作品タイトル不明
ストリーマー型町長は人気取りに必死
いつだったか豚貴族がこう言ってたんだよ。
『街を運営するのにワシがいちいち首を突っ込んでいたら仕事など終わるか。街の運営はワシの仕事ではない』
豚貴族は領主であり、町長とは別物かもしれないけど、この世界におけるお偉いさんの仕事って、街の運営に細かく関わる役職じゃないのかもしれないね。
オッケーそれは分かったよ。
じゃあさ? 領主や町長の仕事って、いったい何なのってならない?
まぁ、少なくとも…………
『【アーハー! 住民のみんな〜、今回は牧場の職場体験に来たよ〜!】』
「 配信者(ストリーマー) は違うやろ……」
モニターの中の町長は、似合わないオーバーオールを身につけて牧場の人と一緒に牧草を運んでいた……。
は〜い、どーも私です。
どうやらハイテンション町長は町長である同時に『貴族』らしいです。
んで、コイツなら豚貴族の情報を得られるんじゃないかって話なんだよね。
ほいでハイテンション町長は、連続殺人犯『亡霊デュラハン』の情報が欲しいということで、私たちとは一応の利害が一致してるワケだ。
「んで……おめでたい事に、連続殺人犯様は顔を見たかもしれない私たちを殺しに来るかもしれない……と」
いや、迷惑ッ!
でもあの路地裏で私達の後ろにいた殺人犯ねぇ……殺しにくるか? って言われたら、それはそれで来そうな気がするんだよねぇ……。
幼女ちゃんの言葉を借りれば、凄まじい憎悪と殺気を向けてきたらしいからね。
確かに私も、重力が重くなったような重圧は感じたよ。
まぁ、ハイテンション町長の言う通り、私達が狙われる可能性は高いのかもね。
で、そう言う事なら、さっそく情報交換しようぜってなったんだけど、『んーん、路地裏のゴミ箱の前でする話じゃなくないか〜い?』とか言い出したので、ハイテンション町長の車で移動中。
町長が運転する車の後部座席に座り込んだんだけど、その中でモニターから映像が流れ始めたんだよね。
その内容が町長の牧場職場体験映像なワケだ……。
「暇つぶしにどうぞってこと? それが自分の映像とかイカれてんのかあのオッサン……」
『【アーハー、すっごい牧草か転がってく! 止まって止まって〜】』
クソ……普通に面白いのが腹立つな。
チラリと車の外を見てみれば、街のビルにある屋外ビジョンにデカデカとハイテンション町長の顔が……。
「車の中も外もクソうるせぇ顔が並んでるってヤダわぁ……」
なんとも自己顕示欲の強い町長様だね。
と言っても、どうやらこのストリーマー町長……ただ目立ちたいだけの、独りよがり野郎ってワケじゃないみたいなんだよね……。
なんせこの車に向かう途中、ちょっと開けた場所を歩いたんだけど、その時に街を歩く住人に囲まれて大変だったんだわ。
わりとマジで有名人……というかスター扱いらしいですわ、このオッサン。
しかも対応に慣れてて、サービスのいい芸能人みたいな親しみやすさを出してたし。
どうやらあの後、警察の到着を待った町長は、約束通り『私たちにあっていない』というスタンスを貫き通してくれたみたいでね、警察には私達の存在を話さなかったみたいなんだ。
というより、話振りからすると、町長が警察に直接指示を出していたまであるようだ。
もともと町長が『亡霊デュラハン』を追っている事は有名……というよりは町長が主体となって警察を動かしているっぽい。
そらネタを持っているであろう私たちを逃したくないワケだ。
――――――――――――――――――――――
「意外と質素な所に住んでるんスね。町長様」
連れてこられたのは、閑静な住宅街の庭付き屋敷。
確かに豪華な屋敷ではあるのだけれども、豚貴族なんかを見てると貴族のくせに小ぢんまりとした雰囲気だ。
「アーハー、ここは急遽借りた仮の住まい、だ か ら ねっ!」
紅茶を片手にビシッとポーズを取るハイテンション町長。……いい加減、会話すんのが疲れる動きすんのやめてくんね?
「ほぉん……なるほど、普段は別の場所に住んでいるわけッスね」
「そ〜うだよ! セッテ区域の港側で亡霊デュラハンの噂があったからねっ! 本拠地はセントロ区域って所にあるんだ〜。時計塔のある区域だね」
ふ〜ん、街の中央にある時計塔の区域か……、よく分からんけど、貴族とかが住む区域だったりすんのかね?
