軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

契約書? ねぇよ?

「本日は、ご足労いただき誠に有難うございます」

清潔感のある会議室のような部屋。

きっちりしたスーツに身を包んだ五人のオッサンが、テーブルの向いで頭を下げ一人づつ自己紹介を始める。

ラリアードールを作ってる会社のお偉いさんらしい。

「さっそくで申し訳ありませんが……貴方があの魔石の……」

真ん中に座っているヒゲのオッサンが、負け犬の顔色を窺うように話を進める。

どうやらこのヒゲオッサンが、オバハン主婦に声を掛けて呼び寄せた人物のようだね。

負け犬は、ズレてもいない伊達メガネの位置を正すと、頭を下げ、ゆっくりと戻し笑顔を浮かべた。

「いえ、私は魔石の作成者ではありません」

淡々とした負け犬の言葉に、オッサンファイブの目が僅かに見開かれ、少しだけザワつく。

「ですが、私は魔石の作成者に、商談を進めるよう雇われました。上手く纏めるように言われていますのでご安心ください」

その言葉に、フィードバック社の社員たちも、落ち着いたように背中を椅子に預ける。

お、いいぞ負け犬。いつものように挙動不審な態度取るかと思ってたのに、なかなか落ち着いた話し方するじゃない。

「なるほど……ちなみに製作者の方というのは……」

「申しわけありません。先方の希望により名前は伏せさせて頂きます」

お堅い話で眠くなりそうだね……。

オバハンの娘さんとか船こいじゃってるよ。

「それでは説明をさせて頂きます。まずはコチラをご覧ください」

負け犬がパイプ端末からプロジェクターのように、壁に資料を映し出す。幼女ちゃんと用意したらしい。

今回、プログラムを売るに当たって、障害となる問題点が三つほどある。

一つ目は【企業との繋がり】

なんてったって相手は企業だ。一般の人間が『プログラム売りたいんですけど』と言ったところで相手にされない。

でも、これはオバハンを利用して、この場を得られたことでクリア済だ。

二つ目は【私達が子供な事】

ま、当たり前だわな。

満を持してプログラムの製作者がやって来たと思ったら、子供がやってくるんだもん……。

誰が信じてくれるんだよ。

「え〜、こちらのプログラムはパイプ上にアップロードされている形になりますが、管理者権限というページがごさいまして……」

だからこその負け犬だ。

大人であり、報酬さえ渡せばある程度、上手く動いてくれる存在。

だったらオバハンでいいと思う?

「更に、管理者ページとは別に、ある程度プログラムを齧った人物が弄れるMODページがあります」

「MODページ? それは一般の人がドールに干渉できると言うことでしょうか? ……なぜそんな無駄なことを……」

ダメだよ……。

オバハン主婦は信用できない……。

別に私も幼女ちゃんも、オバハンが悪い人間だと言ってるワケじゃない。

そもそも、悪い人間かどうかなんて知らないし興味もない。短い期間しか関係を持ってないのに、判断もできないしね。

じゃあ何で負け犬は良くて、オバハンはダメなのか……。

それはオバハンには 枷(かせ) がないからだ。

「無駄ではありません……。数の力というのは偉大です。ある程度の改造要素をユーザーに持たせることで、ラリアードールは無限の広がりを見せるでしょう」

「う……む……なるほ……ど?」

マフィアに見つかりかけた時、負け犬と話したよね?

負け犬は私達をマフィアに売ることができない……。

それは自身も追われる身で関わり合いになることが、死活問題だと感じているからだ。

対して、オバハンにはソレがない。

オバハンがマフィアや貴族に、私達の情報を売り払った時の明確なデメリットを私達は知らないんだ。

そもそも、オバハンはそんな人間じゃないとかは知らない。それこそオバハンが何を考えてるのか、短い付き合いで知るはずがない。

ただ……『やる』かどうかの話ではなく『やれる』かどうかの話だ……。

だから私達は異能力をオバハンに隠すし、負け犬は安全性が高いと思っている。

「分かりました……、基盤となるプログラムへのアクセス権限を売って頂くということですね。MODシステム……なるほど改造を許容するということですか……」

「……いかがでしょう?」

負け犬の説明に、ヒゲのオッサンは目を瞑り考えを巡らせる。

幼女ちゃんの作ったプログラムで一番の利点は、安物の魔石によく分からない技術で、本来あり得ない量のプログラムを書き込める事らしい。

たぶん私風に言うと、数世代前の骨董ゲーム機で最新機種のゲームが動くみたいなことだと思う。……たぶん。

まあ、感触は悪くなさそう。

ちょっと負け犬を舐めてたわ。

コイツ、結構交渉ごとに慣れてるぞ。

いや、慣れてるというか物事を理路整然と語るのが上手いのか?

