軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

忘れ物

「お兄さん、すごいですよね? お店を下調べして何処で何を売るか……とか色々考えてるよね?」

「ッ……」

負け犬を褒める青年は、何処となく幼さの残る顔で、人懐っこい笑顔を浮かべる。

対して負け犬は、見られていたことに対して恐怖心と警戒心の籠った顔をする。

「ごめんね。いきなり話しかけたから怖がらせたかな?」

そういって青年は申し訳なさそうに、頬を掻く。

ふむ、コイツらの目的はさっき言った通りで間違いないのかな? 負け犬を仲間に引き入れようとしてるんだろう。

青年の見た目は、赤毛で身長はあまり高くなく、何処となく可愛らしい。

好奇心旺盛そうだけど、落ち着いた話し方でガツガツ来る感じではない。

まぁ、パッと見……『主人公 面(ヅラ) した陽キャ』って感じだね!

悪意のなさそうな顔に、人付き合いが上手そうな雰囲気。友達多そうだねぇ〜。

最初は敬語で話しかけて来てたのに、いつの間にかやめてるし……陽キャってこう言うとこあるよね?

簡単に言うと負け犬と正反対の人間だよ。

本当に悪意が無いのかは知らんけど……。

「おほん、じゃあ自己紹介しちゃおうかな! ボクは『リード ヴァーミリオン』友達と冒険者をやってるよ!」

主役ヅラした青年は、ニコッと笑って、負け犬は『ウッ……』と呻いた……。

あはは、コイツ陽キャの光にダメージ受けてやんの。

「バッカ、お前距離の詰め方が早いんだよ。俺はエルロイド パペル。エルって呼んでくれな!」

そう言って主役ヅラを肘で押して来たのは、後ろに立っていた背の高いニーちゃん。

浅黒い肌に、パーカーを着た頼りになりそうなイケメン兄ちゃんだ。

陽キャってより何処となくパリピ寄りかな。

「あっちはベロニカ」

「ども」

そっぽを向きながら、女は負け犬に軽く会釈をする。

陽キャ男どもに比べて、負け犬に無愛想な態度をとる若いネーチャン。

「ちぃと無愛想だけどワリィ子じゃねえから勘弁な?」

「なによ!」

「あーエル。ベロニカは無愛想じゃないよ」

アッハッハと笑う陽キャども。

うん、そろそろウザってぇな……。

『主役ヅラ』の青年に『浅黒パーカー兄貴』

そして『無愛想女』ね。

新人勧誘に勤しむサークル味があるわ。

知ってるか? 他人と話してる最中に、身内だけで勝手に盛り上がって、ほったらかしにされんの気まずいんだぜ!

見ろよ、負け犬の顔からストレス性の発汗物が吹き出してんぞ……。

まぁ、目的は負け犬みたいだから、私と幼女ちゃんは帰らせてもらおうかな。

「…………離してもらっていいッスかね?」

「待て……この地獄に俺を置いて行くな……」

地獄て……バチバチ悪意を持って近づいてきてるワケじゃないじゃん? 別にコイツらに何にもされてねぇだろ。

「大人の話に子供は邪魔ですからね。後はごゆっくり」

「晩めし奢ってやるから」

まぁ、気持ちは分かるんだけどね。

確かに負け犬には、このキラキラしたグループは合わないだろうなぁ……。

「そ、それで……その、話というのは?」

「ごめんごめん。さっきも言った通り、ウチのパーティで活動しませんかって話だね。ダンジョン探索の」

「……俺は戦えませんよ」

「なるほど……ああ、それは大丈夫です。お兄さんに期待しているのはサポートと財政なんだよね……」

主役ヅラはそう言うと、ゲッソリとした顔をする。

「ボク達ね。今まで三人で細々と冒険者をやってきてたんだ。この間、めでたくダンジョン探索レベル1の資格をとったんだけど……」

「国家資格を……」

ほぉん? ダンジョン探索に資格とかあんのか……。

資格とやらがなくてもダンジョンには潜れるっぽいから、プロとアマチュアみたいなもんかな?

