作品タイトル不明
違う答え
「なんとこの困難を無傷で突破した『進歩する歯車』の皆様は、驚くべきことに引き返すこともなく! そのままアドレスを登るのです‼ あ、素材はきちんと回収していただけましたよ」
時折注釈を入れながら、まるで我がことのように語る職員。
それはいい。
話し方に癖はあるが、聞き辛くはなく、それでいて面白い。
一種の才能といえる語り口だ。
だがしかし、その話を聞けば聞くほど・・・、
「剣山のように尖った足場を踏み均し、進んだ先には急勾配‼ ただそれは正面ではない! 三日月の様に弧を描く側面にもたれる。ただし、見慣れたはずの岩肌はきめ細かい砂肌へ変わり、少しでも踏み外せば摩擦は消え去り、奈落の底まで流されるだろう暗闇が笑う‼」
なんで俺はここに居るんだろうか? という疑問が囁く。
「どうしようか⁉ 悩んで当然。踏みしめる道の頂点は1足よりもか細く、重心をズラしてしまえば暗黒の餌食‼ 空でも飛べればよかっただろう! しかしながら、人にそんな力はない――魔法を除いて。そう! 魔法ならば解決できる。けれど、余力を残せなければあっという間に全滅だ。アドレスの、霊峰の地はそれほどに過酷‼ だから迷う。迷った末に・・・」
どうして同じ場所に居られなかったのか? なんて話じゃねぇ。
「いいや、行こう! 準備だけはしてきたのだから‼ エリックさんが得意の火の魔法で砂を溶かし、足場を作り出して進む。ガラスのような透明な橋はさぞ幻想的に映っただろう。砕けるかもという最悪の恐れすらも抱いて」
活躍を聞けて、素直に嬉しいと思った。
だが同時に、もう俺が必要とされていないこともわかった。
いや、わかっていたはずだ。それでも仲間だと思っていた。
でも。そう思っているのは俺だけなんじゃないのか?
引退した俺が言うのもおかしな話だが、冒険者なんていつまでも続けられることじゃねぇ。クライフ達にだって、残された時間はそう長くはねぇはず。
「空を歩いて進んだ先には洞窟が口を開けていました! まさか、と誰もが思ったことでしょう。自然の力とはこんなに都合がいいものかと。なにしろもうすぐ日の入りです。休むための場所が欲しかった」
それをわかってるから、霊峰アドレス攻略へ注力してるんじゃないのか?
パーティーを離れた俺が、それを邪魔してもいいのか?
迷惑で済めばいいが、今度の敵は―――・・・・・・。
「洞窟はさあどうぞと、言わんばかりに待っている。ですが、飛びつくほどに短慮なら、とうに命は残っていない。じりじりと――音をたてないように、にじり寄る。中になにが潜んでいるかわからないからです!」
やっぱりそうだな。
霊峰アドレスの頂上には何があるのか。
冒険者の夢だ。
「そうして。入り口に張り付き、灯りを付けて・・・ゆっくりと中を覗く。その瞬間‼ グォォオオッ‼‼ 飛び出してきたのはライオンの頭と蝙蝠の羽根にサソリの尻尾を持つモンスター‼‼ キマイラ‼‼」
それを知るために、少しでも近づくために、アイツらは急いでいる。
だったら何も、アイツらに頼む必要はない。
そうだ。本来なら陛下の言う通り、この時代の騒動は終わったんだと後世に任せてもいいはずの事案。
それを俺の個人的な感情で終わらせに行くんだ。
無理に付き合わせる必要は―――・・・・・・ない。