軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忘れちゃったの? お姉ちゃん!

「待て待て待て待て」

腰にしがみついた私をズルズルと引き摺りながら、負け犬はゴミ捨て場から一目散に立ち去ろうとする。

「……とまれ負け犬……体のプログラムをとめるぞ」

私の腰にしがみ付いた幼女ちゃんが、ポリバケツを下半身に埋めながらボソリと呟くと、負け犬はピタリと動きを止め……ガクリと肩を落としたのが後ろからでも分かった。

脅さないと負け犬すら止められぬ子供の非力さよ……。

「はぁぁぁああぁぁ……」

内臓を絞り出すような大きなため息を吐いた負け犬は、木箱に座り込んで頭を抱えて呟いた。

「何の用だ……」

その光景は会社をクビになって公園で黄昏ている親父のようだった……。失礼なヤツだな!

ま、いいけど。

「せっかく私達が会いに来たのに随分じゃないっスか。なんかマズいことでもあったんすか?」

「……あった。消したい過去が追ってきやがった……」

消したい過去とは言ってくれるじゃない。

でも、だからこそお前は私達に目をつけられるんだよ。覚えときな。

「それはそれは大変ですねぇ〜。……もしかして見ました?」

「見ましたじゃねえよ……とんでもねぇことしやがって。クロックシティー全域に放送してんだから見てるに決まってんだろ……」

あはは、そりゃそうだ。

私達がハイテンション町長を陥れる為に行ったことだからね。こっちも全域に放送して、町長の人気を落とさなきゃ詰んでたんだよ。

「俺の気持ちが分かるか? いきなり連続殺人犯の犯行の瞬間を延々と見せつけられたと思ったら、それを暴露したのがガキ二人……これね……全部、俺の知り合い!」

「んふふ、混ぜて欲しかったッスか?」

「永遠に関わって欲しくなかったわ。はぁぁ……」

そう言って負け犬は盛大にため息を吐くと、真剣な表情をした。

「まぁ、お前らのやったことは分かる。俺の心情はともかくとして、お前らは自分の命のために行動を起こしただけだ……」

そうね。

私達は生き残る為に行動を起こした。あのまま手をこまねいていたら間違いなく私達は亡霊デュラハンの餌食になっていたはずだ。

だからやった。

「その上で聞く……何の用だ?」

そう言う割り切り嫌いじゃないよ。

ここからの説明は幼女ちゃんにしてもらおう。考え自体は彼女の意見だからね。

「……わたしたちは、しょうしょう目立ちすぎた……」

「少々じゃないなぁ!! とんでもねぇ騒ぎになってるから! ある意味スターだよ! 広範囲で情報の爆弾落とした自覚ねぇのか……こぇえよお前ら!」

「……よって我々は……少しのあいだ地下にもぐる……」

そう、町長事件が片付いて私達が思ったこと……それは『逃亡者なのに目立ち過ぎた』こと。

私達は逃げている。

ハリウッドメガネという『貴族』

キモノお嬢という『マフィア』

祈りの巫女という『教会』

そして今回の事件で『町長派』からも追われる事になったはずだ。

軽く考えるだけで追われまくっとる……。

そして映像をクロックシティー中にばら撒いたことで、私達の凡その場所を知らしめる事にもなった。

つまり……今街中を歩き回るのは危険過ぎると判断した。

ゴミ箱の中に隠れていたのも別に負け犬を驚かせようとしたワケじゃない。

なるべく目立たず負け犬に接触するためだ。

つまり、ほとぼりが冷めるまで本格的に隠れる事にした。

今までも隠れてたって?

違う違う……今回は街に出ることすら危ない。

隠れ住んでた時だって買い物なんかには出てたでしょ?

いまはソレすら避けたい。

なぜならこの辺は私達を追ってきた連中が探してるかもしれないから。

だから私達は少しの間、本格的に隠れる事にした。

買い物にも出ない……。

人と関わらない……。

「ま、まさか俺に匿えとか言ってんじゃないだろうな……」

負け犬が怯えたように自身の体を抱く。

「違うッスよ」

「そ、そうか! なら今日は俺にお別れを言いに来たんだな! そうかそうか! 元気でな!」

過去一の爽やかな笑顔やめろや。崩したくなるだろ……。

「……おまえにやってもらうことは……私達を遠くまで連れていくこと……」

「待て! 何で俺なんだよぉ……解放してくれよ! 俺はこれから真っ当な人生を送るんだよ」

「まぁまぁ、別に難しい事は言わないッスよ」

「……そうだ。お前にはすでに別の関わりが出来ている。そこから情報がもれるのを避けたい……」

「だからお仲間さんにバレないように協力して欲しいんですよね。なに、一日で済むようにしますよ」

「……分かったよ……」

お、いいね。

少しは協力する気になったようだね。一日だけで済むってのが効いたかな?

