作品タイトル不明
それでも朝日は昇る
「……人形?」
えコワ……。
町長の娘は仰向けに倒れながら、どこか焦点の合わない瞳をしている。
「普通にホラーじゃんよ……」
いやさっきまで動いとったやん? 急に無機物ムーブかますの止めてよね……。
本当は親父が倒されたから『やっべ、人形のフリしたろ』って誤魔化してるだけじゃないのぉ?
私は足先で、恐る恐る町長の娘の体をつつく。き、急にガバッと動き出したりしねぇだろうな……。
……無反応ッスね。
あ〜うん、人形……だわ。
さっきまで完全に人間にしか見えなかったのに……今はそう言われたからか人形だと強く感じる。
何で急に人形っぽくなってんの? いやまぁ、予想はできるけどね。
コレが人形だとすると、持ち主は十中八九ハイテンション町長だ。その町長の意識がなくなったから電池切れたとかじゃない?
……たぶんそんな感じでしょ。
「クロックシティー町長の趣味が『人形遊び』とは恐れ入ったわ……」
らしくないってのは偏見かな?
幼女ちゃんはアリの巣でも観察するように人形の横で座りこんで目を光らせながら指でつつく。
「……ぬ、かたい」
人形だから硬いって言ってるワケじゃないね。たぶん能力で探ろうとしたけどプロテクトが硬いってことだろう。
幼女ちゃんでも手こずるって、まぁ普通の人形じゃないわな。
「幼女ちゃんは最初から金髪ちゃんが人形だって気づいてたん? あ、魔力を見ておかしいって思ってたとか?」
彼女は、諦めたように人形から手を離すと首を横に振る。
「……いや、分からなかった。……すごいよコレ。魔力の流れすら人間に見えるように動いてた」
「じゃあなんで人形だと分かったの?」
「……町長が倒れて完全にわかった……あとは――」
幼女ちゃんはソッポを向いて呟く。
「……人形には……みえないモノがあるからだよ」
ふぅ〜ん、よく分からんけど、よく出来た人形ちゃんなワケだ。
「結局この人形ちゃんて何なんだろうね。やっぱ町長の趣味?」
幼女ちゃんは少し考え込む。そして人形を横目で見て口を開いた。
「……予想……になるけど」
「うん、いいよ」
気になるから聞かせてくれや。
予想以外の答えなんて町長にしか分からんだろうからね。
「……これたぶんラリアードール【オリジン】だよ」
「なるほど」
なにそれ?
「……」
「……」
「……しっての通り、わたしたちが負け犬を使ってプログラムをフィードバックって会社にうって、それを使った物が今のラリアードール」
ガキに気を遣われた!!
「……そのとき会社のヤツらがいってた。もともとラリアードールはダンジョンから発掘された物を真似てつくった人形」
「それがラリアードール【オリジン】……金髪ちゃんだってこと?」
「……予想だけどね」
ははっ、ラリアードールの元となったオリジナルね。
興味なくてあんま覚えてないけど言ってたかも。
人形(オリジン) が自分を真似て作られた 人形(ラリアードール) を抱えて動いてたワケだ。
だから怖えって!!
「町長は人形に自分の子供のフリさせて、何がしたかったんだろうねぇ」
私の言葉に幼女ちゃんは倒れている人形を見て、同じく倒れている町長に視線をやる。
「……たしかに想いや感情には力が宿ることがある……でも、ほんらいそれを『信仰心』として思い通りに集めるのは普通じゃできないんだよ」
「どゆこと?」
「……会社の人がいってたオリジンの持ち主は莫大な力を得るっていうウワサ……人気を信仰心として町長に集めてたのは、この人形の機能なんじゃないかな?」
ほぉ……ハイテンション町長の主人公体質は自前じゃなくて人形が行っていたことだと?
「……オバケ姉ちゃんは町長がなんで首を切って回ってたんだと思う?」
「そりゃあ……」
あれ、なんだろ?
「サイコパスだからじゃない」
考えてたらポーションをザブザブぶっ掛けながら変態殺人鬼がやってきて鼻で笑う。
「ちげぇよ楽しいからだよ」
「なるほど! さすが変態ッスね!」
「……おまえらをみてると、わたしがまだ純粋だと再確認できる……ありがとうクソども」
幼女ちゃんは遠い目をして呟いた。
この変態と一纏めにすんじゃねぇよ。
自分だけマトモなフリすんな。幼女ちゃんはもうドップリこっち側だろうが!
「……たとえば、人気を信仰心に変えて自分に宿らせる儀式に『新鮮な人間の首』が必要だった……。だから娘のフリをさせて常に近くにいても違和感のないようにした」
おおぅ……そりゃ何とも――
「意地悪な人形ちゃんだねぇ……」
「……?」
だってそうでしょ。
「力を得る為に人気が必要なのに、それをする為の方法が人を殺す事だってさ。真逆のこと要求してんだもん」
「……ぬ、たしかに」
でも、それを上手くやってたのが町長なんだよね。
いまなら分かるよ。
殺人を見たかもしれない私達をすぐに殺さなかった理由。
見たか分からないのに、わざわざ余計な殺しをしてリスクを負いたくなかったんだよ。それならば『自分の信者にしてしまえ』ってな。
だから私達の信用が欲しかったんだろう。
『殺したくなかった』ってのはあながち間違いじゃなかったんだよ。
ははっ、力と人気を保つ為に人殺しはしなくちゃいけないとかアンタも苦労性だね、町長様。
――――――――――――――――――――――
「じゃあ、俺は行くぜ。あばよ嬢ちゃんたち……」
なんか傷の治った変態殺人鬼が、そう言って立ち去る。
「ほ? 見逃してくれるんで?」
「言ったろ、今は怖えからやらねぇってよ。それに……グズグズしてると、副市長が戻って来ちまうからな」
なるほど、あの三人ね。
てゆーか、今全力でこっち向かってんじゃねぇかな……。なんせクロックシティー全域に余す事なく放映したからね。
きっと見てんだろうし。
コレって副市長達的にはどう思ってんだろうね。
自分たちのトップが亡霊デュラハンだったってさ。 町長はたぶん捕まるだろうし。
ハッキリ言って死ぬほど大騒ぎじゃね?
