軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ダンジョン産ではありません

「えーっと、会場は三十二階だったかねえ?」

街中に立つ、白い高層ビル。

オバハン主婦は、パイプ端末の案内欄を確認しながらエレベーターのボタンを眺める。

「わたしっ! わたしが押す!」

「仕方ないねえ。ほら、リリア。32を押すんだよ。わかるかい?」

「わかるー!」

足元でピョンピョン跳ねる娘の脇を持ちあげると、娘のリリアは32と印字されたボタンを楽しげに連打する。

「チケットまで用意して、いったい何のつもりなのかねえ?」

エレベーターの中で困った顔をしながら、主婦は件の白髪幼女を思い浮かべる。

人形をラリアードールに変える魔石を埋め込む、その代金を格安で請け負うと言われた時には、悪いが疑った。

出会いの胡散臭さもそうだが、娘と変わらないほどの少女たちからは、他人を利用してやるという気配がある。

所詮は人様の子だ。害さえなければ、こっちもうるさい事は言わない。

だが、そんな子供たちが、明らかに何かを企んで、娘の人形に手を施し、チケットまで用意してきた。

疑わないワケがない。

しかし、警戒はしても、白髪幼女の出してきた条件はどう考えても、こちらに不利になるとは思えなかった。

懸念していたラリアードール化も問題はなさそうだ。

いや、ラリアードールについて詳しいワケではないので、問題が無いのかどうかは分からない。

それでも素人目には問題なさそうだし、気に食わなければ取り外してお金も返すという。

チンッ……という音と共に、エレベーターの扉が開く。

「チケットを拝見します」

「あいよ。これだね」

機械でチケットを読み取り、会場へと足を進める。

「チケットも問題なしかい……」

白髪幼女に渡されていたチケットも偽物ではないようだ。もっともこのチケットが偽物だとして意味は分からないが……。

会場は吹き抜けのフロアになっており、立食形式のテーブルが並べられている。

そして、すでに会場に到着していた者たちは、思い思いに食事をとり、談笑していた。

「まぁ、お食事券でも貰ったと思って楽しむかね」

普通の立食パーティのように見える。

だが、この会場にいる人間にはある特色があった。

それは親子連れが多い事。

そして、どの子供の手にも、ラリアードールが抱かれている事だ。

この会場は、ラリアードールの制作会社【フィードバック社】が自ら行う、コミュニティの会場である。

「リボンかわいいね!」

「お宅のお子さんのお洋服。どこの会社で制作してるのかしら?」

「知り合いの仕立て屋で特注で作ってもらいましたの」

「あら〜、じゃあ既製品じゃないのね」

子は子で、親は親で情報の交換を行う。

会場には、制作会社のフィードバック社員もいるようで、こう言った会場での生の声を聞く事で、ラリアードールの制作に生かしているらしい。

特に今回行われるオクトー区域コミュニティでは、本社の人間も来ているようで、気合いが入っているようだ。

「……へぇ、色んな種類の人形があるもんだね」

「おかあさん! ほかの子たちとお話ししてきてもいい?」

ガラスにディスプレイされたラリアードールを眺めていると、娘のリリアが目をキラキラさせながら主婦に問いかけてくる。

その言葉に、主婦は少し気まずそうな顔をしてしまった。

ラリアードールを持つ子供たちとお話をしてコミュニケーションを取るのは、確かにこの会場の趣旨だろう。

しかし、周りの子たちが持つ、ラリアードールを見てみればわかる。

娘のリリアが持つラリアードールは、ただ買っただけの物だと言う事だ。

人形のお洋服や、アクセサリー。

果ては化粧までされた人形たちだ。

言わば、リリアの持つ人形は無課金装備であり、その事実を知ったリリアが嫌な思いをするのではないか、という心配。

「もし、よろしかったら少しお話ししませんか?」

そんな顔をしていたら、後ろから話しかけられた。

「この集まりに参加するのは初めてかしら?」

自分とは違う、上品そうな雰囲気の女性。

明らかに上流階級のその女は、ニコリと清楚な笑みを浮かべている。

「買ったばかりで、オシャレをしていないラリアードールの事を気にしているのかしら? 大丈夫よ。最初はみんなそんなものだし」

「あ、ああ、そんなモンかい? そう言って貰えて嬉しいよ」

そうだろうか? それにしては、周りの子が持つラリアードールに比べて、飾り気が少ない気がする。

そうこうしているうちに、ワラワラと母親たちが集まってきた。

最初に話しかけてきた女性はそんな事ないが、やはり娘の持つラリアードールを、見下しているような視線を向ける母親もいた。

「……嫌な視線だねえ」

誰にも聞かれないように独り言を呟く。

表面上では気にしなくていいと言っているが、こう言った視線は分かるのだ。

「……まぁいいさね」

嫌な気分にさせられるのは仕方がない。

今回は白髪幼女の指示で来たのだ。次回から来ることもないだろう。

「……リリア、行ってきていいよ」

「ほんと?」

もしかしたら嫌な気持ちになるかもしれない。

