軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

何もなかったよね?

「畑でも耕すか〜」

「……とーとつな農家宣言……」

どーも私です。

キモノお嬢に捕獲されて連れてこられたのは、和風っぽい建物が広がるマフィアの本部。

うん、マフィアの本拠地だね。

なにが悲しくて、反社会勢力の真っ只中に放置されとんねん。んで今は『ペット倉庫』と呼ばれる倉に監禁されてる訳だけど……。

「さて、少し様子を見るべきか……どー思うよ、幼女ちゃん」

「……うむ」

同じ檻の中で腕を組む白髪幼女に声を掛ければ、「ぬぬぬ」と呻きながら考えを巡らしている。

「私としては、此処に連れてこられて初日だから、念の為に様子を見るのが得策だと感じてるんだけどさ……」

正直よく分からん。

「……少しでも周りの様子を確認しておくべき……」

唸っていた幼女ちゃんは膝をポンと叩くと、覚悟を決めた顔をして反対の意見を宣言してきた。

「ほほう、その心は?」

「……糸目女が危ない。いつ機嫌が悪くなるか分からないから、はやく脱出ルートくらいは見つけておくべき」

なるほど、確かにキモノお嬢から早いところ逃げ出すのは賛成だ。幼女ちゃんはキモノお嬢のヤバさを、魔力という実際に目に見えるモノで確認できるから、私より危機感が強いんだね。

つまり、私が感じているキモノお嬢の危険度は、さらに上方修正した方がいいってことだ。……なにそれ怖い。

「オッケー分かった。少し抜け出して、辺りの様子を確認してくる」

「……むぃ、ご武運を」

と、その前に……。

口をパカリと開けて上を向く。すると、私の口から光る玉が吐き出されて宙に浮いた。

「うおりゃ!」

それを床に押し込んだ。

「ふむ、無いよりマシかな?」

「……なにそれ?」

「これ? 肥料だよ」

「……口から肥料を吐き出す女……」

その言い方やめて……。別に口じゃなくてもいいんだからさ。

まぁ何のことか分からんよね。これは領域畑に使用する為の感情エネルギーだよ。

お前、感情エネルギーを前の宝石店で全部使用したじゃん……て思うでしょ? あるんだな〜コレが。

確かにテーブルという収穫物ごとダンジョンのエネルギーに変えて全部使用したよ。でもね、それとは別に感情エネルギーが発生していたことを忘れていないかい?

