作品タイトル不明
アムネシアの非日常
「ばいば〜い!」
「またねー!」
スクールバスに乗る友達が手を振ってくる。
私は同じ様に手を振って笑顔で返す。
いつものスクールからの帰り。
当たり前の日常……。
舗装された道を、家に向かって歩く。
周りに家ばないが、綺麗に整えられた道の脇には道路と歩道を分ける植木に、名前も知らない木が植えてある。
「ふぅ、バスから降りると寒いなぁ……」
私はそれを横目に見ながら寒さにかじかむ指を擦り、家に向かって歩く。
……当たり前の日常。
「ただいまー!」
「お帰りなさい〜アムネシア〜」
「お帰りアムネシア」
家に帰ると両親が迎えてくれる。
いつも通りの日常。
階段を上がって部屋に入る。
「ただいま!」
「……ぬ。おかえり」
私のベッドに座りながら、黒いモヤを体から噴出している白髪ちゃんが眠そうな顔で返してくれる。
「あれ? 長髪ちゃんは?」
「……しらぬ」
もう一人はいない様だ。
時々、片方がフラっといなくなるけど、今日は長髪ちゃんの方みたいだね!
白髪ちゃんは不思議なボールを空中に浮かせていて、その周りを光る文字が飛び交っている。それを見て私はクスクス笑った。
ふふ、お気に入りのオモチャなのかな?
「母さんがオヤツ用意してくれてるよ」
「……わかった」
机の横にカバンを掛けて椅子に座る。
そして髪ゴムをとって結び目を解くように頭に手を置いた。
そして私はそのままゆっくりと頭を抱えて机に両肘を置く。
当たり前の日常だ。
そう、いつも通りの日常。
でも私……思うんだ。
……
…………
………………
「 馴染(とけこ) みやがったよ……コイツら…………」
――――――――――――――――――――――
ビックリしたッ!? 全然日常じゃないよ!
なに普通に過ごしてるのさ私!
アレ見ろ。体から黒い霧を噴出してる白髪の子!
いもうと? ……いねぇからぁ!
ねぇそれ何してんの!?
私のベッドに吸い込まれてるけど、ホント何してくれてるのソレ! 体に害とかないよね?
「寝る時、超不安なんだけどっ!!」
「…………うお、お、ぉう?」
私の叫びに白髪ちゃんがドン引きした顔で目を向けてくる。ねぇ……
な ぜ お 前 が 驚 く?
お願い『鏡』見てきて。
どこに目が赤く光る妹がいるのかな?
白目どうなってるの? なんで黒く染まるのかな?
怖いんだよ! 不気味なんだよ! 驚きの日常をプレゼントしてきてるのはソッチなんだよ。
何なんだコイツら!
何より怖いのは、私の平和な『日常』に食い込んでくる事だ。
私のせいか? 私がちょっと平和な日常に退屈を感じて『非日常』を欲したとでもいうの?
「悪霊だったら大人しく墓地に出てよ! 家の中に出ないでよ!」
「……スクールで嫌なことでもあったか?」
「そっちは変わらぬ日常が続いてるよ! 平和で退屈さえ感じるね!」
「……お、おう」
天井に向かって吠える私の後ろを、白髪ちゃんがコソコソとクローゼットに逃げ込む気配がする。
パタンと閉まるクローゼットの音に向かって、私はすぐさま開くが、そこに白髪ちゃんの姿はない!
「ふ、ふふ。逃げられちゃったか〜……急に叫んでビックリさせちゃったかな〜?」
ビックリついでにもう一ついいかな?
「……このクローゼットどーなってんの!?」
なんで入ったら子供が消えるの!
イリュージョンなの? それともやっぱり悪霊なの!?
「うぃーッス。ただいま〜。幼女ちゃん、なんか地下のダンジョン広がってねぇ? ……あれ? 今お帰りッスか。おねぇちゃん」
長髪ちゃんがいつの間にか、部屋の扉の前に立っていた。
「でたな! 悪霊一号!」
「うおっ! おねぇちゃんご機嫌ナナメ上ッスね! 落ち着きなよ。おねぇちゃんよぉ」
「私にッ! 妹はいないッ!!」
「十字架のネックレス向けながらジリジリやってくる! 悪霊じゃないから効かねぇよ! んなもん!」
長髪ちゃんはバタバタとクローゼットに逃げ込んだ。
逃すか! クローゼットが閉まると同時に開け放つが、そこには長髪ちゃんの姿はなかった……。
ガランとしたクローゼット内を見て、私は唇を噛む。
せめて……
「……せめて消える瞬間だけでも見たかった!」
だって気になるでしょ!
クローゼットに入ったら何で消えるの?
消える瞬間とかどーなってんの?
消えるって普通じゃないよねぇ!?
やっぱりあの自称妹たち。幽霊とか、ソッチ系の存在なの?
私の部屋、幽霊二匹が住みついてるの?
どーなってるのこの部屋は!!
