作品タイトル不明
もう1つの因縁
皇都を過ぎた後、月は雲に隠れ、暗い空は境界線を奪う。
僅かな星だけが山際に差し掛かり、そこに違和感を映し出す。
けれど克明に見えるはずもなく、嵐の海に沈んだかの如く行先は見えないまま。
そこに現れた揺らめく赤。
いくつもの揺らぎが集まり合って、1つの影を築き上げている。
それは文明の歴史。火の光。
人の営みが紡いだ確かな証拠。暮らす者達の存在の照明。
しかし、そこには偽りの介入と人ならざる者の思惑が根ざした古都。
ゴウガ帝国。その首都・帝都。
「ドラゴンだぁあああ――ッ‼‼‼」
「ドラゴンが出たぞぉおおお――ッ‼‼‼」
見張りのその声に目を覚ます者も居ただろう。
「なんだ。もうついてしまったのかい?」
現に、俺達の中にもそれほどの余裕をかます奴が。
皇都からさらに2時間程度か。
龍王に言わせれば遊覧のような速度らしいが、俺達人間からすれば、片道数か月の道程だ。もちろん、国家間の摩擦なども込みで・・・だが。
『城の屋上とは、ここで良いのか? 尖った屋根の上ではまずかろう?』
帝都中央の古城へとゆっくり降下しながら龍王は、場所の確認をしてくる。
「ああ、ここでいい。けど、降りるなよ? そんな広さはねぇからな」
『言われずとも、見ればわかる。人の住む場所はどこも足の踏み場がない』
「歓迎されねぇわけだな」
『我らとて、人間など歓迎せぬわ! 空中で待機する。用が済み次第、呼ぶがいい』
軽口を叩きながら、いつぞやの屋上広場へ移動する。
「何者だ‼‼」
ドタドタガチャガチャと音をたてながらも、意外に素早く兵が並ぶ。
夜中の騒ぎにしては十分な対応。精強なことだ。
「将軍フリー・・・ドリヒだったか? それと王女・・・今は女王か? まぁなんでもいい。最高権力者を呼んでくれ。それとも、ドラゴンブレスがお好みか?」
宙を舞うドラゴンを指差し、隊長らしき兵に訊く。
それにしても名前があやふやだ。自由騎士フリーダムとしての印象が強すぎる。カーナにしても、王女だか女王だか・・・どうなったかまで確認してなかったな。正式な就任を知らせる手紙なんかも見た覚えがねぇ。
「あのねえ! 時間を考えなさいよ‼ こんな時間に来られたって困るに決まってるでしょ⁉」
「だったら昼に姿をさらせばよかったか?」
「それはやめてっ! というか、アンタわかってて言ってるわね⁉ 余計な騒ぎを起こさないでって言っての‼ それと、事前に連絡もしなさい‼」
「それについては余裕がなかったんでな」
「余裕がなかったとはどういうことだ? 私には説明を誤魔化すための方便に聞こえるのだが?」
強い口調で愚痴気味に出てきたのがカーナ。この国の頂点に座る女。
その相手との会話の途中に割り込んできたおっさんが将軍フリードリヒだ。たぶん。
「やあやあ、自由騎士フリーダムじゃないか! ん? けれど、それにしてはやけに饒舌だね? 猫を被るのは辞めたのかい?」
「げっ! その声は―――」
「げっ! とは失礼が過ぎるんじゃないかい? 色々と便宜を図ってあげたというのに」
そう言っておっさんを慄かせるのは背後から出てきたジーナだ。
「勝手について来てなんの用だ?」
「君の説明に説得力を与えるためだよ。これでも私は天才として名高いのでね。それに丁度良く借りも返して貰えそうだったから、かな?」
その言葉に表情を歪めるおっさんを見て、察するところがあった。