軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

全自動お化け屋敷

「……おい、アレ……なんだ?」

荘厳な屋敷の、板張り廊下を歩いていた黒服サングラスの二人組。

そのうちの一人が庭園を指差して呟いた。

「あ? なんだ? どれの事だよ」

「いや今、何かが動いたような……」

言われた男は、指でサングラスをずらし、その上から目を見開くように、ジッと静寂に包まれた庭園を睨みつける。

「別に何もいねえようだが……一応確認してみるか?」

わざわざマフィアの本部にやってくる、物好きな泥棒はいないだろう。

しかし、侵入者の可能性は捨てきれない。

懐に手を入れ、いつでも行動できるように、庭園に足を踏み入れる。

細かい砂利を敷き詰めた庭園に、ザザッ、ザザッと二人分の足音が響く。

「あそこだ……」

丁寧に整えられた背の低い生垣。もしくは隣の灯籠。

そこが男の指していた場所だ。隠れるとしたら、この裏になる。

ふぅ……と浅く呼吸をして相方へ目配せをする。

そして――

「フッ!」

素早く身を乗り出し、懐から取り出した物を件の場所へと向けた。

「……」

「……すまん、やっぱり見間違いだったな」

「はっ、いいよ」

肩を竦めて『気にすんな』とばかりに戯けてみせる。

「雰囲気ある屋敷だからな。もしかして幽霊だったりしてな」

そして背中を向けて、後ろ手に手をヒラヒラさせながら屋敷へと歩き始めた。

「はは、そりゃ怖い」

庭園から廊下に上がり、男たち二人は本来の目的地に向けてギッギッと床を鳴らしながら歩く。

そして廊下の先の曲がり角を曲がろうとした時――

……それは現れた――

ゾワリゾワリと曲がり角の、壁の中程から、黒い……霧の塊が、カビの侵食のように広がる。

目の錯覚でも起こしたかと足を止め、呆然とその光景を見るが、それは消えるどころか更に侵食を進め、バケモノの腕のように形取る。

そして、黒い塊の少し上から……

ヌゥ……と、やはり黒い霧の塊が、まるで首の長い生物のように現れた。

その首は、曲がり角のこちら側を覗き込むように、ゆっくりと傾ける。

そして、首から遅れて現れた胴体部分とでも言いそうな不定形の本体を、ズルリ……ズルリ……と音のしそうな緩慢な動きで引きずってきた。

這いずり出してきたソレは――

「……」

「……」

硬直して口をパクパクさせる二人の間を、認識などしてもいないように通り過ぎる……。

黒服の二人は、黒い霧が通り過ぎた後も、動いたら負けとばかりに、しばらくそこで立ち竦むことしかできなかった……。

――――――――――――――――――――――

檻の中から失礼します。

マフィアの本部『オバケ屋敷化計画』責任者の……

どーも私です!

うちの畑にも自動化の波が訪れております。

傷グラサンが、屋敷で『人影』や『火の玉』を見かけるとか言ってたよね。

「はい私がやりました!」

「……いきなり何?」

当たり前だよね?

でも容疑者である美少女は、この通り出歩いてはいない……と。

「不思議だよねぇ〜」

「……オバケ姉ちゃんの頭?」

正体は、何気に出番の多い『 妖球(あやかしだま) 』

この能力の詳細を覚えてるかな? 軽く説明しとこうか。

個人的に助かっているのは、この能力が【 妖球(あやかしだま) を生成する能力】……ということ。

妖球(あやかしだま) を使う能力じゃねぇのよ。

だから余裕のある時に生成しとけば、能力のスロット枠を消費せずに使えるんだ。

これマジ助かる……。

主に数珠みたいにして、体中に装着してるからね私。

そして 妖球(あやかしだま) によって生み出された各種属性には、一定のエネルギーが備わっている。

例えば 炎滅玉(えんめつだま) によって生み出された炎。この炎を大きくしようとしたら、そのエネルギーは大量に消費される。

逆に小さくすればエネルギーの消費は抑えられるってことだ。

ここまではいいね?

生み出した炎を、動かすのにもエネルギーは消費してしまう。早く動かしたり、複雑な動きをさせたりするとエネルギーは急速に失われてしまうわけだ。

つまり、限りあるエネルギーの中で、やり繰りしようねってわけね。

ここでミソなのは、『エネルギーの許す範囲なら、割と自由に操作できる』ということ。

攻撃力が全くない能力の癖に、私が重宝する理由だね。攻撃以外なら応用が効くのよ。

主に目眩しだけどね。

そして今回、屋敷で徘徊する人影や火の玉はどーなってるのかって言うと……。

「プログラムを組んでみたんだ!」

「……そう、すごいね……はやく寝たら?」

プログラムっていっても、ナントカ言語みたいな難しいことじゃないよ。

闇滅玉(あんめつだま) を不恰好な 人形(ひとがた) にするでしょ? そして領域畑を徘徊するようにプログラムした訳だ。

動く物があったらそれとなく近寄ったり、逆に遠かったりザックリと指示しといたんだよ。

自動化といっても、少しばかりエネルギー消費が大きくなっちゃうから、そこは領域畑とゲームリンクさせて節約している。一晩くらいならもつかな?

マフィアどものビビる顔が見れないのは残念だけど、傷グラサンの様子を見るに、上手く機能してるみたいだね。

これが私の『感情エネルギー自動収穫システム』だ!

