作品タイトル不明
お気に入りかもしれないけど、気に入られてはいない
「今日は風が強いな」
「ああ、そういやお嬢が帰ってきたらしいぞ」
【王領 クロックシティー】 人知を超えた巨大時計塔を中心とした広大な都市。そのクロックシティーにおいて、オクトー区域と呼ばれる地域では、幾つものマフィアがシノギを削っている。
「たしかダンジョンの進行に、お嬢の腕を貸していたんだよな?」
「ああ、おかげでまた、バイラールファミリーのナワバリが広がったとか……」
「うへぇ……お嬢さまさまだな」
「そのお嬢だが、またペットを拾ってきたらしい」
そしてオクトー区域で巨大なナワバリを築くマフィアの一角、【バイラールファミリー】。山脈を本拠地に据える、高さ十メートルはあるそのマフィアの正門にて、見張りの二人がそんな会話を世間話のごとく続ける。
「今度は何だ? 前回は鎌使いだったか?」
「いや、前回は魔獣だったな。鎌使いはその前だ」
「そういやそうだった。最初はペット扱いに憤慨して威勢が良かったのにな。廃棄を命じられる時にはお嬢の靴でも舐めそうな勢いに変わっちまってた」
「ああ、さぞ腕の立つ武人だったろうにな……」
門の前に立つ黒服サングラスの構成員は、タバコに火をつけようとカチカチと火種を用いる。
「は、それが今度のペットは……なんと女児の二人組らしい」
「……マジか? そりゃいくら何でも」
「おっかねぇな……お嬢は何を考えてんだか……」
「まったくだ……チッ、風で火がつきやがらねぇ」
ファミリーの娘の、サディスティックな性格に身震いを起こす。といっても傍若無人を絵に描いたようなお嬢だが、一応の分別はあるのか滅多なことではファミリーに危害を加えることはない。
もっともそれは……限度を超えない限りだが……。
「――つかねぇな……おい。火種くれや」
ジュボッ――
差し出された火種に、ようやくタバコを吸うことができた男は、全身に染み渡るように吸い込むと、濃い煙を吐き出して一息ついた。
「ふ〜、悪いな」
「ああ? なにがだ?」
思った通りの反応が返ってこなかったことに、口にタバコを咥えたまま首をひねる。
「いや、火種だよ。くれただろ」
「やってねえよ……」
「あぁん? じゃあ誰が火種くれたっていうんだよ……」
……私です。
なるほど、流石に正面は見張りがいるか。う〜ん、ここは諦めた方が良さそうだね。
あぁちなみに私がいるのは門のスキマ。両開きの扉が合わさった部分にスキマを作って隠れてるよ。ほんでスキマから外を覗いてみたら見張りがいたって訳。
しかし、あんまり状況は芳しくないね。
門の高さは十メートルほど。それが塀となって横に続いている。これは幼女ちゃんを連れて越えるのは難しいね。
そして出口はこの通り。スキマを通って出ることは出来ても見張りに見つかっちゃう……。
「脱出口としては使えないねぇ……壁に沿って別の出口を見つけた方がいいかな?」
遠隔炎滅玉は問題はなさそうだね。しっかりと領域畑が作られてるみたいで何より。でも遠隔で操作できるっていっても私の見える範囲しか無理だからなぁ……。
「監視カメラの能力と合わせないと、使い勝手は悪いね」
だったら設置すりゃええやん…て思うんだけど、残念ながら能力スロットが空いてない。檻から抜け出すのに霧化の能力をセットしちゃってるからね。
私は現在、四つの能力をセットできる。
マフィアの本拠地探索ビルドとしてはこんな感じ。
● slitースリットー 隙間に入り込む能力
言わずもがな、私の生命線であり相棒とも呼べる能力
● コメット⭐︎キングダムコンペ ジェットブーツの能力
言わずもがなその2、これが無いと広い敷地を移動なんてしたくない。
● 闇に生きる者 霧化の能力
使い勝手は良く無いけど、檻を抜け出す為に必要だから入れないといけない。
● 探偵ファーマル 言語理解の能力
まあ……なんだ。正直最後まで迷った。
ハリウッドメガネの時のように、最悪これを外して探索に役立つ能力に切り替える案もあったんだ。
「でもダメだ……」
今回はマズい。
能力のインターバルである24時間……というより次の【私の領域】を発動するまでの間に、キモノお嬢がやってきた時の心配がある。
ハリウッドメガネは基本的に決まった日、決まった時間にしか現れなかったから調節できた。
でもキモノお嬢は、現れる頻度こそあまり頻繁ではないものの、いつ現れるかさだかではない。
そうなると、怪しまれる……だけじゃ済まないのよコレが……。
「いつ殺しにくるか、判断つかねぇ……」
いや、殺しにくるタイミングなんて、あのイカれお嬢様の事だからサッパリなんだけどね。それでも、言葉が分かるかどうかは立派な判断材料だ。
『今から殺すわね?』なんて宣言してくれるわけじゃないけど……それでも不機嫌かどうかのバロメーターくらいにはなる。むしろそれくらいしか判断できない。
てことで、言語能力を外すのは避けたいんだよねぇ。
「っとぉ、ただいま〜」
「……おかえり」
「帰ったかよ……」
「ありゃお兄さん、来てたんですね」
「……」
ペット倉庫に帰ったら、お菓子をモゴモゴ食べてる幼女ちゃんと、タバコを吹かしている傷グラサンがいた。
うむうむ、出迎えご苦労様。
「いるんなら今日も檻の鍵、開けてもらえません?」
「……なぁ、どうやって抜け出してんだコレ?」
企業秘密で……。
なんだかんだこの傷グラサン、ちょくちょく私が抜け出してる時間にやってくるんだよね。そもそも、いつでも檻の近くに居るわけじゃないんだ。
それでも夜中にやってくるのは……心配だからだろうねぇ。私がちゃんと戻ってきてるのか、誰かに見つかってないのか、不安なんだろう。
だって、逃がしてるのバレたら自分がヤバいからね!