「たまたま何だけど、お兄さんが換金してるのを見かけてね。明らかにボクたちより成果が低いのに、換金額がボクたちより上だったでしょ?」

「ッ……」

お、負け犬のヤツ、知らず知らず観察されていた事にビビったな。

「それで……俺なんですか?」

「……全員、あんまりお金の計算に強くなくてね。しばらく観察させてもらったんですけど、お兄さんはその子達を荷物持ちにしているけど、キチンと計算して誠実に分けていた」

主役ヅラはニッコリと人好きのする笑顔を浮かべて、頭を下げてきた。

「もし良かったら、ボク達のパーティに入ってサポートと財政をやってくれないかな?」

――――――――――――――――――――――

『少し、考えさせて下さい……』

負け犬は、ようやくそう絞り出すと、主役ヅラパーティと連絡先を交換していた。

そして負け犬の拠点……というか人気のない路地裏。

「…………食えよ」

「缶詰ね」

「……これ結構いい缶詰だよ」

約束通り晩めしを御相伴にあずかろうとしたら、缶詰出してきやがった。まぁ、いいけど……。

何かの貝の油漬けって感じの缶詰だね。

あ、うめぇなコレ……高い味がする。

「どう……思う?」

「知らねッスよ……表面上は友好的だとしか?」

幼女相手に進路相談とか、お前の交友デッキ終わってんな!

「他人事かよ……」

「他人事でしょ……」

負け犬は頭を抱えて下を向くと、チラリとコチラを見てきた。

「…………お前ら……一緒に来ないか? お前らの異能があれば……」

「謹んでお断り」

ぶっちゃけね……そう来ると思ってたよ。

「私達はね……アイツらを信用できない」

「……お前の勘では、何か企んでると思ってるんだな?」

「分かって聞いてるでしょ……そんなのは『知らない』」

あの陽キャサークルどもが、なにか企んでるとか私にはわからないよ。心が読めるワケじゃあるまいし。

「私達は弱いうえに、追われてるからね。異能を隠す相手を選ばなければいけない……」

オバハン主婦に異能力を隠すのと同じだ。

「……そうか……そうだな。追われているなら……そうだよな。俺も……やめておいた方が……」

そう言って負け犬は俯いてしまった。

『ダンジョン探索レベル』……陽キャサークルどもが持っている国家資格らしいんだけど、たぶんコレ持ってるってのは有利なんだろうね。ああ見えて、将来性のあるヤツらなんだろう。

そんなヤツらに声を掛けられるってのは、喜ばしいことなんじゃないかな? だから負け犬は迷ってる。

でも、負け犬は容易に相手を信用出来ない。

私達と同じで追われる身なんだから……。

「この街って広いッスよねぇ〜?」

「……なんの話だ?」

お前は追われる恐怖心が強すぎるんだね。

でもね……本当はもう分かってんだろ?

「負け犬ニーサンも知っての通り、私達はこのオクトー区域を縄張りにしているマフィアに追われてんだよね」

「……ッ」

「だから頑張って逃げてんすよね。マフィアの本拠地を抜け出して、山を越えて何キロもある橋を越えて、五日ほど歩いたよね。でもね……それでもオクトー区域とやらを抜けることが出来ないんだ……広すぎんのよこの街」

「……」

「負け犬ニーサン言ってたよね? 『なんでこの街を脱出しないんだ?』って。じゃあ何でアンタは脱出しねぇんだよ? 追われてんだろ?」

「……それは」

「違うッスよね……アンタは……逃亡後だろ?」

そう、毎日毎日ビクビクしながら暮らしてるから勘違いしてたけど、コイツたぶん、逃げた先がココだったんだ。

そりゃ脱出もクソもねぇわな。

「安心できるように、口にしてあげましょうか? 負け犬ニーサンさぁ……アンタ」

『もう、逃げ切ってんだよ』

この街は広い……。

だからオクトー区域を抜ければ、私たちは逃げ切ったと判断するつもりだ。

無理だよ。

魔法がある世界だから確定なんて言わないけど、こんだけ発展した街に逃げ込んだヤツを探すなんて、砂漠で一粒の砂を見つけるようなもんだ。

だいたいオマエ……もしかしてクロックシティーの外から来たんじゃない?

「……逃すはずがないんだ」

私の言葉を聞いた負け犬は、顔を覆って嘆くように声を絞り出した。

「……そうだ……本来なら……逃げられるハズがなかったんだ……」

「……?」

「でも……何故か俺は逃げられて……クロックシティーまでたどり着いた……」

ポタポタと、地面に負け犬の涙が落ちる。

「………………見逃されたんだ」

「俺のような小物なんてどうでも良かったんだ」

「だからみすみす逃げ仰た……」

「分かってた……分かってたんだ……」

「俺を捕まえて殺すなんて簡単だったんだから……」

その声に浮かぶのは恐怖と安堵。

そして一抹の情けなさ……。

「だから見逃されたんだ……」

「あの……」

「『ガバス アヤブドール』に……」

――――――――――――――――――――

どれだけそうしていただろうか。

俺が顔を上げた時には、ガキ二人は居なくなっていて、空になった缶詰のゴミだけが残されていた。

頭の中はスッキリしているようで……心には不安の種がいまだに残っている。

「……どうする?」

口に出しても答えてくれる者はいない……。

あのリードとかいう若者達について行くべきか?

