作品タイトル不明
マフィアお嬢
「そろそろメシに行くっスよ〜」
「……承知」
どーも私です。
船旅も残すところあと一日。明日には目的の街に到着するらしいです。
ふむ、問題は到着したあとだね。今いる領地から王都に行くには飛行船を使用するしかないと思う。
その飛行船が厄介なんだよ……。
この船に乗るだけでも子供だけでは乗る事ができなかった。恐らく飛行船は船よりも難しい気がするんだよね。
「つまり子供だけでは飛行船にのれないんじゃないかな?」
結論としてはこう出た。
ちなみに幼女ちゃんの考えも同感らしい。
また私がペラペラ白髪ママに化けて搭乗すればええんちゃう? って思ってたんだけど、幼女ちゃんの考えでは難しいとのこと。
チケットを見せれば乗り込めた船と違って、飛行船の方は少し時間が掛かってたんだってさ。
それが何を意味するか……
「私に呼吸すんなってか?」
体積の多い白髪ママに化けるには息を止めなきゃ長続きしねぇんだよ。少し時間が掛かるって五分か? 十五分か?
「死んじまうわっ!」
いや死なねぇんだけど、息を止めてられるかどうかは別問題じゃろがい。
まあ、一番現実的な方法としてはやっぱり……
「密航かなぁ……」
正面から無理でも、密航するくらいならスキマの能力でできんだろ? なによりお金の節約にもなるしな。
お金は大事だぜぇ……王都に着いたらエンディングじゃねぇんだからさ。
「……料理、盗めた?」
「んにゃ、食材ばっかだね」
部屋を出て、テクテク二人で食堂に向かう。
「ほれ、この船のビュッフェってさ。夜も休まずやってるコンビニ方式じゃん。厨房に常に人がいて入り込めねぇのよ」
「……食材丸かじり……」
「そうねぇ、食料保管庫から失敬させてもらったから、食材だけは豊富っスわ」
船を降りたら自然素材100%の食生活が待ってんのよね。なるべくハムとかの生で食えるもん選んでたんだけど、料理の味知っちまったからなぁ。
今日のビュッフェで食い溜めしとかんとな!
いつも通りカードをかざして入店。慣れたもんよ。
「幼女ちゃん。その串に刺さってるやつ何処にあった?」
「……モッモッ、壁際の所」
「オケ、行ってくる」
料理を取り分けてテーブルで、食い溜めをしている時だった。
うん? 店内が静かになったな。
不意に静寂を感じて辺りをキョロキョロ見渡す。
お〜……なんか雰囲気ある連中が入店してきやがったぞ。
黒服にサングラスを掛けた男達。
明らかにカタギではなさそうな連中を率いているのは……
「……お嬢。何も一般食堂に来ることはないんじゃ」
「ふふふ、いいじゃない。船旅も最後なのよ。それとも……何か文句でもある?」
口元を扇子で隠して、艶やかな着物に似た服を着ているいかにも上流階級な女。
張り付いたような笑顔で目を細めながら、過剰なまでに自信に溢れているような美人だ。
うん性格は悪そうね。
「おい、あれマフィアだろ? なんでこんな一般食堂のほうに……グレードの高いほうの店があっただろ」
「シッ、目を合わせるな」
近くの席でコソコソ話す声が聞こえた。たしかチケットによって使用できる食堂が違うんだったな。ちなみに此処は一番最下級。
ふ〜ん、マフィアねぇ。関わらんとこ。
だいたい、マフィアって職業なんかな? 職歴にマフィアとか書いたらドン引きされない?
「……オバケ姉ちゃん」
「ん、どしたッスか?」
幼女ちゃんが私の袖を引いてきた。その顔は青ざめていて視線を床に向けている。
「……あれダメ、関わっちゃダメ」
小さな声で危険を知らせてくる防犯ブザー幼女。
おおう……幼女ちゃんから見て絶対に関わっちゃいけない相手ってことね。
いや、マフィアとか関係持ちたくないわ。
ロクでもない事が起こる未来しかねぇよ。
つかまぁ、それよりヤバそうな貴族と関わってるけどね。
「何だとテメェ!!」
マフィアのキモノお嬢様が歩いて行った方向で怒鳴り声があがる。
おい、さっそくロクでもない事が起きようとしてんぞ。ニトログリセリンかな?
