軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

鳥を飛び立たせない方法

「私の見間違いかしらねぇ。オマエはどう思う?」

ギニャーーーー!!!

どう思うって! どうもこうもねぇわ!

糸目だから見間違いって事でどうですかね!?

ヤベェヤベェやべえ……油断した。

いや、油断なんてしてなかったのに見つかった!

さっき私が遠くに見た、キモノお嬢の後姿はなんだったんだよ……。もしかして分身か?

「ど、どッスかねぇえぇ〜……」

「ふふ……」

ヒッ!!

不思議そうに首を捻ってたと思ったら、いきなり目の前数センチに顔を近づけて来て、私の顔面をマジマジと見て来る。

いや、こわいこわい!

道中の動きすっ飛ばしたような、居ない居ないバァやめろ! そのままイナイイナイして下さいホント!

「ねぇオマエ? 見間違いじゃないとすれは……私のペットに見えるのだけれども……合ってるかしら?」

オボボボ……。分かってんのに聞くなよ、その通りだよ。

どうするぅ私ぃ?

「ち、違いますよ〜……なんて」

「じゃあ死ね」

嫌な予感がしてとっさに後ろに倒れたら、私の首をかすって扇子が通り抜ける。

「オヴァアアアア!! かすった! 死ぬ! それ死ぬから!」

ピッチャー振りかぶってもいないのに扇子が飛んできたー!

殺そうとするまでの判断が早すぎるよ!

通り過ぎた扇子は、尻餅をついて倒れ込んだ私の上空を旋回すると、私に向けて再度向かって来る。

「ヒィイイイ!」

それに刻まれないように、慌ててバタバタと後ろに下がったら床に綺麗な、鋭い切り傷を作り上げる。

今更だけど、なんで扇子で廊下が切れるんでしょうねぇ!

っておや? 背中に壁が……。

えっとぉ……なんでしょうね?

確認したくねぇけど、上を向いて背後の障害物を見てみる。

「私のペットじゃないなら侵入者ってことよね? じゃあ殺すに決まってるじゃない」

ほらねぇぇ!! 居るじゃん糸目!

お前、さっきまで目の前に居ただろ! なんで後ろから現れるんだよ!

もしかして見てない瞬間に猛ダッシュして後ろに回ったの? だとしたら、ちょっと面白いんだけど。

「そ、そうですかぁ……決まってるんですねぇ……」

「侵入者なんでしょ。決まってるわよね?」

キマッてんなぁ……。

さっき私を襲ったドローン扇子が、磁石でも仕込んでいるかのようにキモノお嬢の左手に収まる。

「それじゃあ」

バッと空いた右手に開いた扇子が現れる。

両手に扇子ですかぁ、センスがいいですね! ……あ、なんでもないですハイ。

二刀流の剣を持ってるようにしか見えん。

「まってぇ!! ほらペットですよぉ!! 侵入者じゃなくてご主人様の愛するペットですよぉ!!」

だから殺さないでね。侵入者じゃないよ。

「ふふ、なんだやっぱりノラじゃない」

「……は、はは」

「なら死ね」

「フォオオー!!」

なんでだよ!

私の顔面に振り下ろすため、扇子を上に掲げる。

ちょっと問答無用が過ぎませんかねぇ!

片足のジェットブーツを高速回転させ、弾かれる衝撃を利用し、ムリやり下半身を回転させる。

両足が床に付いた瞬間に、ジェットブーツを後ろに起動した。

顔面に迫っていた扇子が当たる前に、回転しながら上半身を引っこ抜き回避する。

「へぇ……」

まるで四足歩行の獣が飛びかかるようなポーズで回避した私を見て、キモノお嬢は面白そうに笑う。いや、笑ってんのはいつもか……。

「ッ!!」

「ソレ、前に見た時から興味あったのよね」

当然のように私の真横に現れたキモノお嬢は、私に見せつけるように首を刈ろうと扇子を振り下ろす。

両手と両足を使って猫のごとく飛び退いた私は、柱に着地し、ジェットブーツの逆回転で天井まで駆け上がる。

「身軽ね」

天井を足場に廊下を一回転した私は、壁を後ろ向きに滑走しながらキモノお嬢から距離をとる。

間違いない……。

キモノお嬢はワザと、私に避けられるギリギリを見極めて攻撃してるんだ。

いつでも殺せるのにジワジワと痛ぶろうってか……。

「は!? えっ!?」

このまま、壁伝いに逃げる算段を立ててたら、不意に私の視界がグルリと回転した。

「これが動きの正体? 変わってるわね……」

「ど、どーもぉ……」

あ、そう……視界が回転したんじゃなくて、私が逆さまになってんのね……。

キモノお嬢が私の足首を掴んで逆さまにしたんだ。

驚くべきは、私が逆さまにされた感覚がなかったこと……。普通、足首を掴んで逆さ吊りにするとか、重力にともなって倒れるような感覚があるはずなんだ。

でもまったくなかった……。

視界だけが回転して違和感もなく、逆さまにされていた。

なんなんこれ……。確か重心がどうとか言ってたけど、ソレやるとこんな気持ち悪いこと出来るようになんの?

