軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

君に『教育に悪い』の称号を与えよう

「オマエら、近くにできた新しいダンジョンのことを知っているか?」

ダンジョンの休憩中に、負け犬が自前のコーヒーを淹れながら口を開く。コイツ良いもん飲んでんな……。

「ん〜……ゴーストタウンのダンジョンのことッスかね?」

「そうだ……」

あぁうん、知ってるけど? それウチのダンジョンだもん。

「あぁ、『ドリームランド』の事さね。それがどうかしたかい?」

主婦のオバハンが、ボリュームのあるパリジャンサンドのような食べ物に齧り付きながら答えた。コイツも良いもん食ってんな!

私の作ったダンジョンが『ドリームランド』と呼ばれているのは知ってるよ。ダンジョンに来た冒険者の会話を盗み聞きしてたからね。

ドリームランド(夢の国) ……なかなか適切な表現するじゃない。

「冒険者が話していたのを、たまたま聞いたんだが……安全なダンジョン……らしい」

ふむ、間違ってない。

不本意ながら、怪我を負わすことが出来ない仕様のダンジョンだからね。

「危険がないのなら、向こうのダンジョンに行ってもいいんじゃないかと思ってな……」

お前の言う危険ってたぶん、向こうのほうが人が少ないから安心出来るってだけだろ。

自覚があるかは知らないけど、少しでも人目を避けたい気持ちがあるんじゃねぇかな?

「アタシゃなるべく遠慮したいね……あの土地はマズいよ」

後半の方だけ声を抑えてオバハンが反対する。

どうでもいいけどその話し方、井戸端会議で噂話を楽しむ主婦みたいだね。

「ここだけの話なんだけどさあ……」で病原菌のように情報をばら撒くタイプの主婦かな?

「あの土地は『呪われた街』って言われてた場所さね」

「の、呪われた街?」

「そう、あの街に住んでいると……狂っちまうのさ」

オドロオドロしく顔を暗くする主婦に、負け犬はゴクリとツバを飲む。

しかし、主婦は不意にパッと笑顔を作るとカラカラと笑い出した。

「アハハッただの冗談さね! 実際は集団パニックが起きただけだろうさ。でもドリームランドは特殊ダンジョンだから行くんなら情報を集めてからにしたほうがいいね」

「そ、そうか……なら考えてみてもいいかもな」

ふむ、ちと良くない流れやね。

幼女ちゃんに視線を送ってみれば……顎をクイッと負け犬に向けて私に抗議してきた。

何とかしろってことね。

「あ〜負け犬ニーサン……ドリームランドはオススメしないッスね」

「なんだ? なにか知ってるのか?」

さて、なんと説得したもんか……。

ま、ええか。

有りのままの情報を教えてやればいいだろ。私のダンジョンは間違いなく私達に向いてないんだからね。

「ドリームランドはね。戦うのが前提のダンジョンなんすよ。モンスターのドロップする色玉ってのを使用して宝箱開けたり、情報を開示したり、イベントをこなすダンジョンなんですね」

「い、イベント?」

「んで、私たちのスタイルは戦闘をなるべく避けて、宝箱や落ちてる物を拾うコソ泥スタイルですからね」

「……詳しいな」

そら自宅ですからね。

まぁ、私の作ったダンジョンをオススメしない最大の理由はそこじゃないんだけどね……。

ハッキリ言っちゃうと……私と幼女ちゃんがいる時点でダンジョン内のドロップが起きないんすよねぇ……。

宝箱を開けても空! はい完全に無意味です。

なぜならダンジョンを作った時の『制限』のせいだね。ほら、ダンジョンのドロップの時に設定してたよね。

⚫︎感情エネルギーによって生み出したアイテムは、自分の物にはできない。

この制限があるから、私のダンジョンは領域エネルギーの赤字を出さずに済んでるんだよ。

だから私たちがダンジョンに同行した時点で、何の成果も得られなくなっちゃうぜ!

