軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

類は友を呼ぶけど、友達じゃなくても類ではある

「ん〜、やっぱダメかぁ……」

「あぁ、何がだよ?」

「いんや、なんでもないっスよ〜?」

「また、抜け出そうとか考えてんじゃねえだろうな……」

「またまたぁ、常に見張られているのに抜け出すなんてしませんよぉ」

「……」

傷グラサンが疑わし気な表情で見てくる。

いや、ホントにね……無理なのよ。

当初の予定だった、感情エネルギーを溜めての脱出。これが駄目になった。

傷グラサンが見張りを増やしたんだよねぇ。シフト制で私たちを監視してるもんだから隙がない。

おかげで抜け出せないし、 妖球(あやかしだま) によるオバケスタッフが出せなくなった。

怖がらせて感情エネルギーを獲得できないもんだからね、領域畑による脱出が頓挫するよね。

「……まぁ、当たり前か」

そう、傷グラサンにとっちゃ至極当たり前の対策だ。

キモノお嬢にバレたらヤバいって感情で、私の行動を見ないフリしてたからね。

それがバレて、きちんと制裁までされた傷グラサンからしてみれば、これ以上、無能の烙印を押される前に協力者を使うのは真っ当な判断だ。

そんな傷グラサンと言えば、タバコをふかして椅子に座っているが、キモノお嬢に『強制ロケットパンチ』をさせられた腕は、包帯で肩から吊られている。

すげぇな……本当に腕が繋がってる。まだ完全に繋がったわけじゃないんだろうけど、しっかりとタバコを握ってるもんね。

あ、でも痛いは痛いのね。たまに顔をしかめてら。

でも心配事が減ったせいか顔色は良さそうね。

「ちょいと兄さんや」

「ああ? なんだよ、もうすぐ交代の時間だからな。逃げ出すなよ」

何度も言わんでも分かってるよ。

「『裏カジノ』って何すかね?」

「ッ!」

おや、顔色が変わったね。また心配事かな?

傷グラサンは視線をフラフラとさせた後、床を見ながら声を絞り出す。

「お嬢が……言ったのか?」

「そうっすね。三日後に連れていくからって、スゲー楽しそうに言ってましたぜ!」

聖なる泉が濁りそうな笑顔だったよ!

ちょうど傷グラサンの代わりのグラサンが見張りの時だったからね。知らんかっただろうね。

「んでぇ? 今度はそっちが答える番すよ。裏カジノとは……なんぞや?」

「……」

傷グラサンは答えない。

私と幼女ちゃんを時折チラ見したかと思えば顔を歪めて、遂には頭を抱えて俯いてしまった。

おい、なんだよ。

キモノお嬢の顔からロクでもない事だとは思ってたけど、傷グラサンの反応からして確定みたいだね。

「……」

傷グラサンは答えない。酷く葛藤をしているようで、こっちを見ては、また俯く。

待つよ〜。だから早よ答えてね。

「……なぁ」

お、ようやく答える気になった? たっぷり十分ほど待たせたんだから、有用な話が聞けるんだろうね?

「……今日は……何が食べたい?」

「最後の晩餐?」

はい! 死の危険が、高層ビルの如く高い事が分かりました!

あぁ、良くないねぇ。非常に良くない。

傷グラサンと言えば、俯いたまま喋らなくなった。

これ以上、情報は引き出せそうにないね。

まぁとは言え……これはチャンスでもある。

幼女ちゃんに視線を向けて見れば、彼女もコッチを見て頷いている。

裏カジノが何かは知らんが、檻から連れ出されるのは確実だからね。

「……勝機」

そう、幼女ちゃんの言う通り。

逃げ出すチャンスはこの日だ。むしろ檻から抜け出せんのだからこの日しかない。

――――――――――――――――――――――

はーい! 本日は裏カジノの日でーす!

どんな所なんでしょうねぇ。楽しみだなー。

「……お嬢が呼んでいる……出ろ」

「うぃ〜ッス」

ところでお前は全然楽しそうじゃないね、傷グラサン。もっと楽しく生きようぜ!

沈んだ顔でカチャカチャと、檻の鍵を開けようとしている。いつもより手間取ってるね。

なんか時間掛かってるし、雑談でもして気を紛らわせてあげようかな?

「ところでお兄さんや!」

「なんだよ……クソッ、鍵穴が錆びついてやがる……」

「満足した?」

「……あ?」

私が檻の中から目を細めて笑ってやると、傷グラサンは不思議そうに聞き返す。

「何だよ嬢ちゃん……」

「兄さんさぁ……」

私が鉄格子を掴んでヌッ……と顔面を近づけると怯んだ顔をした。

ふ〜ん、目を逸らすんだ。

少しは自覚ある?

