軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

曲がり角で出会うのが美少女とは限らない

「あ〜、アンタたち……うちの娘の人形に仕込んだ魔石って何処から持ってきたんだい?」

今日のダンジョン探索が終わって報酬を山分けしていたら、オバハン主婦が何と声かけしたら良いのか分からないといった顔で問いかけてきた。

お、いいね、その視線。

ちゃんとコチラを警戒してくれているようで何より……。

「ふむ、何か不備でもありましたかね?」

「分かりきったことを、ニヤニヤして言うんじゃないよ……ったく、人を食ったような子だね」

「……どうなった?」

幼女ちゃんが見上げながら無表情の顔を向けると、オバハンは苦虫を噛み締めたような顔をして鼻を鳴らす。

「はん、その調子だと、あたしが言ってくるのも想定通りってことかい……」

オバハンは面白くない様子で腕を組む。

利用されたこと分かって気に食わないようだね。

悪いね……でもこっちが何か企んでいたのは分かってたんでしょ?

幼女ちゃんから作戦のことは聞いてるよ。

正直、幼女ちゃんに話を聞いた時はスマンけど懐疑的だったんだけどね。

でもオバハンがこう言うってことは幼女ちゃんの計画通りに進んでいるんだろうね。

もしかしてキミ……なんか変な事やってる?

「アンタたち子供を使ってよからぬ事を考えてるヤツがいるんだろ? フィードバック社のお偉いさんが呼んでこいってさ。……アンタたちの後ろにいるのは誰だい……答えな」

ジロリと睨みつけるように声を低くするオバハン。

いやまぁ、そうだよね。

全て幼女ちゃんが直接糸を引いてるなんて思わんだろうよ。

私たちはあくまで誰かの差金で動いてると思うよね。

「……」

幼女ちゃんは、ゆっくりと手を上げると一点を指差した。まるで犯人を突き止めた探偵のように……。

「……………………は?」

幼女ちゃんに指を指された『負け犬』はパンを口に運ぼうとしていた姿勢のまま、ポカンと口を開け止まる。

「……だろうね。そうだろうと思ったよ」

「…………え?」

オバハン主婦に険呑な視線を向けられた負け犬は、訳のわからないとばかりに首を捻る。

オバハンといえば、ベンチに座り込んでいる負け犬にズンズンと威圧感のある顔で近づくと、胸ぐらを掴み上げた。

「気に入らないね……」

「ヒッ!」

「ガキンチョどもを利用して、何考えてんのか知らないけどね。覚えときな、変な事企んで害を為そうってんなら……潰すよ」

「ひ、ひぃいい!!」

ビビる負け犬を強めにベンチに押し返すと、オバハンはフンと鼻を鳴らし、「明日連れて行くからね」と言って不機嫌そうに去って行った。

「……」

しかし幼女ちゃん、作戦のためとはいえノータイムで負け犬のこと売り払ったね。

いやホント……頼もしいぜ!

自分の目的の為なら遠慮なく他人を犠牲にする。

いいよ〜いいよ〜、無力な私達が生き残るのにはそうでなくっちゃね!

「もしかして……俺は今、謂れのない罪を着せられたのか?」

呆然とした顔で、何が何だ分からないという顔をした負け犬が、コチラに視線を向けてきた。

……いやスマンて負け犬。

許したってや……。子供のお茶目だろ?

「大変よくお似合いですよ?」

「冤罪は服じゃねえんだよ……」

「……さむくなってきたから、もっと厚着がオススメ」

「罪で他人をコーディネートしようとすんな……悪魔のアパレル店員ども」

頭を抱えながら、長い長いため息を吐いた負け犬に、幼女ちゃんが歩み寄る。

「……えんざいじゃなくなればいい」

「どう言う事だよ……」

「……損はさせない。手を貸すがいい……」

「ッ!」

おや? 負け犬の顔色が変わったね……。

「……オマエにも一口かませてやる」

「や、やめろ! お前たちが何を考えているのか知らないが、俺には関係ない!」

そう言って負け犬は、焦ったように荷物を纏めると、私達から逃げるように足早に立ち去ろうとした。

――――――――――――――――――――――

【損はさせませんよ。手を貸してもらえませんか?】

俺は……選択を間違えた……。

白髪のガキに言われた言葉が、その言葉を思い出させる。

【貴方しかいないのです】

その言葉は俺の心に深く刺さった。

いつからだろうか……

必死に勉強し、誰にも負けない自信があったはずの算術が、平均より少し上くらいの実力しかないと気づいたときか?

