軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

居るけどいない

「にへへ、焦ってる焦ってる」

一人増えるピエロ仮面はどうだい? ビビったろ?

まあ実体がある訳じゃないから別に害はないよ。というより危害は加えられないからどうしようもないんだけどね。

『クソッ!! お前ら警戒しろ! 全員いるか?』

『い、いる! 全員いるぞ!』

『あああああ、やっぱりだ! 居るんだよ! 何かいるんだ!』

『落ち着け!』

『俺は知ってるんだ! 俺たちは見られてるんだ!』

うぅん? 一人変に騒いでる奴は前回驚かせたビビリ仮面か? あぁ、お前は知ってるもんな。

でも嬉しいだろ? これからはみんなお友達だぜ!

「ケケケケッ! 焦れ焦れ! あ〜、他人の焦る顔って変な快楽物質でも出てるんじゃねぇかなぁ!」

「……………………邪悪」

うっさいよ。

『……まさか、ダンジョン化か?』

おん? ダンジョン化?

まぁ何となく意味は分かるけど……ゲームみたいなダンジョンってことかな? たしかにダンジョンって言葉を何度か聞いた気がするわ。

『まさかっ! いきなり店がダンジョン化するなんて聞いたことない!』

『現に起きてんだろうがよ! じゃあ何か!? 本物のオバケが出たって言いたいのか? 馬鹿が! それこそ有り得ねえだろ!』

『だが、ダンジョン化したにてしても、さっきの現象は……』

『チッ! 誰かダンジョン解析のアプリ持ってたろ? 少しでもダンジョンのタイプが分かればこっちのもんだ』

ほうほう、ダンジョンねぇ。あぁ思い出した。よく分からんテーブルの産地がダンジョンだったわ。

まあちょっと気になるけど、今はいいでしょ!

「お次は、ちょ〜っと暗くしようかな?」

はい、泥棒たちの居る通路の灯りをチラチラと明滅させてぇ……ほいパチンッと。両手を打ちつけて一つ拍手をする。

『ひ、ひぃいいい!!』

『な、なんだ!』

ダダダという喧しい音と共に、通路を埋め尽くす手形が壁にも床にも、天井にすら現れる。

『クッ! 解析は!』

『…………あ、あの……』

壁に向けてパイプ端末を向けていたピエロ泥棒が震える声で振り返る。

『…………ダンジョンでは……ありません』

『…………は?』

その返答に全員が黙り込む。

ん〜、ダンジョンかどうか調べて違ったからなんやねん。アレか? ダンジョンでもねぇのに何で不思議現象起きてんだ! ……みたいな?

「そこんとこど〜お? 幼女ちゃん?」

「……うん。だいたい合ってる。アプリでダンジョンかどうか魔力を調べてた。……でも、違うから怖がってる……というか怖い」

ふ〜ん、ダンジョンなら不思議現象が起きても、まあ分かるってことか。

「……そもそも、ダンジョンだって思い込もうとしてるだけ……ダンジョンでも起こらないと思う」

ほ〜ん、ならどんどん行こうか。

『……ずらかるぞ』

リーダーピエロが静かにそう告げると、一様に首を縦に振る。へぇ、なかなか判断が早いじゃん。引き際を弁えてるのは好感がもてるね。

「でもダメだよ」

『ッ! 座長!』

『嘘だろ……』

『……なんで扉がねぇーんだよ!』

あはぁ〜、ダメです。

そっちはゲームエリア外になりま〜す。

驚いたよねぇ? お前たちは扉を潜ってその通路に来たんだ。だったら引き返すなら扉からになるもんね?

扉があったはずの場所は、壁自体がなくなっていて暗闇の広がるまた別の通路が伸びている。

「あはっ! あははは! ごめんねぇ……」

どーも私……その空間の神様やらせてもらってます。悪いけどソコねぇ……私の領域なんだよ。空間自体が私そのものみたいなもんなんだ。

空間を捻じ曲げてるとかそんなんじゃない。

私が君たちの為に作った世界なんだよ。だからマップを弄るなんて事もできるんだ。

「あぁ、でも安心して欲しいな」

出口はちゃんとあるから。

進んだ先にはちゃんとゲームクリアに繋がってるからね。じゃないと制限その一に引っかかっちゃう。

【プレイヤーによる勝利条件の設定】

これで出力上げてるから出口を潰すなんてマネはできないんだよ。もっともこの制限を付けないと空間を作り出して、来た道を無くすこともできない。

逃げられないようにする為に、逃げられるようしなきゃいけない。矛盾してるかな?

卵が先か……なんて事言うつもりもないけど、万能には程遠いね。

「さて……」

ところでプレイヤーたちは、いつまでソコて突っ立てるつもりかな? あ〜あ〜……ビビリ仮面なんて蹲って座り込んでんじゃん。

ゲームのテコ入れが必要だね。

――――――――――――――――――――――

「クソッ! 何がどうなってる……。ついてねぇ……」

リーダーのピエロは舌打ちをしながら髪を掻き混ぜる。

何が起きているのか判断するのは後だ。とりあえず迂闊に動くのはマズい。少しでも情報を……

…………ォォォ…………

不気味な通路に、微かに違和感を感じ一同は顔を見合わせる。

「なんだ?」

「……なんか……風……か?」

建物内にも関わらず、空気の動きを感じた。

……ォォォオオオオ……

新たに生まれた通路の向こう側、常夜灯に僅かに照らされた薄暗い通路の闇から……。

オオオオオオオオオオオオ!!

