軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

異物(妹)

「ふん、王領クロックシティーか……相変わらず古臭い時計塔だな」

横に肥え太った大男が、不機嫌そうに顔を歪めて遠くに見えるこの街のシンボルに、面白くなさそうな口調で吐き捨てる。

赤い軍服のような制服に、ジャラジャラと勲章を携えるその格好はパッと見ても仕立てが良く、誰もが羨む上流階級の存在だと一目で分かる。

「チッ、流石に目立つか……」

しかし、そんな男に対して夜の街を歩く人々は目線を逸らして足早に立ち去る。

なぜならその男、『ガバス アヤブドール』はどう肯定的に評価しても『悪党』の顔をしていた。

しかもただの悪党ではない。

言うならば世界を裏側から牛耳っているかのような『大悪党』……そんな雰囲気が全身から隠しきれないように溢れている。

性格が腐っていて権力を振りかざすことに躊躇のないゲスというのが第一印象。

まさに『豚貴族』という評価に相応しい男。

一般人がそんな明らかにヤバい男に関わりたいはずがない。

気まぐれに因縁をつけられてはたまったものではないからだ。

「お父様。早くして下さい。こんな所でグズグスしている暇はありませんよ!」

そんな誰も関わりたくないであろう男を急かすように声をかけるのは、珍しい白髪の髪を持つ女性『メイルン シュライン』。

いや、今は家名が変わり『メイルン アヤブドール』白髪ママである。

そんな親子がクロックシティーのシュタイム区域に到着していた。

「えぇい! 落ち着かんか!」

「落ち着いていられるはずがないでしょう! テレサは今でもこの街のどこかで泣きながら待っているのですよ!」

「だから待てと言っているだろうが! 聞かんか馬鹿者!」

スタスタと先を早足で歩くメイルンの肩を掴んで引き留める豚貴族。その顔には少々の疲れと面倒臭さが滲んでいた。

「いいかよく聞け。ワシらがこの街に滞在していることは公になってはいかんのだ……理由は分かるな?」

聞き分けのない子供を諭すように、豚貴族が指を立てて真剣な表情をとる。

しかし、娘のメイルンは不機嫌そうに眉間にシワをよせて胡乱な目を向けてきた。

「分かってますよ……お父様が不正をしたせいで王領に侵入禁止になっているのですよね」

「う……む。そうだな……」

この豚貴族……少し前に不正で王領を追放されている。ただでさえ普段から碌でもない噂のある上に、とんでもない権力を持った男だ。

王領に侵入したことがバレたら軍が動く……。

そのため、非合法の長距離移送核を使用してクロックシティーに密かにやってきたのだ。

「だいたいテレサを探すと言っても、キサマどう探すつもりなのだ……」

「それは……」

豚貴族の言葉に声を詰まらせる。

「大々的に探すと言っても、ワシらはこの街におらんことになっておる」

「だからソレはお父様のせいですよねぇ!」

「ま、混ぜっ返すな! ワシにもちゃんと考えがある! だいたい街で闇雲に小娘二人を探すなど、簡単に見つかるワケなかろうが!」

「じゃあその考えを教えて下さいよ」

豚貴族は葉巻を取り出して火をつける。

「もとより捜索願いは出しておる……本来なら帰りを待つのが一番最良なのだ。それをキサマが待ってられんと言うからやってきたのだろうが」

「それは……それでも館でただ待つというのはできません……」

「ふん、居ても立っても居られないといったところか……いいだろう。小娘二人を探すのが簡単ではないと言うのは半分嘘だ。ただの小娘ならな」

正確に言うと……『あの不気味な小娘』だから難しいと感じているだけだ。

強かなあの小娘が逃げ回っているなら簡単に見つけられるはずかない……そんな経験に基づく確信。

「普通に探した所で、あのガキ共が見つかるか。ならば……『 縁(えん) 』を利用すればいい……」

まるで他人の弱みを握った時のような、醜悪な笑みを浮かべる。

「『縁』……ですか? そんな不確かなもの……」

豚貴族の神頼みのような説明に、白髪ママは肩を落とす。

「そう……縁だ。理屈ではないが、これがあながち馬鹿には出来ん」

裏社会を渡り歩いてきた豚貴族の『勘』だ。

闇雲に小娘を探しても無駄だという『勘』。

勝負所を見極める絶対的な経験に基づく勘だ。

その勘が言っている。

今の自分たちには小娘達との縁がない……。

「ならばどうすればいい。縁がない? そこで思考を止めるから神頼みになぞに成り下がるのだ。ならば縁のありそうな存在を利用すればいい……縁など自分で作ってしまえ」

グヒヒヒと笑う豚貴族に、白髪ママは疑問を浮かべながらもドン引きした表情を浮かべた。

……コイツ悪党顔が似合うな……と。

「……それで具体的には今からどうするのです?」

「そうだな……とりあえず腹が減ったから飯でも食うか」

「あぁ!? この豚がぁ!」

「お、落ち着け! 人目のあるところで首を絞めるな! 警察を呼ばれたらどうする! いや、人目がなくともワシの首を絞めるな不敬だぞ!」

「なにが飯ですか! あぁ……可哀想なテレサ! 今頃あの子泣いてるわ!」

「腹が減っては何もできぬと言うのに……これだから平民根性が抜け切らんヤツは厄介だ。飯を抜いたところでテレサは見つからんわ……」

その時……耳にザザッというノイズの音が聞こえる。

「……あ? 何の騒ぎだ?」

「お父様……アレは……」

ビルに備え付けてあるモニター、その画面の様子がおかしい……。

