軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ロケットパーンチ!

どーも私です。

檻から抜け出しているところを、飼い主に見つけてもらいました!

いやぁ〜迷子ポスターも貼ってないのにペットを見つけ出すなんて、たいした飼い主ですねホント。愛されてるなぁ〜私。

もしかして首輪に連絡先でも書いてましたか? ハハハッ!

……首輪なら取ってたわクソが!

見つけてんじゃねぇよ糸目がよぉ……。

マジでこのキモノお嬢、厄介だわ。

ことごとく私の行動を真正面から潰してきやがる。

完全に私の天敵だ。いや、むしろこの女が天敵じゃない生物とかいんのか?

状況は最悪……なんだと思う。

キモノお嬢の考えが不透明すぎて、よく分からんけど多分マズイ状況だ。

抜け出したのがバレたことについて、このままお咎め無しというのは希望的観測。なにかしらのペナルティーを科される可能性を考えなくちゃいけない。

そういや関係ないけど、『マズイ状況』といえばもう一つ。

「……」

うん、私は関係ないけど、君も相当マズイ状況なんじゃないかな! 傷グラサン!

「聞こえなかったかしら? 逃すなって言ったわよね?」

おーおー、見る見るうちに顔色が悪くなって脂汗をかき始めてるね。

マズイよねぇ〜、逃しちゃったのバレちゃったもんねぇ〜。殺されちゃうかもねぇ〜。

その気持ち、分かる分かる!

だってマズイのは私も一緒だもん……。

ねぇどうするよ? このまま黙ってても、永遠に黙る未来にしか繋がってないけど、アンタはどうする?

ニ、ニゴォ……

おぉっと傷グラサン、ここで何を思ったか笑顔を浮かべたぞぉ! なんだ!? どうしたい!?

「……」

しかし、下手くそな笑顔だな……。顔面汗まみれで、グラサンの下は泣きそうな目をしてるのに、口元だけ不器用に笑顔の形を作ろうとしてるね。

「お、おかえりぃ、散歩はもういいのか? 一人で散歩できてエライぞぉ……」

「……」

ねぇ、もしかして、コイツこれで誤魔化そうとしてる?

キモノお嬢が見えないフリとか? いや無理でしょ……。

もしくは、散歩は『当たり前』のことで、逃したんじゃないって方向に持っていきたいとか? ……ありそう。

というか多分ソレだ。

まさかの常識改変! イヤイヤ無理があるって!

下手くそな誤魔化しで私を巻き込むなよ!

脳みそスッカラカンかよテメェ!

もっと誤魔化し方あるだろ!

そんなモン――

「ただいま帰ったッスぅ! ペットの健康を保つ為に必須な、散歩から帰りましたよ〜!」

乗るしかねぇわ……何もしないよりマシだと思わにゃやってられん。

万が一にもキモノお嬢が勘違いする事に賭けるしかねぇ。

騙されろ騙されろ騙されろ騙されろ!!

散歩はペットにとって当たり前にやることであって、決して逃げ出したワケじゃない!

そう、常識だ! 散歩をすることは常識なんだ。

そうだろ! ご主人様!

「……」

う、見られてる。

糸目で分かりづらいけど、私を見てる。

「……ふぎゃ!」

なんか床に落とされた……。

もうちょっと優しく降ろしてよ。頭から落ちただろ。

痛む頭をさすりながらもキモノお嬢を見上げてみれば、扇子で口元を隠して傷グラサンを見ている。

え、ソレどんな感情?

もしかして本当に騙されたとか? それが常識だと言われたら直ぐに騙されちゃう可哀想な頭してる?