ま、興味があれば、私と幼女ちゃんを抜いて行ってみればいいよ。宝箱の開錠と荷物の持ち運びがなくて、まともに探索できるならね。

あ、途中で徘徊獣ジャックにであったら、持ち物もパァになるからね。

「お前、なんでそんなに詳しいんだよ……」

「いや〜、私の人に好かれる愛嬌あれば、これくらいの情報収集なんて朝飯前ッスわ!」

「……愛嬌に喧嘩売ってるのか?」

「なんて事を言うんッスか! 私は溢れ出る愛嬌で『サークルクラッシャークラッシャー』と呼ばれていた程の罪な女ですよッ!」

「よく分からないが、サークルクラッシャーとやらをクラッシャーしたんだな……」

――――――――――――――――――――――

「……ぬ、そこな主婦……」

「うん、どうしたんだい?」

ダンジョンでのドロップを換金し終わり、さて解散しようかとなった時に、幼女ちゃんがオバハン主婦に話し掛けた。

オバハンは、普段自分からあまり話しかけてこない幼女ちゃんに対して、少し驚いたような顔をしたが、すぐに太陽のようにニカリと笑い返す。

「……ラリアードールについて話がききたい。おしえよ」

「お、なんだい。人形に興味があるなんて、達観しているように見えて、しっかり女の子なんだねえ」

騙されんなよ……そいつ金のことしか考えてねぇぞ。

「丁度いいさね。あのニーサンの護衛代でラリアードール購入の目処も立ったからね。この後、娘と下見に行く予定なんだ。アンタ達もどうだい?」

「………………ともなう」

それから待つこと数十分。

神殿ダンジョン前の広場で暇を潰していたら、オバハンが娘を連れてやって来た。

「待たせたかい? ほら、娘のリリアだよ。挨拶おし」

オバハン主婦の後ろから、顔だけ出してコチラを窺うのは幼女ちゃんと同じくらいの栗毛の女の子。

「…………」

その娘さんは、恥ずかしそうにオバハン主婦を盾にしながら、それでもニコニコと笑みを浮かべる。

う、うん。アレだね。

子供に有りがちというか……初対面の人間に対して、恥ずかしいけど興味があるから笑ってる感じ……。

「わたしリリア。ねえ、どこからきたの?」

「お、おう。外から来た感じッスね」

「そうなんだ。えへへへ」

な、何が面白いん?

ヤバい。私、子供は嫌いじゃないけど、好きでもないんだよ。

何考えてるか分かんないっていうか……。

こんな子供らしい無垢さを見せられると、引いちゃうっていうか……。

だ、ダメだ……。この子私と相性が悪い!

ここはウチの無垢担当……幼女ちゃんに任せるしかない!

「よ、幼女ちゃんっ! 後は任せ…………」

「……ぬぉおおぉおおぉおぉぉぉ……おのれオノレおのれぇ……」

なんか幼女ちゃんが、日光を浴びた吸血鬼みたいになってんだけど……。

ダメだッ! 薄汚れた精神を持つ幼女ちゃんにとって、娘さんの放つ子供らしい無垢さが毒と化してる……。

「幼女ちゃん……しっかり。大丈夫?」

「……ぬぅ。だ、だいじょうぶ……」

「だいじょうぶ?」

「……ぬぉぉお!」

心配そうに幼女ちゃんを覗き込み、コテンと首を傾けた娘さんに、幼女ちゃんが腹でも刺されたかのように呻く。

どうやら子供としての劣等感を抱いているらしい。

……幼女ちゃん、よく見ておきなさい。これがキミの捨てた物だ。

キミは無垢の振りは出来ても、無垢ではないからね!

ゴメン……ちょっとウケる。

「……ぐ、むすめよ。同行させてもらう」

「えへへ、いいよ」

「……グフッ。どんな人形がほしいか、参考までにおしえよ……」

幼女ちゃん頑張ってる!