「やる事は簡単。さっきも言った通り誰にも見つからないように私達を遠くに連れ出すこと……簡単でしょ? 一度やってんだからさぁ……」

――――――――――――――――――――――

閑静な居住区……。

自然が多く、一軒一軒の家が程よく離れている。

街からは遠く、この場所は車でなくては買い物も難しいだろう。

だが田舎という感じではなく、道は広くてまばらに建っている家は一般的にオシャレで豪邸が多いように見える。

感覚的には程よい金持ちが、静かな場所に家を建てたという感じだ。整備された自然が、避暑地のようにも見える。

そんな海外ドラマのような場所に、一人の小物臭そうな男がキャリーバッグを転がしながら歩く。

この爽やかな住宅地に相応しくない挙動不審なその男……負け犬は、ゴロゴロとキャリーバックをある場所に置くと、足早にその場を立ち去った。

そこは、その辺りの住人が活用するゴミ捨て場……野生動物に荒らされないように建てられた小屋の前……。

あろう事がその男は、キャリーバックをその場に不法投棄していったのだ。

そして……しばらくするとカチャンとバックの留め金が外れ……。

「ふぃ〜……到着かな?」

「……なかなかの場所……いいぞ負け犬」

二人の幼女が転がり出てきた……。

――――――――――――――――――――――

到っ着!!

どーも私です。

オッケーオッケー。

周りはまばらに家の建った静かな住宅地。いいじゃん。

アレだね……幸せな家族の住んでる海外ドラマの街って感じ!

負け犬にやってもらったことは単純。

私達をキャリーバックに詰めて列車を使い、人の少ない遠くの街に捨ててもらうこと。

といってもセッテ区域は脱出出来ていない。

ま、当たり前だね。

このクロックシティーは、たった数時間列車に揺られただけで簡単に他区域に移動出来るほど狭くない。

だからこそ私達が逃げ隠れ出来るんだ。

目的は、あの場所から少しでも遠ざかる事だったからね。

「まぁ、こんだけ離れればいいでしょ!」

「……うむ、少しの間この辺りで隠れ住む……」

ま、ほとばりが冷める迄だね。

私達を追ってる勢力も、しばらく探して見つからないなら捜索の手を緩めるでしょ。

「んで、これからどうする? 山にでも篭るかい?」

周りを見渡して口にする。

自然豊かな場所だから山とかあるぜ。自然に帰っちゃう?

「……げんじつてきじゃない」

それもそうだね。言っただけ。

「んじゃあアレだ。金持ちの家に忍び込んで座敷童にでもなるとか」

豚貴族の屋敷でやってたことだね。

だけど幼女ちゃんは少し考え込んで口を開いた。

「……隠れ住むのはやめとこう。今の状況で見つかったら厄介……だからコレを使おうとおもう」

そう言って幼女ちゃんがポケットから取り出したのは、緑色の宝石がついた指輪。

おん? これって……

「町長が持ってた指輪じゃん」

そういやキミ……町長からパクってたね。

たしかハイテンション町長がパーカー兄貴に使ってた指輪だ。

たぶん催眠術とかそんな感じのことが出来る指輪。

「……うん、コレを使って怪しまれないように一般家庭に潜り込む」

「う〜ん、でもコレってそんなに効力強くないって町長言ってなかった? それとなく誘導出来るだけだって」

「……あれはパーカー野郎の抵抗力が強かっただけ」

なるほど、つまり家の住人に不審がられなきように催眠術を掛けるワケか。

「じゃ金持ちの家の子供のフリしようぜ。美味いもん出るかもよ」

「……いや、一般家庭がいい。金持ちは呪いやそう言ったものを防ぐ道具を使用している可能性がある」

おいおい、そんな不確かな効力の指輪使って大丈夫?

「……だいじょうぶ。少し指輪を弄る……」

そう言って幼女ちゃんは天然コアを取り出して、指輪に細工を始める。

天然コアが模様を撒き散らし、ソレが指輪に吸い込まれる。

そして、リンリン……と鈴を鳴らすような音が指輪から鳴った。

「ん〜何したん?」

「……この指輪……たぶん量産品。一つの指輪を使って数値を弄っただけの物がばら撒かれてるんだと思う」

ゴメン意味分からん……。

「……数値が弄りやすくなってる……だから多分、この指輪を作って数値を弄ることでバリエーションを増やしてる」

分からんけど、多分こう言うことかな?

色んな種類の指輪を作るより、一つの指輪を作ってパラメーターを弄ることで種類を増やしてる……みたいな? ……だから何?

