作品タイトル不明
縄張りを持たない新勢力『小悪魔』
「あらあら、わざわざ来てもらって悪いわねぇ〜。ご苦労様」
オクトー区域を縄張りにするバイラールファミリー、その本拠地で『キモノお嬢』が庭の四阿に座りながら対面の人物にそう告げる。
「……チッ」
しかし、その対面に座る人物は面白くないようだ。
「アンタが伝言無視して反応しないから、同じ区域の私が来る事になったんじゃない!」
紫色の巫女服を着た『祈りの巫女』は苛立たしげに舌打ちをする。
「いまいち使い方分かんないのよねぇ〜アレ」
「嘘つけ、面倒だからスッポかしただけでしょ……」
「まぁいいわ。それで何の話かしら?」
「よくないわよ……それ私の台詞でしょ」
キモノお嬢は扇子で口元を隠してクスクス笑う。
その姿にストレスを溜める祈りの巫女だったが、落ち着けるように呼吸すると真剣な眼差しでキモノお嬢を見る。
「……アンタが『シロ』と『ノラ』と呼ぶ二人組の子供……」
「あぁ、あの子たち? この間面白いことしてたわね……ふふ」
「あの子達……『捕まえたら引き渡せ』って。そして南西区域の勢力は優先して探せってことよ」
「ふぅ〜ん……誰が?」
キモノお嬢の糸目が僅かに開かれ、チリチリとした圧力が掛かる。しかし、巫女は気にしたふうもなく指を二本立てて言葉を続けた。
「亀とイタチよ……」
「あぁ、なるほどね。この間の……普通じゃないと思ってたけど」
「基本的に勢力にノータッチのクセに今回は子供二人に出張ってくるとか、余程町長を潰されたこと根に持ってるのかしら。……アンタどう思う?」
キモノお嬢は、扇子を閉じてクスリと笑う。
「そうねぇ……問題は町長じゃなくて大規模ハッキングの方じゃないかしら?」
「やっぱりアレ……普通じゃないわよね」
クロックシティーを未曾有の大混乱に陥れた大規模ハッキング。いまだにその騒動は治っていない。
クロックシティー最大勢力だった『町長派』は実質潰れ、今は副市長の一人が何とか纏めているらしい。
それでも、カリスマで集っていた町長派の人員は大勢離脱したという……。
「いいわよ。捕まえたら教えてあげる。バイラールファミリーが『捕まえたら』……ね」
「私もだけど、もともとアンタの所もあの二人組を追っていたからね」
話は終わったとばかりに祈りの巫女は席を立つと、キモノお嬢を見て口を開く。
「……アイツら『勢力』としてカウントされたわよ」
「あら? 新しい勢力なんていつぶりかしら」
キモノお嬢はその言葉に驚いた様子はない。しかし、面白そうに糸目を更に細める。
「もっとも……人工ダンジョンの勢力なんかは『ただのペテンだ』『たかが子供じゃないか』って反論してたけどね」
興味もなさそうに巫女がそう言うと、キモノお嬢は嗜虐的な笑みを浮かべた。
「ふふ、その『たかが子供』に町長は潰されたのにね。自分たちが靴を舐めて下手に出ていた町長を……」
「……腹が立つけど同感ね。だったら自分たちはペテンを使っても町長を潰せたのかってね」
ぶっちゃけ、この二人は人工ダンジョンの勢力を舐めていた……。
「……玄関まで送ってあげなさい」
扇子で後ろに立つ黒服の男、『傷グラサン』を指す。
「あら? ソイツら誰?」
傷グラサンの後ろには、三人のフードを目深に被った人物が立っていた。
「お嬢……この間も説明しましたよね?」
「そうだったかしら?」
傷グラサンは疲れたように、ため息を吐く。
それを見て祈りの巫女は『コイツ苦労してんな』と同情の視線を向けた。
「あの嬢ちゃんたちが引っ掻き回してくれたお陰で、クロックシティーの勢力が不穏なんですよ。だから戦力増強に名前を使わせて下さいって言ったじゃないですか……」
「そういえば言ったかしらね?」
「ウチは勢力としては『お嬢一強』の名ばかり勢力ですからね……。あのガキ共を探すには心許ないんですよ」
もともと傷グラサンは、自分たちのファミリーに入れる為に二人の幼女を探していた。まさかその二人が勢力になるとかホント勘弁して欲しい……。
だからお嬢の名前を使って人員を集った。
そして三人のフードを被った怪しい三人がやってきた。
見た目がフードを被っていてホント怪しい……ホント勘弁して欲しい……。でも間違いなく使える人員で頭が痛い……。
「……祈りの巫女殿……こっちです」
傷グラサンが玄関まで祈りの巫女を送ろうとする。
その後ろを三人のフードが付き従う。
「……ふーん、そのフード……暗殺者がよく使う、魔力の痕跡を隠すフードね。……おおかた、離反した町長派から流れてきたってところかしら?」