可哀想!
まぁだからといって、私が抜け出すのを止められないのも分かってんだろうけどね。だから見にくるんだ。
「おいノラ……誰にも見つかってねえだろうな?」
「あはぁ……お兄さん、心配してくれてるんスねぇ?」
「テメー分かって言ってんだろ。見つかってねえだろうな!」
「アハハ、そんなヘマしないですってぇ」
スマン、見つかってはないんだけど、近々幽霊騒ぎは起こるかも。
「そんなことより兄さんこそ、誰にも喋ってないでしょうね?」
「……言えるわけねえだろ……」
「なるほど、それは助かります! 主にお兄さんの命が……」
「……悪魔かお前?」
――――――――――――――――――――――
「さ〜、出てきなさい」
「ご主人様、お久しぶりでございますね」
「そうだったかしら?」
どうだろうね。何日かぶりにキモノお嬢がやってきたけど、あんまり会いたくなかったから、実は久しぶりって感じもないんだよね。
まぁ久しぶりでいいや、とにかくキモノお嬢がやってきて鍵を自ら開けたと思えば、ついて来いと言う。
ん〜、あんまり気は進まんけど、従わないわけにはいかないね。
キモノお嬢の後を、幼女ちゃんと二人でついていく。
庭園を通って本殿の方へ。屋敷の中を右へ左へ。
そしてある座敷に通された。
「お嬢様、お待ちしておりました」
そこで待っていたのは、数人の女性。
ふむ、確かにこの屋敷には黒服サングラス以外にも女性がいるのを確認している。キモノお嬢ほど派手な服じゃないけど、着物っぽい服を着てるんだよね。
制服みたいなもんかな? 少し動きづらそうだけど。
メイドってより女中とでも言いたくなる。まぁ分かりやすくメイドでいいか。
そんで、私たちをこんな所に連れてきてどーするつもりかね?
「そうねぇ……どれがいいかしら……」
キモノお嬢は扇子を開くと、口元を隠して私たちを開いているかも分からない瞳でジロジロ見てくる。
あ、鳥肌立つんで、あんまり見ないでもらえると助かります。
「シロにはアレを着せなさい」
「御意に」
扇子を閉じて、メイドさんたちに指示を出すキモノお嬢。
「なるほど……ペットの着せ替えっスね」
「勘がいいわね」
「公園デビューでもさせますか?」
「勘がいいわね」
間違ってないんかい!
こいつにとって、犬に洋服を着させる飼い主のつもりなんだろう。いい趣味ですね。反吐が出ます!
しかし、公園デビューね……。比喩なんだろうけど、あんまりいい予感しないなぁ……。見せびらかしたいってことなのか?
「……いいわね」
メイドさん達に、クルクルと着せ替えさせられている幼女ちゃんを薄目で見て、キモノお嬢はボソリと呟いた。どうやら、幼女ちゃんには自分に似たキモノっぽい服を着せるつもりらしい。
「お、似合うよ幼女ちゃん」
「……」
私の上っ面だけの褒め言葉に、苦い顔をする幼女ちゃん。うん分かってるよ。キモノお嬢に似た格好をするのがイヤなんだよね?
安心しなよ。次は私の番だろうから。
「そちらの子はどうしますか?」
「そうねえ……ノラは、ふふ」
糸目の下の瞳がコッチを向いた気がした。
「いえ、いいわ。ノラはこのままで」
「お、ラッキー」
私は着替えなくていいらしい。思わず歓喜の声を上げたら、ゾクっとした。
え、なになに? って寒気の出所なんて決まってるわ。
キモノお嬢はニコニコ顔で私を見下ろすと、閉じた扇子を私の顎に当てて強制的に上を向かせる。
「……」
「あ、あの〜、どうかしたッスか?」
「……オマエ、可愛くないわね……」
ええ〜……そんな事言われても。こんな美少女捕まえてなんて事言うんだ。目ぇ見えてんのか?
あぁそうか、そんな糸目だからちゃんと見えてないんだろ。
とは言っても、なんか不機嫌になってるのは間違いない。余計なこと言わんとこ……。
しばらくそんな圧迫面接じみた威圧を受けてたが、スッと私の顎から扇子をのける。……ゆ、許された?
「あとシロ……その服が気に食わないかしら?」
「……ありがたきしあわせ」
飛び火した幼女ちゃんは速攻で土下座をかます。
キミ少し私に似てきたね。
でも今ので、キモノお嬢の不機嫌になった理由ってのが分かったかもしれない。
多分だけど、キモノお嬢は私たち二人の中でわざと優劣を作ったんだ。二人いるペットの片方を可愛がり、片方を遇する。
そうする事により、私の嫉妬心を煽ろうとしたんだろうね。
もしかして仲違いでもさせようとしたのかな?
とにかくサディストなお嬢はそんなことを、何となくの気持ちでやったんだろうね。
でも残念ながら……オマエに気に入られるとか罰ゲームなのよ……。
本気で嬉しそうにしている私と、嫌そうにしている幼女ちゃんをみてアテが外れて不機嫌になったんだ。
いや、地雷が見えづらいんだよ!
そうならそうと言えや! 望んだ対応してやるからさ! ……今の所はな。
「まぁいいわ。出かけるわよ」
まぁ、何となくの思いつきだったんだろうから、不機嫌はすぐに霧散したらしい。
「え〜っと、それで公園デビューでしたっけ? どちらの公園ですかね?」
近くだといいな〜。
「カジノよ」
随分と賑やかそうな公園ですね……。