幼女ちゃんが、ラリアードールとやらを使ってどうしたいか知らんけど、苦手な相手に市場調査をしようと頑張ってる。

「えへへへ、お母さんがお人形を買ってくれるの。お友達になれるかな?」

「……ぬりぃこと言ってんじゃねぇ」

「はいストーップ! 退がれ幼女ちゃん!」

ドクターストップです。

劣等感を隠しきれてません。

母親もいるからね! 一応、協力者なんだから不興は買いたくねぇのよ。

「やれやれ、娘に変な事教えないで欲しいんだけどねえ」

あ、オバハン主婦から正式に『教育に悪い』判定を頂きました。

かつて私が白髪ママに貰った称号を、そのまま幼女ちゃんに授与します。

時代は巡るね。ざまぁ……。

――――――――――――――――――――――

「お、おお? なるほど、肌の部分は柔らかい素材で出来てんのね。フニュフニュする。よく出来てんなぁ……」

人形の腕を突きながら、私は顎に手を当てる。

あの後、子供のアイデンティティに悶え苦しむ幼女ちゃんを宥めすかし、ラリアードールの売っているショッピングモールへとやって来ました。

「……ふむ、部位ごとに魔力の通り道?」

幼女ちゃんも割り切ったのか、いつも通りの態度に戻ったようで何より。

店の店員による説明を、シッカリと聞いていた幼女ちゃんは興味深そうに人形を見ている。

「ラリアードールが破損した場合は、当店にご持参頂くと、格安で修理いたしますよ」

店員が言うには、人形は部位ごとに取り外しが可能で、破損した部分を取り替えるだけで修理が可能なのだそうだ。高い買い物だからね。

「……しゃべる機構は……べつ?」

「そうですね。お客様がオーダーされた人形に後で付ける形になっております」

「……なっとく。しゃべるラリアードールもみたい」

そう言って幼女ちゃんは、喋る人形……ラリアードールを見て回る。

うん? 幼女ちゃんの目が、ほのかに赤く光ってるね。幼女ちゃん何しようとしてる?

