作品タイトル不明
自宅で飼ってるペットの得体が知れないんですけど……
「お、いいもんみっけぇ……」
埃被った倉庫で、コソコソ物品を漁ってると、ネズミにでもなった気分になってきますね。どーも私です。
そうそう、公園デビューという名で、カジノに連れて行かれた日があったじゃん? その時キモノお嬢は、何人かのカタギじゃなさそうなヤツらと会話をしていたんだけどさぁ……。
「ちょいとマズい気がするんだよねぇ……」
何回か非合法そうな会話をした後に、意味深にこっちを糸目でチラ見してきやがる。
その時の相手の反応は
『うわぁ……マジかよ。こいつヤベェな』
と
『うわぁマジでぇ! こいつぁ楽しみだぜ!』
とまぁ、だいたい二種類。
よし、逃げよっか!
つーことで脱出準備のために、敷地内にある倉庫を巡って役に立ちそうな物を集めてるんだよ。
「ようやくロープを見つけた。こういうの探すと見つかんねぇもんだよね」
とりあえず、最優先で見つけたかったのが、このロープだ。
これがあれば、塀を越えられるはず。
塀の高さは十メートルほどだったから、普通なら越えられない。私はジェットブーツで乗り越えられるけど、幼女ちゃんは無理だからねぇ。
「流石に垂直の壁を、ロッククライミングはできんだろうしな」
私が塀を越えてロープを渡してやれば、幼女ちゃんも越えられるはず……。
うん、大丈夫なはずだ。
ああ見えてあの子。運動能力は高い方だからね。
ロープを使って登らせればいいだろう。
まぁ塀の問題はこれでいい……これでいいんだけど……
「檻……どーすっかな……」
幼女ちゃんの弱点というか……魔力とやらを解くことに長けた彼女だが、実は檻を抜け出すことができない。
しばらく一緒にいて分かったけど、魔力を見て、解析し、自分以外の魔力に干渉できる幼女ちゃんは、この世界において卑怯くさいほどの破格の能力になるんだ。
日常的に、魔力というエネルギーに依存している部分が多い世界だからね。
でも……
「解の巫女さん……アナログに弱いんだよねぇ」
私たちが入れられてる檻ね……『普通』の鍵が掛かってんだよ……。魔力とかの不思議パワーじゃなくてさ。
いくら幼女ちゃんが魔力を操作できると言っても、アナログ鍵の前では、ただの無愛想なクソガキでしかない。
「くそぅ、キモノお嬢の趣味が、的確に私たちに刺さりやがる」
幼女ちゃんが言うには、魔術で施錠されている物ってのは魔術さえ解いてしまえば、他にアナログの鍵なんて掛かってないそうだ。
なぜなら魔術施錠は高級で、アナログ鍵の上位互換みたいな扱いだから……。魔術施錠の鍵を解く装備があるなら、普通の鍵を開ける手間などあってないようなものらしい。
「魔術特攻の幼女ちゃんがこの世界において、よほど特異な存在の証明だね……」
魔術施錠を簡単に解けるのに、アナログの鍵が解けないなんて、この世界では想定されてないんだ。
それまでに幼女ちゃんの能力は異常ってことだろう。
そら狙われるわ。
「……まぁそのせいで檻から抜け出せないんだけどさ」
ホントどうすっかなぁ〜。
新しい鍵開けの能力でも開発するか?
いや……どんなゲームをすればいいのかピンとこない……。
「ゲームリソースの採算度外視で作れば、できない事もないけど……」
たぶん、使い勝手の悪い能力になるだろう。
いやそれ以上に、セットできる能力の枠を『鍵開け』なんかで消費したくないんだよ。
逃げ出したら即座に追いかけ回されるだろうからね。
実行時には出来るだけ、逃げ出すのに有用な能力をセットしたいものだ。
一応は少しばかり時間が掛かりそうだけど、他に手がないわけでもない。
「領域畑でエネルギーを貯めるとかね……」
領域畑で出来る事と言えば『領域畑を【私の領域】に近づけること』だ。つまり万能空間に近づければエネルギーを消費して檻の鍵を開ける事も可能。
そんなん今すぐやれって思うだろうけど、ことはそんなに単純な話じゃない。
忘れたかな? 感情エネルギーの効率の悪さを……。それに問題はそれだけに止まらない。
「私は分からないんだよ。どんな仕組みで鍵が掛かってんのか」
鍵穴に鍵を刺して回す……オーケーそこまでは良いよ。
それで? 鍵穴の中ではどんな事になってんの?
具体的に何処をどうすれば、鍵は開いた事になるの?
領域の力を使って何処を動かせば良いの?
ほら、分かんねぇでしょ?