「……分かりました。プログラムとパイプページの管理者権限……お売り頂けますでしょうか?」

お偉いさんのその言葉に、負け犬が安心したようにホッと息を吐く。

「もちろんです」

「そう言って頂けて、感謝しますぞ。いやぁ、流石は【オリジン】のプログラム! 感服ですな」

「…………オリジン?」

ん? オリジン? 何ソレ?

負け犬がチラリと幼女ちゃんに視線をやるが、幼女ちゃんも不思議そうな顔をして首を捻る。

「あの……オリジンとは?」

「え? あ〜……もしかして製作者に聞いておりませんか? ラリアードール【オリジン】」

ごめん、知らんし製作者の幼女ちゃんも知らなさそうなんだけど……。

「一昔前にダンジョンから発掘されたラリアードールの雛形。おそらく製作者の方は、そのオリジンのプログラムを全部ではないでしょうが、解析しコピーする事で今回の商談に乗り出したのでしょう」

違いますね。

でも多分……似たような事やってるっぽい。

彼女、私に言ってない事ありそうなんだよね。

もしくは言っても分かんないと思ってるか……それだわ。

「都市伝説でしょうが、持ち主に莫大な力を授けると言われたラリアードール【オリジン】……一目見てみたいものです」

「は、はは、そうですね」

そうなの? って感じで幼女ちゃん見てるけど、幼女ちゃんはブンブン横に顔を振る。

「それで……契約の方なのですが……」

ヒゲのオッサンの目が光る。

まるでここからが本番だとでも言うように……。

だろうね……これは商談だ。

全ては金に帰結する。

ここで三つ目の障害。

恐らくこれが……一番の障害であり心配事項。

「ここはプログラムを仕込んだ人形の販売台数につき、5%の支払いでどうでしょう?」

たぶん……このお偉いさんの顔を見るに、随分とこっちに有利な条件なのかもね……。

でも――

「いえ、一括でお願いします」

「…………一括ですか?」

「そして、契約書は無しでお願いします」

「なっ!! それはっ!!」

目に見えてフィードバック社の人員がザワつく。

私に、この世界の企業状況なんて分かんないんだけどね。負け犬が言うに……この契約書なしっていうのは――

『メチャクチャ詐欺臭いらしいよ』

言わば口約束みたいなモンだからね。

でもね。コレだけは譲れないんだ。

「なぜ……でしょうか?」

企業の人たちが途端に警戒した視線を向けてくる。

「製作者の意向ですね。正確には身分を明かしたくないそうです」

そう言う事……私達はマフィアどころか、貴族にすら狙われている。

足が付くマネをしたくないんだ。

これが第三の障害ってワケよ。

契約なんかしちゃったら足が付く可能性が出てくるんだよ。これは負け犬も同じ見解。

「ですが……それは」

「三十万ネルス……これでどうでしょう?」

「……」

三十万ネルス……私が豚貴族に依頼された金額と同じ値段。それは平民が一年間に稼ぐ値段くらいらしい。

これが安いのかどうかは分からない……けど、たぶんこのプログラムの権利を得ると考えたら安いのかもしれないね。

「……ふぅ……一つ聞いていいでしょうか?」

「…………何でしょう?」

ヒゲオッサンは頭を振りながら疲れたように呟く。

「ここまでして、三十万ネルスという金額で売る理由が分かりません」

「そうでしょうね。私も聞いた訳ではありませんが、予想なら出来ます。恐らく製作者の目的は金ではないのでしょう」

金ですよ?

まぁ負け犬なら分かってんだけどね。

そもそも、この言い訳を考えたのは負け犬だし。

「製作者は、このプログラムを持った人形を街中に広めたい……自己顕示欲ですね。そうやって広まることで作品を世に出したいと思ったのではないでしょうか? でも自分は表には出て来たくない……職人に有りがちですね」

