作品タイトル不明
中途半端な脅しは反撃の素
どーも私です。
このたび、頭のおめでたいことにマフィアのペットになりました。何を言ってるのか分からないと思われますが、私にも分かりません。
マフィアのペットって何なんでしょうね?
アレか? 悪そうなヤツの膝の上で撫でられてるネコみたいな感じ?
「なぁ嬢ちゃんたち……あの踊りなんだったんだ?」
「いやぁ、ノリで? あんなんバケモノ相手に打つ手ないから踊るしかねぇみてぇな?」
「ほ〜ん、まぁお嬢に目を付けられた時点でそうだわな」
檻に入れられた私と幼女ちゃんに話しかけるのは、椅子に座って足を組むグラサンの黒服。みんな似たような格好してるから見分けなんて付かなかったけど一応は別個体らしい……当たり前か。
私たちの世話役……というかペットの監視係ってところかな? グラサンの下から目に一本の傷が入ってるから『傷グラサン』とでも呼ぼうかね。
何となくヤクザっぽい感じ。
「なかなか上手なお遊戯だったと思いません?」
「そうだな。いきなり『捕まえてみな』からクネクネ踊り出した時には、本当に捕まえていいのか迷ったぜ」
「ところで私たちは何処に向かってるんすかね?」
この傷グラサンも私たちの見張りだけではヒマなのか、程よく話し相手になってくれる。情報収集にはうってつけのマフィアだね。せいぜいキモノお嬢に消されるまで情報漏洩しておくれや。
「あん? 空港だな」
「もちょい詳しく」
いま現在は、トラックの荷台に檻ごと乗せられて搬送中ってところ。
「お、おぉ……嬢ちゃん逞しいなおい」
「いやいや、いきなりマフィアにとっ捕まったんスよ? 不安になって色々聞きたいのは当たり前ッスわ!」
「それが逞しいんだよ……」
呆れたような口調で首を振る傷グラサン。
私が世間話にかこつけて情報を搾り取ろうとしているのには気づいているらしい。まぁ別に私も隠しているつもりはない。
「はっ、せいぜいお嬢の機嫌を損ねないように気をつけるんだな」
「そうッスね。アレ……冗談が通じるタイプじゃないっすからね」
そう、キモノお嬢の怖い所はそこだ。だてに出会い頭に殺されかけてない。気に食わなければノータイムで殺しにくる怖さがあるんだよ。
「殺しにくる沸点も読めねぇんだよな〜……」
常識が通じないとでも言えばいいのか……そもそも、気に食わなければ殺すんだろうけど、別にそうじゃなくても殺しそう。
いや、自分で言っといてなんだけど、殺すって言葉が簡単過ぎる。
「ほ〜、ガキの癖にお嬢のことがよく分かってんな」
いや、分かんねぇんだって。
私の呟きに律儀に答えてくれる傷グラサンは、何処か面白そうな顔をしている。
「ところで幼女ちゃんや。そっちはどうかな?」
「……ぬぅ。時間掛かる」
「あらま珍し」
檻の中でアグラをかきながら、横で寝そべっている幼女ちゃんに話しかける。
幼女ちゃんは、自分の首にハマった奇妙な模様のついた首輪をコンコン叩いて、私に見せつけてくる。
「……魔力が乱されてる。上手く解除できない」
「はぁん? なるほど」
幼女ちゃんは魔力的なものを解除する力があるけど、幼女ちゃん自体の魔力を乱されてるから解除ができないと……。
「無理っぽい?」
「……ん〜、別ルート探索中。少なくとも数日は掛かりそう」
お、それでも時間を掛ければ解けるってことね。望みはありそう。
「オバケ姉ちゃんの方は?」
「あ〜うん。私一人なら何とでもなるタイプかな」
この首輪、私の首にもしっかり付いてんだけど、別に一人なら取れない事もない。霧化の能力を使えば取るだけなら可能だよ。でも霧化は自分用だから幼女ちゃんまでは取れないし、どうしたもんかね?
