作品タイトル不明
終点へ向けて
「久しぶりに顔を見せに来たかと思えば。儲かる分には文句はねぇけどよ。急に言われたって無理なもんは無理だぞ?」
「分かってるさ。素材やら資金やらは張本人が負担するって言ってるんでな。無理のねぇ範囲で取引を頼む」
溜まり場になってた店を飛び出して、やってきたのはアルガムの工房ムー。
事情を話した相手は工房主のアルガムであり、無茶を言ってる自覚もある。
だから、出来る限りで頼むしかなかった。
「どうしたって急ごしらえになる。クライフ達の装備もそうだ。本当ならきっちり時間をかけて整備してやらにゃならなかったってのによ」
「その節はすまない。ただ・・・わかるだろう? ゼネスに頼られたんだ」
「わかっとる。わかっとるから、従業員に休み返上で働かせとるんだ。本来なら閉めの作業に入っとるわ。こんな時間からガンガンやってりゃ近所迷惑になっちまうからな」
「その点については私が結界を張っていますので安心してください」
「疲れまでは取れんがな」
「そっちも対応済みだ」
「「「親方‼ 体が羽のように軽いっすよ‼」」」
最盛の魔法。
身体の時間を戻して調子のいい状態にするだけだが、その効果は抜群だ。
目を見張るアルガムにも掛けてやれば、
「まったく・・・・・・やるぞ! 野郎共‼ この小憎たらしい冒険者共を黙らせる仕上がりにしてやれ‼‼」
嫌味ったらしい態度も消し飛ぶ。
まぁアレがほとんど冗談なのはわかってる。
むしろ、自分達が納得出来る仕上がりにならないことへの当てつけのようなもんだ。
それも調子を上げてやりゃぁ幾分マシになる。
「悪いなエリック。結構な量の魔力を借りちまって」
「いえ、僕は回復傾倒の魔法を使えませんから、役に立てないよりはずっといいです」
「その言い分だとアタシの立場がないじゃない?」
「アンナ! お前はこっちを手伝え‼ 馬鹿力も使いようだ‼」
「ちょっと! 出番があるのはいいけど言い方に気を付けなさいよ‼」
文句を垂れそうになったアンナをアルガムが引っ張る。
「はは、これで役立たずは俺だけになってしまった」
「まあ? 私は材料や資金を提供するのだから、今この場で仕事がなくとも、役には立っているということになるはずなわけで・・・」
「だったら作戦会議でもやっときゃいいだろ。それより、こっちの棚にあるのは持って行ってもいいのか?」
「良くはねぇが仕方ねぇ! 好きなのを持っていきやがれ! 発注品もあるが、材料があればまた作れる! その分の代金は上乗せするがな‼」
「そうか、なら遠慮しねぇぞ」
了承を得て棚から罠の魔法道具を幾つか拝借する。
それにしても、なんでこんなに罠が並んでるのか――不思議ではあったが、都合は良かった。
「作戦会議って言われてもな。俺にはドラゴンとの戦い方なんて検討もつかないぞ?」
「俺だってそうだ。どうせ確実な方法はねぇんだ。手札の確認と戦術の想定から詰めてきゃいいだろ」
「それなら一番槍のアンナは呼んでおいた方がいいんじゃないか?」
「必要か? 猪みてぇに合図で突っ込むだけだろ?」
「ゼネス! アンタ聞こえてるわよ‼ そこ動くんじゃないわよ‼‼」
「アンナ! お前が動くな‼‼ 固定がズレるだろう‼」
工房の中には喧騒が広がっていた。
しかしそれが外へ広がることはない。
ただし、外は外でまた騒がしくなろうとしていた。