作品タイトル不明
ハイテンション町長
どーも、路地裏で首のない死体を発見した私です。
第一発見者となってアワアワしていたのも束の間、まるで家族写真がごとく真後ろに殺人犯が立っていた模様……。ははっ記念にピースでもしちゃう?
いや、場合か?
なにがピースだよ。そのまま首をチョキンとされて、首無し死体の仲間入りだよ。
犯人を見たかもしれない幼女二人を見逃すワケがない……。一人殺るも三人殺るも、殺人犯からしたらついでだもんねぇ!
間違いなく後ろの殺人犯は『首無し死体』のお代わりを要求してたはずだ。
一人で我慢しとけや……。
「アーハー? やっぱり間違いないみたいだね〜」
まぁなんにせよ、問題は首無し死体を検視している目の前のハイテンションオッサンだよ。
町長っつーことはだよ? この広大なクロックシティーのトップってことだ。う〜ん、正直関わりたくねぇ……。
だってさぁ、オクトー区域ですら『キモノお嬢』と『祈りの巫女』っていうイカれた住人を抱え込んでるワケだよ。
そんな街の町長がマトモなワケないよねぇ……。
つか下手に会話とかしちゃったら、疲れそうな気しかしないよ。
「何処へ行くのかな〜!!」
「おわっ!」
「……ぴぃ!」
う……お……。
幼女ちゃんと目配せして路地裏から逃げ出そうとした私と幼女ちゃんの両肩に手が乗せられる。
ビビった……マジかこのオッサン。
お前さっきまで死体見とったやろ……。私たちは視線を逸らさずに距離を取ってたんだぞ。
なんで後ろから現れんねん……。
確定です! アッチ(化け物クラス) 側の人間だぁ!
「んん〜? 緊張してる? まぁまぁまぁまぁ! 落ち着いてえ!」
うるせぇな……耳元で大声上げんなよ。
私たちの後ろでしゃがみながら、楽しそうに私と幼女ちゃんを交互に眺める町長。
「アーハー、ちょ〜っとだけ、この町長さんにお話聞かせて貰えないかなあ〜?」
「どーもどーも町長様。ご機嫌麗しゅう。お話もなにも私たちは見ての通りの一般通過幼女でごぜぇます。邪魔をしたくないのでお帰りさせて頂きますねぇ」
「ん〜?」
「……」
私と幼女の間から、ニュウンと顔を出して目を合わせてくるハイテンション町長……。
楽しそうというよりは、興味深いモノを見たという感じで、目を見て私の内心を探ろうとしているように思える。
例に漏れずコイツもなんか怖いんですけど……。
「あっはっはー! 大丈夫大丈夫! 分かってるからね〜。君達は犯人じゃないさ〜」
「むしろ殺人犯に間違われる選択肢ってありますかね?」
「ないね〜!」
あたりめぇだろボケ。疑われる心配なんてしてねぇわ。
どんな頭してたら、こんな子供が首刈り殺人鬼なんて発想浮かぶんだよ。
「ンーフー、僕が心配してるのはそんなことじゃないさ〜。でもそうだね〜こう言うの子供に伝えるのは良くないんだけど、仕方ないよね」
そう言って町長は、私と幼女ちゃんの間を通り抜けて芝居がかった態度で指を立てる。
妙に演技臭いけど、それが様になるタイプだね。
「君たちが見たのは、通称『亡霊デュラハン』と呼ばれる連続殺人犯さ〜。人気のないところで首だけを刈る殺人鬼、そして僕の追っている獲物……未だ手掛かりすら微塵も掴めない」
そしてクルリと振り返ると、しゃがんで私たちの両肩に手を乗せる。
「でも今回初めて、証拠を残した……キミたちだよ」
なるほどなるほど……つまりお前はようやく見つけた亡霊デュラハンとやらの手掛かりに喜んでるってことね。でも残念だったね。
「カマかけやめて貰えません? 私たちは一言も『犯人を見た』なんて言ってないッスよね……」
「ん〜? アーハー、そうだったかな〜!」
くそ、コイツやり辛いな……。
「見てないのかい? 何か気になるコトとか? 本当に見てないのかなぁ〜?」
「全く見てないッスね。帰ってもいいですか?」
ハイテンション町長は、私の目を見ながら無言でニッコリと笑う。
いや、スマンね……本当に犯人の顔見てないから。
つっても、それを証明する手段なんてないんだけどね。
というか……そろそろ本気で逃げないとヤバい……。
コイツが呼んだ警察が到着しちゃう。
いや、警察が来るくらい平気だと思う?