でも、ここに居る親達の視線の方が厄介だ。

逃す意味も込めて、子供達の集まりに送り出す事にした。

もしかしたら親より陰湿だったら笑えないけどね。とそう思いながら。

「うん! 行ってくる! 【フォル】ちゃん【ついてきて】」

『分かったわ』

コマンドを受け付けたラリアードールが目をパチクリと開いてニッコリと笑う。

「「「「…………」」」」

「走らないようにしなよ」

「うん!」

リリアの腕に抱かれていたラリアードール【フォル】が、リリアの腕から飛び出し、周りをキョロキョロ見渡す。

『今日はイッパイお友達がいるのね』

「「「「…………」」」」

自分の周りに大勢の魔力反応があった場合に起こる、シークレットコマンドが発動し、そうフォルは言葉を発した。

そして子供たちの集まりに向かうリリアの後を、トコトコついて行く。

しかし、子供の足とはいえ、人形は体躯が小さいので歩幅の関係上距離が空く。

すると人形は自身のスカートを摘んで、トットットットッと小走りで追いつく。

まるで人間のようなその動きに、主婦は最近の人形は凄いねぇと改めて思う。

「はじめまして! リリアです!」

「はじめまして! わたしはミリアーデです! この子はアデリーちゃんです」

「この子はわたしのお友達の【フォル】ちゃんです! フォルちゃん【挨拶して】」

『こんにちは、私は【フォル】よ』

リリアの後ろから出てきたフォルは、【挨拶して】コマンドを受け取り、スカートを摘んでカーテシーを披露する。

これは挨拶コマンドで、リリアが教えた仕草である。

その光景にホッと主婦は息を吐いた。

どうやら子供たちの輪に加わるのは問題なかったようだ。

だが、ここでようやくオバハン主婦は会場の異変に気づいた。

「「「「……………………」」」」

静まり返った会場。

「「「「……………………」」」」

顎が外れんばかりに口を開けた母親たち。

「「「「…………………………」」」」

目を大きく見開いたまま、呆然とした表情をするフィードバック社員。

その視線の先には、娘のラリアードール【フォル】がクスクスと笑う姿があった。

いったい何が起きているのか……主婦はよほどフォルが無課金丸出しでおかしいのか不安になってしまった。

そんな中、一人の主婦が呟いた言葉が、静まり返った会場に響く。

「……え? 何あれ? 人でも入ってるの?」

――――――――――――――――――――――

人でも入っている……その言葉は会場にいる全員の言葉を代弁したものだった。

だが……それはあり得ない。

なぜなら人形は人形であり、子供が腕に抱えられる大きさしかないのだから。

そしてその体躯はスラッとしていて、大きさは子供の三分の一ほどしかないにも関わらず、シルエットは大人の女性のようになっていて頭は小さい。

人間の形をしているが、一目で人形だと分かるのだ。

「……どういうコトかしら?」

怒気を含ませた声を上げたのは、オバハン主婦に最初に話しかけた上流階級っぽい女性。

しかし、その対象は自分ではなくフィードバック社員に対してだ。

「聞いてないわ! 新商品の情報なんてどこにもなかったじゃない」

「し、知りません! 私は何も知りません」

いつの間にか会場は阿鼻叫喚に包まれていた。

事情が分からない子供達は、親のその剣幕に怯えている。

「……いったい……これは何事だい?」

主婦は何が起きているのか分からないが、朧げに自分たちの持ってきたラリアードールが原因だと察した。

――――――――――――――――――――――

「どうぞお掛け下さい。ラリアードールをお返しします」

「……あぁ、悪いね」

幾分疲れた顔をしたオバハン主婦が、勧められた椅子に座り、隣に娘のリリアが座る。

リリアはラリアードールを一時、フィードバック社員に持っていかれ頬を膨らませていたが、返されると笑顔になり、テーブルの上に人形を置く。

「【フォル】ちゃん。ちょっとここで【立って待ってて】」

『分かったわ』

人形はテーブルの上で立ち上がると、目を閉じて待機をし始めた。

その光景をみて、おそらくフィードバック社の上役であろう男が頬を引き攣らせる。

「ふ、ふふ。恐ろしい技術力ですな……」

上役の男は、動揺をお茶で洗い流すと、ため息とともに覚悟を決めた表情をする。

「言いたい事は存分に伝わりました……」

「何のことだい?」

「分かっています。まさかラリアードール【オリジン】のデータがあるとは……」

「だから何の事だい!?」

「……え?」

話が伝わらない。何をしたり顔でラリアードール【オリジン】とか言っているのか……。

「ふむ、何のことか分からない……と?」

「分かるワケないだろ! イチから説明おし!」

いい加減こっちもイライラしているのだ。

ワケも分からず会議室に連れてこられて、意味の分からないことを『知っているぞ』とばかりに駆け引きしてこようとする。

まるで犯罪をして問い詰められている気分だ。

「……失礼。本当に分からないようですな。お宅のお嬢様の持つラリアードール【フォル】。これに使われている魔石は既製品ではないですよね?」