「……数値を弄った……効力を強くして時間と範囲を狭める」

「やっぱ分かんねぇや……つまりどゆこと?」

幼女ちゃんは指を二本立てる。

「……二人。一般家庭の二人を騙してしばらく家庭に入り込む。それで指輪の魔力を全部使うから一回のみ……」

「オッケー分かりやすい」

つまり指輪を使い捨てにして催眠術の効果を高めたのね。

「「ッ……」」

そこで物音に気づいた私達は茂みに飛び込む。

「「……」」

少し警戒し過ぎかもしれんけど、こりゃクセだね。

茂みから物音の方を窺うと、近くの二階建ての白い家から二人の男女が出てくる。

「アナタ〜、ゴミを捨ててくるから出しちゃって〜」

「母さん、ちょっと待ってて。車のゴミも取ってくる」

どうやら夫婦でこの家に住んでるらしい。

「……ちょうどいい……あの家に子供のフリして、しばらく潜り込む……」

「ん〜、あの夫婦の家に? 上手く行くの?」

「……たぶん」

「いや、他に家族いたらどうすんの? 指輪で騙せるの二人なんでしょ?」

そう言うと幼女ちゃんは、家のガレージを指差す。

「……あの車……二人乗り」

「……なるほど」

幼女ちゃんは茂みから飛び出すと、白い家の前までペタペタ走り出す。

「「……?」」

突如家の前に現れた白髪の幼女に、夫婦は首を捻った。

リンリン……

幼女ちゃんが指輪を向けると、緑色の指輪が鈴の音を鳴らした。

「「……」」

「これ大丈夫なん?」

「……たぶん?」

ボーっとする夫婦に不安になって話しかけるが、幼女ちゃんは汗をかいてそう呟く。

え、本当に大丈夫?

しばらくして……母親が私達を見るとニコっと笑った。

「どうしたの? 早く家に入りなさい〜」

間延びしたような声でポワポワ花畑のような母親は扉を開けた。

「今日のお昼ご飯は何かな? 母さん。僕たちお腹ペコペコだよ」

そういってハンサムお父さんは、私達の頭に手を乗せる。

「……うまく」

「行ったみたい?」

こっわ……。

最近キミが恐ろしく感じるよ。

よしよしよ〜し。

上手く行ったんちゃうコレぇ。

こうして私達は一般家庭の夫婦の子供として潜り込んだ。

お花畑母さんにハンサムお父さん!

どーも娘です!

ほとぼりが冷めるまで、しばらくよろしくね。

「んぐんぐ……」

「……もっちゃもっちゃ」

「結局さ、どのくらい効力もつのコレ?」

「……あぐあぐ、しばらくとしか……あんまりアイツらに話しかけて矛盾させないで……重ねがけすると魔力残量がへる……」

なるほど、矛盾させると余計に魔力使っちゃうのか……。なるべく話しかけんとこ。

昼飯食って今はオヤツの時間……むふふ、コレよコレ!

一歩も外に出ないでメシだけ出る!

最高の生活じゃん!

「…………ただいまー」

そして聞こえる家の扉を開ける音と、子供の声……。

「「……」」

私達は口にクッキーを詰め込んだまま、顔を見合わせる。

幼女ちゃんの顔には汗が滲んでいた……。

「母さん今日のオヤツなにー?」

「帰ったら手を洗ってらっしゃい〜」

「はーい」

トタトタと洗面所に駆ける軽い足音……。

「……おい」

「……」

「どうすんだよ……居るじゃねぇか……子供」

「…………やっべ」

「効果範囲、三人にしよ?」

「…………むり……壊れる」

そっかー無理かー……。

「…………致し方なし」

「何が!? 幼女ちゃん!! 目立つマネやめようね!」

「……しょせんガキ」

「キミもガキだからねぇ……」

「……ぜんりょくで誤魔化す!」

母親と会話をする三つ編み茶髪の女の子。

私たちより年上なその女の子が余計な事を言わないように肩を掴む。

推定この家のガキである三つ編み少女は振り返ると、家に無断で入り込んだ私達を見てギョっとしていた。

そらそうよ!

でもすまん! こっちも引けんのや!

誤魔化せ誤魔化せ誤魔化せ誤魔化せ!

「お姉ちゃぁぁあん……あぁそびぃましょ」

「……姉、ちょっと、こっちこい」

リンリンリンリンリンリン……!

指輪をブンブン振る幼女ちゃんから鈴の音が鳴り響く。

今全力でお母さんとお父さんに催眠掛けてるから、娘さんは待っててね!

ほら三つ編みちゃん!

妹だから!

可愛い可愛い妹だよ〜!

記憶にない?

うるせぇいいから騙されろ……ガキの記憶違いだよ!