作品タイトル不明
軌道修正
「良くないわよ! なに勝手なこと言ってるの? 貴方はこの帝国の将軍よ。私だけに全部の責任を押し付けないで。直接口出しが出来ないなら私に助言しなさいよ! 貴方の持ってる知識と経験を私の許可なく捨てないで!」
そう言って猛るのは女王カーナ。
お飾りの前線指揮官から、最高権力者まで。いきなり昇りつめることとなった彼女にとって、頼れる味方の数は少なく。
その中でも将軍フリードリヒは重要な存在だというのは理解できる。
「しかし――・・・」
「しかしじゃないの! 天才だか変態だか知らないけど、そんな変な女に負けるんじゃないわよ! どんな権力を持ってるか知らないけど、帝国の女王と比べるまでもないでしょ⁉ 必要なら私はチャード集合国まで乗り込んでもいいのよ!」
カーナとて、目の前の男の性分ぐらいは把握しているのだろう。
関わった相手が不幸になることを望まない男だ。
そこを快く思っていても、それはそれ。国の一端を担う将としての矜持を簡単に投げ捨てられては、文句も1つじゃ収まらねぇ。
「認識が変態に寄っている気がするのだけれど、気のせいではないよね?」
「日頃の行いだろ」
「私は君のせいだと思うねえ」
「だから、日頃の行いだろ」
興味のない国外の問答。
かといって、割って入ったところで止まるとも思わねぇ。
一方的過ぎる戦況だが、どこぞの将軍へ送る塩も持ち合わせちゃいねぇ。
ジーナと暇を持ち合わせることしばらく。言いたいことを言い切ったのか、カーナが俺達の存在を思い出す。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
不意にぶつかった視線は気まずさを生み、時間と共にその存在感を増す。
「・・・・・・―――それで、なんだっけ?」
赤い顔で尋ねるカーナ。
赤い理由が興奮か、あるいは恥ずかしさなのか、俺達には計り知れない。
「ドラゴン退治に参加するかどうかって話だ」
「帝国が得られる利益は? 手短に説明して」
「それについては私が説明しようか。北大陸の現状を交えながらねえ」
「北大陸の現状?」
「この国でも望福教の暗躍により、意識を奪われた人物がいたそうだね?」
「そうね。完全に操られていた人もいたわ。それ以外にも、薄弱化や低迷を多くの人達が引き起こしていたわ」
「北大陸はより酷い状況でね。意識を残している人間が居ないようなんだ」
「はぁ⁉ そんな、まさか・・・ッ⁉⁉」
「あそこにいる龍王に協力してもらって得た情報だ。確度は高いよ。それで、聞いておきたいんだけど、その意識を奪われていた人物達は今――どうしているんだい?」
「半分くらいは回復したわよ。ただ、症状が重かった人達は・・・・・・」
「北大陸でも同じことが起こるとすれば?」
「大陸全土を侵略する気なの⁉」
「帝国の歴史を知れば、その方が自然じゃないかな? そんなに私達を悪者にしようとしないでほしいねえ。他にも君の気分がよくなるという副次効果もあるんじゃないのかい?」
「そんなことを利益だなんて呼べるはずがないでしょ! 領土にしたって、帝国から北大陸までにはかなりの距離がある。この国には海に面する場所もあるけど、海路の拡充はなされてない。陸路で考えても、大陸北端には少数民族が住み着いてて利用は現実的じゃない。大陸の端同士を結ぶにしても、港の開港は必須だけどそんなの無理よ」
「本当にそうだと言えるかな?」
「は?」
「私達は龍王に協力しているんだ。つまり貸しを作れるわけだね。そうすると、それを回収することも出来る――ということになるね。少数民族の統治、資材の運搬、予定地の開拓。なにより、ドラゴンを従えたという実績が残る。利益としては十分だと言えるんじゃないかな?」
存外、ジーナが帝国を担ぐことに乗り気だ。
ここで上げた利点は全て実現できるだろうこと。
そして、それは間違いなくこの先100年を確約する実績となる。
少なくとも死ぬまで、女王カーナの地盤が揺らぐことはなくなるはずだ。
身の危険を天秤にかけても、余りある報酬だと言える。
「姫様。差し出がましいかもしれませんが――」
そんな提案を遮るように、消沈していた将軍が息を吹き返す。
「――それ以前の問題があります」
そう断言する瞳には、いつか見た色が戻っていた。