作品タイトル不明
人間に都合のいい自然物
「ダンジョン……ねぇ?」
うん、そろそろ目を逸らすのをやめようか。
なんやねんダンジョンって……。
最近ちょいちょい聞くようになったワードだよね。
マフィアから慰謝料として貰った『天然コア』とやらも、キモノお嬢がダンジョンから持ち帰ってとか。
あとは、収穫物として領域畑に吸収させたテーブルなんかもダンジョン産らしい……。
今までは、この世界の常識を知ろうとしてイッパイイッパイだったんだけど……。
ここにきてガッツリ、ファンタジーの存在が出てきて、考えるのを後回しにしちゃってたよね。
ダンジョン……私の考えるダンジョンってのは、RPGゲームで言うところの、モンスターやらお宝やら出てくる不思議な洞窟。
はたしてこの世界におけるダンジョンとは。
「まぁ、少しだけ予想はできる……」
キモノお嬢が持ち帰ってきた『天然コア』。随分と貴重で大事な物らしいじゃん?
今は幼女ちゃんのオモチャになってるけど、ここから察するに……。
「トレジャーハントかな?」
少なくとも、貴重な物品を得られる場所ってところは、確定でいいだろうね。
まぁ、グダグダ考えてもしょうがない。
もしかしたら私たちもその恩恵に、あずかれるかもしれんからね。
そのためにも、『負け犬野郎』の後をつけなくちゃ。
「……オバケ姉ちゃん」
「ん、ごめんごめん、考え事してた」
「……あれ」
「おおぅ……負け犬ニーサン。それ余計に目立ってるから……」
「ヒッ!」
この負け犬男、建物の影からソッと顔だけ出して辺りをキョロキョロ見渡してる。
う〜ん、逃亡者……。
分かる分かる。自分を探してる人間がいないか確認してるんだよね。
でも、すっげぇ怪しいからやめた方がいいよ。
「き、急に話しかけるな! 殺すぞっ」
小物臭ぇ……。
これほど迫力のない『殺すぞ』は初めて聞いたよ。
でも褒めてあげる。
オマエはいざとなったら『殺す』ことが出来る人間な気がする。
自分が一番大事だからね。
本当に殺さなきゃ殺されるって状況になったら、手を震わせながらも殺すんじゃない?
もっとも、その判断が早いかどうかは別としてね。
だからこそ、私たちはオマエに目をつけた。
分かりやすいんだよ。コイツの行動原理は。
自分が一番……私たちに通じる共通点だ。
下手に『人の為』とか、ほざいてるヤツよりよっぽど分かりやすくて付き合いやすい。
相手の利益さえ侵害しなければ、敵対しないからね。
「はいはい、そんなコソコソしてないで行きますよ」
「ど、何処にだよ……」
しらねぇよ……。
私はオマエに付いて行ってんだからね。
「……はやくして」
「お、おわ! ひ、ヒィ!」
後ろから幼女ちゃんに蹴飛ばされて、情けなく大通りに飛び出した負け犬野郎は、慌ててフードを被り顔を隠す。
「なにすんだよ!」
「堂々としてりゃ見つかりませんって、ほら行きますよ」
「……ッ」
負け犬野郎は、小者そうな渋い顔をして早足で歩き始める。そのあとを小走りで追いかける私たち。
うん、周りの人間はあんまり気にしてなさそうだけど、負け犬野郎の態度が挙動不審すぎて怪しいっちゃ怪しい。
やがて、たどり着いたのは神殿のような建物の前に広がる広場。
「祭りかな?」
「……にぎやか」
広場では色んな出店が並んで、なんか異国情緒溢れる感じ。発展した蚤の市みたいな?
人も多いし、コレだけ賑わっていたら私たちの存在を隠すのにも最適かもしれない。
それに、この世界の人の格好って前の世界とあんまり変わらないんだけど、ここで買い物してるヤツらは何処か冒険者っぽい感じで雑多だ。
うん、スマン。ダンジョンとか聞いてたから、思考がソッチに寄っちゃってるのかもしれん。
ま、とにかく剣とか持ってたり、鎧っぽいもん着てたりだね。
「……何処まで付いてくる気だよ」
「お気にせず〜」
そして、豪華蚤の市を足早に通り過ぎた負け犬は、神殿に入り、壁に手をつける。
すると、ウニョ〜ンと淡く光る魔法陣が発動して、その中に消えていった。
「これ、大丈夫かな?」
「……だいじょぶじゃない?」
幼女ちゃんと顔を見合わせて、負け犬に続くように魔法陣に飛び込んだ。
「……ッ。お前ら……こんな所までついてきたのかよ……」
「ども、さっきぶりッスね!」
「馬鹿! あんまりデカい声だすなよ」
そう言って男は辺りをキョロキョロ見渡す。そしてホッと息を吐いた。
「ふむ、洋館の中?」
私も倣って周りを見渡してみれば、ソコは洋館の玄関ホールみたいな所。
う〜ん? ワープした?