ダメダメ、それは私達にとって非常にマズい……。
理由は二つほど……、
まず警察という公的機関が信用できるのか分からない。なんせ私たちを追っているのは、警察を裏で操れそうなヤツらばかりだからだ。
ハリウッドメガネ率いる貴族。これはヤツの縄張りから遠ざかったから薄いと思うんだけど、捕まった時点で情報が行く可能性がある。
そしてキモノお嬢ことマフィア。これが一番ヤバそう。言うて同じ街の話だし、警察の情報が筒抜けだったらマフィアに居場所がバレる。
アイツらがどのくらいの権力を握ってるのか知らないけど、公的機関に保護されるってのは、今の私たちにとっては逃げ場を無くす可能性があるんだよ。
そして二つ目の理由、というかコレが大本命……。
このハイテンション町長……『祈りの巫女』と知り合いなんだよね……。
いや、マズイっしょ!
私たちアイツからも逃げてるっての!
そんなヤバいお友達のいる町長さんと、これ以上関わりたくない!
「んーん、見てごらんあの死体を! 雪が積もってないだろう! つまり出来立てほやほやの被害者なワケだね〜! ……ホントに見てなあい?」
「ホントホント」
「……みてないみてない」
子供に向かって『見てごらんあの死体を!』じゃねぇよ……。見たくねぇわ。
つかやっぱり、コイツただハイテンションで芝居がかっただけの町長じゃないね。
目的のためなら、子供に死体を見せるのを躊躇わないくらいの強かさを感じる……。
「それじゃコレで……」
「待ちなさ〜い!」
去り行こうとする私たちの行く手を塞ぐように、スライディング町長。こいつアグレッシブ過ぎる……。
逃す気ないってか?
幼女ちゃんに視線をやれば、彼女は塞がれた逃げ道とは反対の通路を見ている。
そっちには、町長の娘であろう女の子が人形を抱きながら立っていた。あれ、ラリアードールかな?
ん〜? 娘さんよぉ……。
キミも死体の前なのに平然としてるね。もしかして、キミも普通じゃなかったりする?
「ん〜ん! 君たちちょっと警戒心強すぎないかな〜! 変な駆け引きしようとしてゴメンよ! ちょっと話を聞きたいだけなん……」
「 水滅玉(すいめつだま) !!」
はい、もう時間切れです。
私は 水滅玉(すいめつだま) で霧の煙幕を発生させ、路地裏の視界をゼロにする。
そして、壁を駆け上がり声を掛ける。
「町長様ぁ? 聞こえてますぅ? 証明は出来ないッスけど、本当に何も見てないんすよ……」
水蒸気の霧が吹き飛ばされ、その中心では手を振り上げている町長の姿が現れる。
よし、幼女ちゃんは路地裏から抜け出したようだね。
「ンーフー! 悪かったよ〜! キミを子供だと侮って手玉に取ろうとしたことは謝る! やっと見つけた手掛かりなんだ、だから!」
「……さいなぁら」
私は路地裏に降りようとはせず、そのまま壁を走って、段差を利用し屋上まで駆け上がる。
さて、幼女ちゃんは逃げ切ったね。
ま、放っておいても歯車灯台のスキマに戻ってくるでしょ!
