作品タイトル不明
探し出して決せよ16
「左、正面、右、左、左、正面、左、右、正面!」
ケイトから渡された本を持ったユノの指示の下、ビキビキと結界が押し潰されそうなほどに歪みを増した空間を駆け抜ける。
安全のためにと張り巡らせた結界は確かに効力を発揮し、新たな変化を防いでいた。
しかし、それを盲信して突き進むことはできず、完全な方法として先触れを出した。つっても、大したもんじゃねぇ。
石に縄を括り付けただけの原始的な道具。
それを進行先へ投げ、引き戻す。千切れてなければ問題なしって寸法だ。
まぁ、その結果がどうだったかは言うまでもねぇな。
ユノの結界は確かな仕事をしていたんだから。
「ここが最後の場所です! まだどの道が正解か、調べてはいません!」
一度戻るを選ばせたんだから当然だ。
まずは左から道具で調べる。
投げ込んだ石の手応えが消えると同時、引き戻すも縄ばかり。
縄の先端は鋭利に切り取られ、在ったはずの石は消え去った。
先端を解してバラけさせ、今度は正面へと投げ入れる。
石が在った時よりも速度遅く空間の断面へ触れるが、結果は同じようなものだった。
手元に残ったのは使い道に困るほど短い縄。その投げ込んだ先端はまたも鋭利に切り取られていた。
「こちらですね‼」
そう言って走り出すユノ。
その背中に不吉が映った。
咄嗟に伸ばした手は、なんとか空を切る肩を掴む。
「―ッ⁉ えっと、どうしましたか?」
急に肩を引っ張られ、勢いよく振り返ったユノが驚きながら問うが、言葉にするより早く、同じ手順を踏んで見せる。
使い道に困る縄を、さらに右の断面へ。
すると縄は役目を終えたとでも言わんばかりに、最早使いものにならないほどの代物へと変わってしまった。垂れ下がるそれは拳の幅に届くかどうか。
「そんなッ――⁉ ありがとうございます‼ ゼネス様ッ‼」
その様子を見たユノは一瞬顔を青くするが、自分が助けられたことを理解すると、間髪入れずに頭を下げる。
「ですけれど・・・」
三方共に外れ。
後ろは来た道を戻るだけのはず、今なら確認も間に合うかもしれねぇが、その瞬間に結界が割れて、もう一回空間を歪ませられたら面倒だ。
床が無けりゃ既に落ちるわけで、そうなると―――。
握り締めた縄の残骸を天井へ向かって投げる。
それはのたうつように宙を昇り、境界を超える。
そして、僅かな時間だけ姿を消し、叩き落されるように這いつくばる。
「上だな」
素早くユノを抱きかかえ、地面を蹴る。
きゃっ! という短い悲鳴を腕に、空を踏む。
「なぜ・・・・・・貴方はッ‼‼」
くすんだ空は薄暗い煙に巻かれていた。
ここは雲の上なのかもしれねぇ。
そんな場所にただ1人。
力強く両手でその顔を押さえ、指の隙間から覗く両目は、それぞれに色が、形が、違っていた。
嫉妬を焦がした片目が灯の様に怪しく光り、揺れる。
反対の眼は。人ならざる者を宿し、光を吸い込むほどに黒く染まっていた。
「・・・お、父様―――・・・・・・ッ⁉」
腕から空へ。降ろしたユノは、なぜか墜ちない足元へ崩れ落ちそうになりながら、どうにか現実を認識した。
予想通り。そこに居たのは、グレアムの息子であり、ユノの父である元教祖の側近グレンゼーだった。
そして今は、
「貴方さえ・・・ッ‼ 貴方さえいなければッ‼‼ 私はッ‼‼‼」
哀れな使い捨ての操り人形なのだろう。