「ニーサン説明ヨロシク」
「……なんで俺がオマエに説明しなくちゃいけないんだよ……メリットがない」
「デメリットもないッスよ。でも、もしかしたらメリットに変わるかもね」
「……申してみよ」
「なんで コッチ(白髪) のガキは、さっきから喧嘩ごしなんだよ……」
「そう言う年頃なんで……」
「はぁ……」
負け犬野郎は、大きくため息を吐くと、頭を掻きむしってフードを脱いだ。
「後ろ盾がなくとも金を稼ぐ方法だったな……このダンジョンで得た物資を、外の市場で売る事だ」
「……ほう?」
うむ、だいたい想像通りだったね。
「つまり、後ろ盾がなくても外の市場なら売れる……と?」
「……そうだ。もっとも……いや、何でもない」
何でもないこたぁねぇでしょ。
「ニーサン、ここで洗いざらい話した方が後々得しますよ?」
「ッ、なんだよソレ。……どうせ子供のオマエらから買い取る店なんてねえよ」
やっぱりね。
そんな気はした。いくら身分証を使わなくとも物が売れると言っても、子供からは買いとらねぇか……。
無駄に発展してるせいで、そこんとこ、この世界厳しいんだよなぁ。
「オケ、分かった。そんじゃ行きましょうか!」
「……なんでだよ」
いい感じに疲れて来てんな。
よしよし、こうなったら情報は引き出しやすい。
面倒臭くなって割と答えてくれるようになるからな。
んで、館内を歩きながら負け犬野郎から聞いた話を纏めると。
ここのダンジョンは難易度が低い。
入るたびに場所が変わる。
ダンジョンから抜け出す方法は、来た時と同じ場所から脱出するか、別の魔法陣を見つける。
もしくは時間切れ……時間切れってなに?
そして、通路の突き当たりで立ち止まった負け犬は、小さく舌打ちした。
「……ハズレか」
行き止まりにあったのは、岩の塊?
「なんこれ?」
「鉄……だな」
えぇ……なんで洋館の通路に鉄が……。
ま、まぁダンジョンだし、そんなモンか?
「あれ? 持ってかないんスか?」
金になんじゃねぇの?
引き返す負け犬の背中に声を掛けると、面倒臭そうに答えた。
「……重くて邪魔過ぎる。それに鉄なんか売っても大した金額にならねえよ」
まぁ、確かに……この発展した世界で鉄なんてありふれた素材が高いワケない。ソレに重いだろうしね。
「ま、いいや。幼女ちゃん手伝って」
ある通路では、ソッと曲がり角を覗き込んだ負け犬が、『ヒッ』と声をあげて引き返す。
気になって覗いてみれば、黒いモヤモヤが三つほど漂っていた。
「あれは?」
「……魔物が発生しかけている」
ダンジョンらしいじゃん。
そして、ソレは通路のど真ん中に浮いたまま現れた。
「ん〜ニーサン説明。あの宙に浮いてるクリスタルは何ですかね?」
「……触るなよ。宝箱だ。このダンジョンは魔物の発生が少なくて難易度が低い。だが宝箱だけは凶悪だ。罠が仕掛けられている事が多くて、開けるのは専用の道具が必要だから決して触れないように」
「……せい」
幼女ちゃん(クソガキ) が宝箱を蹴飛ばしやがった……。
「何してんだテメー! ふざけんじゃねえぞ!」
「……あいたよ」
「ッ!」
頭を抱えて、床にうつ伏せになった負け犬の後頭部を見下しながら、幼女ちゃんが告げる。
クリスタルはカパっと開いて、ナイフが出てきた。
「おまえ……なんて危ねぇマネすんだよ」
「……だいじょうぶ」
出て来たナイフを手に取って、一通り眺めた幼女ちゃんは、それを負け犬に手渡す。
「……折半」
負け犬は呆然としながらも、ソレを受け取る。
「幼女ちゃん。アレ、罠とか無かったの?」
「……あったよ。解いたけど」
便利すぎんだろ解の巫女……。
しばらくは、幼女ちゃんが現れた宝箱を蹴飛ばして開き、負け犬が悲鳴をあげ、ソレを負け犬に渡すという作業を繰り返して、ダンジョンを抜け出した。
――――――――――――――――――――――
「マジかよ……」
入った時と同じように、ダンジョンから脱出した負け犬野郎は呟いた。
