作品タイトル不明
み た な
「ただいま〜」
「……おかえり」
スキマに帰って来た私は、中で魔石を手に天井を向いて寝転がっている幼女ちゃんに声を掛ける。
「両手塞がってっから、ちょっとチャブ台持って来て」
「……うぃ」
彼女は寝転んだまま、ゴロゴロとスキマの壁際まで転がると、壁に立て掛けてあるチャブ台を器用に足で倒す。
「行儀が悪いなぁ」
私はそう言って、幼女ちゃんの倒したチャブ台を足で中央にずらした。
「……いえたぎりか?」
「だからヤメロなんて言ってないじゃん。ソレを言うのはママさんであって私の役目じゃないし〜」
「…………それもそうか」
あ、でもママさんに再会して怒られたら、私のせいにしないでね。一人で怒られるか行儀よくしなよ。
私、知らんからな。
「はいこれ、お持ち帰りボリューム肉弁」
「……コスパ最強よな」
「暗い時間に行くと、親はどうしたのか聞いてくるのが厄介だけどね」
チャブ台に買って来た弁当を二つ乗せ、晩飯にする。
「んぐんぐ、そんでぇ? そっちの調子はどうッスかね?」
「もっちゃもっちゃ、元のプログラムはほとんどマネてある。いちど主婦の買う人形に組み込みたいところ……」
幼女ちゃんがやっているのは、人形のお喋り部分のプログラムだ。本人曰く、『自分ならもっと良い物が作れる』とのことだが……。
「あれ? もう完成したの?」
「……まだ、追加のセリフを200くらい追加しただけ。後はソレ以外の構築……魔力を拡張させて行き渡らせるプログラムをやってる」
「未完成の状態で人形に入れちゃうんだ。後で取り出すの面倒臭くない?」
「……問題なし」
ふむ、今すぐ主婦の買った人形に魔石を組み込むのは問題ないらしい。
幼女ちゃんの説明は正直よく分からなかったけど、私なりに解釈するなら、データをネット上に上げておくことで更新出来るらしい。
アレだね。ゲームのアップデートをネットでやるやつ。 DLC(ダウンロードコンテンツ) みたいなもん。……多分ね。
だから一度人形に魔石を埋め込んじゃえば、幼女ちゃんが遠隔でプログラムを更新できるってワケだ。
「……ただ、すこし問題がある。セリフを考えるのがメンドイ」
「あ〜……」
ラリアードールってのは、100程のセリフをランダムで喋るらしい。そして幼女ちゃんが200ほどセリフを追加した300くらいは喋るんだろうけど……幼女ちゃんはまだ納得してないらしい。
お前は職人か?
まぁでも、幼女ちゃんの計画だと主婦に魔石売って『ハイ終わり』ってワケじゃなさそうだし、足りないんだろうね。
「……オバケ姉ちゃん。セリフの案ない?」
「ん〜……私、よく分からんからなぁ。まぁ、セリフの案くらいなら考えてみるよ」
「……ん。ソッチはどう?」
「こっちはボチボチよ。ジャックに続くオリジナルモンスター【サメ君】を実装してきた」
私の言葉に幼女ちゃんは首を掲げて「……サメくん?」と聞き返してくる。
お、聞きたい? なんならコレは幼女ちゃんも知ってるモンスターだからね。
「んじゃ、ちょっと見てみますか!」
そう言って私は、お弁当を食べているチャブ台の前にモニターを浮かべる。食事中のテレビ代わりだね。
モニターに映ったのは、ゴーストタウンの道路。
そのビルの曲がり角から、ヌウ……っとゆっくり五メートルほどのサメが顔を出す。
「……え……こわ」
そのサメは水もないのに空中を移動し、水中のように泳ぐ。
黒塗りの瞳は無機質で、魚類というより昆虫のような無慈悲さを感じる。
僅かに開かれた大きな口からは、鋭く尖った歯が覗かせており、ゆったりと泳ぐその姿とは真逆の獰猛さを窺わせた。
「どう? 【徘徊獣サメ君】中々の迫力やろ?」
「……うん」
「普段はゆっくり泳いで愚鈍に見えるかもしれないけど、冒険者を視認したら牙を剥き出しにして襲って来るんだよ」
「……」
「あと動きが静かだから油断するとイキナリ後ろから現れてくるだろうね。そして血の匂いに敏感だから、怪我をすると何処までも追ってくるよ!」
「……えぐい」
「幼女ちゃんサメ好きだもんね! 私、だから実装したんだよ!」
「……空中を泳ぐサメは……ちょっと」
『う、うわぁっ! サメ!? なんでサメが!?』
『鑑定アプリに該当なし! 魔物じゃない!』
『う、うわぁああ!』
「あ、後でモンスター図鑑に登録するから文字起こしお願いね」
「……めっちゃ襲われてる」
そうそう、サメ君はジャックと違って理不尽モンスターじゃないから倒せるよ。
だいたいザコモンスター五匹分くらいの領域エネルギーを注ぎ込んであるから、ちょっと強いけど……。
――――――――――――――――――――
「な、なんとか逃げ切ったか……」
巨大サメから逃げ切った冒険者は、一人公園のベンチに座り込む。
