作品タイトル不明
化け物の倒し方
どーも私です。
ペットの脱走に、笑顔で回収に来たキモノお嬢が怖いです。
だってそのまま殺す気マンマンだからね!
アレか?
『ペットの散歩をしてたけど連れて帰るのが面倒くさくなったから殺ったろ』みたいな感じ?
ははっ最高にサイコ。
ま、正直な話。
ここまでマトモに反抗しちゃったから、許す気はないだろうねぇ……。裏カジノの主催者であるキモノお嬢のメンツを潰しちゃったんだろうしね。
でもそのことに対して怒ってる雰囲気じゃないな。
とにかく私のやる事は決まってるかな……。
「幼女ちゃ〜ん……先に逃げててよ。後で合流するからさ」
あ、自分で言ってて遺言みてぇだなって思ったわ。
冗談じゃねぇぞ!
待ち合わせ場所で一人待ち続ける白髪幼女のイメージが浮かんだわ!
「……承知!」
あれ!? 聞き分け良すぎない!?
そのまま、ノータイムでテテテテと森の方に走って行く。
う、うん……いや良いんだけどね。私の言った通りだからさ。
でも余韻とか、思う所とかない?
私、足止めのためにフラグじみたセリフ吐きながら一人残るんだよ。
『そ、そんなお姉ちゃん! 一人で残るなんて無茶だよ!』
くらいのリップサービスはねぇのかな?
……いや、まぁ流石幼女ちゃんというか。だからこそ私達は上手くやってけてるというか。
ま、ええわ!
「幼女ちゃん行っちゃいましたけど、止めないんスか?」
意外なことに、キモノお嬢は幼女ちゃんが逃げて行く姿を扇子で口元を隠して見逃す。う〜ん、何考えてんのか分からんくて不気味だわ。
「いいのよ。後で捕まえればいいんだし……それにシロに関しては少し気になるのよね」
ガラスドームを破壊したことか?
「あと、オマエも何か企んでいるようだしね。最後に少しだけ遊んであげるわ」
「何か『芸』をお望みですかね? なんなら、お手でもしましょうか?」
「ふふ、楽しみね」
「可愛がってくださいねぇ…… 水滅玉(すいめつだま) !!」
パパパパリーンッ!!
お馴染み霧による目眩し。
外だから少し薄くなっちまうけどしょうがない。
「レディセット!! MAXゴー!!」
足元からギャリッという音が鳴ると共に、私の体が爆速で霧の中を突っ切る。
地面は舗装された石畳の広場……ジェットブーツを走らせるコンディションは悪くない。
低く鋭く……決して捕捉されてはいけない。
扇子を振り上げるキモノお嬢の姿を目視した瞬間……急旋回。
ギャリギャリと突っ込んだスピードのまま、キモノお嬢の真後ろに回り込んだ。
「速いわね……」
私がキモノお嬢に対して行えること……それは倒すことじゃない。というかそれは無理。
「分かってるわ。オマエただの時間稼ぎでしょ? それしかできないものね」
そう、私に出来るのはスピードで引っ掻き回して、キモノお嬢の攻撃から避け続けること。
キモノお嬢の動きが分からないのなら、常に動き続けて的を絞らせなければ良い。
私ならソレが――
【で? 他には?】
「ッ!! 出来ない!!」
真後ろから声!
コイツ私の後ろから現れたぁ!! マジでふざけんな!
振り向いて確認している暇はないよね。
ジェットブーツ急発進!!
