作品タイトル不明
膝がーー!! オデコがーー!!
どーも私です。
いや〜ビュッフェっていいですよね?
好きなもんを好きなだけ食べられる! そして規定の料金を払えばいくら食っても追加でお金は掛からない。
料理がズラリと並べられた光景はテンション爆上がりですわ。
そんなビュッフェ……贅沢だよね? 嬉しいよね?
でも私はそんなロマン溢れるビュッフェに一つだけ不満があるんですよ。
みんなも何となく予想はできてるんじゃないかな〜。
そうだね。
「ふふ、今日は耳の悪いゴミ虫が多いこと……なんなら切り落とすか?」
帰り道にイカれたクソヤベェ女に絡まれることだよ……。
幼女ちゃんさぁ……キミ、何したん?
たしか見てたとかいってたよね。もしかして『ガンつけてたよなテメェ』って言われてんの?
鋭利すぎんだろ……。
仕方ねぇ、ここはなんとか穏便に切り抜けるしかねぇか。こんなバケモンに反抗するなんて自殺もいいところだ。
「あ、あの〜……ッひぇ!」
貼り付けただけの笑顔のキモノお嬢に声を掛けたら、顔は動かしてないのに糸目の向こうの瞳だけがギュルリとコチラを向いた。
こ、怖すぎるんだけど! 嘘くさすぎる笑顔のせいで何を考えてるのか分からん。
「ふふ、オマエはいらないわ」
「ッ!!」
嫌な予感がして衝動的に頭を抱えてしゃがむ。
ギャンという錆びついた鉄扉を開けるような音の後に、ポスンと幼女ちゃんが落下してきた。
尻餅をついた幼女ちゃんと目が合う。同時にゆっくりとキモノお嬢を見上げると、優雅に袖を摘みながら扇子を手首だけで振り抜いたポーズを取っている。
「ふぅん……」
そして私の後ろでは、鉄の扉がまるでケーキのように鋭く切れてゴワンという重い音を立て落ちる。
おい、おいおいおい! ふざけんなよ。
今コイツ、私を殺そうとしやがった! 話しかけたから? 目障りだったから? とにかく初対面の子供をアッサリと殺そうとしやがった!
避けなきゃ落ちてたのは扉だけじゃなくて、私の『首」だっただろ!
仮面のような笑みを更に深くさせながら、面白い物でも見たかのように幼女ちゃんに糸目を向ける。
「白いの……今なにかしようとしてたわね?」
「……」
「……ぴぃ!」
幼女ちゃんはバタバタと四つん這いで逃げ出し、私の元までやってくる。
どうする? 正直このイカれ女、今までで一等頭がおかしい女だ。逃げる一択だけど……逃げれるかな?
いや、逃げれるかじゃないな。逃げないとマズイ事になる。でもこのバケモノ相手にかけっことか無理ゲーだよな。
隙を作らなきゃ。
「へ、へへ。お嬢様。お戯れが過ぎますね。こっちはか弱い子供なんで暴力は困るんスけど」
卑屈な笑みで小物っぽさをアピール。
そうだ。なにが興味をもって私たちに接触したか知らんけど、取るに足らない相手だと思わせれば興味を無くすかもしれない。
「暴力? おかしいわね。あなた怪我してないじゃない?」
そら避けたからね! 死んでないから殺そうとしてない異次元理論ヤメロ!
糸目笑顔で初めて私の事が目に入ったかのようにニコリと笑うキモノお嬢。
「オマエ避けたじゃない。ずっと警戒してたわよね? 私の事……警戒してたから避けれると思ったのよ」
「……」
確かに、私はこのイカれお嬢が何をしでかすか分からなかったから警戒してた。だからとっさに避けられたんだけど……。
「いやいや、警戒なんてそんなまさかぁ」
服を叩くフリをして立ち上がる。いつでも逃げれるように自然に、警戒してるのがバレないように。
「いいえ、オマエは警戒してたわ。私が食堂に入った時から……いえ、入る前から常にね。まるでオマエ達……『逃亡者』のようよ」
「……」
足音もなく近づいてくるキモノお嬢。足元が隠れているせいで挙動が掴みにくい。
大正解だよクソ女。
なんで分かったん? 警戒してたってなに?
確かに私達は逃亡者で無意識のうちに警戒はしていたはずだ。でも自然に振る舞っていたつもりだし、幼女ちゃんもそうだろう。
問題はなんでそれがバレたのかって事だ。
もしかして心とか読める?
お〜いお〜い、クソ女。糸目ブス。
キモい笑顔貼り付けてんなよ。
「ふふ、読めないわよ」
「……ホントッスかね?」
「よく言われるもの」
そういって扇子を私の肩に、トンッと乗せる。
ひぃいいい……。それ鉄の扉を切り裂いた扇子ですよね? 肩がゾワゾワする!
「ウグッ!」
とか思ってたら体全体が鉄にでもなったかのように重くなる。
「人の体には重心というのがあるの。歩く時、真っ先に動くのは何だと思う? 足? 腕? ……答えは重心よ」
重力が倍になったかのような感覚に膝が折れる。
「歩くだけじゃないわ。体を動かすにはまず最初に重心が動くの。想像してみなさい。横に飛ぶ時、重心はどこに移動している? 飛ぶ方向よね?」
「に、にゅおおおお……」
ついには両膝が折れ、せっかく逃げるために立ち上がった状態から強制的に正座をさせられてしまった。
「オマエ達の重心は、他の人と比べて常に少しズレていたわ。『逃亡者』特有の重心の動き……いつでもスグに離脱できるように警戒している重心」
そこから更に体が重くなり、両腕を床に付けて踏ん張る。
「人の動きを読むなんて簡単よ。相手を制するのに力は要らないの」
私は、肩に置かれた扇子で強制的に土下座のような姿勢を取らされる。私の体はピクリとも動かない。
分かった。
確かにコイツ、魔法だとか魔術だとか使ってない。
これは多分、武術や合気道なんかの、この世界特有の技術なんだ。
もしかして分身するのもそんな技術の物なのかもしれない。
だとするとコイツ天敵だ。魔術的な物だったら幼女ちゃんで何とかできるかもしれない。
けどフィジカルによった技術になるとだめだ。
私達に逃れる術はない。
「へ、へへ。そういや思い出したッスわ」
「……?」
これ初めてじゃないぞ。
あん時はどう切り抜けたかも思い出した。
「レディセット」
体が動かないなら、勝手に動く部分を動かせばいい。
「ゴー!」
土下座の状態でジェットブーツを起動。キュルキュルとジェットブーツのローラーが回転を始めて、私の意思とは別に動き始める。
「?」
「はははっ!! 糸目女! チョーシくれてんじゃねぇぞ!」
散々やってくれやがって。
「アバよ! 捕まえてみアンギャアアアアア!!」
ゴリゴリゴリゴリ!!
土下座状態からジェットブーツ起動したら、そのまま前進しやがった……。
「膝がアアアア!! チャーミングな私のオデコがーーーー!!」
「ぶふっ!! あはははは!!」
ゴンッ!!
「うべぁ……」
反対側の壁にゴッツン。
爆笑してんじゃねぇぞ。テメェのせいだろ!
「に、逃げるッスよぉ、幼女ちゃん」
「……お、おぅ」
爆笑かましてるキモノお嬢を尻目に、幼女ちゃんと逃げ出す。
「アハハハハッ! 面白いわ。……決めた。あの二人……ペットにするわ」
キモノを着たマフィアのお嬢様は、走り去っていく二人の幼女を追いかけず、張り付いた笑顔の奥から怪しく見つめていた。
「飽きたらまぁ……捨てればいいわね」