本当に追ってじゃないのか?

……いや、分かっている。

追ってではない。

そんな回りくどい事をするワケがない。

ならば自分を詐欺に掛けようとしているのか?

分からない……分からないが……。

返事は保留にしてもらっている。

本格的に活動をするなら、隣のセッテ区域になるらしい。

逃げてからずっとオクトー区域にいたが、もしアイツらのパーティにはいるなら隣のセッテ区域に移動する事になる。

「何日掛かるんだか……」

もともとオクトー区域に思い入れなんてない。

あるとすれば……あのガキ二人くらいか……。

ふとその時、ガキが座っていた場所に帽子が落ちている事に気づいた……。

「忘れたのか……」

白髪のガキが被っていた帽子だ。

「忘れてんじゃねえよ……追われてんだろ……お前達は……」

目立つ白髪を隠す為の帽子なんだろ?

「……はぁ。しかたねえな……」

たしか……アイツらの拠点は、新しく出来たあのダンジョンの中だったな……。

本当なら行きなくないが……俺が引き止めて忘れた帽子のせいで見つかったら、流石に罪悪感が湧く……。

「……途中で合流できればいいんだけどな……」

負け犬は帽子を拾って、路地裏を後にした。

――――――――――――――――――――――

「幼女ちゃ〜ん、ダンジョンで『人形と百鬼夜行』ってイベント考えてん…………」

「………………どうしたの?」

会話の途中でピタリと停止した私を見て、幼女ちゃんが『まぁ〜た変な事言い出したよ』って顔から、真顔に変わる。

どーも私です……。

負け犬の進路相談のあと、拠点の公園に帰ってきた私は、今後の事について幼女ちゃんと話し合っていた。

と言うのもダンジョンどうすんべ?って話で、最後にイベントぶちかまして、大量の領域エネルギーを確保することになったんだよ。

ま、その話し合いの最中に――

「ん〜……何だろうね? この感覚は……」

変な感じがした。

チリチリと肌が毛羽立つような……。

気のせいってこたぁないね。

なんせ、発生場所がなんとなく分かる……。

私はその感覚を覚える地点をモニターに浮かべた。

場所はダンジョンの入り口付近。

「……またエセ霊媒師さんだね。ダンジョンが出来てからは久々にやってきたなぁ〜」

モニターに映るのは、『神聖だぜオラァ!』って感じの服を着た女。紫色の袴のような服で、いかにも霊媒師の巫女って感じだ。

目つきが悪いと言うより、油断のない表情に見える。

「あははぁ、エセ霊媒師巫女がやってきたぜ幼女ちゃん。心霊スポットの噂、まだ無くなってなかったのかね?」

「………………ちがう」

幼女ちゃんは、モニターを食い入るように見つめてから、ゆっくり呟く。

「……………………ほんもの」

瞬間、巫女さんは何処からともなく背丈ほどの棒を取り出すと勢いよく、地面を突く。

シャン……棒の先に着いた鈴が辺りに響く。

すると、鈴の部分から縄状の何かが生き物の様に伸び、ある一点に向かう。

【オオッ……ォォォオオオオ…………】

そしてその縄は……あるモノを突き刺し、それは霧の様に消え去った。

「なるほど……本物だねぇ……」

縄が突き刺したのは、私が『悪霊』と呼んでいたモノ。

このゴーストタウンに元からいた、黒い影。

幼女ちゃんと私以外は、誰にも見えていなかったはずの存在を、この巫女さんは消し去ったんだ。

「まずいねぇ……」

そして巫女さんは、キッとダンジョンの方向を睨みつけた。

「非常にマズイ……」

「……オバケ姉ちゃん?」

私は立ち上がって幼女ちゃんに手を差し出す。

「逃げるよ幼女ちゃん……この巫女さんヤベェわ」

悪霊を認識して滅ぼしたっぽいからヤバい?

違う違う……この女とんでもねぇぞ。

「ダンジョンが負けてる……」