んで、このハイテンション町長は亡霊デュラハンを追って、セッテ区域の港側までやってきたと。
「随分と腰の軽い貴族様ですね」
「ん〜ん、撮影でいろんな所行くからね〜。ゾロゾロ引き連れてたら面倒だろ? この屋敷で雇ってるお手伝いさんも臨時のバイトだしね〜」
頻繁に移動するならそうだね。フットワークの軽いことで……。
確かに、ここに来るまでの移動ですら自分で運転する車を使用していたしね。個人行動が多いんだろう。
豚貴族とは貴族としての在り方が違うのかもしれない。たぶん、貴族としては珍しいタイプなんだろうよ。
貴族って言ったら、護衛をゾロゾロ引き連れて行動するイメージあるからね。
ま、豚貴族は敵が多そうだからな。
軍人執事に付けられているだけなのかもしれないけど。
はたしてそれが、豚貴族と違って敵が少ないから護衛を付ける必要がないのか、それとも自分の腕に自信があるからなのか知らんけどね。
豚貴族も戦えるタイプのゴミだし。
あっちは、自分で戦うのは貴族の役目ではないとか思ってそう。
「さ〜て、そろそろお話の方をいいかな〜?」
出されたお茶を飲んで、お菓子を幼女ちゃんのポケットに詰め込む作業に、ひと段落ついたところで、町長が腕を組んでニッコリと笑った。
「ンフ〜、キミたちが、あの路地裏で見たものを教えてくれないか〜い?」
あくまで軽い口調だが、笑ったその瞳の奥からは真剣な様子が窺えた。
このオッサン……人気取りとか言ってたけど、ホントにそれだけなのかねぇ?
「……おとこ」
「ん〜ん?」
ポケットをお菓子でパンパンに膨らませた幼女ちゃんが、入りきらなかったお菓子を私のポケットに押し込みながら呟く。
「……亡霊デュラハンはたぶん、男」
「なんでそう思うんだい? 顔は見てないんだろ〜?」
「あぁ、確かに男ッスね。町長様がやってくる足音を聞いて逃げたみたいッスけど、その時に舌打ちが聞こえたんすよね」
「ふむ〜、それが男の声だったと……他に何か気づいた事はあるかい?」
「……」
「……」
顎髭に手を当てて考え込んでいた町長が先を促す。
でもダ〜メ……。
「次は私達の番ッスね」
「アーハー、そうだね! 情報交換だもんね〜。ごめんごめん、順番だよね〜」
「貴族を探してるんですよね」
「ん〜ん? 名前は? どちらの貴族だい? 僕はこう見えても顔が広いから力になれるよ〜」
そら頼もしい。
「名前は知らないッスね!」
「いきなり難易度高いね〜! この国に貴族がどれくらいいると思ってるんだい?」
知らんけど、興味もないね。
「まぁ、特徴的なお貴族様なんで、そこんとこ頑張って……こう……ね?」
「ん〜ん、その特徴とやらを聞いてみよう!」
「まず、デブで体がデカいオッサンです!」
「お、いいよ〜、恰幅のいい貴族は思っクソ多いけどね〜」
「んで、領主やってます」
「……」
ん? ハイテンション町長の顔が固まった。
もしかして該当ありですか?
「もしかして……このクロックシティーの貴族じゃないのかな〜?」
あ、違うね……。
こいつの知り合いってクロックシティーに偏ってたりしてそうだもんな。
「ちゃいますね。続きいきますよ……最近、不正を犯して王都を追われた豚貴族で、口癖は『ガハハ、ワシは悪い事はなんでもやるぞ!』とか『ぐふふ、これでまた悪巧みができるわい』とか言ってますね!」
「僕の周りに居ないタイプッ! え? 本気で言ってる?」
「どうですかね? 知ってたりしませんかね?」
ハイテンション町長は、頭を抱えて天井を仰ぐ。その仕草すらオーバーで演技臭いが、冷や汗を見る限り演技というワケではなさそう。
思ったよりエグ目の貴族に気後れしているらしい。
「そ、そうか〜い。なるほどなるほど、ちなみにどんな関係で?」
「まぁちょっと?」
「ん〜ん……明らかに関わりたくない貴族だね〜」
ため息のような深い深呼吸をしたハイテンション町長は、少しローテンションになりながらも、顎髭を撫でながら考え込む。
「少し……調べる時間が欲しいかな〜? キミたちの話が本当なら、情報が隠されてるタイプの貴族だろ?」
知らんがな。あ、でも豚貴族のことだからありそうよね。
「一概に貴族と言っても、数は多いし繋がりもあるワケじゃないからね〜。調べてみるよ」
「どのくらい掛かりそうですかね?」
「ん〜ん、なんとも……とりあえず五日後に調べた事を話すよ」
ま、この辺かね? じゃあ五日後にまた報告聞きますわ。
「……亡霊デュラハンの身長は……高い」
最後に幼女ちゃんの追加情報を添える。どうやら舌打ちの方向から判断したらしい。
「高い? どのくらいか分かるかい?」
「…………町長より高い……かも」
腕を組んで幼女ちゃんは、町長の頭を見てそう答える。
「ンフ〜、なるほど、それは相当高い……ね!」
