作品タイトル不明
並び立つ理屈
「どういうことかしら?」
「何故、そのドラゴンを始末しなければならないのか・・・という問題です。この国で起きたことを考えれば、生かして置く理由はないのかもしれません。ですが、今この時でなければならない理由がなんなのか、ということです」
「そんなの、今が弱ってるからじゃないの?」
「もちろん、それはあるでしょう。しかし、国政を捨て置いてまでやるべきことなのか? もっと言えば、姫様にはそれだけの決断を迫りながら、誘う相手には国を導くような資格を持っていない。条件が対等ではないのです。帝国から見て、これは由々しき問題です」
「そういわれれば、そうね。誘い方も唐突で・・・しかも、直接乗り込んできてるわけだし、面子を考えれば得策じゃないどころか、悪手ではあるわね。でも逆を言えば、それだけ危急の事態ってことでしょ?」
何気なく視線が飛んで来たんで、取り敢えず頷いておく。
「では、それがどれほど切迫しているかの説明を、我々は受けましたか? 敵となるドラゴンの目的とは? 次の行動はいつ、どこで行われるのか? それを止めなければどうなるのか? 敵味方の戦力状況は?」
「されてはないけど、そんな余裕がないから、こうなったんじゃないの?」
「いいえ。意図的に隠しているのです。私がそうしてきたように、他国の者を巻き込む場合に、全てを打ち明けるのは都合が悪い。だから、話すことを限定的にし、嘘をつかない範囲でより効果的な説明に終始するのです。この者達は嘘をついてはいないのでしょう。ですが、それがこの帝国にとっての真実ではありません。見るべき視点、場所、高さ。全てが違うのです」
「なら、私はどうすればいいのかしら?」
「まずはドラゴンの目的を聞くべきでしょう。そして予測するのです。帝国までそれが波及するのかどうか、その時にどうなるのか? 今動くことで、それがどう変化し、そのことにどれだけの意味と価値があるのか? それを天秤に掛けるべきです」
「目的って―――望福教を広めて教祖になることでしょ? 言ってしまえば、神になろうとしてるって感じ? それ以外はついでなんじゃない? 聞いた限りだとそう思ったけど・・・」
「では何故、神になどなろうとしているのでしょうか?」
「それは・・・・・・なんで?」
正しく、急に話題が飛んできた。
「奴にとっての復讐なんだろうさ。まぁ俺は本人じゃねぇから、あくまでも予想だけどな」
「復讐って・・・誰に?」
「敢えて言うなら、世界に――ってところか?」
「世界そのものに?」
「感覚の話になるから、確証とまではいかねぇが・・・ドラゴンは神の存在を知覚できるらしい。つまり、奴らにとっては加護の女神も実在するんだ。にもかかわらず、自分は不幸になった。あまつさえ、その原因となった同族はなんの処罰も受けず、のうのうと生きながらえていた。神という名ばかりの存在には意味も価値もねぇ―――そう思っても、不思議じゃねぇだろ?」
「だから自分が神になり替わって、正しく世界に干渉するっていうの?」
「本人はそのつもりなんだろうな」
「体制への怒りが認識を狂わせたってわけ? そんなことしたって、何にも変わらないじゃない」
「王座に座る奴にとっちゃ楽園だろ?」
「言葉通りになる世界でも、思い通りにはならないでしょ。そんなことすら、わからないのね」
「そのための精神魔法だ。お人形遊びがしたいのさ」
「迷惑な話ね。それはいつ起こるの?」
「さぁな?」
「えっ⁉ さぁな? って――っ‼ もしかして、わからないの⁉」
「望福教としての計画は潰した。少なくとも、しばらくの間はこの南東大陸で活動はできねぇはずだ。だが、奴らドラゴンは長命だからな。いつかまた、性懲りもなく動き出す。それまでの間、北大陸は・・・・・・・・・」
「確かに可哀想かもしれないけど、文化とか貿易とかそこら辺まで考えれば、関係のない話じゃない? 言い方は悪いけど。優先順位は低くなるわよ! 当分は派手に動けないってわかってるんでしょ? それなのに戦力も整えられないまま、戦うつもりなの?」
「気に入らねぇからな」
「・・・は? それだけ?」
きょとんとした後、腹を抱えて笑い出すカーナ。
「それが本音って・・・・・ッ! どうなってんのよッ! そんなの・・・、協力できるわけないでしょ・・・ッ‼‼」
ひとしきり笑ってから、
「この話が外部へ漏れたら、私は後世まで無能と語り継がれるでしょうね。なんで協力しなかったんだ! この時に協力してれば、帝国は今頃! とか。人の願いこそが~・・・なんて、アタシ達にとって我慢ならない台詞だけど、きっとアンタが勝つわ。私が出来ることは祈ることだけ」
カーナは言う。
「様子を見に来てくれたんでしょ? ありがとう! ご心配の甲斐もなく、アタシは平気よ。操られてもなければ、乗っ取られてもない。だからせめて、ここから祈っとくわ。アンタは気にせず、好きなようにすればいいのよ‼」
それは見送るための言葉。
「まったく、全て私に任せていれば、自由騎士だけでも引き込めただろうに。どうせ、ドラゴンを始末しない選択が、彼女の復讐という思いを無碍にするとでも思ったんだろう? 誰にでも優しいのは良くないよ。勘違いされてしまうからね‼」
ジーナの誰が言ってんだっつー物言いを聞きながら、龍王を呼ぶ。
協力は得られなかったと告げ。
けれど、得るものがなかったわけでもねぇと。
背中に風を受けながら発つ。