作品タイトル不明
舞ですかぁ……
豪華客船を謳ってはいるが、一番安い客室ともなれば巣穴のようなベッドが縦に並ぶだけの質素な部屋だ。
そんな安い客室の、ある少女二人が過ごしている部屋。その扉がギャンギャンと嫌な音をたてて真っ二つに落ちた。
「ふふ、いないわね。本当にこの部屋なの?」
部屋のセキュリティなど知った事かと言わんばかりに扉を切り裂き、瓦礫の向こうから姿を現したのは、形だけを整えたような笑顔のキモノを着た女。
灯りのついていない部屋を、細められた糸目で眺めるキモノ女は、家主が不在な事に首を捻って見渡す。
廊下の明るさが逆光となり、その顔は笑顔にも関わらず酷くおぞましいものに見えた。
「船員に金を握らせて確認しましたがね。お嬢の探してる奴かどうかは……一応、食堂の履歴でお嬢の前に出た二人組の部屋はここになってますよ」
キモノ女の声に応えるのは、サングラスを掛けて黒いスーツを着たマフィアの男。
「ふ〜ん……もしかして、『かくれんぼ』でもしてるのかしらね。どう思う?」
「……さぁ。見つけてどうするんです? その二人の子供」
「ペットにするのよ」
「はぁ、またですか……。親とかいるでしょうに、騒がれたら揉み消すのに時間かかりますよ?」
「大丈夫よ。あの二人……保護者なんてきっといないわ。だって保護者がいたらもっと警戒心が薄くなるはずだもん」
糸目をベッドに向けて、扇子をスッ……と動かすと部屋の中はズタズタに切り裂かれる。
「やっぱり居ないわね」
それを見てお付きのサングラス男は深くため息を吐いた。
「可哀想に……」
――――――――――――――――――――――
「あっ…………ぶねぇええええ……」
「……ギリギリ。ベッドに隠れなくてよかった」
部屋をメチャクチャにしてくれたキモノお嬢を見送って安堵する。念の為に部屋から脱出しといて正解だったわ。
まあ、脱出したとは言っても、私たちが隠れているのは扉の廊下側。排気口に隙間を作って潜伏してたんだけどね。
「お陰でアイツらに見つからずに済んだわ」
留まってたら捕まってた。部屋の扉を壊して押し入ってくるとかシャレにならん。扉の請求とか私たちに来ないよね? 壊したのは糸目クソ女なんだからそっちに回せよ。
「……どーする?」
「そうっすね。幸いもうすぐ船が到着するから、出会わないように降りて速攻逃げるしかないね」
その言葉に幼女ちゃんも納得を示す。
「厄介なのに目を付けられたわ」
「……ぬぅ。たぶん私のせい。見ちゃったから……」
幼女ちゃんは苦々しい顔で呟く。
「ガンつけてたん?」
「……違う。あの糸目女の動きを追っちゃった。魔力で作った誤魔化しの方じゃなくて、本体の動きを見ちゃってた」
フェイントに引っ掛からなかった幼女ちゃんに興味を持っちまったって事か……。なるほど、問題はそれを看破した幼女ちゃんの存在に気付いたことだね。
「まぁ、流石に回避不可能だよ。それって戦ってる最中に、幼女ちゃんの目の動きか何かを把握してたってことでしょ? そんなん気付くほうがどーかしとるわ」
「……魔力の動きも複雑すぎる。アレ、ヤバい」
キモノお嬢の異常性は最初から訴えてたもんね。あの時に留まってたのが不味かったか……。
性格が終わってるクセに、マフィアのお嬢様で権力もあり、バケモノみたいな強さを持ってるとか厄満が過ぎる。ひっそりと死なねぇかな?
その後、身を潜めた私たちは船が港に着くまで潜伏。
キモノお嬢とサングラスが見ていないのを見計らって、船から降りた。
乗る時とは違って、降りる時は子供だけでもスムーズに降りれた。チケットは記念に貰えるらしい。別に要らんけど……。
ふむ、港は開発された観光地のようになっていて広く、オシャレな感じやね。でもこれって見通しが良すぎて見つかりやすいかも……。
「街に向かうのは不味いよね」
「……うん」
港を降りて即ダッシュ。そのまま道なりに進めば街だけど、追ってこられたら厄介だからね。港の倉庫の影まで走る。
「いらっしゃい。待ってたわ」
「おぼぼぼぼ!!」
「……ぴぃ!」
居たわ!!
