作品タイトル不明
これはホラーゲームだからね
「よ〜し、それじゃあ具体的にどうするか決めていこうか〜」
とりあえずスキマの中に幼女ちゃんと入る。
「……おぉ」
「広くなったでしょ」
スキマ空間はタタミ一畳から二畳に変わったので、広々としている。なんせ倍になったからね。
「ほいっと……お、いるいる。着実に団体さんが大金庫まで向かってんね」
モニターを浮かべて確認してみれば、ピエロ仮面泥棒たちは隔壁や鉄格子を解除して真っ直ぐに目的地まで向かっている。
ふ〜ん、第一目標は大金庫ってわけね。
いつまでその目標を掲げてられるかな?
「さぁて……」
具体的にどうやって立ち向かうか。
もちろん武力で排除なんて無理な事はしないよ。なんせこちとら無力で弱いお子様だからね。
だから領域畑の力を使うわけだ。
「まずは制限からだね」
今の所、よくわからんテーブルを取り込んだおかげで、この領域畑のエネルギーはかなりの物。『私の領域』とは比べものにはならないけど、ある程度は私の好きに出来る領域という訳だ。
「でもまだまだ……」
この際だから、この領域畑に制限をもうけてもっと出力をあげちゃおう! 今回は領域畑の実験だからね。
という事で……
制限その一
●プレイヤーによる勝利条件の設定。
プレイヤーってのはピエロ泥棒たちのことだ。
そんな奴らの為に、勝利条件を設定してやろうじゃないかってね。優しいでしょ?
まぁ、彼らの目的はハッキリしてるからな。クリア条件としてはさっきも言った通り、
【大金庫に辿り着く事】……ではなく。
【領域畑からの脱出】
なんと脱出するだけでクリアにしてあげたんだよ! 嬉しいよなぁあ!?
まぁ勝利条件……つまり私の敗北条件を作ったのは出力を上げるためだ。だからこのゲームにルールを設けた。
一度でも領域畑の範囲から脱出できたらピエロ泥棒の勝ち。その場合は私から手出し無用。というより不可能だね。
「本当ならこのルールをピエロ泥棒達にアナウンスする案もあったけどね『逃げ切れたらお前らの勝ち』だってな」
コレだけで制限としては成り立つ、彼らにとって得であり、私にとって不利になるんだから相当な制限だ。
けどやめた。今回のテーマは脱出ホラーだからね。
不気味な雰囲気を出したいのに、アナウンスなんかしちゃったら恐怖が薄れちゃう。
「そしてぇ、敗北条件は決まってるよね?」
警察が来るまでに脱出できない事だ。
制限そのニ
●直接的な攻撃はできない。
いつものだね。今回はその気になれば攻撃力は持たせられるかもしれないけど、期待はしてない。だから制限にした。それにジャンルはあくまでホラー。アクションじゃねぇのよ。
それに攻撃できないのに脱出を防がないといけないってのが、またいい制限になってるわ。
そして最後だ。
これが今回の一番の制限であり、やれば領域畑の中ならば、私は出来損ないの神様くらいの権能を行使する事ができるだろう。
制限その三
●二時間後にこの領域畑は自壊する。
ピエロ泥棒が脱出しようが、出来なかろうが……なにがあっても二時間後にこの領域畑は消滅するようにした。つまりゲームクラッシュ。
ふふふ、どうせここから離れちゃえば領域畑の維持は出来ない。だったら時間制限付きで神様ムーブしたほうがいいよね?
さっきまでなら自壊する制限を付けてもここまでの出力は出せなかった。では何故今は、自壊すると神様ムーブできるようになると思う?
簡単な話、テーブルのエネルギーをこの領域畑に突っ込んだからよ。
その時点でかなりのエネルギーを有する領域畑になった。つまり私の貴重な財産って訳だ。
「それをパーッと使っちゃおうってんだからね」
そら出力も上がりますわ。
「さ〜、あ〜そび〜ましょ……」
――――――――――――――――――――――
鉄格子が音を立てて上がっていく。
「よし、大金庫までもう少しだな」
ゾロゾロと連れたって通路を進むピエロ泥棒たちは着実に大金庫へと向かっていた。
従業員が残っていたというイレギュラーはあったものの、前々からジックリと準備してきた彼らにとってそれくらいの障害など物ともしない。
それゆえ一同の仮面の下は余裕にあふれ、大量のお宝に想いを馳せていた。
「……」
そんな中、一人のピエロ仮面だけが浮かない顔をしていたが、それを気にする仲間はいなかった。
その彼……ビビリ仮面は前回やってきた時に直面した心霊現象により、この宝石店には苦手意識があり、早く仕事を終わらせたい欲求にかられている。
そして、ほかの仲間は真っ直ぐに通路を見据えているのに対して、彼だけはチラチラと、周りに視線をさまよわせていた。
また、彫刻が泣くのではないか?
暗闇から怨嗟の顔が覗かせているのではないか?