私の足が跳ね飛ばされたように宙を舞う。
側転の要領で飛び跳ね、ナナメに回転してキモノお嬢の方を振り返ってみれば、今まさに扇子を横に振り抜こうとしている所だった……。
「飛び跳ねるの好きね……でも残念。ここには柱も天井もないわ」
ジェットブーツの性質を見抜かれてる……。
私の動きの強み、ソレは重力を無視した三次元的な動きが出来ること。
でも、ここは石畳の広場……立体的な足場がなければソレは意味を為さないんだ……。
「空中じゃ避けれないものね?」
死の恐怖を植え付けるように……キモノお嬢の扇子が逆さまに宙を舞っている、私の首に迫る。
首を刎ねるベストタイミングだね。
「じゃ作ればよくね?」
『Locomotive Simulator 〜ロコモーティブ シミュレーター〜』
【レールを設置する能力】
カチャリ……とジェットブーツに何かがハマる感触が伝わる。
キモノお嬢の笑みを浮かべる口角が、わずかに下がった気がした。
空中で側転をしていた私の体が……
片足を起点に
横回転から縦回転へと変わった。
「こぇええええ!!」
まるで見えない何者かに片足を掴まれて、振り回されたような私の体は、キモノお嬢の扇子を奥に避ける事で回避に成功する。
「上の方!! 失礼しまーす!!」
そして縦回転をした私はキモノお嬢の上を、見えない足場を滑って後ろに着地する。
「アハハハハッ!! いまオマエ……自分が色々おかしな動きしたの分かってる?」
ロコモーティブシミュレーター。
この能力は酷く単純だ。
「何もない空中を走るなんてね。面白いわ」
そう、空中にレール……足場を作る能力。
単純ゆえに強力。
ジェットブーツとの合わせ技で、私の動きを捉えられることは至難の業だ。
伊達に能力スロットを二枠も使ってない。
「もっと何か見せなさいよ」
キモノお嬢がフワリと扇子を振る。
跳ぶ斬撃か? 来ない……。
その代わり扇子を振った軌跡に三十センチほどの鉄の杭のような物体が三本現れる。
「避けなさい……」
ちょッ、ちょっと待って!!
私が新しい技出したからって、対抗して新しい技使わなくていいんだよ!!
「飛ぶ!? ソレこっちに飛んで来ますかねぇ!?」
「飛ぶわよ」
はいぃ〜ミサイルみたいに鉄の杭が飛んで来ますがな!
一本を横に走って避け、二本目を体を捻って躱す。
足を狙った三本目を後方にジャンプして飛び越えた。
よしっ!! 避け……。
「四本目……」
いつの間にかキモノお嬢の前にセットしてある四本目の鉄の杭……。
騙すとか酷くない?
「【反発レール】!!」
見えない壁に着地した私の両足から、車輪を象ったような魔法陣が展開される。
そして私の体は、トランポリンのように車輪型魔法陣から射出された。
そのスピードは飛来してくる鉄の杭より速く、一瞬のうちにキモノお嬢の後ろに着地……もとい着弾する。
あ、使い慣れないからちょっと制御が甘いかも……。
この能力で設置できるレールは二種類。
空中に設置して移動できる普通の『レール』と、着地して反発力を生む『反発レール』。
今のは反発レールだ。
この能力の制限としては、レールからレールに着地できない事。
つまり、一歩はどこかで着地しないと次が設置できないんだ。
動きのトリッキーさと素早さで言えば、かなり強力な能力だと思う。能力スロットの関係で、とても普段使いにはできないけど。
そして、この能力を駆使して……
「的を絞らせない!!」
キモノお嬢の周りを縦横無尽に飛び回り、高速で動き続ける。
ズドドドドという音を撒き散らしながら動くその光景は、箱の中に投げ込んだスーパーボールのようだ。
ふははははっ!!
人間を超えたこの動きっ!!
捉えられまい!!
