作品タイトル不明
どーでもいい事
「ふぃ〜……積もったッスねぇ」
灯台の隙間からこんにちは、どーも私です。
連日の積雪により暗かった空模様も、カラリと青空を覗かせて爽やかな陽射しを覗かせております。
よき天気といえますね。
「……ぬ。晴れてる」
ザクザクと雪を踏みながら防波堤を歩くと、幼女ちゃんが辺りをキョロキョロ見渡しながらスキマから出てきた。
ふむ、晴れてはいるし陽射しもあるけど気温は低い。
上着はちゃんと着てこよ〜ね〜。
「さて、今日はどうしようか?」
「……オバケ姉ちゃんは?」
「ん〜……私は負け犬ニーサンの様子でも見てこようかな?」
『パーカー兄貴襲撃事件』から数日たったけど、あれから吹雪が酷かったからね。
怪我もしてたしスキマの中で大人しくしてたのよ。
だから負け犬のこともほったらかし……。
そろそろ様子でも見てこようかなと思ってね。
いや〜、それにしてもパーカー兄貴には困ったもんだよ。いきなり襲ってきたかと思えば頭をガツンだもんね。
しょうがないから海に沈めたよね?
だってあのままだったら間違いなく私たちを殺しに来てたからねあの兄ちゃん。
私たちは海に沈めただけだから。
「うんうん、生きてる生きてる」
「……」
そこっ! 死んでるわって顔すんじゃねぇ!
実際問題、あのまま放っておくのは危なすぎんだよパーカー兄貴。
完全にイカれ野郎だったからね。
子供という言い訳の通用しない殺人鬼だ。
むしろあんなヤツが一般人のフリして普通に生活してた方が問題だと思うね、私は。
「んで、幼女ちゃんはどーする?」
「……ん〜……私は別こうどう。買い出しに行ってくる」
おけ、しばらく外に出れなかったから買い出しも必要よね。
負け犬の様子伺いは私だけで行くとしよう。
私はザクザクと雪を踏みしめながら、後ろ手に手を振って別れた。
――――――――――――――――――――――
長髪の少女が防波堤を歩いていくのを、白髪幼女は気の抜けたような目で見送る。
そして、その視線は海へと向けられた。
「…………」
ジッと一点だけを見つめる白髪幼女は、やがてゆっくりと口を開く。
「…………そう。悔しいんだ?」
「…………むだだよ。お前の声は誰にもとどかない」
「……誰にも干渉できない」
「……お前は……負け犬に負けたんだよ」
白髪幼女の視線の先には、何もない。
それでも彼女は、何かが見えているように呟く……。
「……そうだよ。お前は終わったんだ」
「……何も為せず……誰にも知られずに……」
「……ちがうよ。お前は負け犬より下だ」
ただただ、凪の海を見つめる。
「……おにあいだよ?」
白髪幼女はゆっくりと灯台の裏に回ると、歯車に巻きついていた糸を手に取る。
そして、その糸を海に投げ捨てた。
「……お前は終わったんだよ……大人しく……世界を循環すればいい」
――――――――――――――――――――――
「うぃーッス。ご機嫌いかが? 負け犬ニーサン」
「……ッ。……お前か長髪……」
負け犬が倉庫から木箱を運んでいると、後ろから声をかけられた。
そのことに一瞬ビクリと体を震わせるが、鼻からため息を吐いて作業を続ける。
「……もう、体調はいいのか?」
「おかげさまで、怪我の方はスッカリですわ。……そっちはどうです?」
横目で見てみれば、人を馬鹿にしたような長髪の少女が木箱に座って足をプラプラさせている。
なるほど、怪我は治っているらしい。
「ふう……俺のほうも問題ない」
持っていた木箱を降ろして、少女と向かい合うようにソレに腰掛ける。
「いや、胸に穴開いてましたけど?」
「うん、なんか治った……っていうか俺の体どうなってんだ?」
槍で貫かれた体は、刺された時こそ血が流れていたが、それも塞がっている。
問題ないのが問題あるという状況だ。
「いやまぁ、そこんところは幼女ちゃんに聞かないとねぇ……私にはなんとも……」
むしろ、エルロイドを殴った腕の方が酷いくらいだ。
結晶を纏っての攻撃……おそらく無理をして起こした現象だったのだろう。
体が耐えきれない能力を、白髪が無理矢理引き出して使わせたのが原因だろうか。
指が折れ曲がり、動かせばいまだに痛みが走る。
だが……白髪の言葉を借りれば、あれは俺の力だという。
痛む腕をゆっくりと握りしめて拳を作る。
「お前ら……何かしたか?」
触れていい事なのか分からない……でも、気づけば口から疑問が出ていた。
体のことではない。
エルロイド パペルのことだ。
あれから数日……エルロイドはすぐに仕返しにくると思っていた。
だが……結局襲撃はなかった。
ならば……もしかして……この不気味な子供が何かやったとしか思えなかった。
「何かってぇと……なんスかね?」
「……」
惚けたように答える長髪少女が、木箱から飛び降りる。
分かっているのだろう。しかし少女は何も答えず歩くと、自分の横まできて首を捻った。
「んふふ。どちらにせよ。負け犬ニーサンには『どーでもいい事』ッスよ」
「……『どーでもいい事』……か?」
「そうそう、どーでもいい事……」
「そう……か。……あぁ、そうだな。どーでもいい事だ……」
そうだ……あの時、必死で命乞いをするエルロイドに対して思ったことだ。
このまま、ここで殺さなかったら、確実に俺を殺しにくるだろう。
けど……俺はあの時、思ったんだ。
どーでもいいわ……殺しにくるなら来いよ。
何度でもやってやる。
お前なんて怖くねぇよ
――――――――――――――――――――――
「町長……準備が整いましたよ」
「んーん、ありがとう!」
町長宅で、ニッカリと笑いながら報告を受けるハイテンション町長は手を叩いて大袈裟に広げた。
「いや〜、ようやく下準備が整ったね」
上機嫌な彼の周りに座るのは、三人の化け物クラス。
『副市長』の異名を持つ町長の戦力だ。
「亡霊デュラハン……プレジール ヴィイ、結構な実力者のようですね」
秘書のような格好をしたブロンドの女が資料を見ながら呟く。
「プレジール ヴィイね。暗殺業界だと有名だな。『殺人鬼』ってな」
赤毛の荒々しい男が、獣のような笑みを浮かべる。
「いや、結局狙われてる少女たちってどーなってんだ? 町長の妄想とかじゃねえーよな?」
特徴のない茶髪の男が困ったように口を開く。
「アーハー、酷くない!? 居るよ。狙われてる子供いるから!」
「いや、アンタそう言うけど俺たち見たことねーからな!」
「町長のこと信頼してるけど、こうも頑なに会わせてくれねぇんじゃなぁ……」
町長は仕方ないなあとばかりに椅子から立ち上がると、扉に向かって歩き始める。
「どこ行くんです?」
町長はニッと笑って振り返ると、大袈裟な仕草で手を広げた。
「アーハー、件の少女たちに会いに行こうかな〜!」
「それはまた……急だな」
「急じゃないさぁ……亡霊デュラハン。彼と決着をつけるとなると、彼女たちの身柄を確保しておきたい」
「確かに、危険があるとしたらその少女たちでしょうね」
「んーん、気掛かりがあるとすればぁ〜?」
町長は肩を落として、疲れたような顔をした。
「彼女たちが大人しく保護されてくれるかだねー!」