作品タイトル不明
お邪魔かな
「愛される覚悟が、あなたにはあるの?」
真剣な表情で返しに困ることを訊くもんだと、漠然とそう思った。
その程度の感想しか出てこなかった。
質問から数秒、沈黙が蔓延る。
「・・・そう」
まるで、もう答えは得たと言わんばかりに興味を失い、ラーナの視線から外される。
「普通は、誰にだってその覚悟があるものなの。だって、子供はそうやって育つのよ? みんな心のどこかで、自分は愛されて当然なんだって思ってる。もちろん万人に・・・ではないわ。中にはそんな風に考えている馬鹿な子も居るのでしょうけど、でも―――」
再度向けられたラーナの視線には、隠しきれない憐憫の感情が押し込められていた。
「その逆なんて見たことがなかったわ。愛されなくて当然だなんて、そんな目は初めて。いったいどんな幼少期を過ごせばそうなるの?」
「さて、大した経験はありませんので」
「すごいわね。本当にそう思ってる。ジーナちゃん? これを篭絡するのは無理かもしれないわよ?」
「そんなはずないさ! 彼は既に私なしでは生きられない体になりつつある。後ほんの少し、勢いでもあれば貰ったも同然だね‼」
「あら~、こっちも本気でそう思ってるのね~。じゃあお母さんはもう何も言わない。お父さんと別荘に行ってくるから、ちゃんと約束は守ってね?」
「ふっふっふ。任せたまえ! 帰りはいつごろになるのかな?」
「う~ん・・・1ヶ月くらい?」
「それはいい! 出来ればそっちの元当主殿は置いてきてくれると有難いんだけどねぇ?」
「それはお母さんには出来ないわねぇ・・・―――」
などと、気付けば流れに取り残されたまま。
やんややんやと楽しそうに談笑する母娘。
しばらくもしない内に、小さいおっさんユージーンはでっかい母親ラーナに引きずられていき、使用人達もそれと帯同するように引っ込んでいった。
広い屋敷に2人じゃ間も持たねぇ。
さっさとここまで来た目的を果たそうと、ジーナの部屋へ乗り込む。
「乙女の部屋だというのに、随分と乗り気じゃないか? やっぱり君も、男だというわけだ?」
「お前の部屋に興味はねぇよ」
ジーナの部屋へ向かうのは移動のためだ。
転移扉。
ここマーラグ邸にはジーナの研究所へと繋がる転移扉がある。
それを使って、そこからさらに。研究所の転移扉を跨いでサルベージまで。
そのための行きがかりでしかねぇ。
「折角、君が気に入りそうなものも集めていたんだけどね」
「ガキじゃねぇんだ。もので釣られるほど墜ちてねぇよ」
「さっきの話じゃないけれど、そんなことで君の感情を手に入れようだなんて思ってないよ。私はただ興味本位からそうしているだけだよ。君の喜んだ顔が見たいという、私の興味に従った結果さ」
「なら、宛てが外れて残念だったな」
「まったくだよ! もう少し素直になってくれてもいいんじゃないかい? これは私個人の意見じゃないよ? 君を愛する私たち全員の合意だ」
「恥ずかしげもなく無意味に嘘を吐くんじゃねぇよ。他に誰がいるって?」
「君が愛する仲間だよ。今から会いに行くんだろう?」
「この感情は信頼だ。勝手に代弁者を気取るなよ」
「すぐに気付かせてみせるさ。君を振り向かせてね」
わざわざ背後を取ってまで言うような軽口か?
扉に手を掛け、開きながらそう思った。