「なあ、見張りの俺の前で脱出の算段立てるのやめてくんね? 逃したらお嬢に冗談抜きで殺されるんだが……」
「ははは、子供の内緒話を聞き耳立てるなんて、趣味悪いッスよ」
「聞こえるようにいってたよな? ……ナメてんのか?」
ふぅ……とため息を吐いた傷グラサンはギロっとグラサンの上からコチラを睨みつけドスの効いた声で脅しをかけてきた。
「いい事教えてやる……テメーらガキ共が助かる方法は一つだけだ。『ペットの廃棄』それしかねぇ」
檻を掴んで、チンピラのように傷グラサンは低い声で静かに語りかける。
「飽きたペットは捨てる事になるよな? その時の処理には二種類ある。一つはお嬢が直々に気分で殺す方法。もう一つは俺たちに命じて処理を任せる方法だ」
傷グラサンはニヤリと笑う。
「もう分かるな? お前らが生き残る方法はお嬢に飽きられて捨てる時、俺たちに任せられた場合だけだ。俺たちならその時に密かに逃してやる事もできるんだよ。お嬢は捨てたペットに興味がねぇからな」
傷グラサンはサングラスを掛け直すと、ヘソを曲げたようにイスに座り直した。
なるほどなるほど。
「頼むから逃げないで下さいってこと?」
「グッ!!」
そうだよねぇ……。逃しちゃったら殺されるってさっき言ってたからねぇ?
「ほらほらどーなんすか? 私たちに逃げられると困るんですか?」
傷グラサンよぉ……。脅すんなら最後まで脅そうぜ?
中途半端に脅そうとするから反撃喰らうんだよ。
「チッ、痛い目見てぇのか!」
「……ウソ」
これには幼女ちゃんが答えた。
「……あの糸目のペットを勝手に傷つけて大丈夫?」
「ンンッ!」
そうだよねぇ。きっと逃げてほしくなくて脅し掛けようとしたんだろうけどさ。幼女ちゃんにすら言い負かされるとかさぁ。
悪いけど私たち、相手の嫌がる事を探すのは得意よ。
子供だからね。腕力以外での交渉が大事なんすわ。
いいとこ探しならぬ、悪いとこ探しは基本よね。
だいたい、この傷グラサンには、私たちに対する『憐れみ』が感じられるんだよ。キモノお嬢に捕まって可哀想とか思ってんだろ?
そんなヤツに形だけ脅されても怖くねぇわ。
「あ〜もう! 分かった降参だ! 頼むから大人しくだけしといてくれ。どうせ逃げられねぇんだからな!」
グシャグシャと髪を掻いて拗ねちゃった。
「親の顔が見てみてぇぜ……」
「……同感」
「ンフゥッ!」
ヤメロや幼女ちゃん。
親の顔が見てみたいって、お母さんに会いたいって意味じゃねぇから! 不謹慎だけど笑いそうになっただろ。
「お、おう……スマン」
傷グラサンは傷グラサンで変な負い目感じとるわ。いや、別にキモノお嬢に捕まって親から引き離された訳じゃないから。その前からだから。
「ほいでお兄さんよ。空港に連れてかれて何処に行くんすかね?」
「続けんのかよこの会話……まぁいいや」
脅しが効かないのに諦めたのか、傷グラサンはため息を吐いて投げやりに答える。
「自家用の飛行船に乗って本部に帰還する。道中はお嬢のワガママで船に乗ったりしたからな。早く帰らねえといけねえんだよ」
「……して、本部とは?」
あんまり離れると、また帰るのが大変になるから困るんだけど。
「王領【クロックシティー】だ」
……ほう。
「幼女ちゃん幼女ちゃん。どうやらこのまま捕まってれば王都に辿り着けそうよ」
「……お〜、じゃあ脱出は王都に着いてからで」
「いや〜、日頃の行いかねぇ……運がいいわ」
傷グラサンは幾度めかのため息を吐いて、哀れそうに呟いた。
「嬢ちゃんたち王都に用があったのか……残念だけど王都じゃなくて王領だけどな」
「おん? どー違うんです」
「王都のある地方の別の場所だな」
……ち、近づいてはいるよね?