作品タイトル不明
なんか小ちゃいビル生やしたんだけど……何その能力?
「流石に夜間は空いてるねぇ」
「……ぬ」
夜間列車に乗ってゴットンゴットン……どーも私です。
ハイテンション町長の屋敷に閉じ込められた私たちは、速攻で抜け出して港にある灯台拠点に帰還中でございます。
ふはは、たかが鍵と魔術施錠ごときで私たちの脱出を止められるものか!
私たちを閉じ込めたいのなら檻に入れておく事だね!
あれ? 割と簡単に閉じ込められるな……。
いや、まぁ……檻だと私のスキマの能力じゃ超えられないってのがあるんだけど、『霧化の能力』で超えられるからねぇ。
そうなると幼女ちゃんが檻を抜けられないっていうね。ほれ、霧化の能力は一人用だから。
スキマをビッチリ塞いだ金庫のような場所だったら、私は抜け出せない。スキマと認識できないし霧化でも通り抜けられないからね。
だけどそんなにビッチリとスキマを塞いだような場所ってさぁ……金庫とかしかないからね。
大抵は魔術施錠のようなもんが施してあるワケで……そうなると逆に幼女ちゃんがいれば抜け出せちゃうって言うね……。
うむ、片方だけならともかく、普通に考えて私と幼女ちゃん二人を相手取って、抜け出せないようにするのって至難の業よね。
「……抜けだしてきてよかったの?」
列車に揺られる車内で、向かいに座った幼女ちゃんがお菓子を食べながら聞いてきた。
「まぁいいんでない? 五日後とか言ってたから、そん時また、お伺いしましょうかね」
「……たしかに」
ハイテンション町長は、豚貴族の情報を調べるのに五日ほど時間をくれといっていた。
これは一応は正式な取引だ。
私たちは連続殺人犯の情報を町長に渡す。
そして私たちは豚貴族の情報を渡す。
「取引に、私たちの『保護』は入ってなかったはずだよねぇ?」
先に相談もなく、勝手やらかしたのは町長のほうだよ。
「…………」
「なにかな?」
口をモゴモゴ動かしながら、車窓を向いていた幼女ちゃんが視線だけよこしてくる。
ん〜、言いたい事があるなら言ってみ?
少し考えるような顔をした後、首を捻って疑問気に口を開いた。
「……オバケ姉ちゃんなら五日間、町長の屋敷に寄生すると思ってた」
なるほど、確かにねぇ……。
「そうね。まぁ理由という理由はないんだけど……思い通りに行くと思われたのがシャクじゃん?」
結局はコレ……ただの子供と侮られて手玉に取りやすいと思われるのが厄介なんだよ。
普段ならどうとでもなるけど、今はそんな余裕もないからね。
「納得いかない?」
「……いや、なっとくした。オバケ姉ちゃんが言わないなら私が言ってた」
おぉそうか、同じ気持ちだったんだね!
「……油断しちゃいけない……周りは全部敵……世の中には敵と利用できるバカの二種類しかいない……オバケ姉ちゃんの言う通りだね」
「言ってねぇかな?」
あれ? 言ってねぇよな?
だいたい私、そんな世紀末な思想してないし!
「……気に食わないヤツの歪む顔は何よりのゴチソウ」
「それは言ったわ……」
――――――――――――――――――――――
歯車灯台のスキマ拠点に戻って就寝……そして次の日の朝になりました。
いやまぁ、別に戻ってくる必要もなかったんだけどね。どうせ五日後にはハイテンション町長宅に行くんだし。
でもまぁ、何となく戻って来ちゃったよ。
「……まじか」
そんなこんなで朝食を食べてたら、幼女ちゃんがスキマの外を見て呟いた。
どしたん? ハイテンション町長でもやって来た?
そう思って私も外を覗くと……堤防を歩いて私たちのいる灯台に歩いてくる二人の人影。
「いや、マジで町長じゃねぇか……」
町長とその娘だ……。
うわ〜……バレてんねコレ。
「……チッ」
こらこら、汚い舌打ちするんじゃないよ幼女ちゃん。
お母さんの前でするなよソレ。
おん? どうした買ったばかりの上着を持ち出して。
あ、私の上着も纏めて丸める……と。
そして外のスキマに向かって、ピッチャー振りかぶった。
「海に漂う二枚の上着……何すんのコイツ?」
プカプカ波に漂う防寒着。
「……上着に仕込まれてたかもしれない……だから捨てた」
な、なるほど……判断は間違ってないのかもしれないけど、思いっ切りがいいねキミ。
まぁいいや、ソレより町長だよ。
町長はいつもの緑色の軍服に、ライフジャケットのような上着を着て、防波堤に積もった雪を踏みしめながらやってくる。
なんか持ってんな?