「お、おい!!」

「何だアレはぁああ!!」

「うあああああああ!!」

影で出来たような大量の『手』が通路を埋め尽くすように迫ってくる。

「ひいああああ!!」

「に、逃げろ!! 走れ!!」

「ま、待っ!!」

全員が発狂したように迫り来る手から逃げる為走り出す。そんな中――

「待ってくれ!! 置いてかないでくれ!! 嫌だ……嫌だーー!!」

一人……腰が抜けて走り出せない者がいた。

「ッ!! ダメだ! 走れ!」

「あああぁ……た、助けッ……」

逃げ遅れたビビリ仮面を助ける余裕など、彼らになかった。

「あ“あ“あ“あ“ぁぁ……」

やがてビビリ仮面は蠢く手に押さえつけられ、差し出した手すらも、影の手によって覆い隠されてしまい声さえ聞こえず、手の濁流に呑み込まれた。

後ろで声の聞こえなくなった同胞の最後を悟りながら、一同は汗が冷えていく。

……立ち止まったら同じ運命を辿ってしまうと。

――――――――――――――――――――――

「一名様ごあんな〜い」

モニターに映る何もない無機質な別室では、先ほど手に呑まれたピエロ泥棒が、ダストシュートみたいな所からガコンと落下してきてぶっ倒れている。

はいキミはゲームオーバーね。

一定以上、拘束されて振り解けなかったら別室のゲームオーバー部屋に送られちゃうから気をつけて。

「優しい私はコンテニュー機能も付けてあげたよ」

角度が急で大変だろうけど、ダストシュートから這い上がれば元の位置に戻れるからね。

「って気絶してらぁ……にゅふふ」

脱げたピエロ仮面の下からは白目を剥いて舌を出している男の顔が覗いていた。

「ははっ!! なかなかイケメンじゃん! でもキミはこのゲーム中には復帰不可能そうだね」

残る泥棒たちは上手く逃げて次のフロアまで進んだようだ。

「…………ぬひひ」

お、幼女ちゃんもお気に召したようで、気絶しているビビリ仮面を見て暗い笑みを浮かべてる。

ははは、楽しかろう楽しかろう! 他人の焦る姿は楽しかろう。幼女ちゃんも分かってきたねぇ!

ははは、ヤベェどうしよう!!

「ま、いいや。幼女ちゃん、ちょっと手伝って」

「……ぬ。承知」

――――――――――――――――――――――

迫り来る影の手から逃げた先で、待ち受けていたのは一つの扉。雪崩れ込むように扉に入り込んだ後は慌てて閉める。耳を澄ますが、どうやら手はこちら側まではやってこなかったようだ。

「ハァ……ハァ……何だ……この場所は」

汗まみれの仮面の下で一同は息を整える。そして落ち着いたところで辺りを見渡してみると、今までの通路と違って広い部屋になっていた。

扉がいくつかある。宝石が展示されていたフロアに似ているが、飾られているものはない。赤い絨毯が敷いてあり、どこかの洋館のように見えた。

「早くここを抜けるぞ……」

一番奥の扉が僅かに開いているので、そこに向かう。

他の扉も調べた方がいいかもしれないが、何が起こるか分からない。

「……」

警戒しながら少し空いた扉に手を掛け、一気に開け放つ。

「…………ハァ」

不気味な通路が再び現れたが、それ以外は特におかしなところはない。安堵の息を吐いた……瞬間。

ガチャ……

後ろで扉の開く音。

恐る恐る全員が振り向くと、開いてなかった扉が全部少しだけ開いていた。

「…………」

ただ、それだけ……勝手に開いただけの扉。

しかし、目を凝らして、よく見てみると。

「…………ッ!!」

扉の隙間からは無数の赤く光る目が覗かせていた。

「あ、あぁ……」

何百もの赤い目に晒された男たちは、足が縫い付けられたように重く感じる。

いや、重く感じるのではない。

「う、うああああああっ!!」

自分たちの足に纏わりつくのは……

オギャーッ! オギャー!

「やめろ!! 来るな! 触るな!」

無数の赤ん坊。

赤子の鳴き声にしては妙に感高く、精神を蝕む。

そんな赤ん坊が無数に足に群がる。

そんな赤ん坊は、足に抱きついたまま、上を向くと赤く光る目を向けて呟いた。

……パ……パ……

……パ……パ…………パパ…………

「ひぃやあああ!! 知らない! 俺は何も知らない!」

――――――――――――――――――――――

「アヒャヒャヒャ!!」

「……ぬひひひ……」

「あ、幼女ちゃんお疲れ」

「……疲れてないよ」

まあそうね。隙間から顔を覗かせただけだもんね。

それをいっぱい見せてたくさんの光る目があるように見せただけだから。

別にわざわざ幼女ちゃんを使わんでも出来たけど、幼女ちゃんにも折角だから役割持たせとこうって思ってね。社会見学みたいなもんだよ。

「お、赤ちゃんに飲み込まれた」

ゲームオーバー部屋にボトボトピエロ仮面が落ちてくる。

追加で四名のゲームオーバーだね。

あらら、随分と早いペースだ。

こりゃ長くは保たんかな?

仕方ない……仕上げと行こう。

「さぁて……」

「……どこ行くの?」

立ち上がった私に幼女ちゃんが首を捻る。

「いやぁ……最後だからね。私が直接出向いてくるよ。幼女ちゃんも来る?」

「……いい、たぶんオバケ姉ちゃん一人の方がいい……」

「そう? じゃ行ってきます」

――――――――――――――――――――

少女の居なくなった隙間の空間。

その空間で白髪の幼女はモニターを眺めながら呟く。

「……居るのにいない……」

虚な瞳を赤く光らせ、譫言のように呟く。

「……誰でも少しだけ、魔力を感じる事ができる」

感情の分からない瞳を閉じる。

「でもオバケ姉ちゃんは居るけどいない……だから……怖い」