町長も、自分の身長を確認するが如く上を向いてそう答えた。確かにそれは高い。
だって町長も結構な長身だからね。
「……あと、間違いなく……つよい」
「ん〜ん、そうだろうね〜。今まで誰にも見られずに人間の首を一太刀だからね〜。白髪ちゃんはどうしてそう思ったんだい?」
「…………なんとなく」
ふむ、幼女ちゃんの『何となく』は、『何となく』じゃないからね。自分の能力を隠しただけだ。
魔力の流れが見えるってのはどんな感覚が知らないけど、キモノお嬢の異常性を感じ取っていたし。
「なるほどね〜。ありがとう。有用な情報だったよ〜」
そう言ってハイテンション町長はアッハッハと軽快に笑う。
そして応接室のようなこの部屋を出て行こうとする。
ん? おいおい、用が無くなったから客人は放ったらかしですか? せめて玄関まで見送りして下さいよ。
とか思ってたら……。
『カチャン……』
町長が出て行った扉が、ロック音を高らかに鳴らす。
「は?」
「……やられた」
その後に、ドアノブから歯車型の魔法陣が浮かび上がる。あ……これ知ってるぞ。
魔術施錠だ……。
「ちょいちょいちょいッ! 何してくれますの! 開けろや汚職町長!」
閉められた扉をトンドコ叩くと、扉の一部がシャコンとスライドして、ガラス越しに町長がビックリしたような顔を見せた。
「ちょっ、汚職してないよ〜!! 人聞きの悪い事言わないでッ! 僕のイメージに傷が付いたらどうするのさ」
「幼女監禁しといて、イメージも何もないでしょうがっ!」
「そうだね〜。ソレも含めて君たちを出すワケには行かないね〜。正直、君たちを野放しにしたら人気に差し障りそうだし!」
そして、ハイテンション町長はイタズラが成功したかのように、ニッカリと歯を剥き出して笑う。
「アーハー、ごめん ね! キミたちのためなんだ〜。亡霊デュラハンはきっとキミたちの命を狙ってくる。だから、君たちは保護させてもらうよ〜」
「いいや、言い訳だね!」
「……わたしたちは亡霊デュラハンに対するエサ」
「アーハー! そうだよ〜! せっかく見つけた亡霊デュラハンの手掛かり。僕が逃すわけないじゃないか〜。亡霊デュラハンは僕の獲物だよ〜。だって僕ッ! 町長だもの!」
こ、こいつ開き直りおったぞ……。
この世界で会った貴族って、全員ロクでもないゴミクズしかいねぇんだけど!
「ん〜ん、安心して欲しいな〜。君たちに不便はさせないさ〜」
もしかして『貴族』って犯罪者の別称だったりする?
――――――――――――――――――――――
「ん〜ん、子供らしからぬ警戒心と頭の回転だね〜」
ハイテンション町長は、自室のソファーに座りながらワインを傾け、楽しげに呟く。
そのソファーの向かい側には金髪の少女……彼の娘が座っており、その膝には彼女と同じく金髪の人形が乗せられていた。
町長は一通り口の中でワインを楽しんだ後、パイプ端末からモニターを浮かべる。
「『バイラールファミリー』が血眼で追いかけている『賞金首』……シロとノラ……んっふっふ」
そのモニターには、白髪の幼女の姿が映し出されていた。
「そして、『教会』に喧嘩を売り、敵として認知された命知らずの少女……たぶん同一だろうね〜。まさかオクトー区域の二大勢力を引っ掻き回した存在が、あんな小さな子たちだとはね〜。とんでもない子たちだ……さらに」
そして、町長は別のモニターを浮かべる。
「巨悪『ガバス アヤブドール』の孫娘……『テレサ アヤブドール』」
そのモニターには豚貴族と、白髪幼女の顔が映っていた。
「……悪い噂の絶えない最上位貴族にして、巨大な権力を持つ……というのがガバス アヤブドールの表の顔」
コトリとワイングラスをテーブルに置く。
「表の顔ですらコレなのに、裏の顔はもっとヤバい……王都の犯罪を辿れば全てガバス アヤブドールに行き着くとまで言われた巨悪……」
町長はクツクツと怪しげに笑う。
「んっふっふ、とんでもない大物が出てきたもんだね〜」
そして絶えきれなくなったように大声で笑い始めた。
「アーハー! アッハッハ!!」
楽しげに笑うハイテンション町長。
しかし、その顔にはとてつもない冷や汗と脂汗が滲んでいた……。
「マズいよね〜!! 非常にマズいよね〜!! とんでもない子供抱え込んじゃったんだけど〜!! え? ホントどうしようね〜コレ!! あの子たち隠し切れるかな〜!!」
常に住民からの評判を考え、クロックシティーにおいて絶大な人気を得る彼にとって……。
「領主と比べたら、一介の町長とか吹けば飛ぶんですけど〜!!」
幼女たちの存在は、非常に不都合の塊だったりする……。
――――――――――――――――――――
「居ないね〜〜!! 誰か嘘だと言ってくれないかな〜!?」
次の日、幼女たちの部屋を訪れた町長の……悲痛の声が屋敷に響き渡った……。