いや、ビルのモニターだけではない。

空に浮かぶ宣伝用の飛行船そのモニターも。

「ッ……何が起きている……」

視線だけを冷静に飛ばして辺りを警戒する。モニターだけではない……ビルの窓ガラスにも映像が映し出される。

そして……映し出されるのは……ある男による殺人の瞬間。

「……あの男」

何度も何度も、映し出される首を斬って振り返る泥のような瞳の男。

街ゆく人々もその異常事態に足を止める。そして――一人の市民の言葉が耳に入った

「…………町長だ」

しばらくして、街中に強制的に流される映像のうち、半分ほどのモニターが再びノイズを起こして映像を浮かび上がらせる。

【『僕がッ、僕こそが『亡霊デュラハン』だッ!! アーハーッハッハ!!』】

町長による自白が流れ始める。

【『……不安だった?』】

そして聞き覚えのある少女の声も……。

今まさに自白した町長の前に立つ髪の長い少女の後ろ姿。

豚貴族は貧血のように頭を抱えると、肺いっぱいに空気を吸い込んで声を上げた。

「大人しくしとられんのか! あの小娘わァ!!」

今にも殺されそうな少女の横には白髪の幼女も……豚貴族は冷や汗を掻きながらチラリと横をみる。

「…………………………」

今にも気絶しそうなメイルンの姿があった。

後ろ姿だけだが、アレは間違いなくテレサで間違いない……。

「いぃいいいヤァァアア!!! テレサーーーー!!」

顔を押さえて半狂乱になる白髪ママ。……気持ちは分かる。それでも映像を見ることしか自分たちには出来ないのだ。

そして映像は続き、殺されそうになった瞬間のメイルンの叫びは悲痛な物だった……。

しかし、幼女達は賭けに勝った。

今まさに流れているこの映像こそが奥の手だったのだろう。

「ふん、相変わらず悪辣な手をうつ小娘だな……」

これで娘が助かってメイルンも一安心だろう……。

【『「アヒャヒャヒャヒャ!!」」』】

「…………」

安し……安心?

【『ヌヒヒヒヒヒヒヒヒヒ! ……勝った勝った』】

「…………」

控えめに言っても子供のしていい表情じゃない……。

腹を抱えて悪魔のように笑う二人の幼女達……。

その後ろ姿からチラリと顔が見える。

テレサの白目は黒く染まり、眼球が赤く輝く……。

そして何より……全身から不穏な黒い靄を纏っている姿はハッキリいって普通じゃなかった……。

豚貴族はゴクリと唾を飲み込んで……恐る恐る娘に声を掛けた……。

「よ、良かったではないか……泣いてないぞ。うむ! た、楽しそうに笑っておるな!」

「娘がァァアア!!! 他人の不幸で嬉しそう!! テレサ!! テレサァァアア!!」

白髪ママは別の意味の叫び声を高らかに上げた。

――――――――――――――――――――――

「じゃあねー! また明日ー!」

スクールバスを降りて、窓から顔を出す友達に手を振る。

友達も笑顔で振り返してくれた……。

当たり前の日常。

「母さんただいまー!」

「お帰りなさい〜アムネシア」

「お帰りアムネシア」

「お父さんただいま!」

スクールから帰ったら優しく出迎えてくれる両親。

当たり前の日常。

「母さん今日のオヤツなにー?」

「帰ったら手を洗ってらっしゃい〜」

「はーい」

当たり前のやりとり……。

でも……何かが足りない気がする……。

そんな日常。

満足はしている。

学校で友達とお話しするのも楽しい。

最近ファッションに興味の出てきた友達と、買い物にいくんだ。正直、私にはファッションの良し悪しはわからないんだけどね。

「洗ってきたよー!」

でも何だろう……足りない気がする。

もしくは当たり前の事が当たり前じゃない気すらしてくる。

でも日常に不満があるわけじゃない……。

何となく非日常を欲しているのかもしれない。

「まったくアムネシアったら……落ち着きのない子ね〜」

母さんが仕方のないって顔をしながらも、オヤツのクッキーを持ってきてくれる。

「もっとお淑やかにしないとダメよ〜」

でも、そんな当たり前の事は……些細なことで変わるのかもしれない。だって――母さんがクスリと柔らかい笑みを浮かべたから。

「アナタお姉ちゃんなんだから〜」

手に持ったクッキーをポロリと落とす。

お姉ちゃん?

「……お姉ちゃんって」

笑う母の顔を見て、胸に温かい物が込み上げてくる。

私は一人っ子だ。なのにお姉ちゃん……。

それってつまり……そう言う事なのだろう。

私は母さんのお腹を見る。

そうか

私、お姉ちゃんになるんだ……。

「母さん!! それって赤ちゃ――」

ーーリンリン……ーー

不意に……

両肩を掴まれた……

「…………え?」

振り返る。

両肩を掴んでいたのは、私より小さな、『長髪』と『白髪』の二人の女の子。

少女達がニィイイと笑う。

「お姉ちゃぁぁあん……あぁそびぃましょ」

「……姉、ちょっと、こっちこい」

誰るぇッ!?

「は、え? なに!? この子たち誰!? 母さん!!」

見知らぬ小さな女の子に、混乱した私は母に視線をやる。

母さんは、振り返るとニッコリと笑う。

「誰って、喧嘩でもしたの? 駄目じゃないアナタお姉ちゃんなんだから〜」

母さんの顔には、疑問などないようだった。

この日、私の当たり前の日常に……

「お姉ぇちゃぁん……にゅふふ」

「……姉ぇ……ぬひひ」

知らない 妹(異物) が当たり前のような顔をして紛れ込んだ……。