ。貴族と関わりがあってもおかしくはないよね?

「……」

徐々に若造の目が細くなり、睨んでいるワケでもないのに睨みつけるような冷たい目に変わる。まさに氷の貴公子って感じだ。ねぇ、それどんな感情なん?

「……知りませんね。ただ、貴女達『小悪魔』が関わりになるのはやめた方がいいですよ」

「ご忠告どーも、やめときますわ」

おっけ、分かった! それ忠告ですね!

ウチのボス、お前らのこと嫌ってるから何されるかわかんねぇよってことね!

私が思ってるより嫌われてるっぽい!

たかが貴族の情報のために危険人物に会うのはコスパ悪ぃわ。

とりあえず総ダン長は避ける方向で。

ま、分かった。豚貴族の情報は今んとこ諦めよう。

次だ。ちょっとした疑問でもある。

「じゃ、空飛ぶジェット機みたいな化け物知りません?」

私達を雪山で吹っ飛ばした『ジェット機野郎』。なんか知ってる? 答えは期待してないけど単純に疑問だったし、警戒対象なんだわ……。

私の言葉に若造兄ちゃんは、凍えるような冷たい顔をキョトンとする。そして顎に手を当て考え込んだ。

「……それは、人が空を飛ぶ……ということですか?」

うんそう。そんな子供の妄想聞いたみたいな顔しないでよ。ホントなんだから。

けど、若造の答えは意外なものだった。

「それはたぶん『造船所』勢力の人員かもしれませんね」

「ほ? 造船所?」

まぁた新しい勢力かよ。いやまぁ、人が空飛んでんだ。勢力であっても、おかしくわないわな。

「造船所……お隣のナイン区域を縄張りとし、飛行船の建造に秀でた勢力です。ですが本当に恐ろしいのは、幹部達は生身で『飛ぶ』そうですよ」

そう言って若造は、空もないのに羨ましそうに上を向く。

「そのスピードは凄まじく。クロックシティー勢力の中でも『最速』の勢力と目されています」

ふぅ〜ん、最速ね。さもありなん。

ジェット機みてぇなスピードを生身で出すんだ。そりゃ最速だろうよ。つまり私達を吹っ飛ばしたあの包帯ジェット機野郎は造船所勢力の上層部ってことか。

というか……。

「若造兄さん……随分と造船所勢力については詳しいんですね。貴族は知らないのに……」

「えぇ、人工ダンジョン勢力の人間なら詳しい者は多いと思いますよ」

おん?

「関わりが深いんですよね。人工ダンジョン勢力と造船所勢力。勢力の中でもこれだけ他勢力と連携している勢力は中々ありませんよ」

「仲がいいんだ……」

私達の見てきた勢力って、どこかその勢力内で完結してるようなイメージあったからね。勢力同士が結びついてんのちょっと違和感だよ。

あ〜、だからセッテ区域に包帯ジェット機野郎いたのかもね。で、運悪く私達が移動に巻き込まれた……と。

おっけ、豚貴族の情報はなかったけど、包帯ジェット機野郎の情報は手に入った。

「食べ終わった食器は入り口に置いていてください」

「了解ッス! いつも美味いメシ助かりますわ」

「ところで私も一つ聞いてよろしいでしょうか?」

お、なぁに? 情報貰っちゃったからね。答えて問題なさそうなら答えるよ。

「…………もう一人は……何処ですかね?」

「……問題あるねぇ〜」

若造兄ちゃんは僅かに顔を逸らして、恐る恐る聞きたくないけど聞いちゃったみたいな顔をしていた。

……そんな顔すんなら聞くなよ。

「……なんで……牢屋にいないんですかね?」

「……いますよ。ほら寝てますね」

私は布団の膨らみをポンポン叩く。

「…………分かりました。お休みのところ失礼したようです」

「お気になさらず」

うわ、納得してないけど無理やり言葉を飲み込んだわ。大人だねぇ〜。

しかしいくら若造が大人でも、残念なことに相手は子供だったようですね……。カタカタ牢屋の壁が音を立てる。

そのカタカタ音に私と若造が視線を向けると――

「……ただいま」

白髪馬鹿ガキが壁の中から穴を開けて出てきた……。

おい! タイミング考えろや!

