作品タイトル不明
運のいい女
ペタ……ペタ……ペタ……
どーも私です。
すでに半数が脱落してしまってるので長引かせるのも悪いと思いまして、ピエロ泥棒たちをゲームオーバーにする為に私自ら出向くことにしました。
少し早いですが、協力して頂いたプレイヤーの皆様には感謝を申し上げます。
「色々節約してたのに無駄になっちゃったねぇ」
まぁ節約ってのはこの空間の事なんだけどさ。作った空間に引き摺り込んでやりたい放題……みたいに見えるでしょ? 実はそんな無敵の能力ではない。
なぜならこの脱出ゲームには避けようのない裏技が存在するんだよね。
この空間にある壁の向こう側ってどうなってると思う? それはね……元の空間に繋がってるんだ。
ゲームエネルギーの問題だね。壁を堅くするエネルギーを節約したからさぁ。破壊されたらそれで終わりだったんだ。
「まぁそんな発想はなかったみたいだけどね」
『壁抜けバグ』とでも言おうか?
つまり力技でどーにでもなるゲームなんだ。
普通は壁なんて破壊しねぇよ! とか思うんだけと……いるだろ? この世界さぁ。壁くらい破壊できるような化け物が普通にいるんだよ。
素手で石橋を落とすサイコパスとかね。
「あ、血まみれの女で四人脱落した」
裏で起こしていたイベントで残りは一人。危ねぇ危ねぇ……。
「気合い入れてきたのに全滅してました。じゃ味気ないもんね」
リーダーピエロとのラスボス戦はやっとかなきゃ。
あれ? この場合のラスボスってリーダーピエロじゃなくて私じゃね?
どーも私、ラスボス始めました。最後の一人になると出現するタイプのレアラスボスです。
ペタ……ペタ……ペタ……
いやホント全滅しないで助かったよ。しかし不甲斐ないなぁ……リソース余らしちゃった。
「えーっとぉ……生き残りは何処かなぁ……あれ?」
おや? おやおや?
最後の生き残りをモニターで確認して首を捻る。
そして別のモニターを浮かべると吹き出してしまった。
「リーダーピエロ脱落してんじゃねぇか!」
えぇ……ゲームオーバー部屋に転がってる奴の一人に、ちょっと豪華なピエロ仮面がいるんですけど……。オマエ偉そうに指示してた奴だよな?
「あちゃ〜、そう言う事もあるかぁ……」
となると……生き残りは一般ピエロ泥棒か。
まぁえぇわ。生き残ってくれただけで嬉しいよ。
え〜とぉ、はいはい。生き残りピエロはコッチね。
ペタ……ペタ……ペタ……
「ッ!!」
「はぁ〜い。どーもぉ……」
先回りして曲がり角で立ってたら、私の顔を見て狼狽始めた。ははは、見た目ただの美少女だろうが、ここまでビビらせた状態だと不気味かな?
ペタ……
ペタ……
ペタ……
ニィイイと笑って一歩一歩ゆっくり近づくと、仮面を被ってるにも関わらず怯えているのが分かる。
「じゃあフィナーレだ」
私の周りから影がニューンと幾つも伸びてくる。その伸びてくる影は、私の姿に変わった。
「お〜っし、皆の衆!」
『ウェーイ!』『ニュフフ……』『キャハハハ!』『リョウカイ!』『イイヨーイイヨー』『ガッテーン!』
うわっきも。
ただの見せかけだけど、自分がいっぱいいると不気味だわ。
あ、生き残りピエロが脱兎のごとく逃げ出した。え、そんなビビられると、それはそれでちょっとショックなんですけど……。
まあいいや。
「それじゃあエンディングだ。カカレー!」
『『『ワーー!』』』
ペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタペタッ!!