「にゅふふ! 私の知らない所で、恐れ慄くがいい!」

「……うるさすぎて……ビビる」

――――――――――――――――――――――

「はい、 闇滅玉(あんめつだま) 水滅玉(すいめつだま) もいっちょ 闇滅玉(あんめつだま) ……と」

板張り廊下を、ジェットブーツでスイスイ滑走しながら、 妖球(あやかしだま) を放り投げていく。

徘徊する数は多い方がいいからね。

今日は探索ついでに、 妖球(あやかしだま) でオバケスタッフをばら撒いてるところだよ。

「ま、こんなもんかな?」

ある程度、納得したところで立ち止まり、柱を背にもたれ掛かる。

「たまには、室内の方も探索してみよ〜かな?」

今までは主に、外側の廊下に沿って探索してたんだけどさ。たまにはこっちにも足を伸ばしてもいいかな。

別にサボってたわけじゃないんだけどね。

「隠れる場所が少ないんだよなぁ……」

まぁいいや。安全第一で探索すりゃえーでしょ。

てことで、月明かりのとどかない廊下に向かってゴー!

ふむふむ、両脇にフスマのような扉が並んでる廊下だね。あ、ヤバい本当に隠れる場所ないや……。

「いったん室内に入ったほうが安全……あんぜ……フングッ! 開かねぇわ!」

なんだこのフスマモドキ! 接着剤でも敷居に流し込んでんのか!?

フスマに見えても、別もんだわコレ。セキュリティ問題もバッチリかよ。

「まぁ別に関係ないけどね」

はい、コチコチコチコチ……チーン!

スキマを作りゃ入れるからね。悔しかったらスキマが完全になくなるように扉を作れば!

室内は……ほうほう。

「なんもないね……」

う〜ん。内装は板張りとタタミモドキの合わせ技。

あ、こっちのフスマモドキはスライド可能やね。連結している部屋同士を、フスマモドキで区切ってんのか……。

外からの侵入さえ防げばいいって考えかな? とは言ってもイキナリ開け放つマネはしないよ。

向こう側に誰かいたらマズいからね。

「しかし……殺風景な部屋が多いこと……」

何部屋かフスマを開けて進んでみたけど、何もない部屋が多いね。

「おや? なんか広い部屋に出たね」

とか思ってたら、ちょっと様相の違う大部屋が現れた。部屋を六つくらいぶち抜いたような、だだっ広い空間。

「う〜ん……なんか、『お殿様』でも座ってそうな部屋だね」

おあつらえ向きに、奥の方が一段上がっていてお殿様が座りそうな感じに座布団が敷いてある。

「お、なんか高そうな短刀が飾ってある。……盗んだらバレるかな?」

座布団の背面には、壁に沿って高そうにディスプレイされた置物が飾ってある。流石にディスプレイされてる物に手を出したらバレるよなぁ。

「まぁいいや、まずは安全を確保する為にスキマをつくろっと……」

こんだけ装飾があるなら、スキマの作成も容易だよ。

スキマを作成して、座布団に座り込む。

ふ〜むぅ? 集会場って感じなのかね。

「……ッ」

なんか来るね……。外より静かだから、物音に気づきやすいわ。

ソロリと片手を床に付いて、座っていた座布団から膝を浮かせる。

しゃがんだまま、視線をキョロキョロさせて物音の出所を探ろうとするが、いまいち方向が分からない……。

だけど音だけは徐々にハッキリと聞こえるようになり、それが床を軋ませる足音だと言うことが分かる。

「……」

私はジェットブーツを起動して、しゃがんだままゆっくりと後退する。床を手でなぞるような動きで下がると、コツンと踵に壁の柱の感触が伝わった。

薄暗かった室内がパッと明るくなった。

その瞬間に、ジェットブーツのローラーを逆回転させた。

私は座った姿勢のまま柱を駆け上がり、先ほど置物の上にある戸棚に設置していたスキマに滑り込んだ。

「あっぶね……先にスキマ作成しといて正解だったわ……」

ふぅ……やっぱり誰か入って来おったわ。

室内に入ってきたのは、身長が高くガタイのいい男。

体がデカいといっても太っているわけではなく、どちらかと言えば筋肉質に見える。

甚平のような服を着た男は、黒服グラサンを二人引き連れて、さっき私が座っていた座布団に座り込んだ。

もしかしてお殿様ですかね?

お殿様にしてはラフな格好してるけど。

お殿様は一段上がった座布団席から、同じく座り込んだ二人組の黒服グラサンを見下ろす。

「それで……エルテが持ち帰ってきたものがソレか?」

低く重低音の声を震わせて、お殿様が口を開く。

言われた黒服グラサンは、アタッシュケースを持ち出し開く。

「はぁ……やはりコアか……」

疲れたような声で、眉間に刻まれた溝を揉みしだく。

何あれ? ソフトボールくらいの……水晶かな?

見下ろすお殿様の後方から、更に見下ろす視点を持つ私には、アタッシュケースの中身が丸見えだ。

「ボス、間違いないらしいですよ」

「……エルテはどうすると言っている?」

「興味がないから、オークションにでも出す……と」

「そうか……天然コアの巨大飛行船建造で、欲しがる者は多いだろうな……莫大な資産になる」

「へい、さすがはお嬢ですね」

「……そうだな」

お殿様はそこで言葉を区切り、軽く天井を見上げる。

「なぁ……あれ本当に俺の娘か? ……規格外過ぎて怖いんだけど」

「諦めてください。間違いなくボスの娘です」

「だよな……」

もしかしてお殿様……キモノお嬢の『お父様』だったりする?