次いで傷グラサンを見てみれば、やっぱり下手くそな笑顔を浮かべたまま私を檻に誘おうとしている。

「ほら、散歩はもう終わりだろ?」

うん、分かったから。お前の考えはよく分かったから、チアノーゼ気味の顔色をなんとかしろ。

檻の中では幼女ちゃんが、『何やってんだコイツら』って表情してるけど、コッチもイッパイイッパイやねん。

私は、立ち上がってキモノお嬢を見ないように、檻の前までやってくる。

「い、今すぐに檻の鍵を開けてやるからな」

チチチンッ! チンッ! チチンッ!

焦って手が震えるのは分かったから、鍵と錠前でパーカッションを奏でるのはやめなさい……。リズムに合わせてキモノお嬢が舞い始めたらどーすんだ。

「た、ただいま〜」

「……おかえり」

「さぁ〜てっ! ペットも散歩から戻ったようだし! 俺はそろそろ帰ろうかなぁ〜!」

牢屋の鍵を、手汗でビッチョビチョにした傷グラサンは、空元気を振り絞ってペット倉庫から出て行こうとする。

「ねぇ……何か忘れてないかしら?」

「……うっ」

まぁそうですよねぇ〜。

通り過ぎようとしていた傷グラサンの首元に、扇子を当てたキモノお嬢がストップをかける。

う、う〜ん……一応、幼女ちゃんの目隠しでもしとく?

多分、今から人が死ぬ瞬間が上映される訳だし……。

「い、いや〜お嬢じゃないですか! どうしたんです? こんな夜更けに!」

「……アナタ……舐めてる?」

いや、無理だって……。

幼女ちゃんでもないのに私にすら、扇子からヤバそうなオーラを纏ってるのが見えるもん。何ソレかっけー。

「……」

「……」

無言の時間……

次の瞬間には傷グラサンの、だるま落としが開催されてもおかしくない、緊張の時間。

顔から垂れた汗が、扇子に落ちようとした瞬間……

「……ふふ、冗談よ」

得物を首から退かしたキモノお嬢は、クスクスと笑いながら扇子を開いて口元を隠す。

「ぷはぁっ!! はぁはぁ!!」

緊張で息を止めていたのであろう傷グラサンは、吹き出す汗を床に染み込ませながら、自身の首が繋がっていることを確かめている。

「馬鹿ね、ファミリーに手を出すワケないじゃない。ちょっと無視されたから脅かしただけよ」

「ハァッ! ハァッ! す、すいやせん。お嬢」

「おおかた、私に怒られると思って言えなかったんでしょうけどね」

「申し訳ありません……次からはちゃんと報告します……」

「あら、脅かしすぎたかしら? もう、行ってもいいわよ」

そう言ってキモノお嬢は、半身をズラして道を譲る。

ふ〜ん、マフィア仲間には寛容なのか……。

そういや、こんだけイカれ女なのに、黒服グラサンどもは割とフランクに話しかけてるんだよな。

「……ッ!」

なんか幼女ちゃんが、檻の奥までバタバタと逃げ出した。

え、どうしたの? 新しい遊び?

ってたぶん違うね……。

ボトリッと床に落ちる鈍い音……。

「あ〜あ、前言撤回」

幼女ちゃんの視線を追ってみたら分かったよ……。

「あら? アナタ……何か落としたわよ?」

「へっ? あ……あぁ……」

去り行く傷グラサンの後ろに……

「う、腕がっ!! うわぁああっ!!」

傷グラサンの物であろう左腕が落ちていた……。

「……」

「腕が!! 俺の腕がっ!!」

「戻ってこないロケットパンチにッ!!」

「ちょっと黙ってろ!」

いや、すまん。言ってみたかっただけやん。

そんな私のチャチャを、糸目で興味深そうにキモノお嬢は見てくる。

「ふ〜ん……予想外の反応ね? 可哀想だとは思わないの? オマエのせいで彼はこんな目に遭ってるのに」

えぇ? 嘘ついたら腕切ったアンタがソレ言う?