「中ぅ途半端だよねぇ〜」

「ッ!! 何がだよ!」

酷く狼狽した傷グラサンは、鍵穴から手を離して後ずさる。

「……」

「なんだッ! 何が言いたいんだ!」

「いやぁ……別に良いんスけどね。ただ、それマジで生産性ないよねぇ?」

「うるさい! オマエが何を言ってんのか分かんねえよ!」

「あれ? そぅッスか? そりゃ失礼しやした」

鉄格子を掴んでいた手を上げて、お手上げのポーズ。

そして、よくやく鍵を開けた傷グラサンの後をついて歩く。その背中を眺めてやれば、若いのに随分と猫背で小さく見える。

う〜ん……くだらない自己満足とは言わんよ。突き詰めちゃえば自分の為なんだろうし……。

この傷グラサンさぁ……

昨日の夜、見張りを置かなかったんだよね……

何かの罠かな? とも思ったんだけど違うようだね。

けど、逃がそうとしたとも違う。

そもそも幼女ちゃんが檻を抜けられないんだからね……だから見張りを置かなかった。

それはね……傷グラサンも分かってたからなんだけど。

それと同時にコイツは、私たちが逃げ仰る可能性を僅かに残したかったんだ。

もし、他に逃げる手段を私たちが隠していたとして、ソレが見張りがいないなら実行出来るのだとしたら……。

「まぁ、結局は自己満足だね……」

逃げられないのは分かってるんだから。

マフィアなんだからさ、人が死ぬところなんて見飽きてるだろうにね。それでも子供が死ぬところは見たくなかったかい?

それともマフィアの癖に、少しでも善人ぶりたかったか?

『感情では逃げてほしいけど、自分が困るから逃げてほしくない』

私たちに憐れみを感じる一方、自分の命は捨てられないという葛藤。

それがこの中途半端な行動の正体。

傷グラサンは、逃したら自分の身が危ないのは分かってるんだ。

「だから……自分を騙した」

私たちを逃がすことは傷グラサンにとって許容できない事なんだ。私たちが逃げられない事も分かっている。

だから、『見張りを置かない』というミスを犯したんだ。絶対に逃したくないけど、これはミスなんだって自分に嘘ついてね……。

「中途半端だねぇ……」

うん何度も言うけど、くだらないとは言わないよ。

そうやって自己の精神を守ろうとしただけだから。

でもね……自分の危険度あげてまで自己満足に走ることに私たちを巻き込んで欲しくないな。

迷惑なんだよね。

言わば、これは私たちと傷グラサンの生存競争だ。

私たちはそう思ってるし、お前だってそうだろ?

それを変な同情で中途半端なマネをされちゃ、バリバリに疑って方針を考えなきゃいけない。

あぁ、私たちを疑心暗鬼にさせる為なら正解かもね。

でも私たちの為とかで中途半端な行動すんのやめてくれ。

マジで助けるつもりなら、全部を捨てる覚悟で助けろ。

「そんときゃ利用してやるから」

――――――――――――――――――――――

「うぉおおおおお!! も、モンスターだあ!!」

うわっ!! すげぇ初めて見た!

「見て見て! 幼女ちゃん!」

「……マモノ……初めて見た……」

私が指差した先には、見下ろすタイプの円形フィールド。

学校の運動場ほどの広さのあるその場所は、人工的に造られたであろう岩場になっていて、その中央は尖った岩山のようになっている。

「ふふ、喜んで貰えて嬉しいわ。闘技場よ」

私たちの反応を微笑ましそうにするキモノお嬢は、口元を扇子で隠して笑う。

なるほど闘技場ね。

確かに見下ろすような客席からみるフィールドは闘技場のようだ。

そしてその岩場のフィールドには、軽トラサイズの虎のような生物や、ピクリとも動かないワニのような顔を持つサイっぽい生物など多種多様なモンスターが見える。

う〜ん、どいつもこいつも強そうでカッコいいね!

そして私たちのいる場所は客席。

闘技場というには豪華な場所で、フィールドがよく見える。私たちの場所以外にも見ている者がいるようで、フィールドの外縁に沿って同じようなところがあるね。

実はここ、マフィアの本部から出たワケじゃない。

車に乗って、敷地にある山を登り、トンネルを進んでたどり着いた山間にある巨大ドームだ。

そして施設内の岩場フィールドは、蓋でもするようにガラスのドームが覆っている。これはモンスターが逃げ出さないようにした上で、観客に見やすくしているのかな?

マフィアの敷地内にこういった場所があるのは、人目を避ける為だろうね。

「『裏カジノ』って言うくらいだから、非合法なんだろうね……」

「そうよ、魔物なんですもの。大っぴらにやるワケにはいかないわ」

私の独り言に丁寧に答えてくれるキモノお嬢はご機嫌のようだ。

なるほどぉ……。

なんとなく分かったぞぉ〜。

ここはモンスター同士を戦わせて、賭けをする場所なんだね〜。大迫力で確かに人気出そうだわ。

よく見れば奥にある巨大モニターには、参加モンスターの映像とかが流れてる。

オッズとか書かれているんだろうけど……その中にモンスターの映像がなくて、シルエットだけのやつがあるね。

「アレっすね! 賭けの目玉モンスターって奴ですね!」

「そうよ、今回のメインペットだもの。勘がいいわねシークレット」

あれ? 名前変わりました?