「で? 他には?」
「ないっスね!」
はい、いつの間にか顔面掴まれてますね。
何この化け物……まるで問題ないかのように私を捕らえたんだけど……。
新技のお披露目だったんだから大人しくビックリしてろよ……オマエの化け物具合にこっちがビックリしたわ。
「もう何も出ないの?」
「スッカラカンすわ」
「じゃあ、もう要らないわ……」
私の顔面を掴んでいる逆の腕に扇子が握られる。
はぁ〜……アカンわ。
マジの化け物。
私の背中に……トッという軽い感触が伝わる。
「ちなみにさぁ……」
「……?」
古来より、人智を超えた化け物を倒すセオリーってのがあるよね。
「ッ!!!!」
いゃぁ〜……その表情が見たかった。
初めて明確に……キモノお嬢が笑みを崩した。
「シロッ!! オマエ私のッ!!」
私の背後から……背中を踏み台に霧を突き破ってきた幼女ちゃん。
キモノお嬢に向かって飛びかかる彼女の手には、ナイフが握られていた。
化け物殺しのセオリー……それは眼球を狙う事だ。
張り付いた笑みから、驚愕に目を見開いたキモノお嬢の瞳に向かって、幼女ちゃんはナイフを突き刺した……。
「アヒャヒャヒャヒャ!! 初めて見せてくれたソノ眼球!! 一つ私に下さいなぁっ!!」
覚えてるかな? お前が食ってたスィ〜ツから幼女ちゃんが盗んだナイフだよ。
私の前方に着地した幼女ちゃんの両肩を掴んで倒立、そしてカポエラのように足を回転させた私の足から、車輪型魔法陣が現れる
「【反発レール】」
私は、反発される勢いを使ってキモノお嬢の眼球に突き刺さったナイフの柄を……
「……脳みそぶち撒けな!!」
思いっきり蹴飛ばした。
「にゅふふふふふ!! 調子こいてっからだよ!! バーカバーカ! てことで逃げるよ幼女ちゃん!!」
あんまり悠長にしてたらキモノお嬢が復活してしまうからね。うん、ぶっちゃけ片目潰したくらいでキモノお嬢が死ぬなんて思ってないよ。
むしろ怒らせたから本気で殺しにくるはずだ。
「………………幼女ちゃん?」
幼女ちゃんが動かない。
そして彼女の視線を追ってみれば……
「驚いたわ、本当に驚いた……」
ナイフを片手に持って、いつもの不気味な笑顔を貼り付けた糸目のキモノお嬢。
もいつも通りの姿で、目から血すら流してない……。
「あちゃ〜……もしかして分身だったかな?」
忘れてたわ。
そういやキモノお嬢は分身できるんだよね。私たちが攻撃したのは分身だったってことか。
「………………ちがう」
「あん?」
幼女ちゃんの言葉に視線を向けてみれば、彼女は顔色悪くカタカタと震えていた。
「……本体だった……ただ……『刺さらなかった』」
「………………は?」
刺さらなかった?
刃物が? 眼球に?
「んな馬鹿な……」
「ふふ、ノラ……オマエ本当に小賢しいわね。空中を走るなんて芸をみせたのも、最初の会話も全部シロの存在を私から隠すブラフだったのね。……すっかり騙されたわ」
マジかよ……ダメだコイツ。
生物としての次元が違う……。
「性格悪いッスね。ワザと避けなかったんでしょ?」
私たちの行動が全部無駄だって示したかったんだ。
「心外ね。私は素直に褒めてるのよ。だから避けないであげたの」
「いや〜……有り得んわ。ご主人様の眼球って何で出来てんの? 圧縮ゴム?」
「ちなみにオマエの蹴りは、シロの突き刺しよりも弱かったわよ。何アレ? いっそ不思議なんだけど」
「マジで!?」
私の渾身の蹴りってそんなに弱いの!?
変な補正でも入ってない?
「でも褒めてるのは本当よ。……特にシロ」
キモノお嬢は閉じた扇子で幼女ちゃんを指す。
「オマエ……魔力の流れが見えるのね。しかも、酷く拙いけど私の魔力の流れをマネた……。見えてないと出来ないわよねこんな事」
そうか、直前までキモノお嬢が幼女ちゃんの接近に気づかなかったのは霧のせいだけじゃなくて、キモノお嬢のよく分からん動きを真似してたのか。
「本当に、恐ろしいくらいの才能だわ。認めるわシロ……オマエはもしかしたら、将来的に私に匹敵する存在になるかもしれない。幼体でさえなければ、子供でさえなかったら……少し殺すのが惜しいわね……」
幼女ちゃんの将来が、オマエになるとか勘弁して欲しいんですけど……。
しかし、もしかしたら生き残れる可能性、出てきたか? 殺すのが惜しいとか言ってるし。
「でも残念だったわね。私は別にバトルジャンキーではないの。『将来私を倒すのを楽しみにしているわ』とかないのよね〜」
あ、ダメっぽい。
「だからね……徹底的に、芸術的に殺してあげる」
そういってキモノお嬢は、両手に扇子を広げて……
舞い始めた。
攻撃を始めるワケでもない。
ただ、その場で踊る。
けど、私にはソレを鼻で笑うことができなかった。
「だって何か見えるんだもん……」
踊るキモノお嬢の周囲が、私の目から見てもおかしなオーラを漂わせている。
絶対に良くないことが起きる。
ゾワゾワと鳥肌が立つ。
まるで悪意のある自然災害が、意思を持って襲ってくるような……。
「ちょ、ちょちょちょッ!! ご主人様〜!! ストップ!! この通り!! 謝るから許して!!」
私はその場で土下座をかます。
プライドとか言ってる場合かっ!!