「聞こえなかった? そこを退きなさい。私は窓際がいいのよ」
あ、はい。そう言うタイプね。
マフィアお嬢に怒鳴っているのはスーツが筋肉ではち切れそうなプロレスラーのような男。
そしてその近くに座るのは、これまた金持ちそうな爺様。
う〜ん、金持ちの爺さんとそのボディガードってところ? コッチも普通の職業ではなさそうだわ。
いや、お前ら一般食堂に来てバチバチやんなよ。ここなら騒ぎを起こしても構わないとか思ってんのか? 迷惑過ぎるわ。
「ホッホ、可愛らしいお嬢さんだ。どれ、この萎びたジジイと上の席で食事でもせんか?」
お、ボディガードはともかく爺さんの方は余裕そうだな。
しかし、何でわざわざヤバそうな相手にケンカふっかけんのかね。見ろよ、騒ぎに関わりたくなくて店内から人が減ってきたぞ。
まぁアレだな。キモノお嬢の顔面見たら分かるわ。
「自信過剰」
何があろうが相手は自分より下と思ってるヤツの顔だ。よほど自分の持つ権力に自信があるんだろう。
そんなヤツとマトモに会話しちゃダメよ。
「……耳がないのかしら? 私はソコを退けといっているの」
ほらね。
「ホッホ……元気なお嬢さんだ」
顔つきの変わった爺さんが、持っていた杖をキモノお嬢に向ける。
パァン……という乾いた音と火薬の匂いが店内に響いた。
おい、この世界、拳銃とか存在するんかよ……。そして拳銃を抜くのに戸惑いがない!
「ふふ」
そして当たり前のように何ともないキモノお嬢。
はい、拳銃の株が登場早々に暴落しました。
「……なるほどの。ソッチ側の人間というわけか。予想通りじゃな」
あのよぉ。拳銃効かないのは予想通りとかふざけてる? 大人しく死ねよ。何なんだよこの世界の人間はよぉ!
「幼女ちゃんよぉ。あの拳銃何で効かないの?」
「……魔力」
簡潔な説明ありがとうクソが。
まあ真面目な話。拳銃なんて武器が存在するんだし全く無駄って事じゃないんだろう。あの爺さんも『ソッチ側』とか言ってるし、効かないヤツには無意味みたいな事なんだろうね。
「よし! 巻き込まれる前に帰ろうか!」
「……くわばらくわばら」
そう言って席を立とうとして出口にトテトテ歩いて行く。
「あら? 帰るの? 警戒心の強いお二人さん」
「……」
な ぜ は な し か け る
口元を扇子で隠しながら、キモノお嬢がクスクスとコチラに視線を向けていた。
おい、なんでピンポイントにコッチ向くんや。ふざけんなよ。関わりたくねぇんだよ。
無視したろ。
「仕方ないのぉ……引退したとはいえ、ワシも舐められると示しがつかんからの……やれ」
爺さんのその言葉が終わる前に、ボディガードの男は動いていた。テーブルを掴んでキモノお嬢に投げつける。
「ふふ」
しかし、テーブルはキモノお嬢をすり抜けるように明後日の方へ飛んで行く。
そして私たちの向かっていた出口に着弾して塞ぎやがった……。
「だから何なんだよコイツら!」
不意に始まった立会いに私と幼女ちゃんはテーブルの下に避難して毒づく。
「あーもう! 幼女ちゃん! 隙を見て逃げ出すよ」
「……異議なし」
テーブルクロスから頭を出して隙を窺う。
う〜ん、立ち回りをしているのはキモノお嬢とプロレスラー。キモノお嬢が連れているグラサンマフィアどもは頭を抱えてやれやれとか言ってる。
手を貸す気はないようだけど……逆に言えばキモノお嬢がヤバい人間という証拠だな。
負けるとか疑ってないんだろ。あの見た目で強いんだね! 凄いなぁ! 憧れちゃうなぁ! どっか行け!
プロレスラーの掴み掛かりをスルスルと躱しながら、扇子で隠した口元からクスクスと笑い声をあげる。
「優雅じゃないわねぇ……」
そういうお前は随分と優雅でいらっしゃる。
こらあかんわ。なんかよく分からんけどプロレスラーの攻撃がかすりもしていない。プロレスラーは汗だくだし勝負は見えてんな。
はい撤収ー!