くたびれたリュックサックに入っているのは、普段は避けて通る『宝箱』から得た物品たち。
魔石なんかも混ざっていてコレを売り捌けば、この男の十日ほどの成果になる。
「……あり得ない」
白髪の幼女が宝箱を、馬鹿みたいに開ける度、冷や汗を掻いた。
しかし……何度も開けている内に、恐ろしい事実に気づいた。
罠が作動しない……。
明らかに不自然だ。
確かに罠の掛かっていない宝箱はある。しかし、こんなに連続で引くはずがないのだ。
つまり、このガキどもは、罠が作動しないように、何かをしているとしか思えないのだ。
何をしたのかは分からない。
だが、当たり前に宝箱を開く子供に、少しだけ恐怖を覚えた。
なにか、得体の知れない存在な気がして……。
そう思い、チラリと後ろを振り向くと。
「負け犬ニーサン……ちょいとコチラに……ね?」
柱の影からニヤニヤ笑いながら手招きをする、胡散臭い少女……。
そして、ゴクリと唾を飲み込みながら向かえば。
「これもついでに売っといて下さいよ。売れないってワケじゃないんでしょ?」
「オマエッ! これ!」
道中見つけていた鉄の塊……。
確かに大した額にはならないが、それは持ち運ぶのが大変で割に合わないからだ。
コレだけの量があれば、少なくとも自分の一日の稼ぎくらいにはなる。
だが……どうやってコレを持って来たと言うのだ……。
ダンジョンを出る直前まで手ぶらだったのに。
そんな混乱の中、胡散臭い少女は子供がするには意地の悪そうなニヤケ面を浮かべた。
「ね? 私たち役に立つでしょ。損はさせませんよぉ。つーことで、しばらくヨロシクね」
――――――――――――――――――――――
「ほんでぇ幼女ちゃん。いくらになった?」
「……六千ネルスくらい」
「ほ〜ん、負け犬はちゃんと半分こにしてくれたんかね?」
「……たぶん。何軒かの店を回って買取してたから分からないけど……高く買取る店を選んでたっぽい……やりおる」
ふむ、どうやら負け犬は私たちを有用だと判断したらしいね。
鉄の塊は幼女ちゃんと協力して、スキマに入れておいたんだ。
宝箱を安全に開錠できる幼女ちゃんと、物を大量に持ち運べる私……控えめに言ってダンジョン向いてますわ! ……子供でさえなければね。
「しばらくは負け犬に付いて回って稼ぐのがいいかな?」
「……いぎなし」
とにかく、お金の問題はこれで解決かな?
「……さて」
今度はコッチの話。
あのダンジョンとやらなんだけど、負け犬について回って感じた事があるんだよね。
「人間に都合が良過ぎる……」
真っ先に感じたのがコレ……。
なんだよ宝箱って……。誰が設置してんの?
でも、負け犬野郎はソレを不思議に思ってないんだよ。
つまり、この世界の常識ってことだ。
当たり前にそう言うモンとして違和感を持っていないんだ。
たぶん、コレは私の感覚が前の世界から脱却出来ていないから思うんだろうね。
でも、よくよく考えてみれば、前の世界にも似たような物は存在してるんだ。
『食虫植物』
甘い匂いをエサに虫を誘き寄せる自然の知恵。
そう考えると、ダンジョンって人間を誘き寄せてどうしたいんだろうね? 食うのか?
まぁ、この考えに至ったもう一つの理由。
「アレだけ人間が集まっているからねぇ……」
領域畑を試したんだよ。でも、結果は無理だった。
街中の至る所に存在する『歯車』と一緒だね。
ダンジョン付近は領域畑にできない……。
領域畑を作るなら人が多いのが良いのは当たり前だけど、作れなかった。
つまり、もしかして……
「先客がいるのかな?」
なるほどなるほど、ソレは分かった。
ダンジョンってのは、私の畑に出来ない。
でも、その方針はマネ出来そうなんだよね。
私は領域畑で感情エネルギーを貯めたい。
ダンジョンは最適だと思う。
でも、ダンジョンは誰かの物らしい。
だから天才的な私はこう考えたワケよ!
「ダンジョン……作っちまえばいいんじゃね?」