「それぞれの自慢のペットを持ち寄って闘わせるんだけど、主催者の私がハンパなペットを出すわけにはいかないものね。最近マンネリしてきてたから良かったわぁ……頑張ってね」

「ハハハッ、ご期待に応えられるよう頑張りますねぇ!」

知ってた!

はいッ!! このイカれ女!

子供が無惨にモンスターに食い殺される『残虐ショー』を開催しようとしてますわ!

キモノお嬢のその言葉の後に、私と幼女ちゃんの立っていた場所がウィ〜ンと下がって闘技場に降ろされる。

私たちが岩場フィールドに降ろされた瞬間、客席がにわかに熱気を帯び始める。

「はぁ〜、類は友を呼ぶって感じッスね……」

キモノお嬢が招待したんだから、他の客も子供が食い殺される瞬間を待ち侘びているサディストなワケね。

「とんだサバトだねこりゃ……」

一応、今のところ天井を覆っているガラスドームと同じ感じのガラス壁が、私たちと他のモンスターを隔てているようだけど。

『さぁ〜て!! 最後のエントリーがフィールドに参戦致しました!!』

小粋なアナウンサーが、私と幼女ちゃんの登場を紹介してくれる。

『主催者でもあり、毎回自慢のペットで会場を沸かせてくれるエルテ嬢の今回のモンスターはッ!! な、な、な〜んとッ!! 二人組の少女だー!!』

ははっ、ありきたりな台詞しか吐き出さねぇアナウンサーだね。お前アナウンサーの才能ないよ。

『さあさあさあ!! それでは、会場の皆様も待ちきれないことでしょう! 今回はどんなドラマを見せてくれるのかっ! スタートです!!』

鐘の音とともに、ガラスの壁がゆっくりと上へと上がって行く。ソレを見計らってか、何匹かのモンスターがノソリ……とゆっくり立ち上がった。

さて、どうしようかね? 時間切れまで隠れるか?

「……チャンス到来……」

「おやぁ? 幼女ちゃん、もしかしてアレってキミ案件?」

一人静かに天井を眺めていた幼女が、私にグッと中指を立ててくる。

……もしかしてソレ親指と間違ってない?

「……オバケ姉ちゃん、邪魔されないように目隠しと時間稼ぎ、あと視線誘導できる?」

「オケオケ、任せてちょ。つまり……」

ニィイイと笑ってやると、幼女ちゃんもヌチャァアと笑って返してくる。

「……うん、混乱に乗じて逃げる」

あ、そぅ……キミも好きだねぇ。

気に食わないヤツの歪む顔。

「さぁてぇ……それでは、観客の皆さんを楽しませてあげようかね…… 妖球(あやかしだま) !!」

パパパパリーンッ!!

私の体から水蒸気の濃い霧が吹き出し、ガラスドーム全体を覆い隠す。

ドーム内の様子が分からなくなり、客席からドヨめく声が上がる。

私はジェットブーツを起動して滑走する。

目指すは中央の尖った岩山……その頂だ。

ギュぃ〜んと岩山を駆け上がった私は、尖った岩山のてっぺんで片足立ちになると、客席に向かって嫌らしく笑い、ワザとらしいほど恭しく礼をする。

『「どーも……私です」』

ドーム内に私の声が響き渡る。

へぇ……どうやら、私の音声を拾ってるようだね。

こりゃいいや、悲鳴の声でも拾いたかったのかもしれんけど、私こう言うの好きよ。

『「本日は皆様方……ようこそおいで下さいました」』

ドーム内が霧で覆われて、客席から見えるのは岩山の天辺に立った私だけ……。

『「それにしても、お金持ちの皆様方はいい趣味をしておられるようで……」』

よく見れば、巨大モニターには私の顔がデカデカと映し出されていた。

まるでアイドルみたいで嬉しくなるね。

『「なるほどなるほど……皆様が見たいのは、いたいけな美少女の顔が無惨に歪む顔だと……」』

客席の方から粘ついた視線が向けられる。

随分とイキのいい美少女だなって思ってそうだね。

ふふ、イキが良ければそれだけ絶望の顔が楽しみだってところかな?

『「分かりますよぉ〜、他人の不幸の顔って楽しいですもんねぇ〜」』

いや〜奇遇だな〜……

『「だったらさぁ……」』

私もそうなんだよ――

『「もっと近くで見学するといいよ」』

ビギッ!!

巨大モニターに映った私のニヤニヤ顔に、真ん中から大きな亀裂が入る……。

興奮に熱気を帯びていた客席がシンッ……と静まり返り空気が凍りついた……。

ビキビキビキビキと亀裂は広がり続ける。

それはモニターが割れたわけでもなく、ましてや私の顔が割れたワケでもない……。

空気の流れで、ガラスドームに溜まっていた霧が客席に漏れ出す。

「だから……お前らの恐怖に歪んだ顔を見せてね」

客とペットを隔てていたガラス壁が……けたたましい音を立てて崩壊した。