――――――――――――――――――――――
男は仮面の中で、涙と鼻水を流しながらひたすらに走った。
みんなやられた。
仲の良かった仲間も座長ですらアッサリと飲み込まれた。この呪われた宝石店に喰われた。
座長の最後の叫びが耳にこびりついて離れない。
「ハァ! ハァ! ハァ!」
ただひたすらに走った。
立ち止まったら皆んなと同じ目に遭う。それが分かっているから走った。
そして……もつれる足を無理矢理動かして角を曲がった時、男の目の前に少女が現れる。
「ッ!!」
今までの明らかな怪異ではない。
ただその場に立っているだけの少女……。
だが男は、誰に教えられる訳でもなく分かってしまった。
この目の前にいる存在こそが、この呪われた怪異の本体なのだと。
滲む視界に景色が歪む。しかし、何故か目の前の怪異だけはハッキリと目に映る。
少女がニィイイと笑った気がした。怪異が明確に矮小な存在である自分を認識した。
恐怖が足の先から頭の上まで駆け巡る。
そして理解した。
ソレはどうしようもなく人間とは相入れない……この世の存在ではない事を……。
ソレが歩み寄る。
その度に、周りから怪異が増殖して迫ってくる。
「ッ!!」
叫び声すら上げられなかった。
足が動いたのは奇跡だ。
ソレから背を向け逃げ出した。
逃げ場などないのかもしれない。走ってもこの異界のような恐ろしい場所から脱出することなどできないのかもしれない。
それでも……一秒でもアレの前から居なくなりたかった。
┓
ア 足に手が纏わりつく。
ハ
ハ 腕に絡みつく。
ハ
ハ 腰に手が回される。
┗
近 づ い て く る
限界だった。
極限の精神状態で無様にコケる。
チャンスとばかりに群がる怪異。
そして遂に……
――ゲームオーバーだよ――
不意に響いた声に……振り返ってしまった。
そして見た。
その目を見てしまった。
「あ、あ、ア“ア“ア“ア“ア“ア“!!」
その少女の目には、白目が無く……。
瞳全体が黒い真珠のように無機質だった。
それなのに嗤うように歪んでおり、それでいて浮かぶ感情は、自分に対する興味のなさ……。
どうしようもなく気づいてしまった。
目の前にいるソレは、自分など本当はどうでもいい。
虫か……それ以下だと思っている事を。
――――――――――――――――――――――
「…………」
「店長、少しは落ち着いたら如何ですかな?」
大金庫の中で、OL女は落ち着きなく歩き回る。
「落ち着けですって? 無理言わないでよ」
「そうは言っても扉は開かないですな」
OL女と副店長は、簡単に言ってしまえば閉じ込められていた。本来なら内側から開けられるはずの大金庫がうんともすんともいわないのだ。
「早くしないとあの子たちが」
「ハァ……何故開かないかは分かりません。ですが……」
そういって副店長は時計を見せてくる。
「あ……」
いつの間にか二時間を超えていた。
何をどう足掻こうが、もう全て終わっている時間なのだ。
ペタリと座り込むOL女。
それは自分の命が助かった安堵か……。
それを皮切りにしてか、大金庫の扉がゴリゴリと開き始める。
「念の為に警戒はしておきましょう」
副店長の声が遠くに聞こえる。
もしかしたら扉の前には、少女二人の無惨な姿があるのかもしれない。
それでも見ないわけにはいかない。
そして開かれた扉の前は、ある意味予想通りの光景だった。
「おぉ、開いた」
「大丈夫ですか?」
「発見しました! 保護します」
通報を受けて駆け付けたのであろう警官たち。
そこでようやく命の危機が去ったのを自覚できた。
「あ、あの……」
「大丈夫でしたか?」
忙しそうにしながらも気遣うような警官の表情。それでも聞かねばならない。
「二人は……」
「二人? いえ、盗賊は十人でしたよ。店内で気絶している所を取り押さえました。随分とセキュリティがしっかりしてますね」
「……え?」
まるで危機意識が高くて感心しているかのようなセリフに首を捻る。そんなセキュリティなど存在しない。
まさかあの二人が本当に時間稼ぎをしたとでも言うのか?
そんな馬鹿な……でも実際に泥棒は捕らえられている。
「子供が……いませんでしたか?」
今更ながらに、本当に二人の少女は存在したのか……自信がなくなってきた。
「子供? いえ、見ていませんね。一応入り口のログを拝見させていただきましたが、捕らえた盗賊以外に出入りした魔力形跡はありませんでした」
気遣わしげな表情をしてくる警官。
恐怖でおかしくなったとでも思っているのだろうか?
「いえ、何でもありません」
「店長、あの子供たちはいったい……」
副店長が恐る恐る聞いてくる。
いったい……何だったのだろうか? そんなものは私が聞きたい。
「ふふ、さぁ知らないわよ」
「……」
笑いながら答えてしまった。そういえば何も知らないのだ。いや、巻き込まれたくなくて知ろうとはしなかった。それなのにコチラは巻き込んでしまった。
本当に彼女らは存在したのか?
いや、呪いの解かれた品は確かに残っているのだ。
いたのだろう。
「……そうですか」
副店長は短くそう返す。
話したくないとでも思ったのか? 物分かりのいい男だ。
深く聞いてこないのは助かる。答えようがないから。
「……しかし」
副店長は私が答えたくないと感じてか、話を逸らすようにバタバタと駆け回る警官を見渡す。
「後処理が大変そうですな」
「そうね……でも何とかなるわよ」
笑いながら副店長に答える。
あの日、あの時。
二人の少女に話しかけられたからこそ。
事態は最悪から遠ざかった。
もし、あの時。話に乗らなかったら命すらなかった。
結果だけみれば最上の形に落ち着いたのだ。
「私こう見えてもついてるから……運だけはいいのよ」