「だからこの値段で……」

「フィードバック社と話が付かなければ、別の会社に持って行くよう言われています」

「……」

負け犬の考えた言い訳だけど……やるなぁ……ちょっと分かるもん。

ま、ゲームの話なんだけどさぁ。

私はやったことねぇんだけど、サンドボックスってジャンルのゲームあんのよ。

ブロック積み上げて家とか作るタイプのゲームなんだけどね。アレって一人でやってると虚しくなるらしいのよ。

分かるよね? 結局はさ……自分で作った作品ってのは人に見てもらいたくなるモンなんだよ。

「…………」

「…………分かりました。契約書は無しで三十万ネルス……それでいいですね」

たっぷり考えた後……ヒゲオッサンはそう言った。

――――――――――――――――――――――

「ぷはぁっ!! 緊張したわ!」

ビルから出た途端、負け犬はフラフラとベンチに座り込むと息を吐いた。

「うぇ〜い、お疲れさん」

「……ホントだよ」

よほど疲れたらしいね。

まぁ分かる分かる。

「ふん、アンタ一端の仕事するじゃないかい……利用されたのは気に食わないけどね」

「……あぁ、アンタも迷惑かけたな」

「……いいさね。どうせアンタも誰かに言われてやったんだろうしさ」

「すまねえ」

オバハンに対して、申し訳なさそうな顔をする負け犬。いや、その誰かって幼女ちゃんなんだけどさ。

「まぁいい経験だったよ。アタシとしては娘の為にラリアードールを格安で手に入れられたしさ」

「……ああ、もうダンジョンには行かないんだろ?」

「理由がないからね」

「……そうか、じゃあこれでお終いだな。これを受け取ってくれ」

そういって負け犬は封筒をオバハンに渡す。

「大金じゃないかい……別に要らないよ」

「いや、これは口止め料だと思ってくれ。依頼主からも迷惑料だと言われて渡すよう言われている」

「…………そうかい。じゃあ頂いとくよ」

そういってオバハンは娘の手を引いて去って行った。

「これで。いいのか?」

「……ぐっじょぶ。オマエの取り分を引け」

「十万ネルスだ。貰っておくぞ」

封筒から十万ネルスを抜いた負け犬は、懐に入れる。

「ほぉん? それで幼女ちゃん、私達の儲けは幾ら?」

「……十八万ネルス。ニ万は主婦にやった」

「なるほど……じゃあ……」

「……うん、そろそろオクトー区域から逃げるよ」

――――――――――――――――――――――

去って行く幼女二人の背中を見ながら、負け犬は疲れた体をベンチに預ける。

「……そうか。アイツらは、そろそろ居なくなるのか」

「俺はどうするか……」

――――――――――――――――――――――

どーも私です。

そろそろオクトー区域から出る準備を進めています。

負け犬にも伝えてあるよ。

でももう少し、時間が掛かるからダンジョンに来てるんだ。私の作ったダンジョン『ドリームランド』の事もあるしね。

「こっちはダメだ。魔物がいる」

ダンジョンの角から顔を出していた負け犬が、バッテンを手で作る。見てみれば通路には蜘蛛の巣が張っていた。

「……まった。宝箱がある」

幼女ちゃんが、蜘蛛の巣の近くにある宝箱を蹴飛ばして、中身を掴むと帰ってくる。

「あ〜ハズレだな。イエグモの糸だ」

「……はずれ?」

「あぁ、昔は丈夫で目に見えづらい糸だから重宝してたらしいが、今は合成樹脂の方が安いから金にならない」

「……ざんねん」

負け犬も最近は精神的に落ち着いて来たようだ。微妙にダンジョンの説明をしてくれるのは、餞別のつもりかね?

「ほらよ……今回の分前だ」

そうして今日のダンジョン探索が終わった時だ。

「ちょっといいですか?」

「「「ッ、」」」

ビックリしたわ……。イキナリ話しかけんな……。

「あぁ、すみません。怪しい者じゃないんです」

私達三人が大袈裟に警戒したことで、相手は慌てたように手を振る。

「お兄さん最近、この辺りで換金している方ですよね?」

相手は三人組、今話しているのは若い男の青年。

その後ろには、女と男。

三人組の『冒険者』だろう。

「…………なにか?」

「ああ、実はお兄さんにお話がありまして。お兄さん子供を荷物持ちにしてダンジョンに潜ってますよね?」

なんだ?

子供をダンジョンに連れて行くんじゃねぇとか思ってる? だったらデッケぇお世話なんだけど。

「……それが何か?」

「ああ、搾取しているんじゃないって分かってますよ。きちんと配分しているのは見てますから……」

おい、負け犬……。

これたぶん最近見られてただろ……。

気を抜きすぎだ。

「……」

「簡潔に言いますけど、お兄さん、もし良かったらウチのパーティに入りません?」