作品タイトル不明
省みて敵を見よ6
集団や団体へ加入するのは利益があるからだ。
金、利権、面識、信用。
不利益があるとすれば、順応の可否や同調圧力など。
なら、宗教はそれらを信者へ与えてくれるのか?
答えは否だ。
宗教が与えるのは安らぎや許しといった精神的なもの。
思想や規律を遵守することで己の不甲斐なさ、みっともなさを受け入れてもらうだけ。
今の自分を認めてもらう。変わらない自分を。変われない自分を。
極端な言い方をすれば、甘えているに過ぎない。
個人から見れば、現状維持のための代価として信仰は存在してると言える。
それは悪いことじゃない。なにも。
ただ、なんのために? という疑問が消えないだけだ。
なぜ、甘えるのか?
なぜ、許しを請うのか?
なぜ、安らぎを得たいのか?
核心は。真理は。いつだって。単純にして明快だ。
”望福教”この名前が皮肉にもすべてを物語っていた。
人は幸福を望み、願う。
どんな時、どんな場所で在ろうとも。
そこに理由はなく、生物的な本能に近い。
人間は幸福を求める生き物だと。そう言われた方が納得できる。
もしかしたら、すべての生物がそうであるのかもしれない。
だが俺達には人間以外の生物が何を考えているかなどわからず、その言葉も理解はできない。
けれど、人間より高い知性を持つドラゴンには。それが出来たんだろう。
人間は幸福に依存している。
幸福を与える存在にも依存する。
そしてあろうことか、幸福の定義を自分達で勝手に作り上げているのだと。
「要はそういう風に感じるよう。考えるよう誘導された結果だ。精神魔法も同じ特徴を持ってる。慢心や疑心、安心を逆手にとって・・・ってのもよくある手法だが、あそこまで強く支配するのは不可能。だったら、何が種になったのか? その答えが依存心だ」
「依存・・・だとぉ? そんなもんどうやって! 薬じゃねぇんだぞ⁉」
「それが宗教だ。場合によっちゃぁ薬よりもよっぽど厄介な代物だ」
「宗教って―――だったら尚更、俺達やべぇじゃねぇかよ! そのナントカ教ってのは俺達の北大陸で生まれたやつで、司祭様が関係してんだろッ⁉」
「それがそうでもねぇんだよ。この話はどう伝えるべきか、悩んだが・・・ユノ。お前は野営中、意識がない状態で都へ向かって移動しようとしてた」
「え⁉ 私が・・・、でしょうか?」
「ああ。あの時は寝相ってことにして誤魔化したが、その症状は帝国で聞いた望福教に操られるようになる前兆で間違いないだろう。だから結界の探知に関してはそれほど心配してねぇ。改変されてようが、今のお前なら恐らく見つけられるはずだ」
「どうして私がッ⁉ 私は加護教を―――‼‼」
「そこは疑ってねぇよ。恐らくはお前の父親グレンゼーが原因だろう。グレアムの爺さんがそうだったようにな。お前がこっちへ送り出された理由も、その前兆があったからだ。鍵だって言われてただろ?」
「それが鍵の理由・・・」
「それで、お前らの中に同じような症状が出てる奴はいるか?」
屈強な体格をしながら縮み上がる男達へ問うが、名乗り出るものはいない。
そのおかげか、男達の陰影が少し大きくなったような気がする。
縮んでいたものが戻ってきたのかもしれねぇ。
「それにな。依存心を利用されるんなら、そんなもんは先に。埋めておけばいいんだよ」
結界の対策も、ついでに行っておくとしよう。