――――――――――――――――――――――
「アーハー、逃げられちゃった。子供だと侮って言葉間違えちゃったな〜。少し考えなきゃ」
首のない死体の転がる路地裏で、緑の軍服のような服を着た長身の男が、ヒゲを撫でながら気にした風でもなく呟く。
「お父様、追わないの?」
それに話しかけるのは彼の娘である女の子。
金髪の彼女の手には、同じ金髪の人形が抱かれている。
「んーん、警察はもう呼んじゃったからね〜。いまここから離れるわけにも行かないでしょ?」
「…………」
「ちょっと警戒心強過ぎるよね〜あの子たち! 何かから逃げてるのかな〜……」
――――――――――――――――――――――
「いや、昨日は参ったね」
「……うん。町長って言ってた」
はは、この街の町長ね。
お偉いさんだぁ……。
私と幼女ちゃんは、街中を歩きながら昨日の出来事を話していた。
「しっかし、うるさいオッサンだったねぇ」
「……うん、でももしかしたら」
幼女ちゃんはどうやら昨日のオッサンが気になっている模様。
「どしたん? 知り合いだったりしないよね?」
「……違う、そうじゃなくて」
そう言いながら、街の角を曲がった時だった……。
「ショーターイム!!」
町長が現れた!
……嘘やろ。
なんでココにおんねん。
昨日の殺人現場とは別の場所にいるのに。
「昨日はゴメンね〜! よし分かった。町長頑張って君たちを保護するぞー! っていないね〜!」
――――――――――――――――――――――
「ショータイーム!」
「ショー! ターイム!」
「ショータイム!!」
「ショー……」
い い 加 減 に しろよ!
行く先々で町長が現れるんですけど!
なんなのアイツ! ホラーゲームのボスエネミーかよ!
今は何処にでも現れる町長から逃げて、ゴミ箱の中に潜伏中。
おかしい……明らかにおかしい……。
なんで私たちの居場所がバレるんだ?
「幼女ちゃん……どう思う? って何やってんの?」
幼女ちゃんはゴミ箱の中で、自分の上着を脱いでジロジロ見ていた。
「……少し黙って」
あ、はい。
目を赤くしながら、自分の上着をジロジロ見てるけど、なんか気になるもんでもあるのかな?
「……あった」
そう言って数分後、幼女ちゃんは上着の肩部分を埃でも払うように叩く。
「え、なに?」
「……たぶん……追跡されてた。一応解いたけど」
もしかして、発信機みたいなもんでも付いてたりした?
あー、肩に触れられたとき何かされてたのか……。簡単に逃すと思ったらそういうことね。
やっぱ油断できねぇわアイツ……。
「じゃあコレで安心なん?」
「……わからない。あるかどうか分からないものを見つけるのは……難しい」
そう言うもんなのね。
しかし……参ったね。
完全に目ぇ付けられた……。
いや、町長自体がヤバいヤツなのかどうかは知らないよ。ハイテンションでウゼェけど直接的に何かをされたワケじゃない。
でもお前の交友関係がマズい。
「そろそろいいかな?」
ゴミ箱の木の板を頭で押し上げて外を窺う。
「アーハー……」
閉めた。
こぇ〜んだよ!
思いっきりゴミ箱の前で町長と娘がスタンバってたわ!
