作品タイトル不明
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『譲れねぇもんがあったのさ。それは勝ち取らなきゃならねぇもんなんだ』
優しい口調でそう言った姿に、この上なく成長を感じた。
大人びた捻くれものの子供だったはずが、子供に見えるものに対しても、対等に目線を合わせ、なにも誤魔化すことなく真摯に向き合っている。
何より辛いのは、自分ではないと。
幼き子を慮り、今まではわざわざ口に出さなかったであろう言葉を紡ぐ。
生きるということを諦めないのは誰のためでもなく、そうであればゼネスはただ、”自分のためだと”言葉を濁してきた。
それも優しさではある。
責任を負わせまいという気遣いからの優しさ。
だがそれは傲慢でもあった。
知らなくてもいいという、突き放した答えでもあるからだ。
それは弱さから失敗した時に責め苦を求めていたせいかもしれない。
逃げてもいいところで逃げなかったんだと自分自身へ言い訳したかったのかもしれない。
それをやめた。
相手にも責任を分け与えることで、相手を認め向き合い、誰かの理想ではなく、自分の理想を押し付ける覚悟を得たのだ。
私が教皇になった時と同じように、子供に教えられたか・・・・・・。
教職に就くと聞いた時は冗談かと思ったが、意外と適任だったのだな。
そして幾何かの未来を予想し、烏滸がましいと首を振る。
自らの死を見ていた。
なぜそうなったのかは今でもわからんが、儂が死ぬ瞬間を私は見たのだ。
どこまでも他人事のように、第三者視点から。
儂が何事かを呟き、涙を流しながら、自らの胸に刃を突き立てる瞬間を。
そのせいかはわからんが、初めに感じたのはただ申し訳ないという気持ち。
ゆっくりと倒れ、死に逝く我が身を眺めながら、孫娘に謝りたかった。
父のことを、母のことを、側に居させてやれなかったこと。そうでありながら、急に側を離れてしまうことを―――謝りたかった。
ユノが苦労することは目に見えていた。
今の私の状況は、どうせ誰かに仕組まれたもの。
教皇という立場を考えれば致し方なく、その孫娘が狙われないなどと思うのは愚かすぎるものの考え方だ。
悔しさでも、怒りでもなく、情けなさが勝った。
枢機卿にも申し訳なく思った。
彼は永らくの友人だ。しかし、私と最後に会ったものでもある。
疑われるだろうことは是非もないが、干渉する術などなかった。
もう少し、やり様はあったのではないか? などと。
生きていても、死んでいても。
後悔という気持ちに差はないのだと知った。
せめて、そのことだけは伝えてやらねばな。
『でも―――・・・しっぱい、したんだよね?』
心を抉る言葉。
ただ横に居っただけの儂でさえ、倒れるかと思うような一言。
なによりも、それが絞り出された言葉であるからこそ、無視などできようはずもない。
『そうだな。失敗した・・・けどな』
だというのに、
『まだ、終わっちゃいねぇんだ』
どこまでも、先ヘ進むというのだなお主は。
『俺は勝つぞ。俺のために。俺の仲間のために。信念と、未来のために‼』
過去からは考え付かぬようなクサく恥ずかしい台詞をわざわざ・・・。
そこまでしてでも、決着をつけるという気概。
それはすなわち、黄泉帰るという宣言に他ならぬ。
しかし、どうすればよいかなどわからぬだろう。
意気込んでおいて方法に困るというのは、この上なく恥ずかしいからな。
年配者として、この道の先輩として、道を示してやらねば――。
グレアムという自らの名前を思い出しても、ここへ来てからのことはほとんど思い出せないが、全てではないのだ。
儂らは誰かの命令で働かされていた。
誰かの正体はゼネスが暴いた。
命令の実態はこの目で見た。
あの時、儂が涙していたのは救いを求めてか、あるいは誰かの悔恨か。
今になって怒りが湧く。
なんと無責任な!
だが・・・・・・だがしかし、だ。
望福教の教祖は加護教の女神様への対抗者だったはず。
それがこんな半端な真似をするだろうか?
教皇たる我が身を利用せず、路傍に捨てるような真似を。
そんなことがあるとすれば、それはきっと―――。
如何ともしがたい変化があったのだろう。
それこそ、神にも抗えぬなにかが。