歯車灯台の目の前まできた町長は、ゴトリと堤防に肩から下げていたクーラーボックスのような箱を置くと、クルリと振り返り娘に向かって両腕をあげてポーズを取る。
「ショーターイム!!」
娘の手には丸いカメラのようなものが浮かんでいた。
「市民のみんな〜! 今日は堤防に釣りにやって来たよ〜」
こ、こいつ! なんか配信始めたんだけど……。
釣り上げるの私たちとか言わんよな?
――――――――――――――――――――――
「んーん、じゃあこの堤防で釣れそうなものを言っていこうかな〜。ちゃんと調べてきたんだよ〜。なんっせ僕! 町長だからっ!」
灯台の前に椅子を置いて、釣竿を海に投げ入れる町長は、待っている時間も延々と喋り続ける。
「おっと掛かった。んーん、この引きはメブラかな〜? この時期のメブラは寒さで身が引き締まっていて脂も乗っている絶品なんだ〜」
そして釣り上げた魚を、娘の近くに浮くカメラに近づけて満面の笑みを浮かべる。
「アーハー! メブラじゃなかったね〜! でもコレはコレで美味しいんだよ〜! これは……何だろうね〜コレ! まぁ美味しいでしょ〜! お魚の詳細は概要欄に載せとくから!」
一通り釣りを楽しんだ町長は、堤防に積もった雪を掻き分け、その場で魚を焼き始めた。
「んーん、ぜっ品!! オーちゃんも食べなよ。今日は撮影班のオーちゃんも呼んじゃうね。嬉しいだろ〜? 正直、僕より人気があるからあんまり出したくないんだけどね〜! アーハー!」
あ、あの……私たちは何を見せられてるんだ?
明るくてハイテンションな町長とは対比するように、スキマの中の緊張感が高まる。
たぶん、どー考えても私たちがここにいる事はバレてるんだろうよ。
けど、私たちを無視していきなり撮影を始めるとか意味分かんないじゃん……。
「じゃあ今回はここまでかな〜! んーん、町長に清き一票をヨロシク〜!」
やがて釣り上げた魚を親子で平らげた町長は、荷物を纏めながら海に漂う二着の防寒着を眺める。
「アーハー……海にゴミを投げ捨てるのは感心しないな〜?」
ま、そう来るよね。
「いやぁ〜、さすがは町長様ですね! 有名人の町長様にこんな所で会えるなんて感激だなぁ〜」
灯台の裏側に作っておいたスキマから飛び出して、そう声を掛ける。
どうせバレてんなら、さいあく無理矢理スキマを破壊される危険性を犯すより、出て行った方が賢い。
「んーん、ご機嫌ようお子様たち! まずは聞いて良いかな?」
「なんですかねぇ?」
「どうやってあの部屋から抜け出したのかな〜?」
「あっはっは、優しい町長様が監禁なんてするワケないじゃないですかぁ……空いてましたよ?」
「ん、んー……」
「ま、さ、か! 町長様に限って、子供を監禁するなんてあるはずないもんねぇ〜!」
「近所迷惑になるから、声量は抑えてくれると嬉しいかな〜!」
「このへん倉庫ばっかりだから人なんていませんよ」
幼女ちゃんは足で雪を掻き分けながら、なんかやってる。
ん? キミ……その目……どうしたの。
目を赤く光らせてるってことは、何かやろうとしてんだろうけど、右目の白目部分だけが黒く染まってる。
ん……あ〜、何処かで見た事あると思ったら、悪霊に取り憑かれた負け犬に似てるんだな。
ま、いいや。時間稼ぎはいいかね?
幼女ちゃんは小さく……コクリと頷いた。
「ほんじゃあ有名人……五日後にまた会いに行きますね? 豚貴族の情報、期待してますよ」
「ッ! ちょっと待ってくれないかな〜」
レディセット……ゴー!