それとも、運動をやらせれば、下から数えたほうが早かったことに気づいた時かもしれない……。

『お前は努力や根性がたりないんだ』そう言った同級生がいた。

ソイツは高跳びで、俺の三倍の高さを軽々と跳ぶと『な?』と言ってニカリと笑った。

ふざけるな……。

努力や根性で三倍の高さを跳べるワケないだろ。

子供ながらに……俺はいつの間にか、当たり前のように自覚していた……。

『俺は……人より劣っている……』

『この世界には、どう足掻いても勝てないヤツがいる』

周りに目を向けて見れば、自分は誰よりも……何をしても劣っていることに気づいた。

だが……【貴方しかいない】と言われ、自尊心が満たされ、俺は選択を間違った。

絶対に勝てない相手に……喧嘩を売ってしまった。

「ちょいちょい負け犬ニーサン。話くらい聞いてくれてもいいんじゃないッスか?」

「うるさい巻き込むな……」

後ろから、長髪のガキが俺のフードを掴んでくるが取り合う気もないのでそのままズルズル引きずる。

「……負け犬……オマエにも旨みがある」

「いやだ」

白髪のガキもフードを引っ張るが、俺は拒否する。

負け犬……コイツらの言う通りだ。

俺は負け犬で、持っていないくて……高望みなどせず、人知れず朽ち果てるのがお似合いの存在なのだ……。

そう改めて自分の存在に確信を持ち、二匹のガキを引き摺りながら建物の角を曲がった時だった。

「ん? なあソコのアンタ……ちょっといいかい?」

「ッ!」

タバコを吸っていた二人の男に話しかけられた。

ドキリと殴られたように心臓が跳ねる。

明らかにマトモな人物ではない。

裏の世界特有の暴力を厭わない空気を纏った二人組。

ついに追ってが俺を見つけたのかも知れない……。

そう思った、しかし――

「ああ、何もしやしねえよ。ちょっと人探しでな。何か情報があれば、書いてある連絡先に報告して欲しいんだわ」

そう言って端末から映像を飛ばしてくる。

「あ、ああ。分かりました……」

「頼んだぜ。有力な情報があればタップリと謝礼も貰えるからな」

そう言って男たちは足でタバコを揉み消すと、一度、俺の肩に手を置いて去って行った。

「ぷはぁ! はぁはぁ……」

知らずのうちに息を止めていた。

壁に手を突いて息を整え、震える手でパイプ端末に送られてきた映像を再生する。

もしかして自分が映っているのかも知れないという恐怖に駆られながら。

そして映像を見て、安堵のため息を吐く。

「よ、よかった……」

映像は自分ではなかった。

本当に良かった……あのマフィア風の男たちが探しているのは、自分ではなく白髪の――

「……へっ?」

白髪の……最近よく見かける幼女だったのだから……。

「…………」

目を揉んで再度見てみるが、やはり白髪幼女だ。

映像の少女は帽子こそ被っていないが、間違いなくいつも行動をともにする無表情のガキだ。

「…………おい」

「……」

「……」

無言を貫く幼女二人に話しかけるが、反応を返さない。

「もう行ったぞ……」

そういって俺は自身の体を揺する。

「にゅぅううん……」

「ぬぅおおおお……」

フードに隠れた俺の背中から、二匹の幼女がずり落ちてきた……。

地面に落下した幼女たちは、コロコロと地面を転がると、頭をさすりながら面倒臭そうな顔をする。

「あたた、遂にここまで手が伸びてきたか〜」

「……ぬぅ。かきゅうてきすみやかに金を得るべし……」

……なんでコイツら、マフィアに追われてんのに余裕そうなの?

――――――――――――――――――――――

いや〜、マフィアの皆さんご苦労様。

仕事熱心で偉いねぇ……ボケどもが!

いやビビったわ。

いきなりマフィアが曲がり角から出てきたからね。

慌てて負け犬の背中に潜り込んで隠れたよね。

負け犬もビクビクすんじゃねぇよ……バレたらどうしてくれんだ。

「お前ら、マフィアに追われてんのか……」

「まぁ見ての通りッスねぇ」

私の言葉に、負け犬は大きなため息を吐くと、指の間からコチラをチラチラ見てくる。

そんな負け犬に、私はニヤニヤ笑いながら挑発的な笑みを浮かべた。

「ん? どーします? 私達の情報を売ればお金が貰えるらしいッスけど?」

「……チッ」

舌打ちで返された。

「……分かってるよ。だから……俺なんだろ?」

「ご理解いただけたようで……」

「俺も追われているから……ああ言った連中と関わりになるのが怖いから、お前たちは俺を選んだ」

「追われてる人間ってのは、探してる人間が怖いモンですからねぇ……」

「なぁ、何でマフィアに追われてんだよ……」

「ぬひひ、ちょいとばかりマフィアの大切なモンを……ねぇ」

「泥棒かよ……」

「慰謝料ですよ」

「あれは……オクトー区域のマフィアか」

負け犬は、疲れた表情をしながらも、静かな警戒した視線を向けてくる。

「なんでオクトー区域から脱出しようとしないんだ?」

「公共機関は見張られてる可能性がありますからね。金を貯めて別の方法で脱出しませんとね? 流石にオクトー区域とやらを抜けたら見つけらんないでしょうし」

「…………そうか」

「この街、信じらねぇくらい広いッスからね。脱出しちまえばコッチのモンすよ!」

負け犬は、私の言葉の何処に感じいる物があったのか知らないが、噛み締めるように『そうだな』と呟く。

「…………聞かせろ」

「おん?」

「儲け話があるんだろ……聞くだけ聞いてやる……」

――――――――――――――――――――――

「なんだいアンタ……けったいな格好して」

オバハン主婦は、待ち合わせ場所に現れた負け犬を胡散臭そうに睨んだ。

「取引先と話すなら、普段の格好は良くないと思いまして……」

負け犬の格好は、スーツ姿に傷んだ髪をワックスで撫で付け、ネクタイを締めたサラリーマンスタイルだ。

話し方まで変わった負け犬に、オバハンは鼻を鳴らすと、足元の幼女たちにチラリと視線をずらす。

「アンタたちも来たのかい……」

「どーもどーも、おはようございますマダム」

「……よろしく主婦、そして娘よ」

負け犬に幼女二人、そして自分と娘のリリア。

随分と大所帯になったものだとオバハンはビルを見上げる。

「それでは時間だな。……行くぞ」

「……まかせたぞ負け犬」

白いビルの下で、負け犬はチャキリとメガネをあげた。