「待たせたね。こっちは人形のデザインを見終わったよ」

オバハン主婦と娘さんは、どうやら人形のデザインを組み合わせていたようだ。パイプ端末に映る映像には、ピンク色の服を来た人形が映し出されている。

「お金が貯まったら買いにこようかね」

どうやら、喋らない人形単体でも売っているようで、それを喋るラリアードールに変えるのが高いらしい。

店員の話によると、ラリアードールのセリフは100を超え、パイプ端末により定期的に行われるアップデートでセリフ数も増えていくらしい。

しかも、セリフ中に瞬きもするとか……。

高いだけはあるね。

「さて幼女ちゃん。まさかあの人形を作るワケじゃないよね?」

主婦親子と別れてからの帰り道、考え事をしている幼女ちゃんに話し掛ける。

いくら幼女ちゃんが解の巫女でも、人形作りは専門外のはず……。

「……うん、わたしが作るのは 人形(ハード) じゃなくてソフトのほう」

「ほっ?」

「……しゃべる機構をみてた。いたって単純な機構。人形の眼球に埋め込まれた魔石から声がでてる。わたしならもっといい物が作れる……」

「随分な自信だねぇ」

「……いまから魔石を買う。それを主婦に売りつける」

「なるほどぉ、人形だけ買わせて喋る機構を幼女ちゃんが作ると……その差額をオバハン主婦から貰うんだね」

考えたね。

喋らない人形を買わせて、幼女ちゃんがラリアードールに変える。必要なのは魔石の値段だけと。

「……違う。格安で売る」

「おん? オバハンに売りつけて一儲けしようって魂胆じゃないの?」

「……主婦をカクレミノにして……釣り上げる」

ふ〜ん、何考えてんのか知らんけど、もっとデカいシノギがあるってことッスかねぇ……。

――――――――――――――――――――――

「はぁはぁはぁ、な、なんだこのダンジョン」

負け犬は、古びた集合住宅の階段部分で、頭を抱えながら泣きそうな声を上げる。

『ドリームランド』……最近ゴーストタウンにできたと言われるダンジョンだ。

「ヒィッ……なにが安全なダンジョンだよぉ」

負け犬は一人、ドリームランドのダンジョンにやって来ていた。

安全だと言われていたダンジョン。

しかし、胡散臭いガキの話を鵜呑みにすれば、自分たちには向いていないダンジョンだと……。

だが、負け犬は自分の目で見てみる事にした。

もし本当に安全なら、もっと楽になるのでは……人目に付かずに安定した稼ぎが出来るのでは……。

欲が出たのだ。

それで失敗したくせに……懲りずに欲を出してしまったのだ。

ダンジョンに入ってすぐ、パイプ端末でダンジョンアプリを導入した。地図アプリ……便利だと思った。

魔物のエンカウントが多かったが、避けて通った。

遠くからなら魔物は反応しない。

だから安全だと思った。

だがヤツが現れた……。

『【ァァアアイボォォォオオオオ!】』

「ヒッ!」

悪魔のような見た目の……見たことのない筋肉質な化け物。

ソレは遠くの道路からコッチを視認して走って来た。

『【ァァアアイボォォォオオオオ!】』

「うわ、ジャックだ! 逃げろ! う、うわーー!」

階段で頭を抱える負け犬の耳に、他の冒険者の断末魔が聞こえる……。

「なにが……安全なダンジョンだよぉ……」

恐怖に涙がポロポロと溢れる。

あの胡散臭いガキの言うことを聞いていれば良かった。このダンジョンは俺に向いていない。

もう、ここから一歩も動くことが出来なかった……。

出口に向かおうとしても、きっとあの化け物がいる。

あの重厚な足音がトラウマになってしまっている。

どうすることもできない、ここから動けない。

しかし……

ペタ……ペタ……

「ヒッヒィ!」

蹲っていた集合住宅の階段……その上の階から降りてくる何者かの足音が耳に響く。

耳を塞ぎ、階段の踊り場に蹲る。

しかし、足音は自分のいる階段へと向かってくる。

負け犬は恐怖にギュっと目を瞑った。

「なぁ〜にやってんすか負け犬ニーサン」

「……」

「え? はっ?」

自分の目の前には、帽子を被ったいつものガキ二人が呆れた顔をして立っていた。

「えっ? お前ら……なんでこんな所に?」

「あ〜ん〜、まぁ私らの拠点がここら辺なんでね」

「ダンジョンだぞココ……」

「そっすね。まぁそんなことよりニーサン」

「なん……え?」

「ここは負け犬ニーサンに向いてないって言ったでしょ?」

「……あ、あぁ」

「ま、自分の目で確かめるのは悪い事じゃないと思いますけどね。ああ、外を歩いてるジャックに怯えてるんすね。アレ、捕まっても入り口に戻されるだけだから怖がんなくても良いですよ」

現実感がない……、こんなダンジョンのど真ん中に拠点を構える子供などいるのか?

本当にコイツらは、俺の知っているアイツらなのか?

そんな疑問が顔に出ていたのだろう……。

髪の長いガキはため息を吐くと口を開いた。

「仕方ねぇなぁ……今なら出口までモンスターもジャックも出ないから早く帰るんすよ。明日もダンジョンあるんすからね」

そう言って、階段を上がっていく。

「お、おい!」

「……」

呼び止めようとした俺を無視して、長い髪のガキは去っていくが、白い髪のガキは何かを考えるような顔をして上を向く……。

そして、口を開いた……。

「……負け犬、オマエはココに来ない方がいい」

そして僅かに口を動かして、白髪も上の階に上がっていく。

慌てて追いかけるが……

「いない……」

上の階には、隠れる場所もないのに、二人のガキの姿は何処にもなかった。

その後、無事にダンジョンを脱出できた。

長髪の言葉通り、魔物も化け物にも不思議なほど出会わなかった……。

帰り道で、寒さに震える手が助かったことを実感させ、安堵を覚えた。

しかし、最後に呟いた、白髪の言葉が妙に耳に付いた……。

オ マ エ は 狙 わ れ て い る