作品タイトル不明
違う形
「そうしてバフォメットを押し退けて進むは、まだ誰も知らない新たな道程。それも、しばらくはバフォメットが激昂していて通れなかったんですけどね。それが収まってからの新規通路開拓になりまして。当然、『進歩する歯車』の皆様に前線攻略の権利がありますから、快進撃というならここから始まったと言えるんじゃないでしょうか! ちなみに私もこの辺りからここへ赴任となりましたので、素材なんかも直接見せてもらったりしました‼」
「バフォメットの角も見たっつってなかったか?」
「それも見ましたけど! 現在進行形で攻略中の前線から持ち替えられる素材は別格ですよ‼ あの臨場感というか、情報の鮮度が違いますからね‼」
「まあ、あの手の心躍るような感覚は特別といえるよねぇ。私も、新しい法則を見つけた時なんかはつい小躍りしてしまったりね」
なんとなくならわからねぇこともなかったが、変態に通づるなにかを理解したくなくて。そんなもんか―――と、わからねぇ振りで流しておいた。
「尾根の先に広がっていたのは、険しく見える山肌。進むにつれて細くなり、それなのに強い風が吹いていて、それはまるで人間の侵入を拒むかのよう。祈祷・結界・強化の魔法を重ね掛けして、皆様は山を登って行ったそうです。必要そうな場所には釘と鎖を打ち込みながら・・・」
先頭って感じで憧れます‼ と、職員は興奮気味に勢いを増していく。
「恐る恐る、決して足を踏み外さないように、足場を一歩一歩と踏みしめて。ようやく一息つけそうな足場まで到着する。山の中腹でしょうか、人間なら10人ほどが寝転べる広さの足場が点々と―――崖の様に切り立つ山肌に、余りにも規則正しく並んでいただんとか」
興が乗って来たのか、身振り手振りを交えながら語り部としての雰囲気を膨らませていく。
「それは作られたかと疑わなくてはならないほど均一な足場。けれど、来たる道中は緊張の連続。ここでまで張り詰めてしまっては、さらに先など目指せはしない。致し方なく、注意を散漫させないように気兼ねしながらの休息を挟む。抜かりはない。仲間の命は自分が守る! 全員がそう思って居たのではないでしょうか。しかし、ある意味予想通りの来客が現れます!」
両手を広げてバサバサと動かすそれはモンスターの真似か。
「バレットバット。弾丸より早く飛ぶと言われる巨大蝙蝠! 皆様が休んでいた場所こそ、この巨大な蝙蝠が逆さ吊りになって眠る場所。山頂を目指して進んでしまったが故、一番高い足場にたどり着いてしまい、足場の下が見えなかったせいで、この危険な足場で自由に空を羽ばたくモンスターの群れに囲まれてしまうこととなったのです‼」
飛行時速が平均で50㎞を超える蝙蝠だったか。
攻撃時には倍以上の速さで、中には3倍以上の速度で飛べる化物個体もいるらしいが、狭い足場で囲まれたのか。
「絶体絶命のような状況‼ しかし! 勇者と呼ばれるまでになった冒険者はこんなことで狼狽えたりはしない‼ 直ぐに臨戦態勢を整え戦闘へ入る! 以前として不利は変わらず、特にアンナさんの剛力を誤って壁や足場にあててしまうと落下の恐れがあり、エリックさんの強力な魔法も、狭い空間では別の被害が出てしまう‼ パーティーの内2人が機能不全‼ 手足をもがれたような状況にあり、それでも好機を見逃さないのが勇者の所以‼‼」
今度は片手に剣を持ったような構え。
クライフの真似事だろうか。
「如何に高速で空を飛べるといっても! 崖という大きな壁があっては四方八方を飛び回ることはできず‼ 何より取り囲んでしまったがために、同士討ちに気を付けなければならないことを瞬時に悟った‼ そこへ魔法剣一閃‼ 剣にまで及ぶ融合強化でクライフさんが空を切り裂く‼ 属性は炎‼ 不自然な熱波が閃き駆けると、直後。ゴォオオオッ‼‼ と風が渦巻く‼」
大気をかき混ぜるような手の動きを再現しているんだろう。
体を揺らしながら両手を広げ、ゆっくりと回す。
クライフは熱を送り込むことで風を巻き込み気流を作り出したんだ。
「突然の乱気流! いくら巨大な蝙蝠といえど、空を飛んでいることに違いはない! 大気は空中の足場同然、突如それをかき乱されてはよろめくこと必然‼ ただし、より重いものはその範疇に在らず! 不可思議鋼の分厚い剣を自在に操れる人間にとっては、乱気流もなんのその‼ 高く飛び上がり、さらに崖を蹴り上がり、乱れる風ごと叩き伏せるよう、撃ち出すは黒の流星‼‼ それは他の黒い星を取り込んで、黒点の如く広がり伸びる‼‼」
どうやら、クライフが作り出した気流で拘束したバレットバットをアンナが上空から打ち付けて、それが周りを巻き込んで落下したらしい。
確かに蝙蝠は羽を広げるとだいぶデカいしな。
鳥と違って空を切る羽をしてねぇこともあって、吹き飛ばされた時の軌道も読みにくかったに違いない。例え同族でも避けれねぇぐらいに。
「けれどもしかし! 獲物を逃がしてしまっては冒険者稼業もあがったり。落ちゆく巨星を包み上げたのはまたしても風! いいや、嵐‼ 直前、気流の檻を学んだ優秀な魔法使いは、見様見真似でそれを上回る! 牢獄か独房か。ひとまとめに命を刈り取る場なら屠畜場か。素材だけは無駄にしまい。そんな心意気が彼と、彼女にはあった。肉体保護の結界。すべてが混ざって潰れてしまわないように、神官は既に祈っていたのです‼ 勝つことを見越して‼」
天を仰ぐように気持ちよく解説しているが、フェリシアはあくまで防衛のつもりだったと思うぞ?
たまたまその範囲内で事が済んだおかげでモンスターの体もぐちゃぐちゃにならなかっただけだ。