だから私はこう指示するしかないんだよ。
「とりあえず開錠」
うん、なんか居酒屋での一杯目みたいな言い方しちゃったけど、そういうこと……。
何をすれば良いか分からない私は、領域の力を使って『開錠』という、概念じみた結果だけを求めることになるんだ。
もちろん万能なんだから可能ではある。
でも、具体的にどうするかよく分かってない物を、『上手い事ヨロシク』って感じにするんだ。
「感情エネルギーが足りねぇ」
……もう少しばかり感情エネルギーの収穫が必要だね。
収穫するための方策を考えますか。
「お、コレも使えそうね」
そんな考えが纏まったところで、私は台車に乗った荷物を退かして、スキマの中に台車を収納する。
うんうん、なかなか軽くてしっかりした台車だぜ!
これ?
塀を越えた後、追っ手から逃げるための台車だよ?
これに幼女ちゃんを乗っけて、私が後ろからジェットブーツで押すんだ〜。
「白髪幼女……母親の元までお届けしますってね」
配送料は高いよ。
――――――――――――――――――――――
「…… 炎滅玉(えんめつだま) 」
パリンッ! パリンッ! パリンッ! パリンッ!
寝殿造りの屋敷。その立派な屋敷の屋根の上で、瓦に座り込みながら少女が呟く……。
「監視カメラが使えないなら……自動化しちまえばいいよねぇ」
ニィイイ――
と怪しく、意地の悪そうな顔で呟く少女は、生み出された淡い炎に照らされて、不気味なものとしていた。
「ついでに 闇滅玉(あんめつだま) ……おまけで 水滅玉(すいめつだま) ……こんなもんかな?」
一通りことの済んだ少女は、スッと立ち上がると星の煌めく空を見上げる。
そしてギュンというスリップのような音が、足元から放たれた瞬間、少女の体は予備動作もなく空中へと投げ出された。
夜空をクルクルと、ムーンサルトのように回転して落下する少女は着地の瞬間、向かいの屋根の柱に軽く片足を這わせた。
それまでの落下エネルギーなどなかったかの様に、音もなく着地する。
「さぁてぇ……これでどれだけの感情エネルギーを蓄えることが出来るかな〜?」
料理の待ち時間を楽しみにしているかのような、そんな楽しげな声で、長い髪を軌跡のように振るわせて少女は立ち去った。
――――――――――――――――――――――
不本意ながらペット当番に任命されている、黒服マフィアの傷グラサン。
その傷グラサンが、息を切らせてペット倉庫に向かい、勢いよく扉を開け放つ。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
「んん〜? そんなに慌ててどうしたんスか。お兄さん?」
そんな慌てた様子を、ペットである少女二人は、檻の中で寝転びながら視線を寄越してきた。
「ッ! いる……」
「そりゃ居るでしょうよ。ここに閉じ込めているのはマフィアの方々だったと記憶してますけどぉ?」
呆れたような顔でノラと呼ばれる少女が、片足を上げて指してくる。とても世間に恐れられている、マフィアの一員にする態度ではない。
「お前ら、何かしたか?」
だが、傷グラサンにはそんな事を気にする余裕などなかった。
「何かってぇとぉ? ……なんスかね?」
「……今日は、抜け出したか?」
「いんやぁ? 見ての通り囚われですよ」
「……」
『囚われ』の部分には大いに反論したいが、今はそれどころではない。
「……屋敷で何か……よく分からない人影や火の玉を見かけたらしい……嬢ちゃんじゃねぇのか?」
「なるほどなるほど……知りませんねぇ。見間違いじゃないんですかねぇえ?」
「ッ!」
ノラと呼ばれる少女が、ニヤニヤと笑いながら答えるのに、神経が逆撫でされる。しかし、冷静になれという心の声に従う。
「俺もみた。何かが屋敷を徘徊している影を見かけた」
「へぇ〜……」
興味の無さそうな声で返される。
この騒ぎのせいで、屋敷はちょっとした騒ぎになっている。傷グラサンは真っ先に、この少女が見つかったのだと冷や汗をかいたのだ。
しかし、予想を裏切って少女は檻の中で大人しくしている。
「……本当に嬢ちゃんが原因じゃねえんだな?」
「関係ないッスねぇ」
考え過ぎなのかもしれない……そう思うが、どうしても少女と人影の関係を切り離すことができない。
「おや、帰るんで? おやすみなさい……」
無言で倉庫の扉を閉じて帰ろうとする。
「ッ!」
両開きの重い扉を閉める瞬間ノラの、不気味な髪の長い少女の顔を見てしまった。
横になりながら、両腕を枕のように天井を見つめる少女の顔は笑っていた。
口の両端は、三日月のようにパックリと吊り上がり、瞳は楽しそうに細められている。
その瞳は目を細めているせいか、白目がなく、まるで瞳全体が黒い眼球のようにも見えた。
ゾッと足元から怖気の走った傷グラサンは、恐怖から見ていられなくなり、閉まりかけていた扉を素早く閉じた。
「はぁ! はぁ! はぁ!」
治りかけていた息切れは急速にぶり返し、ズルズルと崩れ落ちるように膝を突く……。
扉についていた手を、顔に当てて覆う。
彼は『もしかして』というある予感を覚えていた。
もしかして、タイプは違えども……。
少女の形をしていたとしても……。
アレらはお嬢と同じ……バケモノの一種なんじゃないか?