「おかえり、若造兄ちゃん来てるよ」

「……みればわかる」

私はキミが分からないよ……。何ゆえお前は若造兄ちゃんに試練を与えたもうとしてんの? 神様かお前?

若造兄ちゃん無言で壁に頭打ちつけてんじゃねぇか……。ベッドバンギングみたいになってんぞ。

ロックじゃなくてクラッシックタイプだよあの兄ちゃん。

「若造兄さん、お、お疲れ」

フラフラと若造は会議室を出て行った。

「……ぬ、晩メシは魚介の油煮とパン?」

「あらヤダこの子、我が道突っ走るじゃん」

「……道なら作ってきた。さいきん穴開けるのも慣れてきたよ」

「弛まぬ努力、えらいね……」

お前の作る 道(穴) 、正規の通路じゃねぇ〜んスよ。ま、いいやメシ食おうぜ。

「んん〜! 魚介の油煮ウメーじゃん!」

「……あぐあぐ、パンに油つけるとウマシ」

「もっちゃもっちゃ、ところで幼女ちゃんは若造に恨みでもあんの?」

「……? ないよ」

ならなんで若造兄ちゃんの胃に穴を開けるような行動とんの? 穴掘りブームなの?

私の疑問に幼女ちゃんは口をモゴモゴ動かしながら答える。

「……というか、この人工ダンジョンの連中に恨みなんてないよ。オバケ姉ちゃんもそうでしょ?」

「そだね」

「……わたしがアイツに脱走して見せてるのはワザとだよ」

「やっぱそうかぁ」

……この子、恐ろしいなぁ。私のやり口を吸収してるわ。

「……うん、オバケ姉ちゃんがよくやるでしょ。理由が分かったから実践してるだけ……」

「……」

幼女ちゃんは、指についた油を舐めながら何でもないように答えた。

「……捕まっている時は……相手を限定して能力を隠さないようにすれば動きやすくなる」

時と場合によるけどね。確かに今の状況ならいいんじゃない?

「……無駄に全員に隠すより効率的。だから若造の時は動ける……」

ふむ、ここいらでお互いの意識をすり合わせしとこうか?

「目的決めとこうぜ。結局のところ幼女ちゃんの目的ってさぁ……アレが欲しいってことでいいの?」

そう言って私は、会議室にある反対の扉を牢屋越しに指差す。その扉は厳重な魔術施錠の扉……幼女ちゃんの欲しがっている玉へ続く扉だ。

「……」

私の言葉に幼女ちゃんは難しそうに考えた後、諦めたように首を横に振った。

「……たしかにほしい……でもダメ」

……ほう。

「……この人工ダンジョンのヤツらに恨みがない。そして、アレを盗むと『敵対』は避けられない……。オバケ姉ちゃんがいつもいってる。無駄に敵対しないこと……わたしたちは子供で無力だから……」

「そうだね。敵対しないならしないでいいもんね」

誰彼構わずケンカ売ってるわけじゃねぇんだよコッチもさぁ……。

でもアレだね。キミ、その判断ができるのが、知性ある狂犬みたいで怖いね!

「……まぁそれはそうとして」

「当面の目的は情報かな」

「……そして」

私と幼女ちゃんは立ち上がり、食べ終わった食器を牢屋の壁際に持っていく。

「……金だね」

幼女ちゃんが壁をポンと叩くと、カタカタと音を立てて穴が広がる。その穴はあらかじめ穴を開けて、壁で蓋をして隠しておいた通路だ。

そしてその穴にはトロッコが設置してあった。

「……いざダンジョンへ」

「アルバイトー!」

私と幼女ちゃんを乗せたトロッコは走り出した。