祈りの巫女が、傷グラサンに付き従う三人のフードに目をやる。フードの能力なのだろう、体型以外の要素が感じ取れない。
だが、体型には個性があった。
分かりやすく……大フード、中フード、小フード。
フードに隠れた三人には大きさに違いがある。
祈りの巫女は、おそらく元町長派の人員じゃないかと考えた。町長派は町長の圧倒的カリスマで、化け物クラス纏めていたところがある。
しかし、町長がいなくなったお陰で化け物クラスの人員が離反した。その中には町長の力に信奉していた者も多い。
町長がいなくなったことで、もしかしたら次にキモノお嬢……エルテバイラールに付いたとしてもおかしくはない。
現に 教会(ウチ) にも町長派から流れてきた副市長がやってきたりもしている。
「……じゃあね。バイラールファミリー自体はあの子供に見えるナニかを探してるようだし、私から言うことはないわ。アンタは探してないみたいだけど……」
「ふふ、分かる? あの子達に約束しちゃったからね。私は探してないわ」
そして傷グラサンに付いて歩く。
「…………ッ!!」
不意に……三人のウチの一人……小フードが弾かれるように飛び退いた……。
「……どうした? 客人の前だから変な行動取るのやめて欲しいんだけど……」
傷グラサンはドン引きしたような声で、恐る恐る奇行をした小フードに声を掛ける。……ホント勘弁して欲しい。
正直、新人のフード三人組を制御できてない。
やがて小フードは掠れたような声を、フードに隠れた向こう側から発した……。
「オタワムレヲ……」
おそらくフードの効果で声が聞き取りづらくなっているのだろうが、会話は出来るようだ。
しかし、小フードの言っている意味はよく分からなかった。
「……? えっと……ほら……客人の前だからさ……」
傷グラサンは『よく分かんねぇけど不気味』なフードに、人前だからちゃんとしてくれと心で願う。
「ふふふ……」
しかし、その微妙な空気はキモノお嬢の更に不気味な笑い声で霧散した……。
「……いいじゃない。よく分かったわね。大した反応よ」
「……キョウシュク……デス」
どうやらキモノお嬢が何かをしようとして、小フードが感じ取ったらしい。それだけでもフードの実力が伺える。
どうやらバイラールファミリーにやってきた新人は有望のようだ。
それはそれとして……
「お嬢……せっかくの人員なんですから……勘弁してください……」
いちいち喧嘩を売るのはやめて欲しいと切に願う傷グラサンだった……。
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クロックシティー最大の勢力だった『町長派』……それが崩壊し、新たな勢力が産声を上げた。
クロックシティーにおいて唯一の『縄張りを持たない勢力』……神出鬼没で他の勢力を引っ掻き回す新勢力。
どう見てもただの子供の二人組……。
大した力はない。
間違いなくただの子供……。
しかし……やった戦績がソレを許さない。
ただの子供に最大勢力が潰されたのだ。
ペテンとか言ってる場合ではない。
おそらくどの勢力でも、やろうと思って『町長派』を潰すことは出来なかっただろう……しかし、偶然だろうがソレをやったのだ。
しかもクロックシティー全域にこれでもかと分かる形で……。
クロックシティー全域の市民が聞いた。
クロックシティー全部の勢力が聞いた。
他者の不幸を楽しそうに嘲笑う……二人組の子供の声……『悪魔』の笑い声を……。
縄張りを持たない唯一の新勢力……
『小悪魔』
たった二人組の勢力がクロックシティーに爆誕した……。
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「明日は午後から希望者の面接入ってるので開けておいてください」
「あーうん、そうだったね。ありがとうオリバーさん」
パイプ端末のメモ帳を、パーティーリーダーのリードに飛ばす。
「それでは、お先にあがります。お疲れ様です」
負け犬はそう言って、パーティーで借りている事務所を後にする。
帰るついでにゴミ出しをするのも忘れない。
見た目に関わらず割とマメな男である……。
「よいしょ……と」
蓋のついたポリバケツを抱えてゴミ捨て場までやってくる。
「…………」
そして、ある違和感を感じて……ポリバケツの蓋を取った。
「うぃ〜ッス。どーも私です」
「……ういっす」
ポリバケツの中からよく知った二人の幼女が顔を出した……。
「あ、中に入ってたゴミ袋なら、あらかじめ捨てといたんで安心していいですよ!」
「……ほめろ」
負け犬は……無表情で汗をかきながら蓋を閉めた。
「……捨てなきゃ!!」