そう、あの時点ではエネルギーはスッカラカンだったんだけど、最後にピエロ泥棒たちから生成された恐怖の感情は別だ。

領域畑が崩壊した後も、行き場を失った感情エネルギーは、私にエネルギーとして蓄積されることとなった。

「もちろん感情エネルギーなんて持ってても、そのままじゃ意味がない」

じゃ産業廃棄物のように持ってるしか無いのかと言われると、それも違ったりする。

収穫物のように別で作った領域畑に、肥料として使用する事ができるんだ。

つまり、最初から少しだけ領域畑のレベルを上げる事ができるってことだね。

とは言え、何かと効率の悪い領域畑の話。

ピエロ泥棒たちから生成した感情エネルギーだけでは大した事はできない。

でもさっきも言った通り、無いよりマシだね。感情エネルギーを集めるうえで、この初速があるだけで便利さが違うはずだ。

「出ていく前に、細やかなカモフラージュしとかなきゃね」

スキマから野菜を取り出して、布団に並べていく。そして布団を上から掛けてやれば、寝ている私の出来上がりだ。コツは瓜系の野菜を頭に見立てて配置する事だよ。

「……よく冷えてる」

食べ物のスキマは、冷房ガンガンで腐らないようにしてるからね。アレだったら別に食べててもいいよ。

ドレッシングも、なにもねぇけど。

「ほんじゃ行ってくるよ……【霧化】」

ゆっくりと、私の輪郭が歪んで黒い霧のように変わっていく。ヌルリと首輪が霧の体を通り抜けて、そのまま檻の外に向かう。

「……うわぁ」

幼女ちゃんのドン引きした声が、後ろから聞こえるが無視だ。結構、繊細な能力で少しの風ですら解除されちゃうんだよ。たぶん喋ったりするのもアウト。

檻の外に出たら体を再構成。

「うっし! 成功!」

幼女ちゃんは、私から分離した首輪を持って見聞してる。

「なんかこう見ると、なんで首から外れないのか不思議なくらい簡単な作りしてるよね?」

「……ぬぅ。つけるのは簡単……外すのは面倒。……普通に作られた首輪じゃないかも……」

構造としては、真ん中から割れる金属の輪っかを、嵌めたら留め金でパチンと止める単純なモノ。

「……大きさの調整ができる魔術回路……むぅ……なんでこんなに幅が大きいんだろ……」

檻の中で、私から外れた首輪を弄りながら呟く幼女ちゃんは、パズルで遊ぶ子供のようだった。

……いや、子供の遊び道具にしちゃエグいわ。

入口に向かって、古めかしい鉄扉にスキマを作成。

外を伺えば、どうやら庭園のようで人工的に作られたであろう池が見える。

「ヌルっとな……」

外に出て、今まで自分たちが閉じ込められていた倉庫を振り返ってみれば、瓦の乗った三角の屋根の古めかしい倉になっている。

「ふむ……和風っぽいけど決定的に違う……」

木造に見えるけど、大理石のような岩があしらわれてたりする。

植えられている木々を避けて、地面に埋まっている岩の通路を通って池に近づいてみれば、木で出来た橋が掛かっている。

辺りを見渡してコソコソと橋を渡り、内陸に渡る。石で出来た燈篭を観察してみる。

「……熱くない、燃えてるワケじゃなさそう」

まさか……LEDか?

いや、魔力だよねたぶん。そうであれ。

いくつかの橋を渡っていけば、池に突き出している釣りでも出来そうな木製の通路が見えてきた。

「ほぉん、たぶんアレが本殿って感じかね?」

外にむき出しの通路や廊下。私が和風っぽいと言っているのはこう言った部分だ。

寝殿造りとか書院造りとかよく分からんけど、そんな感じ。

庭園から廊下にあがろうとして、足を止める。

そういや、こう言う建物って足音で侵入者を察知したりするんじゃなかったっけ?

木製のしなりで鳥の鳴き声みたいに聞こえるみたいな……。念の為にジェットブーツを使用した方がいいね。アレなら無理をしなきゃ足音が鳴らないから。

領域畑を広げながら、探索を続ける。

マズイな……この建物。開放的であるが故に、スキマの生成場所が少ない……。まぁ全くない訳じゃないから大丈夫だけど、警戒だけはしなくちゃね。

「……おやぁ?」

せっせと領域畑を広げながら進んでいると、ある曲がり角で違和感を覚える。領域畑は私を中心に発生して、移動する事により広がっていく。

「畑が作れない?」

いや、畑が作れないというより、一部分だけ耕せない感覚だ。直進するはずだった廊下を曲がってその場所を確認してみる。

「……コレかぁ……領域畑すら弾くとか、ただのオブジェじゃないね」

領域畑の範囲に含まれない存在は――

「歯車ね……」

街中の至る所で見かけた歯車。

まさかマフィアの本拠地にまで我が物顔で鎮座してるとは……。一応、屋根をつけて 四阿(あずまや) のようにしているので、水車や井戸のようにも見えるけど違和感は強い。

「どう言う事だろね?」

まぁ考えてもしょうがない。

何で取り壊さないのかとか、気になる事はあるけど、別に歯車だけ避けて領域畑を作れば問題ないからね。

――――――――――――――――――――――

「……そろそろ戻るか」

収穫としてはマズマズ。

脱出口は見つけられなかったけど、厨房は発見済み。厨房は和風っぽくなくてキッチンて感じだった。

冷蔵庫からお菓子を失敬してきた。

池に掛かった橋を渡ってペット倉庫に戻ってくる。

スキマを通って中に入れば……

「ファァーーーーアアアアアアアアアアアアア“ア“ア“ア“ア“!?!?!?!?!?!?」

うっさ!