「はぁはぁはぁ……」
叫びすぎて疲れた私は、床にペタンと座り込む。
わかってるよ……本当は……
私は、あの子たちに怒ってるワケじゃ……ないんだ。
慣れちゃったんだよ。
体から不気味なモヤを噴き出すのも……髪が伸びるのも……悪魔のような翼が生えるのも……。
でもさ、怖いんだよ。
「受け入れ始めてる自分が……」
これが私の日常だったって勘違いしそうで怖いんだよ。いつか両親みたいに、この『日常』に何の疑問も持たなくなるんじゃないかってさ……。
だから思い出したように、あの子達の存在を否定した。八つ当たり気味にね。
「……もっとも、日常に入り込んで来たのがあの子たちなんだから八つ当たりでもないか……ふふ」
私には言いようのない不安感があった……。
私の日常が不安定に見えて、すぐに壊れちゃうんじゃないかって……。
あの子達の存在を受け入れたら、そんな偽りの日常を受け入れた気がして。
いつか、偽りの日常ということすら気づかなくなるんじゃないかって不安だった……。
ただ……私があの子たちに『慣れ』ちゃっただけなんだね。
「「……」」
床に座り込んだ状態からクローゼットを見上げると、二人が警戒するように隙間から顔を覗かせていた。
……しかたないなぁ。
「母さんがオヤツ……用意してるよ。一緒に食べに行こ?」
――――――――――――――――――――――
リビングで晩御飯のシチューを食べる。
「マミぃ〜、明日は鍋にしない?」
長髪ちゃんがシチューを口に運びながら、母さんに伝える。どうやらシチューに飽きたらしい。
斯くいう私もそろそろ飽きてきた。
「そうね〜、分かったわ〜。明日は鍋にしましょう」
お、明日は鍋らしい。
寒いから嬉しいね。
家に潜り込んでおいて図々しいとは思うけど、献立に口出したことには素直に感謝しかない。
「……ぬ、鍋か。……良き」
白髪ちゃんも鍋は嬉しいらしい。
そういえば、今日は長髪ちゃんも白髪ちゃんも食卓に着いている。
まぁこう言う言い方をするからには、居ない日もあるんだ。だいたいは居るんだけどね。
じゃあ両親はどう反応するのって話なんだけどさ。
『気にしない』んだよ。ちょっとこの事実に気づいた時にはゾッとしたよね。
食卓に着いたら母さんがシチューをついでくれるんだけど、いなかったら当たり前に用意されないだけ……。
居ないことに疑問も持たないみたい。
このことについて白髪ちゃんに聞いたことがあるんだけど、『……なんのことか分からぬが、もともと居ないものが居なくても気にしない』って言ってた。
そう言う物なの!?
というか、普段は『昔から居た』って体を取る癖に、自分たちが居ないものって認めるんだ!?
ま、まぁ。色々言いたいことはあるけど、この子達……別に害はなさそうなんだよね……。
そしてその気になれば力づくで追い出せるし。
「お、しばらくは雪も降らなさそうだね」
リビングに設置してあるモニターを見て、お父さんが嬉しそうに呟く。
モニターには天気予報が映っていた。
「そうだ。今度家族みんなで公園にピクニックにでも行こうか」
「あら〜いいわね〜。お弁当用意しなきゃ」
そのセリフに長髪ちゃんと白髪ちゃんが顔を見合わせる。そしてお互いに顔を横に振っていた。
これは不参加かな?
この二人、あんまり外に出たがらないんだよね。
フラッと居なくなったりするけど、私の部屋から出るのも稀だったりするし。
……もしかしたら、人目につきたくない理由でもあるのかな?
なんてね。後ろめたいことがあるワケじゃないだろうし………………ないよね?
「お、この事件か。お父さんファンだったのにな〜」
モニターを見ながら、お父さんがそう呟く。
どうやら、ニュースを見ているようだ。
内容はこの前起きた大スキャンダル……『クロックシティー町長による大量殺人事件』
お父さんは町長のファンだった。クラスの友達にもファンは多かったよ。でも、一夜にしてそれは暴かれた。
私も突然リビングのモニターにノイズが走ったと思ったら町長の暴露が始まって驚いた。
あれだけの人気を誇っていた町長による、殺人の自作自演。……そしてソレを暴露したのは二人組の子供だそうだ。
連日ニュースはそのことが持ちきりで大変な騒ぎになったのを覚えている。
まぁでも、有名人のスキャンダルなんて珍しくもないよね……。同じセッテ区域で起きたらしいけど、遠い世界の話だよ。
モニターには一枚の静止画が映し出されている。
町長を罠に嵌めた子供。
一瞬だけ映ったこの子供は何者なのか……と、ワイドショーで見たのを覚えている。
この子供がこの後どうなったのか……何処かに保護されたのか? 真相はワイドショーでは分からなかった。
果ては、そんな子供なんて存在しない、フェイク映像だという説もある。
でも、あの悪魔のような子供の笑い声は、私もよく覚えている。
クロックシティー全体が聞いた。
無邪気で残酷そうな笑い声……。
何の気なしにチラリと、モニターを見てみれば、何度も議論に上がっていた静止画……。
膝を突く町長の前に映り込む、一人の小さな人影。
暗くてよく分からないが、白髪に見える小さな少女が腹を抱えて笑っている画像……。
遠い……世界の……はなし?
「……」
「……」
白髪の……少女?
二人組の……少女?
バッと首が痛くなるほどの速度で、 二人組(幼女ども) を振り向けば、まるで私の首と歯車でも繋がっているように、自称妹どもが明後日のほうを向いた……。
そんな遠い世界じゃなかったかもッ!!