というかさぁ……

「いやぁ……別に? そもそも、私たちを捕まえたのはアナタ達だったと思うんですがね? ただの仲間割れッスね」

あのさぁ……

コッチからしたら……傷グラサンも私たちを檻に閉じ込めてるマフィアの一味だろぉがよ。

心情的にはともかく、傷グラサンも敵なんだよね。

それで『傷グラサンを傷つけないで!』……とかストックホルム症候群じゃあるまいし。

まぁ、アレよ。正直、可哀想だとは思うし、スマンとも思うけど、私が気にすることじゃないね。

コッチも自分の事で精一杯なんだよ。……オメーのせいでな!

「……それもそうね。じゃあ……」

うずくまる傷グラサンに向かって、扇子を掲げる。

「……サヨウナラ」

首に振り下ろされた……。

「ッ!! ノ、ノラの能力は……檻から抜け出す事!」

扇子が首筋十センチで停止する。

「お、恐らくこの能力は、『物体の透過』!」

おい、傷グラサン……アンタ何こっちの情報晒してんだ。

「抜け出している時には、首輪も一緒に置いて行ってます! この能力はっ! 魔力を介在しない異能です!」

「……」

キモノお嬢は振り下ろそうとしていた扇子を、口に持って行くと、首を捻って感情の分からない顔を傷グラサンに向ける。

「そしてっ! シロは檻から抜けられない! ノラが抜け出しても逃げない理由はコレ……かとっ」

「……ふぅん。アナタが進んで逃していたワケじゃないとは思ってたけど……檻から抜け出す能力ね。しかも首輪が効いていない……いいわ」

キモノお嬢は、檻の中の私たちに顔を向ける。

「その情報に免じて許してあげる……能力を探るために様子を見ていたって事にしてあげるわ。なかなか面白い話だったもの」

「ちょっとちょっとお兄さん! カワイイ美少女を売って生き残ろうなんて酷くないッスか!?」

「うっさいわ! 一番カワイイのは『我が身』に決まってんだろ!」

はい、ソラごもっとも……。

やるじゃん傷グラサン。

それ正解だよ。

結局、私の考えをソックリそのまま返されただけにすぎない。私たちが『自分が一番』だと思ってるんだから、傷グラサンも自分が助かるために全力を尽くすことなんて当たり前だ。

たぶん、この兄さん……私が見つかった時のことを考えて、こういった逃げ道を作ってたな。

いや〜、ちょっとナメてたわ。

そういや、ちょいちょい能力を探ってた節があるもんな。

「シロが抜け出さないのならいいわ……次は気をつけなさい」

そう言ってキモノお嬢は倉庫を出て行った。

「お疲れ〜お兄さん」

「チッ! そっちもな!!」

傷グラサンは、床に落ちた自分の左腕を拾うと、ポケットからビンを取り出した。……なにそれ? お酒? ストレスを酒で洗い流そうとしてる?

「……お、上手」

幼女ちゃんがそう呟くと、傷グラサンの流していた血が勢いをなくす。幼女ちゃんが反応するってことは、魔力を使って血を止めてんのか?

「いってえなぁ!! もお!!」

切断された腕を傷口にくっつけると、口でビンのフタを取った傷グラサンは、ふりかけ始めた。

シュワシュワと傷口から蒸気が立ち上ったあと、包帯を取り出した傷グラサンは腕に巻いて行く。

何ソレ? もしかしてポーション的なもの?

それで腕がくっ付いたりすんの? すげぇな!

一本欲しいわ。

つか用意いいな……。色々準備してたんだろうなぁ……。カワイソ。

「あ〜もぉ! クソッ! おい、もう逃げ出すなよ」

それは保証できませんね。

「バレたなら気兼ねなく見張りを増やしてやる!」

あ、それは困るね。

――――――――――――――――――――――

ここは、私の領域の中……。

私はゲームのストアページを眺める。

そろそろ、本気でキモノお嬢がマズイ気がする。

と言う事で……

「『対キモノお嬢用能力』を開発する!」