「ん? あぁ、知り合いが入れてくれたモンさね。まさか……盗品や犯罪に関わりがあるのかい?」

疑いたくはないが……あの胡散臭い少女二人ならあり得ると思ってしまった。

知らないうちに、犯罪の片棒を担がされていたのかもしれない。

「ああイヤ、犯罪には一切関わりがないので落ち着いてください。ん〜何と説明しますかね……奥様はラリアードールについて殆ど何も知らないようですな」

「人形自体を買ったばかりだからね。知り合いが人形をラリアードールにしてくれるって言うから、任せただけさね」

「なるほど、ちなみにこのコミニティーに参加するよう言ってきたのはその人物なのでは?」

「……そうさね」

ふむ、と上役は頷き口を開く。

「ハッキリ言いまして、お宅のラリアードールは異常です」

「……欠陥品なのかい?」

「いえ、そうではなく。普通のラリアードールは瞬きこそすれ、歩いたり人の名前を覚えたりしません。もちろん個体の名前は存在し、セリフの中で個体の名前を発したりはしますがね」

「…………」

テーブルの上で立ちながら目を瞑る人形に目をやる。

……メッチャ歩くし、何なら言葉どころか動きすら覚える。

え? なにこれ?

「……お宅のフォルさんの異常性が分かりましたか? そして私たちは、そのシステムがノドから手が出るほど欲しい」

駆け引きなしのその言葉に、主婦は頭を抱えそうになった。あの白髪幼女たち、いったい何をしでかしてくれたのだ……と。

「……勝手に作ればいいじゃないか……」

「無理ですよ。知ってますか? 同じ機能の物を作ろうとすれば、一体につき豪邸が立ちますよ」

「はぁ!? え、だってこれくらい……」

「作るだけなら出来るでしょう。ただし、大きさは人間三人分位になりますがね」

「巨人だね……そんな人形家に入らないよ」

「その通りです。そして、小型化するなら高純度の魔石が必要になります……しかし」

そこで上役はフォルに視線を向ける。

「このラリアードールに使われているのは、一粒幾らかの安物なんてすよ。しかも本来用途の違う目的に加工された魔石に施されています」

「…………なんだいそりゃあ」

「物理的にこの魔石では、ラリアードールを動かす【魔術プログラム】が書き込めないのです。失礼ですが、魔石のプログラムを拝見させて頂きました。ですが、そもそもプログラムですらありませんでしたね。そう言う『魔力』としか言いようがありません……」

「じゃあコレは……」

「そうですね。だから異常です。魔術プログラムとは結局、人間が分かるように形体化させたものに過ぎません。未知のものを擬似的に模倣するのが魔術プログラムなのです。だから、この魔石の正体は何となく分かっているのです。魔術プログラムを使用していないダンジョン産の特徴……」

「……それは?」

「一昔前にダンジョンから発掘された人形がありました。ラリアードール【オリジン】。人の言葉を話し、動き、感情があるように振る舞ったそうです……今はどこかに消えたらしく、ただの噂と言われてますがね」

「……」

「我が社が作っているラリアードールは、その【オリジン】の噂を元にマネて作った物なのです」

「じゃあこの人形に使われている魔石には、その【オリジン】の魔石が使われているってことかい?」

「いえ、そのコピーでしょう。解析しようにもブラックボックスどころか、存在そのものが不明の未知の魔力です。それが既製品の魔石のはずがありません」

「……じゃあアンタんとこは、その魔力をコピーしたいってことなのかい?」

「言ってしまえばそうですね」

なら勝手にすれば良かったのにとも思う。

「勝手にコピーすればいいと思いました? ハハハッ、そんな不誠実なマネしませんよ。というか……できません。魔術プログラムで解析できない物をコピーするなど不可能ですよ」

「じゃあコレは何なんだい?」

「そこです! この魔石は解析出来ませんが、解析しようとするとパスワードを求められるのです……ここだけ人類のプログラムに寄り添っているのですよ。コレを人形に入れた人物は、私どもに解析されようとするのを待っていたんです。つまり、パスワードさえ分かればコピーも出来ると踏んでいます。いえ、間違いなくパスワードを売り込みたいのでしょうね」

「…………」

「紹介頂けませんか? この魔石を組み込んだ人物に、貴方の希望通りパスワードの買取をしたいと……ラリアードール【オリジン】のプログラムを買い取りたいと」

オバハン主婦は疲れたように目頭を揉む。

「一応……話は通して見るけど、期待すんじゃないよ」

話を通すもなにも、あの幼女たちがコレを仕込んだとは思えないのだが。

ここでオバハン主婦の間違いがあるとしたら、仕込んだのは間違いなく白髪幼女であり、そして予定通りだったりする。

そして白髪幼女はラリアードール【オリジン】なんて知らないし、勝手に勘違いしただけである。

「はぁ面倒だねぇ……ダンジョンで拾ってきただけの魔石じゃないのかい?」

――――――――――――――――――――――

スキマの中で白髪幼女は、パイプ端末上のプログラムを弄りながら呟く。

「…………そろそろ釣れたかな?」