作品タイトル不明
閉店セール
「……ダンジョンが負けるってどういうこと?」
幼女ちゃんは眉間に皺を寄せて聞いてくる。
うむ、ちっとばかり焦りすぎて、不安にさせちゃったかな?
私もビビって少し神経質になってたね。
どちらにせよ時間はまだある……落ち着くためにも幼女ちゃんに説明してあげようかね。
つっても単純な話よ。
「私の作ったダンジョンって道を変えたり、入り込んだ人間を別の場所に飛ばしたり、色々便利だと思わない?」
「……べんりっていうか不気味」
他人の作った作品に『不気味』という評価するの止めてよ。普通に傷つくじゃん……。
なんならオメーの、たまに光る目の方が不気味だわ。
山道でアップライトしてる車かテメーは。
「例えばの話なんだけど……あの『キモノお嬢』がこのダンジョンに、私達を追ってやって来たとするじゃん?」
「……例えが不穏すぎない? 二度と言うなよ……」
「そんでさぁ幼女ちゃんは、キモノお嬢をダンジョンでなんとか出来ると思う?」
「むり」
即答だねぇ……うん、その通り。
あのイカれ女なら、核シェルターに篭ってもこじ開けて来そうだもんな。
「それでね。私のダンジョンってのは、ある程度やってくる人間が『意識的』に協力しているフシがあんのよね」
「……協力?」
「ほれ、やって来るのは冒険者が多いでしょ? アイツらは『ここはダンジョンだから』って考えで、『ルール』を無意識に受け入れてるワケだ」
「……ふ……む」
「ダンジョンに入る時でさえ、『ダンジョンなんだから当たり前』って感じで別の場所に飛ばされる事を受け入れる」
「……うん」
「入り口の転移陣にしろ、冒険者が受け入れているからスンナリ行くんだよ。だから対象が飛ばされたくないって感じたら抵抗されるんだ」
「……つまり相手の意思を無視して飛ばすことはできない……うそ、徘徊獣ジャックやサメくんは意思を無視して飛ばしてる」
お、目の付け所がいいね。
でも嘘じゃないんだなぁ。
「あくまで抵抗だね。エネルギーの消費はデカくなるけど無理じゃないんだ……普通のヤツならね……」
「…………なるほど」
あとは言ってないけど『ルール』のせいだね。
【ダンジョンを作る能力】の説明の時に言ってたよね。
『ルールの設定』
徘徊獣ジャックや徘徊獣サメ君は、『捕まったらゲームオーバー』というルールを提示することで、意思を無視して飛ばすのに領域エネルギーの消費を減らし、なおかつ強制力を高めてるんだ。
「……つまり……ダンジョンが負けるって、そのエネルギーで賄えなくなるほどのそんざい……」
「そだね。少なくとも『ダンジョンのルール』に 則(のっと) る気がない……あの巫女さんは」
……この子、出会った頃と比べて明らかに頭の回転速くなってる気がするな……。逃亡中という危機的状況において、生き残るために賢くなってるってことある?
「キモノお嬢のような……化け物じみた存在だってこと」
本来、そうそうある事じゃないハズなんだ。
だって今まで冒険者が何人も入って来たのに、負けることはなかったんだから……。
そりゃ冒険者なんだからダンジョンに付き合うヤツばかりだろうよ……でもね、仮に抵抗されても領域エネルギーを消費するだけで、転移させるくらいの強制力は発揮できる算段だった。
ましてや、このドリームランドはある程度、育った状態にまで来ていたのにね。
「……けっきょく、ダンジョンが負けるとどうなるの?」
「あはは〜……気になるよねぇ……」
分かるかね? 化け物クラスの存在が、私のダンジョンのルールに付き合う気がない時……『ダンジョンが負ける』という現象を起こすんだ。
そう言って私はモニターを指差す。
見た方が早いよ……。
「…………なんか歪んでる」
「歪んでるねぇ……」
巫女さんの視線の先では、ダンジョンが歪んだかと思えば、その向こう側に別の光景を映し出す。そして、その景色は徐々に広がっているように見えた……。
巫女さんはその光景に怪訝そうな顔をしながらも、面白くなさそうに睨みつけていた。
「負けるってのは、ダンジョンというテクスチャを強制的にひっぺがされるってことを言うんだよ……」
歪んだ先から顔を覗かせるのは、似たようなゴーストタウンの光景。でも決定的に違う……。
それは、ダンジョンとしてのゴーストタウンではなく、本来のゴーストタウン……つまり、 ダンジョン(夢) ではなく現実だ。
繋がってんだよ……私たちの居る、この公園にさ。
「化け物クラスの存在って結構居るんだねぇ……」
言うならばアレだよ。
木で出来た巨大迷路を思い浮かべてみて?
