作品タイトル不明
覚醒1
『わたし・・・わたしは・・・・・・』
崩れ落ち、蹲り、泣き声とも嗚咽とも判別がつかない呟きが続く。
無理もねぇ話だ。
記憶をなくすせいで事故も保てないようなこんな空間で、やっと見つけた手掛かりと、大切だった存在を手に入れて。
なのにそれらが互いを潰し合おうとしてるんだ。
理解も納得も許容も承諾も、出来るはずがねぇ。
ましてや少女だ。
爺さんや俺の姿から見て、ここの姿は来た時の姿が反映されているはず。
見た目がドラゴンから人間に変化していても、中身に大差はねぇんだろう。
「大見えを切るのも良いがな。ゼネスよ・・・お主、どうするつもりだ?」
「どうって・・・?」
少女の答えを待つためにずっと見つめていたところへ、グレアムの爺さんが横槍をくれる。
「ここから外へ出る方法に、なにか心当たりでもあるのかと思ってな」
「・・・・・・・・・・・・あ」
そんなもん、あるはずがなかった。
『それなら――ッ!』
「おっと、すまないな。お嬢さん。儂には心当たりがあるのだ」
『そんなっ⁉』
垣間見えた希望に顔をあげた少女だったか、まもなく面を喰らってしまう。
「俺にとっちゃ都合のいい話だが・・・」
「そうだな。警戒して然るべきだろう。ここがあの教祖の内側だというなら、操られている可能性を疑うのも無理はない。だから、儂がここへ来てからのことを少し話そう」
ここへ来てから。
俺は少女と出会ってこっち、歩きっぱなしだったが、爺さんにはそれなりの時間があって、その間の記憶もあるってことか。
話してくれと頷くと、爺さんも頷き返してから始める。
「さっきも言ったが、教祖たる彼のドラゴンは他者を操る。その方法がどういうものかは知っとるな?」
「自身の精神で乗っ取る方法だろ? 帝国とルーフロンス領で確認してる」
「乗っ取る・・・つまりは人格の上書きだと言って良いだろう。意のままに操るには多少の時間が掛かることもわかっているな」
「精神魔法の特徴だな。見ず知らずの相手には警戒する。無意識的な防衛が働いてるって話だ」
「では、その間。乗っ取られている最中の精神はどうなっていると思う?」
「最中って、そんなもん・・・――ッ‼」
「そうだ。儂はそれを経験し、もう1つも確かに経験したのだ」
「もう1つ? ってのは・・・」
「乗っ取る側、ということだな」
かなり衝撃的な話が飛び出してきやがった。
しかしまぁ、そうじゃなきゃ説明がつかねぇ事象はあった。
「アイツが動かしてた手下」
「その中の1人に入れられていたのだろうな」
「・・・・・・・・・・・・」
胸糞の悪い話だ。
死んだ人間の精神を回収しておいて、それをこき使って別人の体を使わせるなんざ、ふざけ過ぎた話じゃねぇか?
「意識は?」
「ハッキリとは覚えておらん。それが救いでもあるが、だからといって責任を逃れられるわけでもあるまい」
「まぁ、そうだな。なら逆は? 乗っ取られてる最中はどうだったんだ?」
「あくまでも儂の体験だが、弾き出されていたように思う」
「弾き出される?」
「幽体離脱などという話が有っただろう? 凡そがそれだと思ってくれ」
「意識だけで体外を動き回れるってアレか―――・・・」
っつーことは、だ。
「気付いたか。儂は自分の死に目を見ていた」
「ッ‼ そりゃぁ・・・言葉に詰まるな」
「はっはっは! 気にするな。なかなか変わった体験だったぞ?」
「そうだろうけどな。そんな話をするってことは――」
「――儂の体を操っていたのは教祖ではなかったぞ」
そうだよな。
何かしらの理由が無けりゃぁ、自らの死に様についてなんぞ話さねぇよな。