変態殺人鬼が逃げるのも頷ける。
私達は……うん、マズイね!
町長の秘密を全域ネットでお届けしたの私達だし! バッチリ私達の声とか顔が映ってるだろうなぁ……。
取っ捕まったらどうなるか分からん。
「よし、逃げようぜ幼女ちゃん!! ……何してんの幼女ちゃん?」
「……せんりひん」
幼女ちゃんは倒れている町長から何かをゴソゴソ漁って小走りでやってくる。
彼女の手には町長の嵌めていた指輪があった。
指輪かぁ〜……売り捌くの難しいよ〜。幼女ちゃんが欲しいなら止めないけど。
あ、ちげーなコレ……お前コレでなにする気だ?
まぁいいけど……。
にゅ、そういや変態殺人鬼に聞きたいことあったんだ。いなくなる前に聞いとこ。
「あ、変態ニーサン。最後に一言いいッスか?」
「……なんだよ」
「豚貴族の領地……何処か知ってます?」
「誰だよ豚貴族って……あぁ……」
妙に焦燥感を煽るサイレンが遠くから聞こえる。
もしかしてパトカーかな?
「ククッ、知ってるぜ」
「ギブミー情報」
変態殺人鬼はニヤリと笑ってビルから飛び降りる。
「次に会った時、嬢ちゃんの死体に向かって教えてやるよ!」
じゃあ二度と会わなくていいや。
そのまま地面に叩きつけられて死んでくれ。
笑うから。
――――――――――――――――――――――
「ふぃ〜疲れたね〜」
「……つかれた」
朝日が昇った早朝の駅、私達はホームで列車を待ちながらベンチに座っていた。
どーも、あのあと倒れる町長を置き去りにして現場から逃亡した私達です。
いや〜まいったよね。
逃げたはいいんだけどさ、列車動いてねぇでやんの。
そういや町長があの辺り一帯を無人の街にしてたらしいから列車もないってね。
しょうがないから動いてる街まで歩いたよね。
夜が明けたわ!!
そしてようやく駅まで着いてホームで座れたところ。
ひぃ〜過酷な夜だったぜ。
「…………」
「…………」
横に座る幼女ちゃんが飲み物を啜りながら、視線を辺りに巡らせている。
早朝のホームは、私達と同じく列車を待っている人がまばらにいた。
ん〜どした? なんか気になるの?
フードを目深に被った幼女ちゃんは、不思議そうに上を向いている。昨夜の映像で顔が売れちゃったからね。
幼女ちゃんの視線は警戒……と言うよりは微妙な感情が浮かんでいる。
「幼女ちゃんなんか気になるの?」
「……なんか……警戒してたけど……拍子抜けした」
「……」
「……」
あ〜ね。そうゆうこと……。
「んふふ、みんな大変だよね〜お仕事」
「……うん」
私は駅のホームで列車を待っている人々をみてクスクス笑う。
誰も私達を見ない。気にも留めない。
町長の亡霊デュラハン自白事件
アレはクロックシティー全域に放映された。
控えめに言っても、大事件だろう。
「……わたしは、もっと混乱が起きて大変なことになるとおもってた」
「たぶん大変な混乱は起きてるよ」
「……でも、いつもどおり」
幼女ちゃんの違和感……それは、駅のホームがいつも通りの光景なこと。
「結局さ……どんなに大変な事件が起きても一日は始まるんだよ」
「……」
「見なよ。誰も私達を気にしない。町長が捕まろうが、大量殺人が起きようが関係ないヤツは関係ない」
「……」
「カメラの向こう側の遠い世界だと思ってんだよ」
とくにこんな広い街じゃね。
「そんなことより今日の仕事のほうが大事ってね。……そんなもんさ」
「……こんらんは起きてない?」
いいや
「起きてるよ……たぶんね。今回の件で今頃とんでもない数の人間がひーこら言ってるよ」
「……」
「……でもね。それでも関係ないヤツは関係ない。関係者が大勢いようが……それはこの街のほんの一部分にすぎない」
「……そうか……そうだね」
そんなもんだよ。
みんな自分のことで精一杯だ。
仮に私達が映像の美少女だと気づいても、別にどうもしない。だからなんだってね。
この大きな街で、私達の存在はちっぽけだ。
小さな小さな子供だ。
だから都合がいい……。
――――――――――――――――――――――
「……」
「……」
「……」
そしてようやく乗れた列車のコンパートメントで頭を抱える私達……。
「……さいあく」
幼女ちゃんは疲れた顔をしている。
「……えっと……殺します?」
私は窺うように指の隙間から目の前の人間を見る。
「……はえーよ馬鹿やろう……」
そして冷や汗を掻いた変態殺人鬼が、絶望の表情をしていた。
同じ列車に乗ってんじゃねーよ!!