軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ぐ〜るぐる

「絶対にテメーを!! 殺してやるからなぁ!!」

路地裏で仰向けに倒れるパーカー兄貴は、雪の舞い散る夜空に向けてそう叫んだ。

絶対に……絶対に殺してやる。

持っていないザコの癖に卑怯な手で俺をハメやがって……。

最後に負け犬野郎が、俺をみて浮かべた表情を思い出す。ギリギリと奥歯を噛みしめながら舌打ちを吐き出す。

「トドメを刺す根性すらねぇクセに!!」

俺は違う。あんな根性なしの負け犬野郎とは違う。

俺は迷わない。絶対に負け犬野郎を地獄の果てまで追いかけて殺してやる。

「……で……お前らは何やってんだ?」

さっきから気づいてはいたが、あえて無視していた存在に声をかける。

倒れる自分の胴体をゴソゴソ探っている二人の小さな幼女。

「……おい……聞いてんのか?」

二人の幼女はどうやら、自分のパーカーに手を突っ込んで漁っているらしい。

「チッ……財布でも盗もうってか……薄汚え負け犬野郎の連れに相応しいな……散れ!!」

体が動かないので強めの口調で追い払おうとする。

二人の幼女は、その言葉にポケットを漁っていた手を止めて距離をとった。

「はっ……今日は見逃してやる。だがテメーらも負け犬野郎と同罪だ。楽しみだぜ、テメーらの死体を負け犬野郎の目の前に並べてやったらどんな表情すんのかよお……」

そうだ。負け犬野郎が面倒をみているこのガキどもを串刺しにしてヤツの前に晒してやる。

それまでは見逃してやる。

しかし――

「「はい ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

「……………………あ“?」

二人の幼女は逃げるどころか、自分の周りを踊り始めた。

「……お前ら何やって…………」

「「ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

手をグルグル回しながら、奇妙で滑稽な動きをしながら自分の周りを馬鹿にするように回る。

「……ガキども、もしかして俺を馬鹿にしてんのか?」

怒りが湧きあがる……。

このガキどもは動けないことをいいことに……滑稽な動きで馬鹿にしにきたのだろう。

「ガキどもがッ!! テメーらも絶対に殺してやるからなっ!! 俺はあの負け犬野郎とは違う!! 殺すと言ったら本当に殺すからなあ!!」

滑稽な踊りで衛星のように回転していた幼女たちは、不思議そうな顔で見合わせると首を捻った。

「不思議だね?」

「……ふしきだね?」

さも本当に不思議だとばかりに、無垢そうな顔で呟く。その顔が腹が立つ。

もうこのガキどもの本性が、悪辣で性格の悪いクソガキなのは分かっている。

にも関わらず、無垢そうな表情を浮かべるのが馬鹿にされているようで腹が立つ……。

「「ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

そして再び滑稽な踊りを再開する。

ブチリと青筋が切れた気がした。

「舐めてんじゃねえぞクソガキども!! 見逃して貰えると思うなよ!! 俺は殺すと言ったら本当に殺すからなあ!! 子供だから殺さねえとか甘い考えは捨てろよ!!」

体が動けば、今すぐにでもミンチにしてやるものを……しかし、幼女たちは気にした風もなく踊る。

「「ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

「不思議だね」

「……ふしぎだね」

「不思議だね」

「……ふしぎだね」

そしてグルグル手を回しながら踊っていた幼女たちが……ピタリと動きを止める……。

そして、首だけをグリンとこちらに向けてきた。

「……自分は殺されないと思ってんの……」

「…………ふしぎだね」

「殺害予告までしてるヤツの前で……」

「……無防備なのに」

「不思議だね?」

「……ふしきだね?」

「…………あ」

彼は……二人の幼女の瞳をみた瞬間、ゾッと背筋が凍りついた……。

「……ッ!!」

衝動的に這いつくばって逃げようとする。

「あ、足が!」

しかし、這いつくばって逃げようとした彼の足が何者かに引き摺られる。

「い、糸?」

何処か楽観視していた……。

子供が殺人を犯すはずない……と。

だが、彼女らの目を見て……分かってしまった……。

そもそも……コイツらは……俺を人間だとは思ってない……。

毒虫か何かだとしか思っていない……。

滑稽な動きで子供が無邪気に遊んでいるだけだ。

そう、子供が虫の足を遊びで千切るような行為だとしか思っていない。

「分かった! 見逃す! 信用してくれ!」

どうしようもなく、理解した……コイツらは全力で俺を『殺そう』としてる。

「そうッスねぇ……信用してますよ。アンタは間違いなく私たちを殺そうとするんだよね。信用してるよ」

「……有言実行……オマエの言う『殺す』は嘘じゃない」

その間にも足に絡みついた糸は、パーカー兄貴を引きずって移動させる。

「な、なぁ許してくれよ嬢ちゃんたち。ちょっとした冗談じゃねえか。ほら、お前らの保護者のオリバーさんも別にトドメを刺さなかったろ?」

この場さえ切り抜ければいい……腹が立ってもこの場さえ乗り切れば、幾らでも復讐はできる。

「ん〜、パーカー兄貴さぁ……あんた、負け犬ニーサンが根性なくて殺すことが出来ないとか思ってる?」

「……ちがうよ。負け犬は殺せる」

「そう、負け犬ニーサンは根性ナシの気弱なヤツだけどさぁ……殺さなきゃ殺されるって場合なら手を震わせながらも槍を振り下ろせるんだ。自分が一番大事だからね……つまりさ」