このドリームランドが、特殊ダンジョンだと言うことを身をもって知らされた。さすがに魔物鑑定アプリで『該当無し』の存在は迂闊に手を出すことが出来ない。
そんな事を考えていたら、ダンジョンアプリに更新が入り、モンスター図鑑に【徘徊獣サメ君】の情報が載っていた。
どうやらこのダンジョン固有の魔物は、モンスター図鑑とやらに記載されるらしい。徘徊獣ジャックと同じパターンだ。
「……あとで色玉を使って情報を開示しないとな……」
このダンジョンでドロップする色玉を使用すれば、図鑑の魔物の情報を見ることができる。
ジャックで言えば、耳が良くないとか役にたつ情報が多い。
「しかし、サメ君か……」
巨大なサメがゆっくりと移動するのは、なぜか根本的な恐怖を掻き立てる。
そして、何処を見ているのか分からない、あの瞳。それなのに体は真っ直ぐにコチラへ向かってくるのだ。
気づいているのに、気づいていないフリをしているようで、逃げた後でも警戒心が緩められない。
一緒に来ていた冒険者二人とは逃げる最中に離れ離れになってしまった。
幸い、この公園は『ちぇっくぽいんと』だ。少しここで待ってみて、仲間がやってこないようだったら、入り口で待ってみよう。
「ふむ……徘徊獣サメ君……喰われると入り口に戻されてゲームオーバーか……」
モンスター図鑑の開示されている情報を見て考えてみる。この特殊ダンジョンの特徴は脱出すると怪我が無くなること……。
喰われるとゲームオーバー……つまり。
「喰われても死なないということか……」
徘徊獣ジャックと同じ種類の魔物ということだろうか? 仮に仲間が逃げ遅れていたとしても、入り口に戻されているだけだろう。
「……なんとも、優しいダンジョンだな」
皮肉のような言葉が口から出る。
怪我をしないのなら確かに『優しい』のだろう。
だが、ソレがむしろ……不気味に思える。
いったいこのダンジョンは何なんだ?
そんな事を考えていた時、不意にあるアプリの存在が思い浮かんだ……。
『ダンジョン鑑定アプリ』
本来ならあんまり出番のあるアプリではない。
出来る事といえば、ダンジョンの魔力を読み取って、ある程度のダンジョンのタイプを知る事だけ。
初めて探索するダンジョンなどに使うことがあるが、大抵は『該当無し』としか表示されないことが多い。
分かれば儲けものくらいの欠陥アプリと言って良い。
だから……
男は……
軽い気持ちで、そのアプリをドリームランドに使用した……。
『ダンジョンで使用して下さい』
「……………………あ?」
見慣れないその表記。
男は首を捻る。
該当無しではなく……ダンジョンで使用して下さい?
ダンジョン鑑定アプリは、ダンジョンの魔力を精査して該当があれば教えてくれるアプリ……。
『該当無し』はその魔力が鑑定できなかったことを現す。精査した魔力が該当しなかったが故の『該当なし』。
だが、『ダンジョンで使用して下さい』と言われた。
ならば……
つまり……
ここは……
「…………ダンジョンじゃない?」
ゾクリと背筋に氷を入れられた気がした。
ダンジョンじゃないなら、ここは何なのだ?
そもそも、ダンジョン自体が言っているではないか……『ここはダンジョンです』……と。
安全圏であるはずの公園が途端に、不気味な場所に見えてきた。
風でサワサワと木々の揺れる音が聞こえる。
その音がまるで自分を見ているような気がしてくる。
ピコンッ……
パイプ端末に通知が届いた。
ゴクリと唾を飲み込み、メッセージを開く。
【コ コ は ダンジョン です】
シ ャ ベ ッ タ ラ
ノ ロ ウ
――――――――――――――――――――――
「幼女ちゃん。あの冒険者にメッセージを送ったけど、どうしたん?」
まぁ、言われた通り送ったけど。冒険者固まってるけどなんて送ったんだろ?
「……ダンジョンの魔力を調査された」
「おん? マズイの?」
「……たぶん。ほっとくとよくないかも」
「えぇ……どうすればいいかな」
「……調査されたら防げない?」
「ん〜出来るよ。ちょっと原理が分からんから、ザックリと防ぐことになるけど」
そうなると領域エネルギーの消費が大きいのよね。
「……調査されたら、エラー起こすだけでいいよ」
「おけ、やっとく」
――――――――――――――――――――――
「さて、今回は何のゲームをやろうかね」
はいはい、私の領域でゲームのお時間です。
今は余裕があるから、差し迫って欲しい能力もないんだよね。
そういや、幼女ちゃんが人形に仕込むセリフに悩んでたな……。
私にはあんまり、ソコんところ期待はして欲しくないんだけどね。まぁ、少しでも参考になりそうなゲームでも探してみるか……。
「なにか幼女ちゃんのヒントになるかもしれないし」
それプラス、そのゲームでダンジョンの期間限定イベントとか出来ないかな?