傷グラサンによる悲痛のサイレンがコダマする。

あぁ……布団の中身を見たんだね。私が抜け出した事バレちゃったかぁ……。まぁ……

「問題ねぇか」

「ッ!!」

私の呟きに、バッと振り向く傷グラサンは、目に見えるほど狼狽えて口をパクパクさせる。

その横を通り抜けて、幼女ちゃんに挨拶する。

「うぃ〜っス。ただいま」

「……おかえり」

「あ、兄さんちょうど良かった。檻の鍵開けてくんないッスか?」

「お、オマッ! 何で! 何で! オマェエエ!」

だからうっせぇな……。霧化はちょっと時間掛かるし面倒なんだよ。そこにいるんなら大人しく開けとくれ。

「う、あ……ああぁ……」

私の言葉に、カチャカチャと焦りながら鍵を開けようとしているが、焦っているようで手元がおぼつかない。……いや逃げねぇから落ち着けよ。

「は、入れっ! 入れよ!」

はいはい、言われなくとも入りますよぉ〜。

「……ハッ! ま、待て!」

「ん? なんすか?」

大人しく檻に入ろうとしたら、呼び止められた。

「お前どうやって抜け出した! 誰だ! 誰がお前を檻から出したんだよ!」

あぁ、誰かに出してもらったって思ってる?

「いや違う!」

違うそうです。

自己解決できて偉いね。

「鍵は俺が持ってる!」

自慢かな?

「まぁまぁ、そんな事いいじゃないっスかぁ……ちゃんと戻ってきたんだから。問題ないでしょ?」

「ッ問題あるわ!」

うるさいなぁ……。しつこいぞオマエ。

「ふざけるな! お前、勝手に抜け出してどう言うつもりだ! どーすんだよコレェ! ただで済むと思ってんのか!」

脅しのような台詞を吐く傷グラサン。

タダで済むと……かぁ。ニィイイと口角が上がるのを止められない。

「ふへへ、思ってますよぉ……」

大丈夫なんだよ。お前に見つかるのだけは大丈夫なんだ。

「な、なにを……」

「……ぬひひ」

幼女ちゃんも嫌らしい笑みを浮かべて笑っている。そんな私たちを、恐ろしいバケモノでも見るような目で見てくる傷グラサンは、一歩、二歩と後ろに後退した。

幼女ちゃんの方が現状をよく把握してるね。

「兄さんさぁ……私が檻を抜け出したとしてさぁあ? 誰に報告すんの?」

「そんなのは……ッー!!」

「あひゃひゃ! キモノお嬢に何で報告するんですかぁ? 「逃がしちゃいました」って?」

「……言われてたよね……逃すなよって」

私は檻に入ろうとしていた体を反転させると、ショックのあまり座り込んでいる傷グラサンの肩に手を乗せ、耳元で囁く。

「兄さんさぁ……考えてもみなよ。私は抜け出したけど……ちゃんと戻ってきてるじゃん? 分かるよね? 兄さんが黙ってさえいれば、全部丸く収まるんだよ……」

「あっ……う……」

「逃がした責任……取らされたくないでしょ?」

悪魔のような私の呟きを聞いて、傷グラサンはビクッと震える。

虚な目をしている傷グラサンに見せつけるように、私は檻に入って、幼女ちゃんから渡された首輪をパチンと嵌める。

「ほぉら……」

檻の中で私は、笑いながら言い聞かせるように……両手を広げてアピールする。

「全て元通り」