「アナタ……今まで必死に鍛えて鍛えて自慢の腕力を手に入れたのよね?」
語りかけるようにキモノお嬢がプロレスラーに話しかける。それは喧騒の中、不思議と耳に響く声だった。
「そしてその腕力を手に入れた事が自信になり、自分の腕力にプライドを持ったのね」
キモノお嬢が一瞬ブレたかと思うと、二人に分裂する。
「「私はそんな力自慢に教えてあげるの」」
いきなり二人になったキモノお嬢に面食らいながらも、不思議と攻撃は掠りもしない。ユラユラとカスミのように捉えられない。
「……無駄な努力ご苦労様。アナタの人生たいした事ないわね……て」
いつの間にか、振り抜いたプロレスラーの背後から扇子を肩にポンっと置かれて、膝が落ちる。
「ア……ガ!」
言葉なのか、動きなのか、どちらか分からないが、プロレスラーの心を折るのには充分だったようで、絶望の顔を見せる男の顔を見て、キモノお嬢はゾッとするような笑みを浮かべた。
そして膝をついた男の耳元で囁く。
「不思議よね? 速く動いているわけでもなく捕まえられないなんて。しかも二人になるんだもの。驚いたわね? いい事教えてあげるわ」
「う、うっ!」
「別に異能じゃないのよコレ」
「うおおおお!!」
男は振り返り、キモノお嬢に掴みかかろうとした。
「あと、もう一つ」
プロレスラーの逞しい腕は、キモノお嬢の持つ繊細そうな扇子でピタリと止まっていた。
「別に力でもアナタより強いわよ。……サヨウナラ」
そうニッコリ笑って扇子を振り上げる。
「待った! 分かった! ワシの負けだ!」
それを止めたのは見守っていた爺さん。
「ふぃ〜……とんでもない嬢ちゃんだな。この席は譲るから見逃して貰えんかの?」
「ふふ、物分かりがよくて助かるわ」
――――――――――――――――――――
いや〜……
「この世界、バケモン多すぎね?」
ヤンキー神の言ってたモンスターって人間のことじゃねぇだろうな?
何がヤバいってね。この世界さぁ。
バケモノ級の奴らの性格がちゃんとクソな所だよね。
誰が取り締まるんだよ。
私たちは食堂から巻き込まれないように逃げ出して部屋に戻るため通路を歩いている。
クソッ。もっと食っとけば良かったわ。ドサクサに紛れて料理を盗んでくりゃよかったか? 店員もアワアワしてたしよぉ。爺さんが迷惑料とか言って大金渡してたみたいだけど……。
それにしても……
「異能力使わないで分身とかあんのかぁ?」
なにそれ? 手品? 魔力以外にもなんか私の知らん能力とかある?
「……あれ嘘だよ」
そんな私の呟きに隣を歩いていた幼女ちゃんが答える。
「え? 嘘なん」
「……半分。距離感を誤魔化してるのはよく分からないけど……魔力を使って分身作ってた。……でも半分だけ」
「ふ〜ん、ハッタリってことね」
「……ちがう。余計あぶない。あの分身……実体がある」
「実体ある分身かぁ……怖いね」
「……」
そう言って私は幼女ちゃんを見上げた。
「……」
うん、見上げた。
「え、と、あの〜……何かご用ッスかね?」
私にできる最大限の笑みを浮かべながら、揉み手で引き攣る口を制御する。
「……」
「……」
幼女ちゃんは宙に浮いていた。
いや、浮いてるっていうか……吊り上げられている。
幼女ちゃんの後ろに立つ『キモノお嬢』に……。
「……」
扇子で幼女ちゃんの襟首をチョイと持ち上げているので、首を摘まれている猫のようだ。
ダラダラと幼女ちゃんが冷や汗を掻いているが、蛇に睨まれたカエルのようにピクリとも動かない。
幼女ちゃんを吊り上げているキモノお嬢と言えば、目を細めながらその奥に怪しく光る瞳で幼女ちゃんを見ている。
「……あの用がなければ帰らせて」
「オマエ……見ていたわね?」
私の言葉を遮って、私なんか見えていないかのように幼女ちゃんの後頭部に話しかけるキモノお嬢。
そして獲物を見つけた鷹のような笑顔を見せつけてきた。
ヤバい……ヤバいヤバい。
こいつアレと一緒だ。変態殺人鬼と同じ感じがする。
「聞こえなかった? 白いオマエのことよ……私の動き……見えていたわよね?」