「前の時も思ったけど……コレを使ってる時オマエの重心の動きが分かりづらいのよね」

逆さまのまま、体を半回転された私の視界に、やっぱり逆さまのキモノお嬢が現れる。

キモノお嬢は私のジェットブーツを興味深そうに観察して、先ほどの言葉を呟いた。

重心の動きが分かりづらい?

「こういう道具? もしかして異能の一種かしら……」

……なるほど、そういうことか……。

ジェットブーツを履いている時の私は、壁を走ったりと重力を無視した動きができる。ジェットブーツに慣れている私の動きは自然と、ソレに適した動きをしていることになるんだけど……。

そんなもんが、まともな体重移動を行っているワケがないもんね。キモノお嬢の目にはソレが不思議に見えるんだろう。

「まぁいいわ。もうちょっと調べて見たくもあるけど、分かっちゃえば対処も楽ね」

あ、もうちょっと観察しててもいいですよ。

だから殺すのいったん後にしません?

「ってアレ? ふぬっ! ふんっ!」

なにこれ……このままじゃ殺されちゃうから、必死で抜け出そうともがいてたんだけど。

「もがく事すら出来ないでしょ?」

「あ、やっぱ何かやってんスね……」

うわっ気持ち悪! なにこの感覚、力を入れようとしたら力が入らない感覚にビックリする。

「不思議よね? あれよ、肩に乗った鳥を飛び立たせない遊びと同じ原理よ」

「すんませんけど鳥が肩に乗るなんてメルヘンな状況になった事がないですね」

しらねぇよ。この世界では一派的な遊びなのかソレ。

逆さまに吊り下げられてる私と関係あんの?

「そ、心が汚いのね」

笑顔で花が枯れそうな女が、なんか言ってる。

「ふふ、焦ってるわね。重心の動きで分かるわ。でも安心していいわよ。驚かしたかっただけで殺す気はないから」

「……本当ッスかねぇ?」

疑わしいんだけど。

「本当よぉ〜だって……」

糸目を薄く開けて、ギョロリと私を、見下すような瞳を向けて来る。

「オマエの使い道は決めてるもの……」

吸い込まれそうなほど邪悪な瞳は、楽しそうに嗜虐性に満ちていた。

――――――――――――――――――――

傷グラサンはタバコに火をつけて、肺いっぱいに吸い込んだ煙をストレスと共に、ため息のように吐き出す。

今夜もノラの姿は檻の中にはない。

マジでなんなんだあのガキ……。

檻の鍵は掛かったまま、いくら子供とて素通りできる鉄格子でもない。

だが、慣れとは恐ろしいもので、ノラが勝手に出歩いている事に慣れ始めている自分がいる。

檻の中にいないのが当たり前になってしまっているのだ。

なんとなく原因は分かる。

そのほうが俺の心情に優しいからだ。

抜け出すペット、屋敷に蔓延る怪異。心配事や不安は尽きない。

そんなストレスに対して俺は『気にしない事』で自身を守っているのだろう。

案外俺も図太い。

「……」

チラリと檻の中を覗いてみれば、シロが布団の上で寝転がりながらパイプ端末を弄っている。

改めて聞きたいんだが……なぜ使える……。

アイツらの首に付いている首輪は、魔力を乱す効果がある……はずだ。なのにアイツらときたら。

よくみたらシロはパイプ端末を弄りながらも、足でもう一つの首輪を弄んでいる。

ノラの首輪だ……。

コイツもコイツで図太いな。

目を瞑る。

何も見ない。何も知らない。

それが心に優しいからだ。

そんな時、背後でギィ……と扉の開く音が聞こえてきた。

「うぃ〜ッス。帰りましたよ〜」

「おお……」

ノラの声だ。どうやら今晩のお散歩は終わりらしい。

しかたがねぇ……檻の鍵を開けてやるか。

どうやって抜け出してるかはしらねえが、その方法を俺に見せる気はないらしいからな。

「あ、そぅそぅ、お兄さんに報告があるッス」

「ああ? なんだよ……」

立ち上がるためにタバコを口に咥えて、腰についた鍵束を漁る。

そういえば……

なんで……コイツ

扉を開けて……入ってきたんだ?

いつもならいつも間にか背後に現れて驚かすのに……。

そんな疑問を何となく感じて、扉の方へ振り返る。

「ごめ〜ん。見つかっちったぁ」

「……」

ノラは逆さまの顔で、長い髪を筆のように下に垂らしていた。

「ねぇ……アナタ覚悟は出来てるのよね?」

そして、少女の足を掴んで逆さ吊りにしているのは、恐ろしい我らが雇い主。お嬢だ。

「ふ〜……」

口に咥えたタバコを手に取り、ゆっくりと煙を吐き出す。

あれ……俺死んだか?