「……どうしたの?」
「いたわ……外に」
コソコソ話してたら、ギィイイとゴミ箱の蓋が開く。
「ご、ご機嫌麗しゅう町長様」
「ンーフー、麗しゅう」
何気ない仕草で『よっこいしょ』とゴミ箱から這い出そうとしたら、脇を持たれて持ち上げられる。
「ど、どうも……」
「どういたしまして〜!」
幼女ちゃんを見てみれば、娘のほうにガッチリと手を掴まれて、右手に人形、左手に幼女ちゃんみたいになってる。
絶対に逃さないって雰囲気を感じるね。
「アーハー、捕まえた」
光滅玉(こうめつだま) で目眩しして逃げるか? 上手いコト手を離してくれたらいいんだけど。
「おっと、逃げる前に一言……言わせてくれないかな〜?」
「……なんすかね?」
「僕は『キミたちと出会ってない』」
「……」
そう言うと、ニッと笑いながら目を細める。
「これでいいかな?」
…………はい、正解ですね。
やっぱコイツ、馬鹿みたいな喋り方のクセに侮れんわ。
「ンーフー、やっぱりコレでいいのかあ〜。というか警戒心強過ぎない? 何から逃げてるのかな〜? ああ、答えなくていいよ」
そうだ。私達が恐れているのはコイツが祈りの巫女と知り合いなこと。だから私達はコイツと関わりたくない。
町長は私たちがしきりに逃げるのを見て、逃亡者だと判断したんだろう。
だから私達と『出会っていない』ことにしようと提案しているのだ。
私達が逃げないことを察して、町長は地面に私を下ろす。
「ん〜ん、まず状況から説明しようかな。キミたちが目撃したのは連続殺人鬼『亡霊デュラハン』。定期的に首のない死体を作り上げる異常者だよ」
言ってたね。
「今までは、目撃者どころかデュラハンの痕跡すら見つけられなかった。キミたち以外にはね」
「ん〜、本当に見てないッスけどね」
コレは本当、確かに後ろに殺人鬼の気配はあったけど、顔を見たワケじゃない。
「問題は、本当に見たかどうかじゃないんだ……亡霊デュラハンがそう思ってないかも、ということなんだね〜!」
「あれ、もしかして狙われます?」
「ん〜……もしかしたらってところだね〜。でも確率は高いんだよ〜。だって今まで目撃者の情報がなかったんだもの、そして死体は一体じゃない事もあった……コレって消されてない?」
なるほど……顔を見たかもしれない私達を、亡霊デュラハンが放っておかないかもしれない……と。
あり得るわ。
「分かりました。気をつけますね!」
「なんでここまで聞いて何処かいくのかな〜!」
礼をしてトコトコ立ち去ろうとしたら、胴体に町長が巻き付いてきた。えぇ〜い触んじゃねぇ!
「聞いてたよね! えぇ……なんでここで帰る選択肢出てきちゃうかな〜!」
焦ったように叫ぶ町長に、私は疑わしげな視線を向ける。
「いや、だったら遠くに逃げればいいだけッスよね?」
「そうだけど〜! いや、逃げられないかもしれないでしょ? 現に僕に見つかってるじゃない!」
そら、ごもっとも。
「う〜ん、町長様?」
「なにかな〜?」
「それで結局、町長様は私たちをどうしたいんで?」
「保護するんだよ〜! 危ないでしょ?」
私は更に疑わしげな視線を向ける。
よく見たら幼女ちゃんも向けていた。
「本音は?」
「ん〜、信頼は勝ち取れないか〜。分かった本当の事を言おう。せっかく掴んだ手掛かりと、囮になりそうな子供。手放したくないな〜!」
やっぱり自分のためだよね。私達のためなんて胡散臭い態度取ろうとするから警戒するんだよ。
でも、そっちの方が分かりやすくていい。
「そもそも、なんで町長様が殺人鬼を追ってるんです?」
もしかして私が知らないだけで町長の仕事ってそんな感じなんかね? ……ねぇわ。何だその業務。
「亡霊デュラハンを追う理由かい……そんなの決まっているさ」
そう言って町長は俯く。
もしかして、大事な人を殺されたとか?
「人気取りさ! 巷を騒がせ人々に不安を振り撒く犯罪者! それを捕まえるボク! 人気も鰻登りさ〜!」
「そうですか頑張ってくださいね」
付き合ってられるか。
なんで他人の人気取りのために囮にならなきゃいけねぇんだよ……。
「まって〜! 大事なんだよ〜人気取り! だって町長だもの!」
「幼女ちゃん行くよー」
幼女ちゃんに声をかけて立ち去ろうとするが、彼女は顎に手を当てて動かなかった。
「幼女ちゃん?」
どした? キミがそうしてる時って変な事言うからドキドキするんだよ。
そして、幼女ちゃんは町長に顔を向けると口を開いた。
「町長……お前……『貴族』?」
「ん? そうだよ〜」
貴族……貴族……
あ〜、そういうことねぇ。
コイツ貴族かぁ……。私達の目的って豚貴族の事を知ってるかもしれない貴族を探すことだったよね。
おあつらえ向きに、交渉できそうなカードもあるし。
仕方ねぇ……。
「お貴族町長様……情報交換しません?」