怖くて確認したくなくても、視線はソレを探してしまう。
下を向きながら一団の最後尾を歩き、辺りを窺う。
通路の前方……絵画が飾られている。
……花の絵画だ。
薄暗い通路に絵画、ただそれだけで恐怖が込み上げる。……だが、いたって変哲もない絵画。ホッと胸を撫で下ろす。
その前を通り過ぎる前に、次の絵画が現れる。
見たくないのに視線は外せない。
……果物の絵画。これも変わったところもない絵画。
「……ふぅ」
ただの風景画だ。少し気にしすぎなのかもしれない。
一人でいるならともかく、皆でいるんだ。いくら不気味でもなんとかなる。
そう気を取り直して、丸めていた背を伸ばして視野を広げる。そして隣の壁に飾ってある絵画に視線をやった。
…………なるほど。男の肖像画だ。
よくある肖像画。恐らく昔のお偉いさんなのだろう。
胸から上が描かれた髭の生えた男が、遠くを見るような目で描かれているだけの変哲もない肖像画……。
そう……変わり映えのないただの肖像画……だが……。
「…………」
なあ……これってさっきまで花の絵画じゃなかったか?
あれ? 気のせいか?
はじめに花の絵画があって、次に果物の絵画……。
通路の後ろを見てみても花の絵画は飾られていない。
やっぱりここに飾られていたのは花の絵画だったはず?
そう思って、もう一度、肖像画に目を向けると……。
あった……。
「ヒッ!」
目が合った……。
遠くを見ていたはずの肖像画の瞳がギュルリとコチラを向いた。口は硬く閉じられ、感情の窺えない無機質な表情の人物画が、それ自体は変わらないのに瞳だけをよこしてきた。
どこまで行っても無機物で出来ているはずの男がコチラを見ている。
「なんだ? どうした?」
驚きに身を引いたことで、背中が仲間にぶつかり、心配される。
「あ、あぁ……」
「なんだよ。この花の絵がどうかしたか?」
縋り付くように掴み掛かり、絵画を指差すが仲間は首を捻るばかりだ。
「は、花? ……なにを……え?」
言われて目を向けてみると、男の肖像画ではなく、花の絵画に戻っている。
「す、すまん。なんでもない」
口ではそう言った。だが――
……なんでもないはずあるか。
確信してしまった。今までは恐怖が見せた幻覚だと思い込もうとしていた。
しかし、気づいてしまった。
『この宝石店は……異常だ』
なにか形容し難い存在に支配されている。
今すぐ振り返って逃げ出したい気持ちになるが、その選択をする勇気が持てない。
この集団の後を黙ってついて行くしかない。
「ん? なんだこの彫刻。前回来た時にはなかったよな。配置変えでもしたのか? まあいい」
前方を歩いていた仲間がそう呟く。
よくない!?
どう見たっておかしいだろ!
通路に何十体もの彫刻が並んでるのはおかしいだろ! なんで分からない! 邪魔だろ!
そんな心の叫びも誰にも聞こえず、下を向きながら視界に入れないように歩く。
そして、大金庫に向かう為に角を曲がろうとして最後にチラリと後ろを振り返ってみると――
「…………」
全部の石像の首がコチラを向いて凝視していた。
何故誰も気づかない。
なんで俺だけ狙い撃ちしたように不思議な現象が起きる?
頼むから皆気づいてくれ……この店は普通じゃない。
「大金庫に到着だ。さあ暫くは忙しくなるぞ」
ビビリ仮面の願いは通じた。ピエロ泥棒全員が目に見えて分かりやすいように異常として――
不気味な店が本性を現す。
「おい、なんだこりゃあ……」
大金庫のはずだった場所はそこになく。先ほどとは様相の違う通路が伸びている。
「道を間違えた訳じゃねえよな?」
「いや、そんなはずは……」
「ッ!? おいテメーら!!」
リーダーの男が大声で叫び、仲間から距離を取る。
「………………ふざけんなよ……どうなってんだよ……」
「ど、どうしました?」
「動くんじゃねえ!!」
とつじょ豹変したリーダーの声。ピエロ泥棒たちはいったい何事かと緊張感をただよわせる。明らかに只事ではない。
全員をまるで敵でもみるかのように見渡したリーダーの男は、困惑を隠せない震えた声で呟いた。
「オメーらなんで十人いんだよ……」
そんなリーダーの言葉に疑問を浮かべる。
「いったい何をいって……」
「俺を入れて十人だろうがよお!? なんで! テメーら十人居るんだよ!」
いつの間にか……一人増えている……。
「「「「ッ!?」」」」
「ぎ……ギャハハははハハはハハハハハハハハ!?」
イキナリ狂ったように笑い始める一人のピエロ仮面……いや、仮面ではない。皮膚がそのまま動いている正真正銘のピエロ……。
心臓でも掴まれたような笑い声がビリビリと肌をざわつかせる。
「チッ!」
リーダーは素早く、狂い笑いを続けるピエロの背後に移動すると、ナイフで首を掻っ切る。
しかし、手応えはなく。笑うピエロは薄く透けるように消え去った。
「いったい……何が起きてやがる」
キャハハハ、位置に着いたね? ゲームスタートだよ〜