軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

モンスターよりモンスター

ガラガラと崩れ落ちるガラスドームは、砕け散った破片からサラサラと光の粒子となって消え去って行く。

なるほどぉ〜、確かにこれ幼女ちゃん案件だわ。

ガラスに見えてたけど、実際は不思議エネルギー関係の物だったんだね。

「お、騒いでる騒いでる」

ガラスドームが割れたことで、私の出した霧が晴れたんだけど、それを見て客席のほうが喧しくなっていた。

『ま、魔物が逃げ出すぞ!!』

『ふざけるなっ!! 誰か俺を守れ!!』

『キャーーーーー!!』

『ま、待てっ!! ワシを置いて行くな!!』

ほほぉ〜、裏カジノってことで限られた人間しかいないんだろうから、ドームの規模に比べて観客は少ないんだけどね。

それでも五月蝿いくらいに アビっ(阿鼻叫喚) てますわ。

「うへへ……いつまでも見てたいけどそうも言ってらんないかな?」

早いとこ、この騒ぎに紛れて逃げなきゃね。

「うぇ〜い、お疲れぇ」

闘技場の壁に両手を突いていた幼女ちゃんの元に戻ってくる。

「……そっちも」

「いい感じに混乱してるみたいだねぇ。ならさっさとずらかるッスよ」

「……もうちょっと」

幼女ちゃんはトコトコと、岩山の方へ走って行くと地面に手を置き始めた。

何してんのこの子? 土遊びとかいったらブッ飛ばすけど……まぁ、流石に遊ぶにしても時と場合を選ぶか……。

『皆様!! 皆様!! 落ち着いてください!!』

おん? なんかアナウンサーがこの期に及んで叫び出したぞ。この騒ぎをどう収めるつもりかね……。

『大変ご迷惑をお掛けしますが、設備の不具合により透過ドームが破損してしまいました。ですが安心して下さい。魔物は決して闘技場の外には出ることが出来ません!! 繰り返します!! 魔物は絶対に出ることが出来ません!!』

ふぅ〜ん、随分な自信じゃん。その心は?

『なぜなら!! 全てのペットには首輪が付いており、闘技場を起点に動くことが出来ないからです!!』

あ〜、なるほど?

つまりペットにはリードが付いてるからガラスドームが割れても大丈夫よってことね。

「とか言うとりますけど……そこんとこどーなん? ……幼女ちゃんよぉ」

ニィイイっと笑って地面に手を突いてる幼女ちゃんに問いかけてみる。

「……その起点って」

彼女は不思議そうに自分の首輪に手を掛ける。

「……ここだけどね」

瞳を赤く光らせた幼女ちゃんは、そう呟くと自身の首輪を何事も無かったかのように取り外し、ポイっと放り投げる。

うん、実は幼女ちゃんの首輪はとっくの昔に意味をなしてなかったんだ。

「……解除」

そして幼女ちゃんが地面からスッ……と腕を取り去ると――

「……起点を潰したから他の首輪もただの飾り……」

カシャン……カシャン……と音を立ててモンスターたちに付けられていた首輪が地面に落下していく。

瞬間……

いままで面倒くさそうに……そしてやる気の無さそうな顔をしていたモンスター達の顔が、好機とばかりにクワッと野生を帯びた様相を見せる。

まるで合唱でもするような獣達の唸り声は、ドーム全体を震わせた。

自由になった獣達が目指すのは闘技場の外……。

一斉に観客席の方を振り向いた魔物達の視線に、客席は恐怖に包まれた。

『皆様落ち着いて下さい!! 落ち…………スゥ〜……』

おや、こんな状況になってまでアナウンサーは、なにか声を掛けようとしているね。

大丈夫? この騒ぎを収める言葉をオマエ持ってんの?

だったらアナウンサーの才能が無いなんていってゴメンね。

『オラどけジジイ!! 俺が逃げられねえだろうがよ!!』

あ、ダメだったみたいですね

アナウンサーの職務放棄を聞いた観客たちは、一斉に悲鳴をあげて逃げ惑う。

うん、管理者側の人間がお手上げする瞬間見ちゃったらそうなるよね。

『あ、マジでヤバいのね……』って感じがするもん。

あーあーメチャクチャだ。無駄に豪華な観客席のせいで逃げ出すのに時間が掛かってら。

「ははっウケる。そんじゃ私たちも逃げようかね」

あ、いつでも取れるけど一応私の首輪も外しとこうかね。はいポイッと……いままでご苦労さん。

なかなかオシャレなアクセサリーだったよ。

闘技場の壁に向かって二人してペタペタ走る。

――ふふ、優雅じゃないわね……――

悲鳴が、騒音が、全ての音が世界から消えた気がした。

「「ッ!!」」

バッと振り返って反対の壁を見る。

今まさに闘技場の壁を這い上がり、観客席に乗り込もうとしていたライオンのようなモンスター。

そのモンスターの首が胴体から分かれ闘技場の地面に体ごと落下する。

「やっぱ来るよねぇ〜……」

その後に高所からにも関わらず、音もなく、まるでちょっとした段差を降りたような気軽さでスッ……とキモノお嬢が降り立った……。

「まさか、透過ドームを壊しちゃうなんて思ってもみなかったわ」

口を笑みの形で張り付かせ糸目で辺りを見渡す。

その一連の行動だけで、モンスターがキモノお嬢に注視してしまう。

「素直に称賛するわ、オマエがやったのよね? ……シロ?」

モンスターたちがキモノお嬢を警戒している。

本能で危険だと感じているのかもしれない。

そして気づいているのだろう……自分たちの敵だということに。

黒豹のようなモンスターがゆっくりと、しなやかな動きでキモノお嬢の死角に入るように回り込む。

あくまでキモノお嬢からは目を離さずに。

そして、後ろ足が爆発したかのような爆速的な動きで飛びかかった。

「もう少しだけ何ができるのか見ていたかったけど……」

狩りの成功を確信した黒豹の俊速の牙が、キモノお嬢に届く前に、そのスピードのまま顔面を地面に打ちつけていた。

そしてそのまま動かない。

それはとても不思議で違和感のある光景だった。

まるで、黒豹が自分から地面に突っ込んだような……。

「主催者としては見逃せないわね」

うわぁ……アンタの合気道みたいな技って四足歩行の獣すら対象なんだぁ……。え? どゆこと?