倉庫の間に隠れようとしたら、路地裏でニコニコの糸目女が待ってたわ! 完全に読まれてる。
いやまぁそうか。
隠れる場所ってあんまりないもの! 逃げてるヤツが真っ先に隠れそうな所に網張っとくのは当たり前か。
マフィアお嬢の後ろには五人の黒服グラサンども。つまりマフィアも揃ってる。
「お嬢……この子たちですかい? まだ子供じゃないっすか」
グラサンの一人が頭を押さえながら、呆れたため息を吐く。お、もしかしてグラサンマフィアはマトモな精神してるかも。交渉するならコッチか?
「いいでしょ。これペットにするから」
「……飽きたペットの死体処理も面倒なんすけどねえ」
前言撤回……。
ペット処理とか普通に言ってるヤツとか碌なもんじゃねぇ! これは反社会勢力ですわ。
というかペットってなに? 人権とか……ないんだろうねぇ……。あってもマフィアには関係なさそう。
ペットを飼うなら最後まで責任持ちましょうね!
「早く捕まえましょ。せっかく首輪も用意したんだから」
わざわざ用意しちゃったんだぁ……。
「あ〜っとぉ……お嬢様〜。見逃して貰えませんかねえ?」
「ご主人様よ」
うるせぇよ馬鹿。
本気でペットにしようとしてやがる。いや、ペット扱いが悪い訳じゃなくて、飼ったペットの扱いが悪そうなのが問題なんだよ。
「いやいや、ちょっと話し合いましょうよぉ〜」
どーする?
ジェットブーツ起動で逃げるか?
「ふふ、オマエ。逃げる算段を立ててるわね?」
「まさかまさか。ご主人様から逃げるなんてとんでもない」
だから何で分かるんだよ!
「嘘つきは嫌いよ。オマエの重心は逃げるための動きをしているわ。そして白い方は、私の動きを逐一観察しているのね?」
「重心っスか〜。そんなに分かるもんなんですかね?」
「分かるわ。オマエがそうやって小賢しく時間稼ぎをして状況を好転させようと思考しているのも分かるわよ」
「そりゃ凄い……」
キモノお嬢は扇子で口元を隠してクスクス笑う。
「『舞』の基本なのよ。相手を観察して動きを読む、そして相手の動きをコントロールする。私の流派はそれを念頭に置いているの」
キモノお嬢が扇子を開いてユラリと振る。ゆっくり踊るような動きなのに目で追えない。
「この流派は、力の方向性を見極めることが真髄でね。極めるとどんなに力自慢でも関係ないの。面白いわよ。必死で鍛えた腕力が通じないと悟った時の表情とかね。私、アレが大好きなのよ」
あ、好きなのは相手の歪む表情の方ですか。
「相手の全力をいなし、その全てを無意味にするのが私のポリシーよ」
なるほど、舞とかいう踊りで相手を馬鹿にするのがお好きなんですね。気が合うな〜、友達には慣れそうにないけどな。
「そうですか〜、踊るのが好きなんすね〜」
「……?」
だったらコッチも見せてやるよ。
「実は私たちも踊るのは得意なんすわ……」
「へぇ、それは楽しみね……」
私は片手を上げて指を鳴らす。
「『MODオンテメーら』ミュージックスタート!」
ズンッ! ズンッ! ズンッ! ズンッ!
「……なにこの音? 何処から鳴ってるのかしらね。まぁいいわ。アナタたち捕まえなさい」
その言葉にグラサンの男たちが、私たちを捕まえる為にゆっくりと近づいてくる。
「ふへへ、私と踊ってくれるんすねぇ」
今私は、コイツらを指定して『VRリズム剣豪』の能力を発動した。あっちが舞というならコッチも舞だ!
リズムに合わせて踊るだけで、アイツらの動きを読み躱すことが出来るって事だよ!
「私の踊りを見せてやる! さぁ! 私を捕まえてみなアアアアア!」
「捕まえました」
捕まりました。
黒服の両脇に干したタオルのように掴まれた私と幼女ちゃんの姿がそこにはあった。
うん、無理だよ。VRリズム剣豪はそんな能力じゃないし。
大体、リズムに合わせて踊るだけで避けれるとか『未来予知』とか『相手の思考を読む』とかの能力なんすわ。そんなオーバースペックの能力ある訳ねぇだろ。
VRリズム剣豪はしょせんお遊び能力だぞ。
「今の音楽、何処から鳴ってたのかしら。アナタの異能?」
笑顔の張り付いた顔を捻りながら、不思議そうに黒スーツに抱えられた私を糸目でみてくる。
「まぁいいわ。これからヨロシクね」
そう言って私と幼女ちゃんの首に首輪を付けられた。
「うぃ〜っス。ヨロシクお願いします。ご主人様」
「……ワン」