ダンジョンってのは木で出来た巨大迷路に冒険者を誘っているとしてだね。彼らはルールを守って迷路を攻略しているワケよ。
でもさ、それって強いヤツなら壁を破壊して目的地に一直線に向かって迷路を無視出来るでしょ?
もちろん強いヤツでも、ルールを守るのなら壊せるとしても迷路を進むだろうよ。
でもね、そもそもルールを守る気のない……『ダンジョンに付き合う気のないヤツ』は壁を壊して突き進んじゃう。
本来だったら領域エネルギーを注ぎ込んで、『木の迷路』をソイツの所だけ『鉄の迷路』に変えればいいんだよ。
でも、この巫女さんからしたら木の迷路どころか、紙の迷路なんだろうね。
進むのに邪魔だって思っただけでコレよ……。
「どちらにせよ、弱いガキの私達に出来ることはないよ。少し早まったけど、ダンジョンを捨てて逃げようぜ」
「……この中で隠れつづけるのはダメなの?」
あ? スキマの中?
う〜ん、自分の弱点晒すようでヤなんだけど……その疑問も最もだね。
「ダメだね……スキマはそんなに万能無敵じゃないんスよ。確かに隠れてりゃ気づかないかもだけど……流石に逃げる機会を逃してまで残るには危険すぎる。あの巫女さん……キモノお嬢と同じ化け物クラスの可能性あるからね」
というか実はかなり脆い。
実際、狙ったわけでもないのに壊されたことがあるからね。
私の言葉に、幼女ちゃんは顔を青ざめて首をブンブン振った。キモノお嬢が山を消し飛ばした光景を思い出すがいい……。
「……さんせい。化け物に関わっていいことない……」
「おっけ、じゃあダンジョンを畳んじゃおうかねぇ」
「……まって、またなんか来た」
「おん?」
幼女ちゃんに言われてモニターを見てみれば、巫女さんの前に高そうな車が停車する。
――――――――――――――――――――――
目の前に停車した車を、年若い紫色の袴を着た巫女は面倒そうにした。
ガチャリと車のドアから出て来たのは、緑色の軍服のような服を着た壮年の男……。
顎髭をダンディに蓄えた背の高い男は、巫女を視界に入れると二枚目な顔付きにも関わらず、三枚目のような陽気な顔を浮かべる。
「ショーターイム!!」
「喧しいわよ……町長……」
妙にコミカルで芝居じみた動きをする男に、巫女は持っていた錫杖を肩に乗せて呆れた顔をする。
「んーん! 挨拶は基本だろ〜?」
「アンタだけの挨拶でしょ……それ」
「アーハー、いやはや間に合って良かったよ〜」
町長と呼ばれた男は、巫女の言葉を聞こえないふりしてダンジョンの方を見る。
「それで、どうかな〜?」
「居るわね『妖魔』が……さっきも一体倒したところよ」
「流石はバイラールファミリーとオクトー区域を、二分する勢力、教会の【祈りの巫女】だ。仕事が早いね〜」
「ふん、なにが勢力よ……バイラールファミリーなんて、あのクソ女だけで持ってる勢力じゃない……」
「アーハー、そういやキミはエルテ嬢と仲が悪かったね
〜」
「チッ! 忌々しい……私たち祈りの三巫女はあの女に屈辱を受けたことを忘れてないわ。そのうちマフィアなんて滅ぼしてやる……」
ギリリと獰猛な顔を見せた祈りの巫女は、口元を隠すように憎悪の籠った目をする。
「あは〜、それにしてもダンジョンか〜。『ありえない場所に、一番あり得ないモノ』が発生したものだね……」
町長は面白いモノでも発見したかのようにダンジョンを眺めると、目を細めた。
「ダンジョンじゃ……ないんでしょうね。育ち過ぎた妖魔がたまに使う結界の一種かしら? 私がここに到着したら歪み始めたわ……誘われている?」
「まだ本体は居るのかな〜?」
「居るでしょうね……しかも大物が……まあ、アンタからの仕事はちゃんとこなすわ。全部滅ぼせばいいんでしょ?」
「アーハー、それは頼もしい! 現代に本物の妖魔退治なんてどれだけの取れ高になるだろうね〜……撮影してもいいかな?」
町長が大袈裟にクルクルと回って、車の後部座席を開けると、少女が降りて来た。
その手には映像の記録を撮る魔道具が乗せられている。
「撮影班の娘だよ!」
「撮影班の娘です」
親子のふざけた態度にイライラしながら、祈りの巫女はシッシッと追い払うポーズをとる。
「断るわ……人気取りなら他でやりなさい」
「大事だよ〜、人気取り。だって町長だもの!」
「そう、とにかく仕事はするから帰れ……こんな所に子供なんて連れて来るな。だいたい何でアンタ、今回はやって来たのよ……いつものように仕事の依頼だけすればいいじゃない」
「アーハー、実はオクトー区域で新発売の人形を娘にねだられてね! お父さん娘連れてやってきちゃったぞ〜」
よく見れば、町長の娘の手には人形が抱かれていた。
「ふん、相変わらずの子煩悩ね。それも人気取りのポーズかしら?」
「そうだよ〜!」
「酷いですわ、お父様」
「嘘だよオーちゃん! 機嫌直してよ〜」
始まった親子漫才に辟易した祈りの巫女は、二人を無視して歩みを進めた。
その後ろ姿に満足そうに頷いた町長は、車に乗り込むと帰るためにエンジンを掛けた。
そして陽気な声で呟く。
「人気取りは教会も一緒じゃないかな〜?」
――――――――――――――――――――――
はぁん……祈りの巫女ねぇ?