無敵かオマエ?

無敵なんやろなぁ……。

「まぁ、仕方ないわね。私が責任持って、……ペットの処分をするわ」

「ッ!!」

その瞬間、モンスターの動きは二種類。

キモノお嬢から逃げ出す存在と、一斉にキモノお嬢に襲い掛かる個体。

引き伸ばされた時間の中で、今まさに目の前の幼女ちゃんが頭を抱えてしゃがもうとしている瞬間を目にしていた。

あ、なんかヤバい……

分からんけど、幼女ちゃんが回避行動をとっていると言うことは、何か見えているということ……。

彼女に倣ってしゃがんだら間に合わない。

しゃがむという行動はどう足掻いても、重力より速く動けないんだ。

「じゃ跳ぶよね!!」

ジェットブーツを高速回転させ、摩擦で空中に飛び上がる。

体を回転させて飛び上がった私の頭の下と、幼女ちゃんの頭の上を何かが通り過ぎた。

「フッ! ……ににに、逃げるよ!! 幼女ちゃん!!」

着地と同時に幼女ちゃんに向かって叫ぶ。

その幼女ちゃんの後方で数体のモンスターの胴体がドシャリと分かれて地に落ちる。

あかんアカンあかん。

今のキモノお嬢の攻撃だろ? たまたま避けられたけど、次は無理!!

「ふぉおおお!!」

「ぬゅううう!!」

キモノお嬢がモンスターに対処している間に逃げ出す!

「というか初めて見たモンスターなのに、弱ぇ〜んだけどぉ!!」

モンスターと言ったら、もっとこうさぁ!!

人間じゃ対処しきれないような化け物がロマンじゃん!! なんで初めて見たモンスターが、港のフナムシみたいに逃げ惑ってんだよ!

「そっかぁ!! 化け物ってアイツの事じゃん!」

キモノお嬢がモンスターよりモンスターしてたわ!

もうすぐ闘技場の壁だ。

私はジェットブーツで走りながら上着を捲り上げ、胴体に巻き付けてあった縄を開放する。

ほどく時間もないので、空中でクルクル回って解いた縄の端を掴み、そのまま壁に着地し駆け上がった。

「ほいよっ!」

「……ヌヌヌヌヌ」

客席に上がった私は縄を回収するように引き上げ、幼女ちゃんはシャカシャカと駆け上がってくる。

「ウェイ!! 脱出!!」

「……はしれー」

出口に向かってランナウェイ。

混雑している出口とは違ってこっちは従業員用の通路なんだろう。空いている。

「うはははっシャバの空気は美味いぜ!」

「……首元もスッキリ」

大丈夫だよな? こっち出口だよね。

行き止まりとかシャレにならんぞ。

「しかし、やっぱヤベェわ。あのキモノお嬢……幼女ちゃん、よく避けれたねアレ」

「……ようやく分かった。糸目の動きのヒミツ。魔力で動きの道を作ってた。……だからゆっくり動いているようで速い……表面を顕在させて覆ってるから普通じゃ見えない……」

「ふぅ〜ん、分からん」

「……それを全部でやってる。攻撃も何もかも」

わたしにはよく分からんけど、そう呟く幼女ちゃんの顔は真っ青になっていることから、とんでもない技術なんだろうと察せられた。

ま、何にせよこれ以上関わりたくないね。

「ま、待てオマエら!!」

「お兄さんじゃ〜ん、元気?」

通路の前方に傷グラサンが現れた。

「止まれ!」

「お疲れ様で〜す!」

捕まえようとしてきた傷グラサンの腕を避け、壁を走って通り抜ける。

「なっ!!」

壁から天井まで重力を無視した動きの私に、呆気に取られたような顔をする傷グラサン。その横を幼女ちゃんが通り過ぎる。

「ま、待て!! 止まれ〜!!」

後方から傷グラサンが叫ぶが無視だ。

つかさぁ〜……

「嬉しそうな声すんなよ」

「中途半端?」

「そうそうソレ」

私たちが逃げ出すのがそんなに嬉しいか?

本気で捕まえるつもりもなかったクセにさ。

ようやく外に出られた。

ドームの外は森が広がっている。

ドームの周りは開拓してあって見通しが良いから、森の木々に向かって走り続ける。

よし! 森に入ったら潜伏。

山を降りてマフィアの敷地から脱出だ!

「うひょ〜! 自由だーーぐぇ!!」

とか思ってたら後ろから幼女ちゃんに襟を掴まれた……。何すんのコイツ。

その私の前方を何かが通り過ぎて、地面に亀裂を作り出した。うわサンキュー白髪幼女。

そのまま進んでたら私が二人になってたわ。

「ねぇシロ? 今オマエ……私が攻撃する前に動いたわよね。どういう事かしら?」

「……」

どういう事はこっちのセリフなんですけど……。

モンスターの対処はどうしたんですか? ……そうですか終わりましたか。

そんで最後のペットの処理に乗り出したんですね。

そうだよねぇ〜。

アンタは逃す気ないもんねぇ。

「ご主人様ぁ。一応聞いときますけど、見逃す気ってあります?」

「無いわね」

ですよねぇ〜。