マズイまずいマズイ!! 超マズイ!!
「ふふ、オマエはこの期に及んで小賢しいわね。諦めてないじゃない」
チッ、バレてら。
私は土下座をするふりをして地面の、キモノお嬢が作った亀裂に手を触れている。
コチコチコチコチ……
う、うぉ〜スキマの生成に時間が掛かる。
「本当は力づくなんて好みじゃないんだけどね。ご褒美よ」
そういえば、キモノお嬢の父親が言ってたな……。
大きな都市を支配してしまえる勢力。
キモノお嬢は一人でその勢力と同等だと思われているらしい。
大袈裟だろ。
言うて結局は一人なんだから、勢力と同等なんて有り得るワケない。
「とか思ってたんだけどね……」
認めるわ……。
どんなに数が多かろうと……どんなに権力を持っていようと……全部力づくで終わらせることができる存在ってことね。
「じゃあね。わりと楽しかったわ。サ ヨ ウ ナ ラ」
舞を終えたキモノお嬢は、そういって去っていく。
結果を見るまでもない。それを物語っていた。
キモノお嬢が去った後に残されたのは巨大な光る龍。
何ソレ……召喚とか? それともただの飾りだったりする?
そして、空を覆う蛇のような龍から幾つもの金属の杭が生まれる。
「だよねっ!! 攻撃だよねソレ!!」
……チーンッ!!
「よっしゃ!! スキマ完成!! ぬぅああ〜出てこーい!!」
スキマから取り出したのは台車。倉庫から見つけてパクっておいた台車。
「震えとる場合かっ!!」
幼女ちゃんを台車に無理矢理引き倒して、黄金の龍から遠ざかるためジェットブーツで押す。
直後……私たちの横、五メートルほどに黄金龍の杭が着弾した。
杭が突き刺さる……。
瞬間……地面が割れ、台車を走らせていた足場が瓦礫を巻き上げ破壊される。
「天変地異じゃねぇかっ!!」
しかも一発でコレ……。
あの黄金龍、何本の杭を生成してた?
吹き飛ばされた体勢を空中で立て直して、台車を走らせる。
そして、私たち目掛けて杭が次々と着弾する。
前も、おそらく後ろも地面が捲り返される。
轟音と壊れる地面に、世界の終わりのような光景を見た。
そして、遂に足元に杭が着弾する。
吹き飛ぶ足元。
ねじ切れた台車。
投げ出された体が最後に見たものは、こちらに向かって飛んでくる杭。
それに体を投げ出されたまま両手を向ける幼女ちゃんの後姿だった。
――――――――――――――――――――――
「……お嬢……屋敷に到着しました」
車のドアを、片腕を包帯で吊った傷グラサンが外から開ける。
「ふふ、随分と暗いわね。……情でも湧いてた?」
「……いえ、別に……」
傷グラサンはサングラスの下で目を逸らす。
そして、あの惨状を思い返していた。
山が一つ消し飛んだ……。
目の前にいる雇い主が引き起こした現象。
思い出されるのは、二人の生意気で不気味な少女たち。
情が湧いたワケではない。
だが……
だがしかし……
どちらにせよ、山一つを消し飛ばす災害の中心にいたであろう二人が生きているはずがない。
その事実が、傷グラサンの心を重くした……。
――――――――――――――――――――――
クレーターと化した山肌から少し離れた森の中……。
「生きてるーーー!!!!」
「……いたぃ……」
「いてててっ……さて、どうしてくれようか……」
後に……クロックシティーで『小悪魔』の愛称で呼ばれることとなる。
二人組の『勢力』が復讐に目を覚ました……。