私はジェットブーツを起動して、海に身を投げる。
チラリと反対側を見てみれば、幼女ちゃんは逆側の海に身投げしていた。
「なっ、嘘だろ!」
町長の驚愕した顔が目に入る。
驚いたかね? ふふ、雪の降る海に身投げとか寒いだろうから予想外だっただろ。
私は落下する途中で、堤防の側面に足を付ける。
「あっはっは! 失礼しますわ!」
重力を無視して海に突き出した堤防の側面を、走り抜ける。
横を見てみれば、驚いた顔で海面を見下ろす町長と目があった。
そのまま、町長のいる部分を通り過ぎて堤防に上がると、反対側からは幼女ちゃんが海側から飛び乗ってきた。
あん? キミ……どうやって町長の横、通り抜けて来た?
そう思って、幼女ちゃんの後ろを見てみると、堤防からサイドに足場が伸びている。その足場は何処となくメタリックでキラキラしていた。
彼女はその、幅1メートルほどの急造の足場を走って、町長の横を通り抜けたんだろう。
え? 何その能力……。私、知らないんだけど。
キミそんな事できるの?
幼女ちゃんが手に持っていた天然コアを懐に仕舞うと、彼女の走って来た急造の足場が落ちて海に沈む。
ふ〜ん、チラッと見た限りだけど……あれもしかして、小さな細いビルかなぁ? キラキラ光ってたのは窓ガラスでコンクリートのビルを作り出した?
マジでなんだその能力……。
そして彼女の目の色が、いつもの白目と赤目に戻る。
ま、ええわ。
それより今の状況を何とかせにゃな。
久しぶりにジェットブーツ使ったんだけど、思わぬ弱点が発覚しちゃったんだよね……。
うん、堤防の上に戻って来たのは良いんだけどさ……雪が積もってるわけで、ジェットブーツが足を取られる!
「にゅおおおおおお!」
「ふぉおおおおおお!」
サクサクサクサクサクサクサクサク!!
仕方ないからジェットブーツを解除して、二人で堤防を走るよ……。それしかできねぇもん。
しかしサクサクサクサク煩せぇな!
走り辛れぇんだよ!
そして細い堤防から港まで走った私たちは、振り返って呆然としている町長に向き直る。
「ちゃんと調べておいてくださいね!」
「まった! 本当に危険なんだよ〜! 亡霊デュラハンは本当に危険なヤツなんだよ〜! このままじゃ」
町長は焦ったように手をこちらに向ける。
「う〜ん、結構ですわ。五日後にまた」
「アーハー! 分かったよ! もうキミたちを追わない! だから気をつけるんだよ! 町長とのお約束だからね〜!」
ふむ、もう追わない……か。
どこまで本当かねぇ。
ま、念のためだ。
幼女ちゃんと私は、堤防突き出す港から左右に走って逃げた。
別れればどっちを追うか迷うだろ。
合流場所は予め決めてあるから、問題ない。幼女ちゃんも逃げ切るだろ。
なんなら、素の走力なら幼女ちゃんのほうが速いから、捕まるのは私の方だ。
どうやら追ってくるつもりはないようだけど。
――――――――――――――――――――――――
私は走って倉庫の方に走って逃げる。
そして何度も角を曲がりながら呟いた。
「アンタ……私たちに都合が良過ぎるんだよねぇ」
私が屋敷から逃げ出した本当の理由は別にある。
たぶん幼女ちゃんも何となく感じてたから、反対しなかったんだろうね……。
『私たちを囮に亡霊デュラハンを誘き出す……』
でも最初のスタンスは、亡霊デュラハンに狙われるから保護したいだろ?
おまえ……途中で私たちが警戒した事を察して、『私たち好み』の理由をでっち上げただろ……。
そう、これって私たち好み過ぎる答えなんだ。
じゃあどっちかな?
私たちのことが心配だから保護したいのか?
それとも亡霊デュラハンの囮にしたいから保護したいのか?
もし、心配だから保護したいとか抜かしたら……お前は警戒対象だ。
別にいいヤツは気に食わない、とか捻くれたこと言ってるワケじゃないんだよ……。
問題は、それが本当なら……だ。
『私たちを囮にしたい』は分かりやすいだろ? 分かりやすく町長の人気取りだ。
『私たちが心配』は別の本心を隠してるかもねって話。
だって少しの会話だけで、私たち好みの返答を用意できるヤツだからね。
最初の『私たちが心配』も手のひらで転がそうとしたのかもしれない。
「あ〜、面倒くせぇな……。町長様よ、あんた本当はどんな目的があるんだい?」
考え過ぎて、頭痛くなるわ。
ま、別にいいか……。
五日後までは町長と合わない。
情報だけを交換するウィンウィンの関係でいましょ。
でも亡霊デュラハンが襲って来たら逃げ込むからヨロシク!