モニターで会話を聞いていた私は、チラリと幼女ちゃんを見る。
「祈りの巫女さんだってよ。何か知ってる? 解の巫女さん……」
「……しらん」
あそう、本当に知らんぽいね。
『解の巫女』と『祈りの巫女』、字面が似てるから親戚みたいなもんかと思ったけど関係ないのか……それとも幼女ちゃんが知らんだけかね?
「ま、どちらにせよ。そろそろ逃げるか……」
祈りの巫女さんは、ダンジョンの剥がれたゴーストタウンを歩きながら、道中で悪霊を消し去っていく。
この公園にたどり着くのも時間の問題だ。
「ほんじゃ、巫女さんのやってくる方向とは逆に向かって逃げるよ」
「……らじゃ」
スキマから出て公園の遊具の上に出た私は、滑り台を降りて走ろうとする。
「……ッ」
そして三歩目でピタリと停止した……。
「……オバケ姉ちゃん。今度はなに?」
私の背中にぶつかった幼女ちゃんが非難の声をあげる。
「おいおい……随分と今日はお客さんが多くないかい? 閉店セールかよ……」
私は、モニターを一つ浮かべて映像を確認する。
モニターに映るのは、祈りの巫女ではなく……一人の男性……。
忙しい時に何しに来やがったんだよコイツ……。
「…………負け犬?」
モニターを見た幼女ちゃんが不思議そうな顔をした後、睨みつけるように目を細めた。
「おかしいなぁ……負け犬にしちゃ、随分とイケメンな表情してんじゃん……」
薄暗い街頭に照らされた負け犬の姿は、一目見て普通じゃないことが分かった。
あれだけ怯えていたダンジョン内に居るにも関わらず、顔は脳面のように無表情。
そして何より……目がおかしい。
白目の部分が黒く染まり、目の下の濃いクマと相まって、まるで悪魔のようにも見える。
そして時折、体の輪郭がボヤけるように見えるのは、恐らく黒いモヤが吹き出しているからだろう。
えぇ……どうしたのコイツ……。
今忙しいんだけど……つか負け犬で合ってるよな?
「…………だから言ったのに」
幼女ちゃんがボソリと呟く……。
「……お前は狙われてるから来ない方がいいって」
あ〜、うん分かった……。
「……入り込まれてる」
だよねぇ〜!
コイツ悪霊に取り憑かれやがったな!
映像の中の負け犬は、獣のように雄叫びを上げると、拳に結晶を纏わせて地面を殴りつけた。
おお、凄いぞ負け犬!
クレーターを作り上げた。凄いパワーだね!
でもダンジョン壊すなや……。いやまぁ、閉店するからいいんだけどさぁ。
悪霊に取り憑かれるとこんな事になんの? こわ……。薬物中毒者じゃん……。
「ん〜……あ、このままだと巫女さんと負け犬がかち合うね。さて幼女実況者! どちらが勝つと思われますか!」
ワンチャン負け犬が勝つか? さっきの見る限りドーピング負け犬も中々のパワーだぜ!
「……ジュウゼロで祈りの巫女がかつ」
「簡潔で分かりやすい予想有難うございます!」
ほんじゃあ決まりですな!
「「負け犬を囮に逃げよう!」」
さらば負け犬、生きていれば、そのうちまた何処かで会おう!
じゃあね。