長髪の少女は、顔を近づけると……舌をだしながら凶悪な笑みを浮かべた。

「あんた……負け犬ニーサンに言われたんだよ。テメーが生きてても支障なんてねぇよ『ザコ』ってなアヒャヒャヒャ!!」

「ッ! ふざけんな負け犬野郎があ!! 殺す!! ぜってえ殺す!!」

「……安心するがいい」

「私たちはパーカー兄貴のことをザコなんて思ってないよ……だから――」

「……しね」

「「ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

そして踊りとともに再び引き摺られるパーカー兄貴。

「ッ……な、なぁ見逃してくれよ。本当だ。お前たちには手を出さない」

少なくなった魔力を体に纏わせる。

そうすればガキの腕力なら、どうと言うことはない。

パーカー兄貴は、怒りを押し込めてクレバーに考えを巡らせる。

足に巻き付いた糸……これはさっきと同じならクロックシティーの歯車に巻き取らせているのだろう。

なるほど、歯車に巻き込ませて殺そうというのか……。

馬鹿が……クロックシティーの歯車に人間が巻き込まれることはない。

人を感知すると停止するし……無理矢理巻き込まれようとしても、無事に排出されるようになっている。

「な、なあ。謝るからさあ」

このガキ共はそれを知らないんだ。

だったら絶望を見せてやる。精々いい気分でいろ……。

頼みの綱の歯車で殺せないと知った時の表情が楽しみだ。

「「ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

やがて、路地裏を抜け、視界が広がる。路地裏から引きづり出されるようにズリズリと出たパーカー兄貴は……その先を見て……表情が凍った。

「あ……う、み?」

確かにパーカー兄貴を引き摺っていた糸は歯車に繋がっていた……ただしそれは、防波堤の先の灯台に設置された歯車だ。

つまり――

「ふざけんなクソガキども!! 止めやがれ!! 今すぐ止めろ!!」

斜めに突き出した防波堤……その先の歯車に巻き取られると言うことは、間に海があることになる。

ようやくコイツらの本当の目的が分かった……俺を海に突き落とそうとしているんだ。

「「ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる」」

止めろという怒号を無視して、幼女たちはグルグルと周りを踊り続ける。

そしてついに……コンクリートで作られた海の境目の堤防までたどり着いた。

冗談ではない……まともに動かない状態で海に叩き込まれたら溺れてしまう。

「止めろ!! 止めろォォォオオオオ!!」

長髪の幼女がニッコリと笑う。

「いいよ。止めてあげる……」

「……あ」

その言葉と同時にパーカー兄貴は堤防から落下し……二メートルほど下の海面に叩きつけられた。

「ガボッガボボボ!!」

本当にやりやがったあのクソガキども……なんとか海面に顔を出さなければ……。

海中でそんな事を考えていたが……沈む。

勢いよく海底に引き摺り込まれる……。

それはパーカーのポケットだ。

分かった……あのガキどもは財布を盗むためにポケットを漁っていたワケではない。

逆だ……ポケットに詰め込んでいたんだ。

よく沈むように『石』を……。

いやだ……死ぬのが怖いんじゃない。

ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる ぐ〜るぐる

こんな……子供の遊びの延長で殺されるなんて……あってはならない。

なぜなら俺は選ばれし存在で、持ってる英雄だ。

こんな、こんな誰にも気づかれなくて、人知れず消え去るなんてあっていい事じゃない!

「ガボッ ブクブク……」

空気が逃げていかないように、口を閉じる。

まだだ……歯車に巻き込まれているなら、このまま待っていれば地上まで巻き取られるはずだ。

一時間か? 二時間か?

我慢してやる!

そして、海底まで沈んだパーカー兄貴は……絶望することとなる。

長髪の少女の言葉が思い出される。

『止めてあげる……』

海に落ちた時点で、足に絡んだ糸の巻き取りは止めてあった……。

つまり……いくら待っても……海面まで引き上げられることはない。

ふざけるな!! 俺が!! 俺がこんなところで!!

あってはならない!!

なぜなら俺は選ばれし英雄だ!

そうだ英雄だ!!

あんな負け犬野郎とは違う!!

負け犬野郎がどんな小細工をしようが、卑怯な手を使おうが支障もない!! それが英雄なんだ!!

『あんた……負け犬ニーサンに言われたんだよ。テメーが生きてても支障なんてねぇよ『ザコ』ってなアヒャヒャヒャ!!』

少女の声が聞こえた気がした。

あ……違う……のか?

俺は……英雄で……

なら……なんで……俺は……

負け犬野郎なんかに……

『支障もないザコ』だと……思われて……

俺は……

ゴポリと……口から空気が漏れる。

生き抜くために蓄えていた空気が、口から上に向かって球体となる。

遥か遠い海面に向かって登っていく気泡を、呆然と眺める……。

俺は……英雄じゃ……なかったのか……